上 下
34 / 64
第二章

脅し

しおりを挟む


 シャルルはまだ幼い女の子に体を向け、俸のような体をじろじろと眺め回した。
 妹にそんな視線を向けられ、銀髪の少女の表情が引き攣る。妹は男の目を悦ばせるにはまだ幼すぎるし、その体は男を受け入れられるようには出来ていない。

 だが変態伯はそんなことにも構わず、妹の顎に手をかけた。

「ほら、口を開けなさい」
「やっ」
「いいから、口を開けなさい。偉い人の言うことは聞かなきゃダメだろう」

 妹はそう言われて口を開いた。シャルルは顎を掴んだまま妹の顔を見下ろしている。

「舌を出しなさい。ベロを見せるように、そう、いい子だ」

 シャルルはにやにや笑いながら妹の小さな口を覗き込んでいる。

「はっはっは、小さなお口だなぁ。これじゃ俺のは入らないか」

 その発言に少女の背筋が凍る。
 少女はシャルルの足元に膝をついた。両手を組んで、哀願するようにシャルルを見上げる。

「お、お許しください! どうか、お許しください!」
「許す? 何故?」
「お願いします。妹はまだ十歳なんです。伯爵さま、お願いします」

 そう頼んでみたが、シャルルは意に介した様子がなかった。シャルルが柔和な笑みを浮かべたまましゃがみこむ。
 それで跪いた少女と視線の高さが合った。

「ほう、十歳か。確かに、胸もまったく無いな、ぺったんこだ」

 シャルルが妹の胸の辺りをまさぐりはじめた。そこには女性らしい乳房などあるはずもない。
 だがシャルルは指の先をまだ幼い女の子の胸に当てて、そこで手を止めている。

 少女は伏せるように頭を下げ、さらに大きな声で言った。

「お願いします! どうかおやめください、なんでもします。お願いします、どうかお許しください!」
「ははは、なんでもしてくれるのか。男に向かってそんなことを言うとは、その意味がわかっているのか?」
「お願いします、なんでもしますから、お願いします」

 少女は神に祈るかのように両手を組んでシャルルの顔を見上げた。シャルルは喜びでも感じているのか笑みを浮かべている。
 そのシャルルの右手が妹の胸元からわずかに下がった。妹の腹部に手で触れている。

「まだ子どもだな、お腹がぽっこりしている」

 そう言ってシャルルが指先で妹の腹部をぐっと押した。痛みを感じたのか妹が呻く。

「いたっ、痛い」
「はは、痛いか、そうか」

 痛みを訴えられているにも関わらず、シャルルは手を止めようとしない。少女は悲痛の中でさらに声を上げた。
 裏返りそうな声でシャルルに乞う。

「お許しください! お願いします。伯爵さまだと知らなかったんです、お願いします。なんでもしますから、どうか妹だけは」
「随分と妹が大事なようだな。うむ、麗しい」

 シャルルの左手がすっと伸びて少女の胸に触れた。シャルルが左手で少女の乳房を弄ぶ。
 そうやって左手で少女の乳を揉みながら、シャルルは妹のスカートの中に右手を差し入れた。シャルルの手が妹の足に触れ、それが太腿へと伸びてゆく。

「はっ、俸みたいな足だな」

 シャルルは妹の足を撫でさすり、嘲るようにそう言った。妹は何か痛みを感じているのか、今にも泣き出しそうな顔をしている。
 それでも泣いてはいけないと思っているのだろう。何が起こっているのかはわからないが、姉の姿を見て何かを察している。

 しゃがんでいたシャルルだったが、二人から手を離してゆっくりと立ち上がった。それから後ろにいた兵士に声をかける。

「おい、紙とペンを持って来い。なんでもいい」

 その命令を受けた兵士が短く返事をして、少し離れた場所に停まっていた馬車へと向かった。
 シャルルは視線を少女に戻し、その小さな体を見下ろす。

「なんでもすると言ってくれたな」
「は、はい……、だからどうか、お許しください。顔を殴った非礼は詫びます。だからどうか、妹だけは」
「さて、どうしようか。俺に危害を加えたのだから、それなりの罰は受けてもらわなければな」
「お、お許しください。知らなかったんです」

 兵士から紙とペンを受け取り、シャルルが何かをさらさらと書き始めた。
 そうやって手を動かしながらシャルルが言う。

「なんでもする、か。君が知っているかどうかは知らないが、俺は巷では変態伯なんて呼ばれててな。いい女を見ると我慢が出来ない。女を思うがままに扱うことに快楽を覚えるんだ」
「あ、ああ……」
「そんな相手になんでもすると言うとはな。だがその言葉通り、俺の命令には従ってもらおう」
「うう……」

 少女は地面に膝をついたまま顔を歪めた。今にも涙がこぼれそうになる。それでも泣くのだけは嫌だった。
 どうしてこんなことになっているのだろう。目の前の伯爵とやらは見た目も良いし、女たちに人気もあるようだった。
 自分のような乞食も同然の女などの相手をしなくても、女には困らないはずだ。きっと嫌がる相手を陵辱するのが好きなのだろう。

 どうしてこんなことに。もう十分すぎるほどの絶望の中にいたのに、神はまだ自分に辛苦を味合わせようというのか。

 シャルルは書き終えたのか、ペンを後ろに控えていた兵士に渡し、紙を自分に見せ付けてきた。
 少女がそこに目を向ける。長々と何かが書いてあるが、一番上に大きくこう書いてあった。


 IN NOMINE MARCHIONIS PUELLAE HAE BENE TRACTANDAE SUNT.


 そこに書かれた文字を見ても、少女には意味がわからなかった。
 シャルルが尋ねてくる。

「読めるか?」
「いえ」

 少女が首を振ると、シャルルが頷く。

「だろうな」

 当然のようにシャルルがそう言った。インクを乾かすためか、シャルルが紙を小さく振る。
 それを見ながら少女は歯を噛み締めた。文字を読めるようになるほどの教育は受けていない。そんなものはごく限られた一部の金持ちにしか許されていないのだ。
 知能の無さを嘲られたように感じられて、少女は悔しい気持ちでいっぱいになった。自分だって機会があれば読み書きの勉強がしたかった。しかしそんな環境にはいられなかったのだ。

 シャルルが紙を差し出してくる。少女は両手でそれを受け取った。
 頷いた後で、シャルルが言う。

「なんでもすると言ったな。ならば俺の命令に従ってもらおう。今から言う場所に行け、もし行かなければ……、妹の命は無いものと思え」
「ひっ……」

 明確な脅しに、少女は息を飲んだ。

 




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

せっかくのお誘いですが、謹んでお断りさせて頂きます!~顔面至上主義の王子様との恋愛キャンセル界隈~

待鳥園子
恋愛
突然、王家からの使者が貴族令嬢をとっかえひっかえするという悪い噂がある王子様アレックスからの手紙を持って来た! このままだと、顔面至上主義の最低王子様と恋人に……早く逃げなきゃ! と、架空の好きな人を設定して、彼からお誘いを断る手紙を書いたフォスター伯爵令嬢ローズ。 その数時間後、彼がフォスター伯爵邸へと訪ねて来て!? ※ヒロインの驚きと行く末を想像してにやにやするだけの短編です。

【完結】友人と言うけれど・・・

つくも茄子
恋愛
ソーニャ・ブルクハルト伯爵令嬢には婚約者がいる。 王命での婚約。 クルト・メイナード公爵子息が。 最近、寄子貴族の男爵令嬢と懇意な様子。 一時の事として放っておくか、それとも・・・。悩ましいところ。 それというのも第一王女が婚礼式の当日に駆け落ちしていたため王侯貴族はピリピリしていたのだ。 なにしろ、王女は複数の男性と駆け落ちして王家の信頼は地の底状態。 これは自分にも当てはまる? 王女の結婚相手は「婚約破棄すれば?」と発破をかけてくるし。 そもそも、王女の結婚も王命だったのでは? それも王女が一目惚れしたというバカな理由で。 水面下で動く貴族達。 王家の影も動いているし・・・。 さてどうするべきか。 悩ましい伯爵令嬢は慎重に動く。

うちの悪役令息が追放されたので、今日から共闘して一発逆転狙うことにしました

椿谷あずる
恋愛
ルセリナは魔法を有効活用(悪用)しながら、仕事をサボって昼寝したり、パーティで余ったご馳走を持ち帰る残念メイドだった。ある日彼女は残念な悪役令息レイズに巻き込まれ一緒に国を追放されてしまう。互いが互いに責任をなすりつけ合う二人。果たして彼女達に一発逆転の平和は訪れるのか!? これは甘々でも苦々でもない、残念な人間達が送るなんかよく分からない恋愛の看板を偽った物語。

転生後モブ令嬢になりました、もう一度やり直したいです

月兎
恋愛
次こそ上手く逃げ切ろう 思い出したのは転生前の日本人として、呑気に適当に過ごしていた自分 そして今いる世界はゲームの中の、攻略対象レオンの婚約者イリアーナ 悪役令嬢?いいえ ヒロインが攻略対象を決める前に亡くなって、その後シナリオが進んでいく悪役令嬢どころか噛ませ役にもなれてないじゃん… というモブ令嬢になってました それでも何とかこの状況から逃れたいです タイトルかませ役からモブ令嬢に変更いたしました ******************************** 初めて投稿いたします 内容はありきたりで、ご都合主義な所、文が稚拙な所多々あると思います それでも呼んでくださる方がいたら嬉しいなと思います 最後まで書き終えれるよう頑張ります よろしくお願いします。 念のためR18にしておりましたが、R15でも大丈夫かなと思い変更いたしました R18はまだ別で指定して書こうかなと思います

婚約破棄されなかった者たち

ましゅぺちーの
恋愛
とある学園にて、高位貴族の令息五人を虜にした一人の男爵令嬢がいた。 令息たちは全員が男爵令嬢に本気だったが、結局彼女が選んだのはその中で最も地位の高い第一王子だった。 第一王子は許嫁であった公爵令嬢との婚約を破棄し、男爵令嬢と結婚。 公爵令嬢は嫌がらせの罪を追及され修道院送りとなった。 一方、選ばれなかった四人は当然それぞれの婚約者と結婚することとなった。 その中の一人、侯爵令嬢のシェリルは早々に夫であるアーノルドから「愛することは無い」と宣言されてしまい……。 ヒロインがハッピーエンドを迎えたその後の話。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

スキル喰らい(スキルイーター)がヤバすぎた 他人のスキルを食らって底辺から最強に駆け上がる

けんたん
ファンタジー
レイ・ユーグナイト 貴族の三男で産まれたおれは、12の成人の儀を受けたら家を出ないと行けなかった だが俺には誰にも言ってない秘密があった 前世の記憶があることだ  俺は10才になったら現代知識と貴族の子供が受ける継承の義で受け継ぐであろうスキルでスローライフの夢をみる  だが本来受け継ぐであろう親のスキルを何一つ受け継ぐことなく能無しとされひどい扱いを受けることになる だが実はスキルは受け継がなかったが俺にだけ見えるユニークスキル スキル喰らいで俺は密かに強くなり 俺に対してひどい扱いをしたやつを見返すことを心に誓った

都合のいい女は卒業です。

火野村志紀
恋愛
伯爵令嬢サラサは、王太子ライオットと婚約していた。 しかしライオットが神官の娘であるオフィーリアと恋に落ちたことで、事態は急転する。 治癒魔法の使い手で聖女と呼ばれるオフィーリアと、魔力を一切持たない『非保持者』のサラサ。 どちらが王家に必要とされているかは明白だった。 「すまない。オフィーリアに正妃の座を譲ってくれないだろうか」 だから、そう言われてもサラサは大人しく引き下がることにした。 しかし「君は側妃にでもなればいい」と言われた瞬間、何かがプツンと切れる音がした。 この男には今まで散々苦労をかけられてきたし、屈辱も味わってきた。 それでも必死に尽くしてきたのに、どうしてこんな仕打ちを受けなければならないのか。 だからサラサは満面の笑みを浮かべながら、はっきりと告げた。 「ご遠慮しますわ、ライオット殿下」

処理中です...