4 / 17
プロローグ
4
しおりを挟むまた今日も夢を見た。昨日と同じ夢だ。
でも、今回の夢は少し違っていた。時がたっていたんだ。
赤ん坊だった子は僕と同じ8歳くらいの子供成長して、男は20歳くらいの大人の男になっていた。
「お兄ちゃん!おかえりなさい!」
男が家に帰ると、その子供が手を広げて男に走り寄ってきた。
「ただいまぁぁぁ!体調はどう?元気になったの!?怖いことなかった?欲しいものある?会いたかった、愛してるよ」
「うぅ、苦しいよお兄ちゃん」
抱きしめた子供の体は小さくて、男は慌てて腕を離した。
「ごめん、ごめんね大丈夫!?」
頬に手を優しく添えながら、上から下を確認して子供に異変がないかを確認する。
「玄関で何やってるのー。寒いから早く入りなさい」
「はっ、そうだよな!寒いよな!ごめんね!すぐ行こう今すぐ行こう!」
男は急いで靴を脱ぎ、子供を抱き上げて早足で部屋に入って行った。
「まぁた、あんたは。少しは落ち着きなさい。ただ風邪を引いただけよ、病院にも行ったし治ったから」
「そうだよ。お兄ちゃん、もう治ったから元気だよ」
男は両腕で握り拳を作っている子供をじっとみて、頬にキスを落とした。
そのまま子供を膝に乗せたままソファーに座る。
小さなおでこに手のひらを乗せて「うん、熱はないみたい」と確認した後やっと、息を吐き出した。
「過保護もいい加減にしないと由紀に嫌われちゃうわよ~」
「え、由紀はお兄ちゃんのこと嫌いになるの!?」
「ならない!ならないよ!もぅ、ママも変なこと言わないで」
涙目になった男を見て、由紀と呼ばれた子供は慌てて反論する。
「僕、お兄ちゃんのことずっとずっっっと大好きだよ!」
「わぁ、お兄ちゃんも由紀のことずっとずーーーーっと大好き!ずっっっと、俺が守ってやるからな!」
「はいはい、分かったから、あんたは彼女の1人や2人作ってきなさいよ。せっかく顔だけは綺麗に産んであげたのに、もったいない」
「由紀との時間が減るから無理」
「ブラコンもほどほどにしなさい」
弟が大好きだと言う感情とともに、男の過去が僕に流れ込んでくる。
「由紀、由紀!!しっかりしろ!由紀!」
赤い顔をして苦しんでいる由紀が、大勢の大人に囲まれて運ばれていく。
その中で男は由紀に声をかけ続けていた。
「大丈夫だぞ、由紀。お兄ちゃんがずっとそばにいるから。元気になったら、またお絵描きしような。絵本もたくさん読んであげる。だから、頑張れ。頑張るんだ。由紀」
「ここから先は」と青い服を着た人に止められて、男はゆっくりと足を止める。
由紀が運ばれた部屋の扉が閉まるとその上で、手術中と言う赤いランプがついた。
男はフラフラと、そばにある椅子に座り。父親と母親もその隣の椅子へ腰をかける。
由紀は体が弱かった。
こんな風に運ばれるのはこれが初めてじゃなかった。
「神様、お願いします。何でもします、弟を助けてください。僕の命の代わりに、弟を助けてくれるなら喜んで差し出します。どうか、どうか、俺の弟を由紀を助けて……」
由紀の体調は5歳になるまで安定せず、生死を彷徨う場面が何度かあったようだ。
その度、男は握り合わせた手が真っ白になるまで、何度も何度も神に願った。
医者も言った、奇跡だと。
弟が生還するたび、奇跡だと。良かったと。
そうして、医者から「もう大丈夫でしょう」と言われた時、男は膝を崩して咽び泣いた。
喜び泣く3人の前で、由紀はただ笑っていた。
それぞれに抱きしめられ喜んでいた。
彼の記憶の全てが僕に流れ込んでくる。
君は由紀とずっと一緒にいたかったんだね。守ってあげたかったんだね。
弟が幸せに微笑む姿をもっともっと見たかったよね。
でも、君は……君は見届けることができなかった。
由紀が8歳、祈と同い年の時に、君は交通事故で亡くなった。
離れたくなかった。そうだよね。
もっと遊んであげたかったし、勉強だって教えてあげたかった。由紀の恋人に嫉妬したり、由紀をよろしくお願いしますとか、そう言うセリフ言ってみたかった。由紀の悩みを一緒に悩んであげたかったし、優しい由紀が怒りをぶつけられる場所でありたかったよね。
ずっとずっと味方でいたかったよね。
君の名前は、羽琉(はる)。君は僕だったんだ。前世の僕だったんだ。
君は弟を大事にしない僕に怒って、夢にまで現れたの?
それなら、君の勝ちだよ。
君の記憶を思い出して、僕はもう祈が愛しくてたまらないんだから。
0
お気に入りに追加
72
あなたにおすすめの小説
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
断罪フラグを回避したらヒロインの攻略対象者である自分の兄に監禁されました。
慎
BL
あるきっかけで前世の記憶を思い出し、ここが『王宮ラビンス ~冷酷王の熱い眼差しに晒されて』という乙女ゲームの中だと気付く。そのうえ自分がまさかのゲームの中の悪役で、しかも悪役は悪役でもゲームの序盤で死亡予定の超脇役。近いうちに腹違いの兄王に処刑されるという断罪フラグを回避するため兄王の目に入らないよう接触を避け、目立たないようにしてきたのに、断罪フラグを回避できたと思ったら兄王にまさかの監禁されました。
『オーディ… こうして兄を翻弄させるとは、一体どこでそんな技を覚えてきた?』
「ま、待って!待ってください兄上…ッ この鎖は何ですか!?」
ジャラリと音が鳴る足元。どうしてですかね… なんで起きたら足首に鎖が繋いでるんでしょうかッ!?
『ああ、よく似合ってる… 愛しいオーディ…。もう二度と離さない』
すみません。もの凄く別の意味で身の危険を感じるんですが!蕩けるような熱を持った眼差しを向けてくる兄上。…ちょっと待ってください!今の僕、7歳!あなた10歳以上も離れてる兄ですよね…ッ!?しかも同性ですよね!?ショタ?ショタなんですかこの国の王様は!?僕の兄上は!??そもそも、あなたのお相手のヒロインは違うでしょう!?Σちょ、どこ触ってるんですか!?
ゲームの展開と誤差が出始め、やがて国に犯罪の合法化の案を検討し始めた兄王に…。さらにはゲームの裏設定!?なんですか、それ!?国の未来と自分の身の貞操を守るために隙を見て逃げ出した――。
俺が総受けって何かの間違いですよね?
彩ノ華
BL
生まれた時から体が弱く病院生活を送っていた俺。
17歳で死んだ俺だが女神様のおかげで男同志が恋愛をするのが普通だという世界に転生した。
ここで俺は青春と愛情を感じてみたい!
ひっそりと平和な日常を送ります。
待って!俺ってモブだよね…??
女神様が言ってた話では…
このゲームってヒロインが総受けにされるんでしょっ!?
俺ヒロインじゃないから!ヒロインあっちだよ!俺モブだから…!!
平和に日常を過ごさせて〜〜〜!!!(泣)
女神様…俺が総受けって何かの間違いですよね?
モブ(無自覚ヒロイン)がみんなから総愛されるお話です。
転生したら、ラスボス様が俺の婚約者だった!!
ミクリ21
BL
前世で、プレイしたことのあるRPGによく似た世界に転生したジオルド。
ゲームだったとしたら、ジオルドは所謂モブである。
ジオルドの婚約者は、このゲームのラスボスのシルビアだ。
笑顔で迫るヤンデレラスボスに、いろんな意味でドキドキしているよ。
「ジオルド、浮気したら………相手を拷問してから殺しちゃうぞ☆」
どうやら手懐けてしまったようだ...さて、どうしよう。
彩ノ華
BL
ある日BLゲームの中に転生した俺は義弟と主人公(ヒロイン)をくっつけようと決意する。
だが、義弟からも主人公からも…ましてや攻略対象者たちからも気に入れられる始末…。
どうやら手懐けてしまったようだ…さて、どうしよう。
ヤンデレ化していた幼稚園ぶりの友人に食べられました
ミルク珈琲
BL
幼稚園の頃ずっと後ろを着いてきて、泣き虫だった男の子がいた。
「優ちゃんは絶対に僕のものにする♡」
ストーリーを分かりやすくするために少しだけ変更させて頂きましたm(_ _)m
・洸sideも投稿させて頂く予定です
勇者パーティーハーレム!…の荷物番の俺の話
バナナ男さん
BL
突然異世界に召喚された普通の平凡アラサーおじさん< 山野 石郎 >改め【 イシ 】
世界を救う勇者とそれを支えし美少女戦士達の勇者パーティーの中・・俺の能力、ゼロ!あるのは訳の分からない< 覗く >という能力だけ。
これは、ちょっとしたおじさんイジメを受けながらもマイペースに旅に同行する荷物番のおじさんと、世界最強の力を持った勇者様のお話。
無気力、性格破綻勇者様 ✕ 平凡荷物番のおじさんのBLです。
不憫受けが書きたくて書いてみたのですが、少々意地悪な場面がありますので、どうかそういった表現が苦手なお方はご注意ください_○/|_ 土下座!
人生二度目の悪役令息は、ヤンデレ義弟に執着されて逃げられない
佐倉海斗
BL
王国を敵に回し、悪役と罵られ、恥を知れと煽られても気にしなかった。死に際は貴族らしく散ってやるつもりだった。――それなのに、最後に義弟の泣き顔を見たのがいけなかったんだろう。まだ、生きてみたいと思ってしまった。
一度、死んだはずだった。
それなのに、四年前に戻っていた。
どうやら、やり直しの機会を与えられたらしい。しかも、二度目の人生を与えられたのは俺だけではないようだ。
※悪役令息(主人公)が受けになります。
※ヤンデレ執着義弟×元悪役義兄(主人公)です。
※主人公に好意を抱く登場人物は複数いますが、固定CPです。それ以外のCPは本編完結後のIFストーリーとして書くかもしれませんが、約束はできません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる