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prologue

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誰かの視線を感じる。目を向けると、赤い髪をした男が廊下の角から、こちらを覗いていた。その男は周りに誰もいないことを確認すると、両手を広げて僕に近づいてきた。


またか、と突進してきた赤髪の男、アキトを受け止めるために僕も軽く両手を広げた。


「ユノさ~ん!」と僕に抱き着いてきたアキトは、ニコニコと嬉しそうに笑う。アキトは平均より少し低めの身長なので、上目遣いだ。うん、可愛い。


「おはよう、アキト」

「おはようございます!朝からユノさんに会えるなんて俺嬉しい!」


 可愛いな、とアキトの頭を撫でていると、腕の中からアキトが消えた。あぁ、もう終わりかぁ。と悲しくなる。


 「レ、レオ君!」と焦っているアキト。


 案の定、アキトはレオと呼ばれる黒髪の男に首根っこを掴まえられていた。


「ま~た、お前か!ユノに近づくなって言ってんだろ!」

「わーん!いないと思ってたのに来るの早すぎ!助けてゆのさ~ん」


 助けてあげたいけど、そんなことしたら、レオが拗ねちゃうからなぁ。ごめんねという思いを込めて手を振ると、レオがアキトを放り投げた。


ふぎゃ、と変な声を出して、地面に倒れるアキト。毎回、レオに放り投げられてるのに、諦めないな~。と感心する。アキトが懐いてくれるのは嬉しいけど、アキトの味方はできないから、アキトに愛想尽かされても、文句言えない。


 いくぞ、とレオが僕の手首を掴む。


 レオが「アキトに近づくな」って僕に言えば、僕はアキトと距離を置くのに。目も合わせないし話さないし、二度と会わないように逃げまくるのに。でも、レオは優しいから、これからも僕には「近づくな」って言わないんだろうな。


「なんであいつには効かないんだ……」って呟いてるレオの後ろで、アキトが、「またねユノさ~ん、レオく~ん」と手を振っていた。


 掴まれていない方の手で、アキトに手を振ると、アキトが歓喜の声を上げる。その声を聴いて何かを察したレオが僕を睨むので、アハっと、ごまかす様に笑うと、レオは疲れたようにため息をついた。


 













 僕とレオは幼馴染……らしい。らしい、っていうのは、僕には幼い頃の記憶がないんだ。
14歳の時に大きな事故に巻き込まれて、目が覚めたら言葉以外の記憶をなくしていた。


 病室には、両親以外に、レオもいて、僕に記憶がないと分かった時、両親よりも、レオの方が辛そうな悲しそうな顔をしていたのが印象的だった。この世の終わりみたいな顔。


 それから、僕らはずっと一緒。この世界のこと、全てレオが教えてくれた。


 僕とレオ、一緒にいすぎたのか、友達は全くできなかった。世間話くらいはするけど、友達と呼べるのはレオしかいない。別にそれでよかったんだ。

 でも、高等部に上がって、二年生になったころ。アキトが1年生として入学してきた。そして、何故か懐かれて、ことあるごとに僕に近づいてくるようになった。


 クラスメイト以外に話しかけられたことなんてなかったから、後輩のアキトがグイグイ来て戸惑ったけど、正直嬉しかったんだ。友達ってこんな感じなのかなって。


 でも、レオは違ったみたい。今もレオはアキトに敵意むき出しで、見つけたらすぐポイってするけど、出会った当初は、凄かったんだから。


 僕とアキトが会話してたら、問答無用で僕を連れ出して、追いかけるアキトを蹴り飛ばして、怒鳴りつけてたからね。


 あの時は、アキトはもう僕に話しかけてこないだろうなって思ってたんだけど、次の日もその次の日も、僕に会いに来てくれたんだ。レオも段々丸くなって、蹴り飛ばすことも、怒鳴ることもなくなった。アキトの粘り勝ち。


 僕もアキトと仲良くなりたいし友達になりたい、でも、そんなこと、絶対に言えない。


 僕とアキトが話してるって知ったあの日。レオが僕を連れ出して、アキトに暴力をふるった日。レオは、ひどく震えていた。僕の腕を掴むレオの手は汗ばんで、顔も真っ青で、目も赤く、今にも泣きだしそうな。普段のレオからは想像できないほど、乱れていた。


 理由は分からないけど、レオはアキトを……、いや、僕以外の人を恐れているんだ。







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