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冒険者へ

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「質問をよいだろうか」
 なんなりと。ダンディなおじさまにはホイホイ答えますわよ~。
 所持品からは冒険者のタグしか身元確認がとれなかっただろうからね。ボディバッグは私から離れないし、中も取り出せない仕様だ。
 ここにきてどれくらい日がたつのか、前はどこにいたのか、泊まっている宿はどこか、この土地に知り合いはいるかなど。
 尋問の形なんだけど、聞き方が優しいのでこちらもリラックスで答えた。質問の仕方って大事なんだなぁとしみじみ感じた。これが、あのシンのようにつんけんしながらだったら、こっちも喧嘩腰で答えていただろうな。もしくは言葉を濁していらいらさせる。そういうもんだよね、人間って。
 なので、将来のためにおじさまを見習って勉強したまえ、若者よ。
「疲れているところをすまなかったね」
 いえいえ。ぐっすり休ませていただきましたからね。むしろ元気ですよ。
「所持品から判断できなかったものだからね」
「海中なので浮かないように、しっかり固定させましたから」
「固有の魔法だな。そのような形の魔導具バッグも見たことがない。それは冒険者で流行っている形なのかね?」
「いえ?これは海中用に作ったので」
「海中用?」
「はい。普通のだと浮きそうじゃないですか。それだと泳ぐ時や進む時に邪魔になりそうだったので」
「こんな優秀な魔法使がE級?」
「にゅ、入念に準備をしてここに来たので、はい。自分でいうのもなんだけど、慎重なんですよ?それにボスまでは行く気はなかったんですよ。ただ、面白くてきれいなダンジョンがあると聞いたので」
 ええ、観光ですよ、観光。
 うっかりラスボスまで倒してダンジョンクリアしちゃったけど。そういえば、初めは完全に気晴らしの旅だったはず。今更だけど忘れてた。
「冒険者に聞いてきたのかね?」
「いいえ?ある宿の主人です。うーん、でも多分元冒険者だと思われます」
「あのダンジョンはそんなに有名なのですね」
 地元を誉められてピアリスは嬉しそうに言うけど、多分来るのは一部だけだと思う。だれでも海に潜れるってわけではないから。でなきゃもっとここだって潤っていてもいいはずだ。こんなのんびりした田舎町にはなってないよ。
「わたくしも行ってみたいわ」
「危険です」
 すかさずシンが言う。即、反対するからお嬢様はむくれるんだよ。
「ピアリス様は泳げるのですか?」
「いいえ?」
「潜れますか?」
「潜る?沈むということかしら?」
 違うんだなー。
「まずは体調を整えなさい」
「はい、お父様」
 シュンとするピアリス嬢。見た感じ、病気ではなさそうな感じがするんだけど。でもわざわざ療養にくるってことはどこかしらが悪いのかもしれない。
「元気になったらぜひギルドへ依頼くださいね。私がお供します」
 にこっと笑って言うと、ぱあっと笑顔になって喜んでくれた。
「なっ」
「よければそちらの方もご一緒に。そうですねぇ。そのときは剣よりは槍がいいと思いますよ」
 せいぜい守るために精進したまえ。
「え、もしかしって僕も?…ムリだよー」
「がんばりますわっ」
 お嬢様やる気だからがんばってー。
 うん、道は遠いかもしれないけど、希望や夢をもつことは好いことだ。一番の特効薬だよ。
 ベネリスト氏も嬉しそうで何よりだ。いい貴族の人でよかったよ。下手したら刑罰だってありうるよね。あぶなー。
 本当ダンジョンを問いつめたい。
 コンコンとノック音がした。
「失礼致します。ギルドマスターが到着されました」
 執事と一緒に入ってきたのはソロンだった。よそ行きの服装だ。なんかぐったりしてる?
「早かったな。帝都で会議中と聞いていたのだが」
「深海宮ダンジョンがクリアされたとなると、こちらの方が重要ですからね」
 本当?さぼりの口実に使っただけじゃないの?
 目があうとサッとそらされた。…正解のようだ。
「しかもこちらの屋敷の近くとは」
 頭に手をやった。いや、私のせいじゃないし。
「ソロンの時は違うの?」
「違う。いつもと同じだった。…はず?」
 おいー、後半自信なさげだなぁ。まあ、万が一そうだったとしても彼には便利なスキルらしきものがあるので、見つかったりはしないんだろうな。うらやましい。
「そのようだな。やはりここの近くが出口とは記録にないようだ」
 執事から渡された紙をめくって答えた。
「なぜでしょうね?」
「こっちが知りたいよ。おー、それダンジョンボスじゃん。懐かしいの持ってるね」
 ソロン、口調がもう元通りだけど?
「なんでこの形?どんな倒し方したらこうなる?」
 私のせいではない。
「戦利品は?」
「これ」
 ソロンは布の上に置いてある品物を手に取っていった。
「ティアラか。いいもの出たなー」
 いいもの?
「え?いらないけど。役に立たないじゃん」
「これ、守りの魔法かかってるやつだよ?」
 こんなのかぶってダンジョン行けと?なんのコスプレだよ。浮くでしょうが。恥ずかしい。そういうのは姫様キャラの人がやればいいんだよ。
「ただの宝飾具ではないのですね」
「勿論そういうほうが普通ですよ。このように魔法がかかってる方が珍しい。この金貨はオークションがおすすめ。帝都にいけば高く売れる」
 え?普通に使えないの?
「見せてもらっても?ふむ。古いものだな。大航海時代のものは収集家がのどから手が出るほど欲しがるものが多い」
 ここでも大航海時代なんてあるんだね。
「しかも、女神柄ですよ」
「なんと!」
 二人は興奮したように見ているけど、私はさっぱりだ。お金だわ~くらいしか思ってなかったからね。売れるならいいやー。
「これをぜひ取り扱いさせて欲しいのだが」
「どうぞ。私はポーションと星の砂と短剣さえあればいいので」
 短剣は迷うとこだけど、これも記念にとっておこうかな。
「「え」」
「ちょ、おいおい。こんなのが欲しくてティアラはいらないってどういう頭の中してるの?!」
 人を頭のおかしい人と見るのはやめてほしい。
「ポーションは実用的。あと二つは記念品に欲しいからいいの。あとはこれもね」
 角はあげないわよー。
「嘘だろー」
 ソロンはなぜか頭を抱えている。
「ピアリス様、よければティアラをもらってください。迷惑料として」
 こういうのはお嬢様にこそ似合うよねぇ。いいんじゃない?舞踏会とかでさー。元気になったらこれつけて踊ってください。
「ええ?!」
「まてまて」
「?私が持ってても、せいぜい宝石くり抜いてあとはポイだし。せっかくきれいなティアラなのにそれもどうかなって。使える人が使った方がいいじゃん。ギルドで売りたかった?」
「はあ。ギルドで売るとしてもここじゃなくて帝都に持って行って任せるだけだよ」
 あやしいけど、ギルド。帝都の第二ギルドは信用ならないし。
「他でダンジョンクリアしたことはあるだろうか?」
 ん?
「ダンジョン講習ではあります」
 ベアだったね。
「まじかよ。それだけ?え、二回目がここ?!」
「うん、そうだけど」
 何かいけない?
「!なんと。ここの難易度は高いはず」
「そのギルドはどこ?」
 …。なんか怒られそうな嫌な予感が。
 え、やらかした?スロウとノズにいったら絶対なにか言われそうな…。
「ジスティです」
「厳しい所じゃないか」
 厳しい?ちゃんとしてないとこもあるの?!あ、あるわ。
「ギルマスは会議でいないから…。副は誰だったか…スロウか」
 げ。やっぱり。
「スロウを知ってるのか?」
 めざとい。
「えっと。とてもお世話になりました」
「なぜおびえる?」
「だ、だって。あの暗い笑みでしかられるの怖いじゃないですかっなんでしかられるのかわからないけど?!」
 ソロンがため息をつく。
「…そこが問題だな。はい、スロウに報告決定ー」
 うわー。み、貢ぎ物を用意せねば。魔導具以外で…とりあえずお菓子を。ネーシャさんに援護してもらおう。よし、帰ったらお菓子作りするぞー。日持ちするパウンドケーキと魚系のパスタソースとかもどう?!唐辛子とアンチョビっぽいのと。スープはさすがにムリか。いや、この前のセパリさんスープのようにいけるか?
 急に頭フル回転だ。
「話はまとまったかな」
 なぜかみなさんにほほえましく見られている。
「失礼いたしました」
「そのティアラはこちらで買い取らせてもらってよいということかな」
 あげますよ、と言おうとしたらソロンから合図がきた。
「は、い。よろしくお願いします
 面倒くさいやりとりだなー。ま、長いものには巻かれますよ。
「では、書類を用意させよう」
 ちゃんとした売買契約書みたいのがあるんだね。
 紅茶とクッキーで一息つく。
 やっぱこれおいしいな。懐も潤ったし、帝都行ったらぜひ買ってこよう。
「こちらになります」
 執事が机の上に用紙を置いた。ここにサインをすればいいのか…な?!
「ん?!」
 慌ててソロンを見上げる。桁間違えてない?こんなとこでミスする?
 ソロンちらっとみてうなづいた。
 OKてこと?ええ…。なんかかえって申し訳ない気持ちになってきた。別なものでぜひお礼をしないと。
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