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 夢の中なのに夢をみていた。
 私は大海原で船に乗っていたが、落ちた。苦しくてもがいて、助けて、と水の中でおろかにも叫んだ。体が沈んでいく。こういう時は、力を抜けば浮上できる。頭ではわかっていても、体が背く。手足を動かして上にいきたい。気持ちが焦る。あ、水飲んじゃった。不思議にしょっぱくなかった。ただ、ものすごくまずかった。海水がまずいってどういうこと?!海水がおいしい、ていうのもきかないけどさ。しょっぱいの一言のはずなのに。辛い、とか。

「なぜだ…」
 あれ?声が出た。瞬きをすれば、そこは海の中ではなく…。知らない部屋だった。このベッド、天蓋ついてる。おお、初めての経験。気分は一気にお嬢様だ。今着てる服は簡素だったけど、とてもサラサラしている。絹とか?肌触りがめっちゃいい。…で、どこだろう。
 ゆっくり体を起こし周りを見る。ただの部屋にしては豪華だよね。天井高いし、家具高そうだし、絨毯もふかふかそう。花瓶に活けてある花もゴージャスだし。
 え、と確か。記憶をたどろう。港で見学してたらクラーケンがあがったときいて…リヴァイアサンが襲ってきて。そうだ。
「魔力…」
 …うん、ある。感じる。よかった。少ないけどなくなってはない。たぶん、これから少しずつ増えていくはず。なぜかわかる。全回復するまでどれくらいかかるかは不明だけど。
 安心したらお腹がなった。いつからここにいるんだろう。ここ病院なのかな?それにしては人の声も聞こえないし、静かすぎる。
 首に包帯が巻かれていた。ベッド脇のチェストを開ける。着てたローブとポシェットがあった。よかった、一緒に運んでくれた人ありがとー。
 ポシェットの中に劣化しない食べ物なかったかなー。あれ、全部配っちゃったっけ?パウンドケーキ一口でも残ってないかなあ。
「失礼します」
 声がして、誰か入ってきた。メイドだ。あの服装は館のではない。看護師かなあ。
「お水をお取り替え。え」
 視線が合うとそのままフリーズしたので、もしもーしと手を振ってみる。
「おっ起きてるっ」
「すいません、さっき起きました」
 反射的に謝ってしまったよ。その後、メイドはとても慌てて何回も、
「そのままでっそのままでっ」
 と言いながら部屋を走って出て行った。なんだ?動いちゃいけない、てこと?頭がボーとする。やっぱ糖分~とポシェットを再度あさって見つけたクッキーを食べていると、数人の走ってくる音が聞こえてきた。確実に一人じゃない。さっきドア閉めていかなかったな、あのメイド。
「お、おはようございます」
「…ご気分はどうですか?」
 この人初めて見る。お医者さんかな。白衣きてるし。
「ボーとします。あと体の節々が痛いのと、お腹がすきました」
 正直に答える。
「第一声がそれか…おまえは」
 久しぶりに聞くヨゾンの声がした。本当、すごく久し振りな気かする。
「食欲があるのは健康の証ですよ。少し診察しましょう」
 お医者さんと、さっきとは違うメイド(看護師かな)が残り、診察してもらった。
「あの、もしかして一日寝てました?」
「…丸二日ですね」
 どうりで体が痛いし、頭もボーとするわけだ。
 二人が出て行くと、ヨゾンとさっきはいなかったマミヤが入ってきた。
「二日も寝てたの?」
「そうだ。ちなみにここは城だ。おまえは賓客扱いになってる」
「ええっ?」
 大げさな。こちとら一般市民なのでビビる。
 孫皇子と国を救ったという話だ。誰のことだ?そんな英雄。
「よかったー、心配したんですよ。あ、水入れます」
 マミヤから水をもらう。本当は紅茶が飲みたかったんだけど、水分を口に入れるのが久しぶりだからか、とてもおいしく感じた。
「セリカ王女様は無事?」
「ああ」
 それならよかった。任務は果たせたわけだ。
「ずっとついてて下さった。後できちんと礼を言えよ?」
 ずいぶん心配をかけたようだ。
「で…、だ」
 急に姿勢を改められると、真面目な顔が怖いんだけど。
「私のせいじゃないですよ?」
「…何のことだ?」
「へ?リヴァイアサンが出たことでしょ」
「当たり前じゃないですか。そんなの呪術師でもムリですよ」
 そんな召還できる職業もあるのね。
「いや、ほらだって、ヨゾンなら私のせいにしそうじゃん?」
「ま、まあ、思わなかったわけじゃないがな」
 ほらみろ。目が合うと、コホンとわざとらしく咳払いをした。
「そうじゃなくてだな。あのな、ディタ。おまえの魔力だが」
「ヨゾン殿。目が覚めたばかりの時に」
 マミヤが非難の声をあげる。
「こういうのは早い方がいいんだ」
「魔力が少ないことですか?」
「…ああ」
 二人とも暗い、雰囲気が。さっきまでの明るいほわほわ感はどこ?
 そりゃ今はほんの少ししかないけど。徐々に増えていくよ?ディタ様の魔力復活するよ?
「こちらの方々の尽力でなんとか魔力をゼロにせずに、命が助かったんだ。だが、失った魔力は戻らない」
 な、んて言った?!…おかしくない?ディタの体には魔力が戻りつつある。私にはわかる。感じるのだ。それが…戻らないって。
「ディタ」
 マミヤがベッドに腰掛けて、私の手をそっと握る。マミヤの方が泣きそうだ。きっと彼女には、騎士に戻れなかった仲間を何回も見てきたのだろう。
「…それが常識ですか?」
「ん?…そうだ。なぁ、ディタ。俺の所へ来い。魔導局に移れ」
 この世界の常識。たぶん、それ私には当てはまらない。でも、周りは信じている、常識。
 もしかして…チャンスじゃない?周りはディタの魔力がほぼないと思っている。というか失ったと。てことは、魔法使局を堂々と辞められるし、目立たない。つまり、自由!
 今なら…。魔力の少ない今なら、冒険者になれるのでは?魔力とかギルドで計ってもディタってばれないじゃん!増えて元に戻ったら、隠蔽かけちゃえばいいんだし。おお、我ながらいい考え!次のやることが決まった。
 魔導局も考えたけど、あとでもできそう。なら、今しかできないことを優先にしよう。
「ヨゾン、ありがとうございます。でも、ちょっと考えたい」
「そうか…」
「私もディタが魔導局に来てくれたらうれしい。あそこなら時々会えるから」
 魔法局よりかは騎士にとって身近よね。
「うん、ありがとう。そのときは差し入れ持って行かなきゃね」
 泣きそうなマミヤが笑顔になる。
 この二人にもとても心配をかけた。この出張来てよかったな。
 さっきのメイドが食事を運んできてくれて、二人は部屋を出て行った。
 おかゆと梅干しはさすがになかった。なんだろう。オートミール的な。パン粥とも違う。離乳食っぽい。味もない。懐かしい柔らかさだった。

「すみません、お忙しいところ」
 ジンガを部屋に呼んでもらったのだ。魔力に詳しい人に話を聞きたかっった。確信を持つために。
 ヨゾンの話と大概同じだった。違うのは、魔法使の魔力がゼロじゃない場合、戻ることもあるかもしれない、という点だ。回復した人は書物にはのっておらず、予想の範囲でしかないらしいが。可能性の話だ。
 それでも十分。ディタはいずれ魔力が戻る。
 そしてなぜか勧誘を受けた。
「え。魔力がないのに、ですか?」
「ない、のではありません。ほんの少しになっただけです。そこは大きな隔たりがあります」
 魔法使としての誇りなのか、慰められてるのか力説された。両方かも。
 いつでもお待ちしております、と部屋を出て行く時に繰り返し言われた。

 お腹いっぱいになってお風呂(さすが城の賓客室!)まで入れてもらって、至れり尽くせり。ああ、至福の時間よ~。
 明日は館に戻って、荷物をまとめて王国に帰る日だ。早い。
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