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宮廷編
反撃と陰謀
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翌日、宮殿の礼拝堂の祭壇の前で司教様がヨハン様に聞いた。
『汝はマリー・ド・アンジュを妻とし、その健やかなる時も、病める時も、富める時も、貧しい時も、死が二人を分かつまで愛し、共にあることを誓いますか?』
『誓います』
『汝はヨハン・フォン・ルクセンブルグを夫とし、その健やかなる時も、病める時も、富める時も、貧しい時も、死が二人を分かつまで愛し、共にあることを誓いますか?』
『いいえ、誓えません』
実は司教様に帝国語の返事だけ教えて貰ってたんだよね。
勿論その場は騒然となった。皇帝陛下御臨席の場で結婚の誓いを拒否するなんて空前絶後、前代未聞だよね、きっと。
ああ、すっとした。きっと私の顔はにやけていたに違いない。
後ろを振り返ると流石のランベルトさんもアメリさんも目を丸くしてる。あは、ちょっといい気味。
横を見るのはちょっと怖かったけど、仕方がないから見た。ヨハン様の顔は茹蛸のように真っ赤で何か言ってる。右手でランベルトさんを指さすと大声で何か言って私の手を掴んだ。痛い。ヨハン様、乱暴者。
ランベルトさんが大声で通路を塞いでた人に避ける様に言った……多分。それでヨハン様は私を引っ張って礼拝堂から出て控室まで連れて行った。
ちょっと待って。帝国語で喚かれても私全然分からないから。
ランベルトさんと皇帝陛下が入ってきて扉が閉められた。
「何故結婚の誓いを拒否したんです?結婚するのが怖くなりましたか?それとも……ヨハン様が気に入ら無かったのですか?知り合う時間が短すぎたとか?」
「いずれも違います。私は誓う事が出来ないのです」
「どういう事ですか?」
「人間には嘘をつけても、神様には嘘はつけないからです」
「神様に?」
「結婚の誓いは神様にするものでしょう」
「それが?」
「だから私はマリー・ド・アンジュとして結婚の誓いをする事が出来ません。何故なら」
「何故なら?」
「私はマリー・ド・アンジュではないからです」
「なんですって」
『彼女は自分はマリー・ド・アンジュではないと言ってます』
『なんだと』
『ヨハン、落ち着け。彼女の説明を聞こう』
「どういう事なんですか?説明してください」
「私はアンジュ公爵様に雇われたマリー様の替え玉です。公爵様には病気のマリー様の代わりに同盟締結のための使者として皇帝陛下の所へ行けと命ぜられました。ところがマリー様はヨハン様と結婚することになっていると言うではありませんか。替え玉が結婚するわけにはまいりません。ご無礼のほどは平にご容赦のほどを」
『彼女はアンジュ公に同盟締結のための使者の身代わりとして雇われたそうです。だから結婚は出来ないと』
『俺を騙したのか?』
『彼女もアンジュ公に騙されたそうですよ』
「身代わりが結婚したら本物のマリー様はどうなるんです?」
「後で聞いた話ではマリー様は病気で亡くなったそうです。公爵様はそれで替え玉に結婚させようとしたそうです」
「それは誰から聞いた話ですか」
「結婚話が分かってからアメリさんから聞きました」
『本物は病気で亡くなったと聞いたと言ってます。彼女の侍女に聞いたそうです』
『アンジュ公から送られてきたマリー嬢の肖像画を持ってこい』
ランベルトさんが扉を開けて何かを言って、暫くすると私にそっくりな肖像画が持ってこられた。
「これはマリー様の肖像画ですか?それともあなたの?」
「これはマリー様の肖像画です。私は肖像画を描かれた事はありません。目の色を見てください」
『これはマリー嬢の肖像画だそうです。目の色が違うそうです』
『なるほど、肖像画の目は青だが、この娘の目は緑。確かにこの娘は替え玉のようだ』
『それでどうします、父上』
『そうだな。よく考えてみればヨハンと結婚するのは本物でなくても良い。我々が本物にすれば良い』
『父上、どういう事ですか。私に偽物と結婚しろと』
『まあ考えてみよ。アンジュ公はその娘を息女として送り出した。本物が亡くなっているなら他にアンジュ公の後継者はいない。もしアンジュ公が亡くなれば、その娘以外に相続人はいないのだ。マリー嬢として送られて来た以上我々はマリー嬢として扱えばよい。アンジュ公が亡くなればアンジュ公領はマリー女公とその夫のもの。そして我々は遺産相続の時期を早める事が出来る』
『しかし、マリー女公の子がいなければ結局アンジュ公爵領は取り潰しになるのでは』
『そうだ。結婚相手は替え玉でも結婚そのものは真実のものでなければならない』
『私は、私はいやだ。仮にその娘を妻とすれば、いずれは皇后となる。どこの馬の骨とも分からん娘を』
『私が彼女の相手になりましょう。次代皇帝となるべきヨハン兄や大公となるハンス兄と違い、私はそのどこの馬の骨と分からない母の子です。今更結婚相手の血筋が気になりましょうか?』
『それに何というかその娘は魅力的ですよ。容姿の事じゃなくて中身がね。頭が良いし決断力も行動力もある。女にしておくのが惜しいぐらいだ。まあ乗りこなすのが大変なジャジャ馬かもしれませんが』
『ランベルト、この娘が言う事、特に本物のマリー嬢が亡くなってるかどうか、モンスに人をやって調べろ。もしそうなら……その娘を篭絡しろ』
『汝はマリー・ド・アンジュを妻とし、その健やかなる時も、病める時も、富める時も、貧しい時も、死が二人を分かつまで愛し、共にあることを誓いますか?』
『誓います』
『汝はヨハン・フォン・ルクセンブルグを夫とし、その健やかなる時も、病める時も、富める時も、貧しい時も、死が二人を分かつまで愛し、共にあることを誓いますか?』
『いいえ、誓えません』
実は司教様に帝国語の返事だけ教えて貰ってたんだよね。
勿論その場は騒然となった。皇帝陛下御臨席の場で結婚の誓いを拒否するなんて空前絶後、前代未聞だよね、きっと。
ああ、すっとした。きっと私の顔はにやけていたに違いない。
後ろを振り返ると流石のランベルトさんもアメリさんも目を丸くしてる。あは、ちょっといい気味。
横を見るのはちょっと怖かったけど、仕方がないから見た。ヨハン様の顔は茹蛸のように真っ赤で何か言ってる。右手でランベルトさんを指さすと大声で何か言って私の手を掴んだ。痛い。ヨハン様、乱暴者。
ランベルトさんが大声で通路を塞いでた人に避ける様に言った……多分。それでヨハン様は私を引っ張って礼拝堂から出て控室まで連れて行った。
ちょっと待って。帝国語で喚かれても私全然分からないから。
ランベルトさんと皇帝陛下が入ってきて扉が閉められた。
「何故結婚の誓いを拒否したんです?結婚するのが怖くなりましたか?それとも……ヨハン様が気に入ら無かったのですか?知り合う時間が短すぎたとか?」
「いずれも違います。私は誓う事が出来ないのです」
「どういう事ですか?」
「人間には嘘をつけても、神様には嘘はつけないからです」
「神様に?」
「結婚の誓いは神様にするものでしょう」
「それが?」
「だから私はマリー・ド・アンジュとして結婚の誓いをする事が出来ません。何故なら」
「何故なら?」
「私はマリー・ド・アンジュではないからです」
「なんですって」
『彼女は自分はマリー・ド・アンジュではないと言ってます』
『なんだと』
『ヨハン、落ち着け。彼女の説明を聞こう』
「どういう事なんですか?説明してください」
「私はアンジュ公爵様に雇われたマリー様の替え玉です。公爵様には病気のマリー様の代わりに同盟締結のための使者として皇帝陛下の所へ行けと命ぜられました。ところがマリー様はヨハン様と結婚することになっていると言うではありませんか。替え玉が結婚するわけにはまいりません。ご無礼のほどは平にご容赦のほどを」
『彼女はアンジュ公に同盟締結のための使者の身代わりとして雇われたそうです。だから結婚は出来ないと』
『俺を騙したのか?』
『彼女もアンジュ公に騙されたそうですよ』
「身代わりが結婚したら本物のマリー様はどうなるんです?」
「後で聞いた話ではマリー様は病気で亡くなったそうです。公爵様はそれで替え玉に結婚させようとしたそうです」
「それは誰から聞いた話ですか」
「結婚話が分かってからアメリさんから聞きました」
『本物は病気で亡くなったと聞いたと言ってます。彼女の侍女に聞いたそうです』
『アンジュ公から送られてきたマリー嬢の肖像画を持ってこい』
ランベルトさんが扉を開けて何かを言って、暫くすると私にそっくりな肖像画が持ってこられた。
「これはマリー様の肖像画ですか?それともあなたの?」
「これはマリー様の肖像画です。私は肖像画を描かれた事はありません。目の色を見てください」
『これはマリー嬢の肖像画だそうです。目の色が違うそうです』
『なるほど、肖像画の目は青だが、この娘の目は緑。確かにこの娘は替え玉のようだ』
『それでどうします、父上』
『そうだな。よく考えてみればヨハンと結婚するのは本物でなくても良い。我々が本物にすれば良い』
『父上、どういう事ですか。私に偽物と結婚しろと』
『まあ考えてみよ。アンジュ公はその娘を息女として送り出した。本物が亡くなっているなら他にアンジュ公の後継者はいない。もしアンジュ公が亡くなれば、その娘以外に相続人はいないのだ。マリー嬢として送られて来た以上我々はマリー嬢として扱えばよい。アンジュ公が亡くなればアンジュ公領はマリー女公とその夫のもの。そして我々は遺産相続の時期を早める事が出来る』
『しかし、マリー女公の子がいなければ結局アンジュ公爵領は取り潰しになるのでは』
『そうだ。結婚相手は替え玉でも結婚そのものは真実のものでなければならない』
『私は、私はいやだ。仮にその娘を妻とすれば、いずれは皇后となる。どこの馬の骨とも分からん娘を』
『私が彼女の相手になりましょう。次代皇帝となるべきヨハン兄や大公となるハンス兄と違い、私はそのどこの馬の骨と分からない母の子です。今更結婚相手の血筋が気になりましょうか?』
『それに何というかその娘は魅力的ですよ。容姿の事じゃなくて中身がね。頭が良いし決断力も行動力もある。女にしておくのが惜しいぐらいだ。まあ乗りこなすのが大変なジャジャ馬かもしれませんが』
『ランベルト、この娘が言う事、特に本物のマリー嬢が亡くなってるかどうか、モンスに人をやって調べろ。もしそうなら……その娘を篭絡しろ』
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