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宮廷編
秘密厳守
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公爵様は指示を出した。
「アネットに部屋を与える。ドレ、部屋の手配を。アメリは引き続きアネット付きとする。それから、アネットは良いと言うまで自室以外では仮面を付けるように。それから教師をつけるので皇帝への使者として必要な事を覚える事」
まだ訓練が必要だと知って私の顔は引きつってたかも知れない。仮面を付けてればよかったのに。
「アメリ、お嬢様を例の部屋にお連れしろ」
ドレ様は事前に部屋を準備してたみたい。仮面を付けなおしてアメリさんの後について行った。部屋はドレ様の屋敷と同じように寝室と居間が繋がっているけど、あそこよりずっと広くて豪華。居間と繋がって侍女用の部屋もある。
「今日はお疲れさまでした、お嬢様」
「ありがとう、アメリさん」
「今日からは『さん』付けはお止め下さい。マリー様のようにアメリとだけお呼び下さい」
この人はひょっとして……
「アメリはマリー様付きの侍女だったの?」
「そうです」
アメリさんって公爵家に仕えてるって言ってたからひょっとして偉いかもって思ってたんだけど、本物の公爵令嬢の侍女だったんだ。この仕事が終わったらアメリ様って呼ばなきゃならないね。まあ仕事終わったらもう会うことも無いでしょうけど。
この仕事が終わったらどうなるんだろう?公爵家、皇帝家とも少なくとも帰国までは使者が無事でいてほしいと思ってるはずだから、始末したりはしない。公爵様のあの口ぶりは、無事同盟が結ばれて使者の役目を果たした後、私が暢気に帰国報告なんかしないと分かってるって意味。仕事が終わったらさっさと退散する事を向こうも望んでる。
警護の人間には私が替え玉だって知らされてないはず。秘密を知る人間が増えれば何処かで必ず漏れるし、第一私に仮面をつけさせるのも秘密を守るため。
「明日からは新しい先生がこの部屋に来て教えて下さるそうです。ですのでお嬢様には寝室で仮面をつけていただくようお願いします」
ほらね。秘密厳守。
替え玉の事を知らないなら、警護の人間は敵が外にいると思ってるから抜け出す隙はある。帰りのどっかで宝石を数個持って隙を見て逃げる。公爵家も追っ手を出したりしないでしょう。公爵家としては一旦同盟を結んでしまえばその時の使者が替え玉だったかどうかなんかどうでもいいはず。下手に追い回して替え玉追ってるってばれたら藪蛇。盟約してからなら皇帝家もわざわざ替え玉を暴露して自らの面子を潰さない。
アメリさんは私がそんな事を考えてるとは思いもよらないのか、いつも通りにまめまめしく面倒を見てくれた。ちょっと心が痛んだ。
翌日来た新しい先生はお爺さんだった。
「私はイニャス・フェルと申します。紋章学をお教えいたします」
「アンです。よろしくお願いいたします」
そう言うと、フェル先生は一瞬驚いたような顔をした。
「まず当アンジュ家ですが、当家は当代ミシェル様の曽祖父のフィリップ様より始まります。フィリップ公は当時の国王シャルル様の弟であられ、紋章もこのようにカペー家のユリの花をあしらっております。この家系図に示されているように歴代のアンジュ公の紋章は何れもユリの花を用いております」
「この紋章がミシェル様で、その隣がお兄様のエリック様でよろしいんですね」
「その通りです」
「お兄様の後をエリック様がお継ぎになったのですが、お子様はいらっしゃいませんでしたか?」
そう言うと、フェル先生は声を潜めて言った。
「エリック様には奥様とお嬢様がいらっしゃいましたが、馬車で移動中に何者かの襲撃を受けてお亡くなりになりました。葬儀から数日後、今度はエリック様がこの宮殿の中央にある尖塔から転落して亡くなられました。エリック様は家族の冥福を祈るために尖塔に登られて、誤って転落されたとの事です。この事はあまり大っぴらに話されない方がよろしいかと」
「エリック様のご家族を襲撃したのは何者ですか?」
「分かりません。エリック様の奥様は先王のお嬢様でしたので、王家に反発するものの仕業だとか、あるいは逆に王の手のものだとか、色々言われてはいましたが」
「奥様が先王のお子だという事は王のご姉妹と言う事ではないですか?それなのに王の手のものと言う話があるのですか」
「王は当家を目の敵にしておりますし、正直何をされてもおかしくない方ですから」
王家とか公爵家とか何を考えてるか分からないね。
「王家の方はフィリップ様のお兄様のシャルル様、次代がルイ様、その次シャルル様、当代はシャルル様です。いずれの方の紋章もユリの花をあしらってる所はアンジュ家と同じです。」
「次に皇帝家ですが、今皇帝家と申しましたが、帝国は王国と異なり皇帝は同じ家系から出るとは限りません。7人の選帝侯により王に選ばれ、それから皇帝となります。従って次代が別の家系から出る事はあり得ます。実際当代の皇帝は前代の皇帝とは異なる家系。ですからあまり以前に遡って説明する事は止めます。当代の皇帝フランツ様の紋章はこのように双頭の鷲をあしらっています。この双頭の鷲は古代の帝国から用いられていたものです。フランツ様には長男のヨハン様と次男のハンス様の二人の息子がおいでになります。」
その後王国の有力貴族の名前と紋章が次々と説明されたけど、正直何が何やらさっぱり。皇帝の所に使いに行くのだから帝国の方をもっと説明してもらった方が良かったかも。
「アネットに部屋を与える。ドレ、部屋の手配を。アメリは引き続きアネット付きとする。それから、アネットは良いと言うまで自室以外では仮面を付けるように。それから教師をつけるので皇帝への使者として必要な事を覚える事」
まだ訓練が必要だと知って私の顔は引きつってたかも知れない。仮面を付けてればよかったのに。
「アメリ、お嬢様を例の部屋にお連れしろ」
ドレ様は事前に部屋を準備してたみたい。仮面を付けなおしてアメリさんの後について行った。部屋はドレ様の屋敷と同じように寝室と居間が繋がっているけど、あそこよりずっと広くて豪華。居間と繋がって侍女用の部屋もある。
「今日はお疲れさまでした、お嬢様」
「ありがとう、アメリさん」
「今日からは『さん』付けはお止め下さい。マリー様のようにアメリとだけお呼び下さい」
この人はひょっとして……
「アメリはマリー様付きの侍女だったの?」
「そうです」
アメリさんって公爵家に仕えてるって言ってたからひょっとして偉いかもって思ってたんだけど、本物の公爵令嬢の侍女だったんだ。この仕事が終わったらアメリ様って呼ばなきゃならないね。まあ仕事終わったらもう会うことも無いでしょうけど。
この仕事が終わったらどうなるんだろう?公爵家、皇帝家とも少なくとも帰国までは使者が無事でいてほしいと思ってるはずだから、始末したりはしない。公爵様のあの口ぶりは、無事同盟が結ばれて使者の役目を果たした後、私が暢気に帰国報告なんかしないと分かってるって意味。仕事が終わったらさっさと退散する事を向こうも望んでる。
警護の人間には私が替え玉だって知らされてないはず。秘密を知る人間が増えれば何処かで必ず漏れるし、第一私に仮面をつけさせるのも秘密を守るため。
「明日からは新しい先生がこの部屋に来て教えて下さるそうです。ですのでお嬢様には寝室で仮面をつけていただくようお願いします」
ほらね。秘密厳守。
替え玉の事を知らないなら、警護の人間は敵が外にいると思ってるから抜け出す隙はある。帰りのどっかで宝石を数個持って隙を見て逃げる。公爵家も追っ手を出したりしないでしょう。公爵家としては一旦同盟を結んでしまえばその時の使者が替え玉だったかどうかなんかどうでもいいはず。下手に追い回して替え玉追ってるってばれたら藪蛇。盟約してからなら皇帝家もわざわざ替え玉を暴露して自らの面子を潰さない。
アメリさんは私がそんな事を考えてるとは思いもよらないのか、いつも通りにまめまめしく面倒を見てくれた。ちょっと心が痛んだ。
翌日来た新しい先生はお爺さんだった。
「私はイニャス・フェルと申します。紋章学をお教えいたします」
「アンです。よろしくお願いいたします」
そう言うと、フェル先生は一瞬驚いたような顔をした。
「まず当アンジュ家ですが、当家は当代ミシェル様の曽祖父のフィリップ様より始まります。フィリップ公は当時の国王シャルル様の弟であられ、紋章もこのようにカペー家のユリの花をあしらっております。この家系図に示されているように歴代のアンジュ公の紋章は何れもユリの花を用いております」
「この紋章がミシェル様で、その隣がお兄様のエリック様でよろしいんですね」
「その通りです」
「お兄様の後をエリック様がお継ぎになったのですが、お子様はいらっしゃいませんでしたか?」
そう言うと、フェル先生は声を潜めて言った。
「エリック様には奥様とお嬢様がいらっしゃいましたが、馬車で移動中に何者かの襲撃を受けてお亡くなりになりました。葬儀から数日後、今度はエリック様がこの宮殿の中央にある尖塔から転落して亡くなられました。エリック様は家族の冥福を祈るために尖塔に登られて、誤って転落されたとの事です。この事はあまり大っぴらに話されない方がよろしいかと」
「エリック様のご家族を襲撃したのは何者ですか?」
「分かりません。エリック様の奥様は先王のお嬢様でしたので、王家に反発するものの仕業だとか、あるいは逆に王の手のものだとか、色々言われてはいましたが」
「奥様が先王のお子だという事は王のご姉妹と言う事ではないですか?それなのに王の手のものと言う話があるのですか」
「王は当家を目の敵にしておりますし、正直何をされてもおかしくない方ですから」
王家とか公爵家とか何を考えてるか分からないね。
「王家の方はフィリップ様のお兄様のシャルル様、次代がルイ様、その次シャルル様、当代はシャルル様です。いずれの方の紋章もユリの花をあしらってる所はアンジュ家と同じです。」
「次に皇帝家ですが、今皇帝家と申しましたが、帝国は王国と異なり皇帝は同じ家系から出るとは限りません。7人の選帝侯により王に選ばれ、それから皇帝となります。従って次代が別の家系から出る事はあり得ます。実際当代の皇帝は前代の皇帝とは異なる家系。ですからあまり以前に遡って説明する事は止めます。当代の皇帝フランツ様の紋章はこのように双頭の鷲をあしらっています。この双頭の鷲は古代の帝国から用いられていたものです。フランツ様には長男のヨハン様と次男のハンス様の二人の息子がおいでになります。」
その後王国の有力貴族の名前と紋章が次々と説明されたけど、正直何が何やらさっぱり。皇帝の所に使いに行くのだから帝国の方をもっと説明してもらった方が良かったかも。
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