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スリ時々お人好し(プラコッテ)
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「プーラーコォォォ!」
「プラコがんばれー!」
後ろから鬼のような形相で追いかけてくるレイアから全速力で逃げる私を、近所の子供達がおもしろそうに応援する。最早2日に一度くらいの恒例行事と成り果てた私とレイアの鬼ごっこ。今回こそ逃げ切るために、今日は準備万端なのであった。
どんな準備か知りたい?知りたいよね、よし、特別に教えちゃおうかな。
今回は国一番の情報屋からとっておきの情報を入手してあるのだよ。
右手から旗を持ったガイドを先頭に観光客の一団がやってくる。少しスピードを上げてすり抜ければ、ほら、一団に阻まれてレイアの姿はあっという間に消えてしまった。この時間にこの道を通る。情報通りだわ。
そして、今日のこの時間は騎士団の巡回ルートからも外れている。つまり、このままレイアを巻けば、ついに初めての勝利!さらば、空腹。こんにちは、美味しいご飯!
けど悲しいかな、お天道様はスリを見逃してはくれなかった。
勝利を確信し後方へ向けていた視線を前方へと戻した時には時すでに遅しというやつで…。
パチィィィィン
「はべしゅっ…!」
顔面に叩きつけた…というか、私が突っ込んで行ったわけだけれども。とにかく、後頭部を打ち付けないように助けてくれるのは彼なりの優しさなのだろうか。いや、顔面に白い凶器を当てがう時点で優しさなんてない気がしますよ、うん。
「ふごご…」
「なんだろ、なんか5日くらい前にもこのやりとり見た気がする」
「既視感とかいうやつだろ、俺も同じ事思った」
「つかグレン、なんで足で支えてんの?普通に腕掴んでやればいいじゃん」
「うんうん。頭とは言えよく足の甲で1人分の体重支えられるな」
「手よりこっちの方が早くてな」
うずくまる私をよそに3人の男性があくび混じりに話をしている。
「この時間は…巡回ルートじゃないって…」
「俺ら任務明けだし」
「流石に三徹は堪えるよな」
「な、なんという誤算…」
「プラコォォって、グレンさん、カイアさん、灼夜さん!」
「よう、レイアちゃん。お疲れ」
そうこうしているうちにレイアに追いつかれ、残念ながら財布は奪還されてしまった。さようなら、美味しいご飯。こんにちは、空腹。
「みなさん、ありがとうございます」
「非番とは言え騎士団に身を置いている以上、スリを見逃すわけにはいかないからな」
「しっかし、プラコちゃんはなんで毎回レイアちゃんの財布を狙うかね」
「子どもからなんて可哀想で取れないし、子連れも然り。観光客にはまたきてもらいたいから盗りたくもない。消去法でスリやすいレイアを狙っているわけなのです、はい」
「何かしらの信念を感じるぜ…」
とはいえ、一度も逃げきれていない以上、ターゲットをいい加減に変えるべきなのかもしれない。
別に真面目な話をしていたわけではないけれど、私のお腹が怪物の悲鳴のように鳴る。
「情報屋の支援に、スタミナ使いすぎた…」
いよいよ空腹で目が回ってきた。
「情報屋って…」
「カイア、お前…」
「なんかスマン、優秀な嫁で…」
そんな会話を聞きながら、私は意識を手放した。
鼻の奥をくすぐる美味しそうな匂いにがばりと体を起こせば、目の前には美味しそうな料理の数々。ああだめだ、涎が止まらない。
「急に起き上がったらだめですよ。一蓮さーん、プラコさん起きました」
「それは良かった」
「はへ?ウルちゃんに一蓮さんって事は…ここ、甘味屋?」
しかし、目の前には定食屋然とした料理の数々。
「カイアが運んできたんだよ。うちの近くで倒れたからなんか食わしてやってくれ、だとさ」
「プラコさん、また何日もろくに食べていなかったんですってね。ゆっくりでいいですから食べてくださいね」
「でもお金…」
「大丈夫、お兄ちゃんの奢りです。一般人を助けるのは騎士の仕事だからって言ってました」
借りを作るのは嫌、という人間は多いだろう。けど、現実は甘くない。これを逃せば次はいつ食べられるか…!うん、思いっきり甘えちゃおうかな。
「それじゃあ遠慮なく。いただきまーす」
この国はとても小さくて、長くいれば嫌でも知り合いが増えていく。私のようなスリは嫌われ者のはずなのに…。この国の住人はなんてお人好しで、なんてあたたかいんだろう。
「ん~~~!おいしーーーい!」
- 終 -
「プラコがんばれー!」
後ろから鬼のような形相で追いかけてくるレイアから全速力で逃げる私を、近所の子供達がおもしろそうに応援する。最早2日に一度くらいの恒例行事と成り果てた私とレイアの鬼ごっこ。今回こそ逃げ切るために、今日は準備万端なのであった。
どんな準備か知りたい?知りたいよね、よし、特別に教えちゃおうかな。
今回は国一番の情報屋からとっておきの情報を入手してあるのだよ。
右手から旗を持ったガイドを先頭に観光客の一団がやってくる。少しスピードを上げてすり抜ければ、ほら、一団に阻まれてレイアの姿はあっという間に消えてしまった。この時間にこの道を通る。情報通りだわ。
そして、今日のこの時間は騎士団の巡回ルートからも外れている。つまり、このままレイアを巻けば、ついに初めての勝利!さらば、空腹。こんにちは、美味しいご飯!
けど悲しいかな、お天道様はスリを見逃してはくれなかった。
勝利を確信し後方へ向けていた視線を前方へと戻した時には時すでに遅しというやつで…。
パチィィィィン
「はべしゅっ…!」
顔面に叩きつけた…というか、私が突っ込んで行ったわけだけれども。とにかく、後頭部を打ち付けないように助けてくれるのは彼なりの優しさなのだろうか。いや、顔面に白い凶器を当てがう時点で優しさなんてない気がしますよ、うん。
「ふごご…」
「なんだろ、なんか5日くらい前にもこのやりとり見た気がする」
「既視感とかいうやつだろ、俺も同じ事思った」
「つかグレン、なんで足で支えてんの?普通に腕掴んでやればいいじゃん」
「うんうん。頭とは言えよく足の甲で1人分の体重支えられるな」
「手よりこっちの方が早くてな」
うずくまる私をよそに3人の男性があくび混じりに話をしている。
「この時間は…巡回ルートじゃないって…」
「俺ら任務明けだし」
「流石に三徹は堪えるよな」
「な、なんという誤算…」
「プラコォォって、グレンさん、カイアさん、灼夜さん!」
「よう、レイアちゃん。お疲れ」
そうこうしているうちにレイアに追いつかれ、残念ながら財布は奪還されてしまった。さようなら、美味しいご飯。こんにちは、空腹。
「みなさん、ありがとうございます」
「非番とは言え騎士団に身を置いている以上、スリを見逃すわけにはいかないからな」
「しっかし、プラコちゃんはなんで毎回レイアちゃんの財布を狙うかね」
「子どもからなんて可哀想で取れないし、子連れも然り。観光客にはまたきてもらいたいから盗りたくもない。消去法でスリやすいレイアを狙っているわけなのです、はい」
「何かしらの信念を感じるぜ…」
とはいえ、一度も逃げきれていない以上、ターゲットをいい加減に変えるべきなのかもしれない。
別に真面目な話をしていたわけではないけれど、私のお腹が怪物の悲鳴のように鳴る。
「情報屋の支援に、スタミナ使いすぎた…」
いよいよ空腹で目が回ってきた。
「情報屋って…」
「カイア、お前…」
「なんかスマン、優秀な嫁で…」
そんな会話を聞きながら、私は意識を手放した。
鼻の奥をくすぐる美味しそうな匂いにがばりと体を起こせば、目の前には美味しそうな料理の数々。ああだめだ、涎が止まらない。
「急に起き上がったらだめですよ。一蓮さーん、プラコさん起きました」
「それは良かった」
「はへ?ウルちゃんに一蓮さんって事は…ここ、甘味屋?」
しかし、目の前には定食屋然とした料理の数々。
「カイアが運んできたんだよ。うちの近くで倒れたからなんか食わしてやってくれ、だとさ」
「プラコさん、また何日もろくに食べていなかったんですってね。ゆっくりでいいですから食べてくださいね」
「でもお金…」
「大丈夫、お兄ちゃんの奢りです。一般人を助けるのは騎士の仕事だからって言ってました」
借りを作るのは嫌、という人間は多いだろう。けど、現実は甘くない。これを逃せば次はいつ食べられるか…!うん、思いっきり甘えちゃおうかな。
「それじゃあ遠慮なく。いただきまーす」
この国はとても小さくて、長くいれば嫌でも知り合いが増えていく。私のようなスリは嫌われ者のはずなのに…。この国の住人はなんてお人好しで、なんてあたたかいんだろう。
「ん~~~!おいしーーーい!」
- 終 -
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