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第二幕 埜剛と埜壬
第十七話
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トンカツ達は入れ代わり立ち代わり三匹で埜壬さんに襲い掛かる。埜壬さんに、というよりはその後ろにいるわたしを狙っているみたいなんだけれど、埜壬さんが壁役になってくれていて辿り着くことはできない。
まるで舞か何かのように滑るような、流れるような、そんな動きで埜壬さんはトンカツ達の攻撃をかわす。クールでかっこよくて、思わず見惚れちゃいそう。
刀は鞘にしまわれていて、まだ抜く気配はない。攻撃をかわすだけなら武器なんていらない!まるでそう言っているかのよう。
わたしが加勢する必要なんてなさそうだけど、黙って守られている訳にはいかない。霊具を構え、いつでも矢を放てるように狙いを定める。煙幕代わりに雪の結晶を使っちゃったから、しばらくは使えない。霊具にあの力を乗せるのはまだまだ上手くできないけれど、雪の結晶だけなら思い通りに動かせるようになった。それでもまだ連続では出せなくて、最低でも十分は時間が必要になる。
これでもまだよくなった方なのよ。
最初のころなんて一日一回とかしかできなかったし、自分の意志で出す事もできなかったんだから。まぐれからここまで短縮できただけ、わたしも成長したのよ。
冬の宝珠の力を蓄える、という訳ではないけれど何とか時間は稼ぎたい。それに、焦って動いて一匹でも逃がしたら町の人達が危なくなる。ここは足止めをする事に専念するべきだわ。それに…。
ちらり、とわたしは埜剛へと視線を向ける。大太刀を振り回す猪モノノケと互角に戦っている。埜剛も大男だけど、猪モノノケも同じくらいの大男。金棒と大太刀がぶつかり合う音は金属音だけど重低音って感じで、聞こえる音だけで重みがわかるくらい。
金棒と大太刀がまともにぶつかり合えば刀は折れてしまうんじゃないかな。なんて思ったんだけど、どうやら角度を変えて受け流しているようで、まったく折れる気配はない。あのモノノケ、相当の使い手なんだわ。埜剛一人で大丈夫なのかな?でも、助けにも行けないし…。そもそも埜剛があのモノノケを引き受けてくれているから、わたし達はこっちに集中できているんだよね。やっぱり、まずは目の前の問題から片付けなくっちゃ。この中じゃわたしが一番弱いんだから、自分のやるべき事に集中しないと。あれもこれもなんて、できる訳がないわ。
視線を戻せば、豚男達は埜壬さんに翻弄されたままで、まったく動きをつかめていないようだった。
でも埜壬さんは違ったみたい。日の光に一瞬、銀色が煌めく。
わたしには全くわからない太刀筋。
いつの間にか抜かれた刀は、トンカツの武器を一刀両断にしていた。使い物にならなくなった棒切れを放り投げ、慌てて三匹は距離を取る。特に何かの構えを取るわけでもなく、だらりと刀を下げた埜壬さんはその場を動かない。一気に攻めれば勝てそうな気がするけど、わたしの事を気にしてなのかも。
「某としては化け物共を生かしておくつもりはないが?」
顔は前を向いたままだったけれど、それはわたしへの問いかけみたい。いくら悪人…悪モノノケでもやっぱり殺しちゃうのはどうなのかな?捕まえて、ちゃんと裁きを受けさせた方がいいと思うんだけど…。一応、篠崎にはモノノケ用の牢屋もあるみたいだし。
「いくら悪いモノノケでも、命は大切です。俊介さんからモノノケ捕縛用のロープも預かってきていますから、できれば生け捕りでお願いします」
「わかった」
頷くと、埜壬さんは刀を持ち替えた。つまり『安心しろ、ミネウチだ』ってやつね。小説の世界みたいでかっこいいかも。
「ふ、ふざけるなぶひぃぃぃ!」
飛びかかってきた豚男の武器を刀でからめるように受け止め、弾き飛ばす。驚いた豚男の動きが一瞬止まった。それを見逃さず埜壬さんは刀を勢いよく腹部に打ち込んだ。
「がはっ」
両ひざから崩れ落ちた豚男に目もくれず、埜壬さんは残った二匹へと視線を向ける。
ど、どうしよう…。わたしが瞬きしている間に終わっちゃったわ。埜壬さんって、めちゃくちゃ強かったのね。
「冬」
「は、はいっ」
「目を覚ます前に縛っておけ」
「わ、わかりました」
慌てて豚男の元に駆け寄り、俊介さんから『これを持って行きなよ。絶対に役に立つから』と預けられたロープを取り出す。
なんちゃらっていう術式が縫い込まれていて、これで縛られると妖術が使えなくなっちゃうんだって。
倒れた豚男はとっても重くて、わたし一人じゃ態勢を変えられそうにないわ。仕方ない、ちょうどうつ伏せに倒れてるし後ろ手に縛っちゃおう。リボン結びじゃすぐにほどけちゃうし、固結びでいいよね。それ以外の縛り方知らないし。太い腕を持ち上げるのも一苦労だわ。
まるで舞か何かのように滑るような、流れるような、そんな動きで埜壬さんはトンカツ達の攻撃をかわす。クールでかっこよくて、思わず見惚れちゃいそう。
刀は鞘にしまわれていて、まだ抜く気配はない。攻撃をかわすだけなら武器なんていらない!まるでそう言っているかのよう。
わたしが加勢する必要なんてなさそうだけど、黙って守られている訳にはいかない。霊具を構え、いつでも矢を放てるように狙いを定める。煙幕代わりに雪の結晶を使っちゃったから、しばらくは使えない。霊具にあの力を乗せるのはまだまだ上手くできないけれど、雪の結晶だけなら思い通りに動かせるようになった。それでもまだ連続では出せなくて、最低でも十分は時間が必要になる。
これでもまだよくなった方なのよ。
最初のころなんて一日一回とかしかできなかったし、自分の意志で出す事もできなかったんだから。まぐれからここまで短縮できただけ、わたしも成長したのよ。
冬の宝珠の力を蓄える、という訳ではないけれど何とか時間は稼ぎたい。それに、焦って動いて一匹でも逃がしたら町の人達が危なくなる。ここは足止めをする事に専念するべきだわ。それに…。
ちらり、とわたしは埜剛へと視線を向ける。大太刀を振り回す猪モノノケと互角に戦っている。埜剛も大男だけど、猪モノノケも同じくらいの大男。金棒と大太刀がぶつかり合う音は金属音だけど重低音って感じで、聞こえる音だけで重みがわかるくらい。
金棒と大太刀がまともにぶつかり合えば刀は折れてしまうんじゃないかな。なんて思ったんだけど、どうやら角度を変えて受け流しているようで、まったく折れる気配はない。あのモノノケ、相当の使い手なんだわ。埜剛一人で大丈夫なのかな?でも、助けにも行けないし…。そもそも埜剛があのモノノケを引き受けてくれているから、わたし達はこっちに集中できているんだよね。やっぱり、まずは目の前の問題から片付けなくっちゃ。この中じゃわたしが一番弱いんだから、自分のやるべき事に集中しないと。あれもこれもなんて、できる訳がないわ。
視線を戻せば、豚男達は埜壬さんに翻弄されたままで、まったく動きをつかめていないようだった。
でも埜壬さんは違ったみたい。日の光に一瞬、銀色が煌めく。
わたしには全くわからない太刀筋。
いつの間にか抜かれた刀は、トンカツの武器を一刀両断にしていた。使い物にならなくなった棒切れを放り投げ、慌てて三匹は距離を取る。特に何かの構えを取るわけでもなく、だらりと刀を下げた埜壬さんはその場を動かない。一気に攻めれば勝てそうな気がするけど、わたしの事を気にしてなのかも。
「某としては化け物共を生かしておくつもりはないが?」
顔は前を向いたままだったけれど、それはわたしへの問いかけみたい。いくら悪人…悪モノノケでもやっぱり殺しちゃうのはどうなのかな?捕まえて、ちゃんと裁きを受けさせた方がいいと思うんだけど…。一応、篠崎にはモノノケ用の牢屋もあるみたいだし。
「いくら悪いモノノケでも、命は大切です。俊介さんからモノノケ捕縛用のロープも預かってきていますから、できれば生け捕りでお願いします」
「わかった」
頷くと、埜壬さんは刀を持ち替えた。つまり『安心しろ、ミネウチだ』ってやつね。小説の世界みたいでかっこいいかも。
「ふ、ふざけるなぶひぃぃぃ!」
飛びかかってきた豚男の武器を刀でからめるように受け止め、弾き飛ばす。驚いた豚男の動きが一瞬止まった。それを見逃さず埜壬さんは刀を勢いよく腹部に打ち込んだ。
「がはっ」
両ひざから崩れ落ちた豚男に目もくれず、埜壬さんは残った二匹へと視線を向ける。
ど、どうしよう…。わたしが瞬きしている間に終わっちゃったわ。埜壬さんって、めちゃくちゃ強かったのね。
「冬」
「は、はいっ」
「目を覚ます前に縛っておけ」
「わ、わかりました」
慌てて豚男の元に駆け寄り、俊介さんから『これを持って行きなよ。絶対に役に立つから』と預けられたロープを取り出す。
なんちゃらっていう術式が縫い込まれていて、これで縛られると妖術が使えなくなっちゃうんだって。
倒れた豚男はとっても重くて、わたし一人じゃ態勢を変えられそうにないわ。仕方ない、ちょうどうつ伏せに倒れてるし後ろ手に縛っちゃおう。リボン結びじゃすぐにほどけちゃうし、固結びでいいよね。それ以外の縛り方知らないし。太い腕を持ち上げるのも一苦労だわ。
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