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第四幕 愉比拿蛇
第三六話
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目を閉じていても強烈すぎる光の中、何かが聞こえた。
それは泣き声みたいで、わたしはゆっくりと目を開ける。
真っ白な空間にわたしはいて、隣に居たはずのお姉さんがいない。
辺りを見回せば、小さな女の子が泣いていた。
「どうしたの?なんで泣いているの?」
声をかけてから罠かもしれないって思ったけれど、五、六歳くらいの女の子が目の前で泣いていたら放っておけないよ。
「ごめんなしゃい…ぜんぶ、ぜんぶ、ゆながわるいの」
「ゆなちゃんって言うのね。ねえ、どうしてゆなちゃんが悪いの?」
ゆなちゃんと視線が合うように、わたしはひざを折る。
でもゆなちゃんの顔は手で覆われていて見えない。
「ゆながちゃんとせいぎょできなかったから…。だから…」
「制御…?」
どういう意味なのか分からず、ゆなちゃんをよく見る。
すると腕に鱗のようなものがあるのが見えた。
これ、姥妙の人型に似ている。
もしかしてこの子…。
「あなた、もしかして愉比拿蛇?」
「うん」
泣きながらゆなちゃんは頷いた。
という事は、ゆなちゃんがいう「制御」というのは、溢れ出して暴走している妖力の事を言っているのかも。
「ゆなちゃん、もう泣かないで。どういう事か、教えてくれないかな?」
「それは、私がお話しします」
ゆなちゃんの後ろから女性が一人歩いてきた。
白い髪に、金の瞳。
額には天景さんと同じタイプの角が生えている。
「初めまして。私は七草」
「七草さん?変わった名前ですね」
「七草粥からとったの」
「そうなんですか。わたしもなんです」
「貴女も?」
「はい。わたしは七草冬です」
「まあ、偶然ね」
「そうですね」
ゆなちゃんは七草さんにしがみつく。
七草さんはそんなゆなちゃんの頭をゆっくりと撫でた。
「この子は蛇一族の中でもずば抜けた妖力の持ち主だったの。そこに目を付けた一部の人間が、この子を支配し、使役して世界征服を企んだの。霊魂を吸収して自分の力とする能力を持っていたせいで、沢山の魂を無理やり食べさせられたらしいわ」
「ゆな、もうたべたくないの。でも、たべないと、いたいことされるの」
痛い事を思い出したのか、ゆなちゃんの体が震えた。
そんなゆなちゃんを安心させるために、七草さんは優しく抱きしめた。
「幼いこの子に沢山の力を制御する事なんて、当然不可能。それでもこの子は、頑張って耐えたの。暴走しないように、必死に抑えた。でも…」
「でも?」
「ただ、守りたかったのよ…。彼を、守りたかった。愛していたから」
「七草さん?」
「…ごめんなさい。ゆなちゃんが暴走したのは、私を取り込んだせいなの」
「七草さんを、ですか?」
「ええ。私は神鬼と呼ばれる種族なの。私の力は、どんなモノノケも比じゃない程に強くて。当然、制御なんて無理。今まで抑え込んでいた全ての力が増幅・暴走し、邪神愉比拿蛇となってしまったの」
「そんな…」
それはつまり、愉比拿蛇は悪の元凶なんかじゃなく、実験の被害者って事だよね。
今までずっと語り継がれてきた事は、真実なんかじゃなかったんだ。
悪いのは愉比拿蛇じゃない。
人間だったんだ…。
何度も何度もゆなちゃんは謝り続ける。
ゆなちゃんが謝るのはおかしいよ。
だってゆなちゃん、必死に頑張ってたんだもの。
「もう…たべたくないよ…」
ゆっくりと顔をあげたゆなちゃんは、泣きすぎて腫れあがってしまった目でわたしを見た。
可愛い顔が台無しで、胸が痛くなった。
七草さんから離れ、わたしへと歩いてくる。
すがる様な目でわたしを見た。
「ふゆおねえちゃん…」
止まらない涙を拭いながら必死に、小さく掠れた声で、ゆなちゃんはハッキリとこう言った。
「たすけて」
それは泣き声みたいで、わたしはゆっくりと目を開ける。
真っ白な空間にわたしはいて、隣に居たはずのお姉さんがいない。
辺りを見回せば、小さな女の子が泣いていた。
「どうしたの?なんで泣いているの?」
声をかけてから罠かもしれないって思ったけれど、五、六歳くらいの女の子が目の前で泣いていたら放っておけないよ。
「ごめんなしゃい…ぜんぶ、ぜんぶ、ゆながわるいの」
「ゆなちゃんって言うのね。ねえ、どうしてゆなちゃんが悪いの?」
ゆなちゃんと視線が合うように、わたしはひざを折る。
でもゆなちゃんの顔は手で覆われていて見えない。
「ゆながちゃんとせいぎょできなかったから…。だから…」
「制御…?」
どういう意味なのか分からず、ゆなちゃんをよく見る。
すると腕に鱗のようなものがあるのが見えた。
これ、姥妙の人型に似ている。
もしかしてこの子…。
「あなた、もしかして愉比拿蛇?」
「うん」
泣きながらゆなちゃんは頷いた。
という事は、ゆなちゃんがいう「制御」というのは、溢れ出して暴走している妖力の事を言っているのかも。
「ゆなちゃん、もう泣かないで。どういう事か、教えてくれないかな?」
「それは、私がお話しします」
ゆなちゃんの後ろから女性が一人歩いてきた。
白い髪に、金の瞳。
額には天景さんと同じタイプの角が生えている。
「初めまして。私は七草」
「七草さん?変わった名前ですね」
「七草粥からとったの」
「そうなんですか。わたしもなんです」
「貴女も?」
「はい。わたしは七草冬です」
「まあ、偶然ね」
「そうですね」
ゆなちゃんは七草さんにしがみつく。
七草さんはそんなゆなちゃんの頭をゆっくりと撫でた。
「この子は蛇一族の中でもずば抜けた妖力の持ち主だったの。そこに目を付けた一部の人間が、この子を支配し、使役して世界征服を企んだの。霊魂を吸収して自分の力とする能力を持っていたせいで、沢山の魂を無理やり食べさせられたらしいわ」
「ゆな、もうたべたくないの。でも、たべないと、いたいことされるの」
痛い事を思い出したのか、ゆなちゃんの体が震えた。
そんなゆなちゃんを安心させるために、七草さんは優しく抱きしめた。
「幼いこの子に沢山の力を制御する事なんて、当然不可能。それでもこの子は、頑張って耐えたの。暴走しないように、必死に抑えた。でも…」
「でも?」
「ただ、守りたかったのよ…。彼を、守りたかった。愛していたから」
「七草さん?」
「…ごめんなさい。ゆなちゃんが暴走したのは、私を取り込んだせいなの」
「七草さんを、ですか?」
「ええ。私は神鬼と呼ばれる種族なの。私の力は、どんなモノノケも比じゃない程に強くて。当然、制御なんて無理。今まで抑え込んでいた全ての力が増幅・暴走し、邪神愉比拿蛇となってしまったの」
「そんな…」
それはつまり、愉比拿蛇は悪の元凶なんかじゃなく、実験の被害者って事だよね。
今までずっと語り継がれてきた事は、真実なんかじゃなかったんだ。
悪いのは愉比拿蛇じゃない。
人間だったんだ…。
何度も何度もゆなちゃんは謝り続ける。
ゆなちゃんが謝るのはおかしいよ。
だってゆなちゃん、必死に頑張ってたんだもの。
「もう…たべたくないよ…」
ゆっくりと顔をあげたゆなちゃんは、泣きすぎて腫れあがってしまった目でわたしを見た。
可愛い顔が台無しで、胸が痛くなった。
七草さんから離れ、わたしへと歩いてくる。
すがる様な目でわたしを見た。
「ふゆおねえちゃん…」
止まらない涙を拭いながら必死に、小さく掠れた声で、ゆなちゃんはハッキリとこう言った。
「たすけて」
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