四季の姫巫女

襟川竜

文字の大きさ
上 下
58 / 103
第参幕 霊具

第二一話

しおりを挟む
「聞いて、あられ」
「冬…」
「絶対に助けるとは言えない。任せてなんて胸を張って言えない。約束なんてできない。断言も出来ない。だけどわたし、やってみる。ささめさんを助けられる可能性があるなら、わたし、やる!」
「冬…!」
「誠士郎様、わたし、どうしたらいいですか?」
「まずは宝珠の力を感じ取ってください。宝珠が持つ力をゆっくりと霊具に乗せるのです」
「わたし、霊具なんて使えません」
「だったら、一緒に霊具も習得してしまいましょう」
「か、簡単に言いますけど…」
「更科さん、宿祢さん、時間を稼いでください。少しでも冬さんが集中できる環境が欲しいのです」
「了解でござる」
ばさりと大きく羽を羽ばたかせ宿祢が空に舞う。
「姥妙殿!聞いてくだされ…」
そのまま姥妙に叫んだ。
説明をして姥妙にも手伝ってもらうつもりみたい。
ささめさんを元に戻す為には確かに姥妙にも協力してもらう必要がある。
「それじゃ、ひとっ走り行ってくるかねぇ」
ワオーン、とひと鳴きし、犬の姿に戻った更科様がささめさんに飛びかかる。
「泰時君は私と冬さんの護衛をお願いします」
「護衛?」
「少しでも早く冬さんが宝珠を感じられるように私の霊力で誘導します。その為には、この結界を解かなければなりません」
「なるほどな。わかった」
こくりと頷き泰時様は背を向ける。
鞘から刀を抜き放ちわたし達の前方へと歩みを進める。
「いいか、この僕が時間を稼いでやるんだからな。失敗は許さないぞ」
「はい」
「霰さん。時間稼ぎとはいえ、お兄さんと戦う事はできますか?」
「…やるよ。アタシだけ何もしないなんて、そんなのやだ」
「ならば、お願いします」
「わかったわ。その代り…冬。お願いね」
「うん、一緒にささめさんを助けよう」
頷き合うと、あられは雪の上を駆け抜けていく。
「では、結界を解きます。冬さん、準備はいいですか?」
『私も誘導に協力するわ』
「ありがとう、お姉さん。誠士郎様、お願いします」
わたしの言葉に誠士郎様が頷く。
すぐにわたし達を包んでいた結界がなくなり、周辺に氷の塊が落下するようになる。
わたし達に当たらないようにと泰時様が一人で氷の塊を砕いていく。
普通の刀じゃそんな事は出来ないから、もしかしたらあの刀は泰時様の霊具なのかもしれない。
宿祢とあられが妖術でささめさんの注意を惹きつけ、大蛇の姥妙と大犬の更科様がささめさんの自由を奪っている。

「冬さん、手を」
「はい」
わたしは言われた通りに右手を誠士郎様の右手に乗せた。
同じように左手を幽霊のお姉さんの左手に乗せる。
誠士郎様の右手と幽霊のお姉さんの左手が帯の結び目に添えられた。
誠士郎様に言われるままゆっくりと目を閉じる。
両手から別々の温かい何かを感じる。
上手く説明できないけれど、これがきっと二人の霊力なんだと思う。
周りの音がすごく気になってしまうのは、まだちゃんと集中できていない証。
音が聞こえなくなるくらいに集中しなくちゃ。
この温かい二人の霊力だけを感じなくちゃ。

霊力が、流れてる。
どこに流れてるの?
行きつく先は背中の宝珠のはずなのに、わからない。
まだ感じられない。
流れを追いきれない。
もっと早く。
早くしないと、ささめさんが…!

『焦らなくても大丈夫。こっちよ、冬』

お姉さんが呼んでいる。

『みんなで力を合わせて細さんを助けるのよ。だから、焦りは禁物』

お姉さんの声に導かれるように、わたしは霊力を辿っていく。

『みんなを信じて』

うん、そうだよね。
宿祢が、あられが、姥妙が、更科様が、必ず時間を稼いでくれる。
泰時様が、必ず守ってくれる。
お姉さんと誠士郎様が、必ず導いてくれる。
わたしは、必ず宝珠を感じ取ってみせる!

『そうよ、その息よ。大丈夫、冬なら出来るわ。だって貴女は私を感じ取ってくれたじゃない』

そうだね。
お姉さん、わたしにしか見えないもんね。
声だって聞こえないし。
わたし、もしかしたら感じ取るのが上手いのかもしれないもんね。

『その調子よ。自信を持って。弱気な心では感じられるものも感じられないわ』

ありがとう、お姉さん。
わたしなら出来る。
きっと出来る。
お願い、四季の宝珠。
わたし、ささめさんを助けたいの。
少しでも力になりたいの。
わたしにしかできないのなら、わたし頑張るよ。
目の前にいる人を、手を伸ばせば届く距離にいる人を、わたしは助けたい。
人間もモノノケも関係なく、わたしは困っている人を助けたい。
その為に四季の宝珠、あなたの力が必要なの。
わたしに、どうか、応えて……!

お姉さんと誠士郎様の導きの先、なにかを、見つけた。
桜色の光は、あの水晶玉と同じ色。
中央で輝く白銀の光は、冷たそうな色なのにすごく温かい。
そう…。
その桜色の光が、邪魔をしていたんだね。
わたしなら大丈夫だよ、ちゃんと受け止められるから。
だからどうか、あなたの力をわたしに貸して。
わたしと同じ名の――。

「冬さん!」

誠士郎様の声が突然耳元で聞こえた。
温かい何かが体を覆う。
何か越しに衝撃が伝わり、背中がじんわりと冷たい。
びっくりして目を開けると、すぐ近くに誠士郎様の顔があってさらにびっくりした。
誠士郎様っていつも優しく微笑んでいるイメージだったのに、今は顔を歪めている。
「誠士郎…様?」
「誠士郎!大丈夫か!?」
視界の隅に、慌てて駆け寄ってきた泰時様が入る。
そしてわたしに覆いかぶさっていた誠士郎様に手を添えた。
泰時様、傷だらけだわ。
服にも血が滲んでる。
そうだよね、一人でわたし達を守ってくれていたんだもんね。
「だい、じょうぶ」
苦しそうな声を出しながらも誠士郎様は笑い返した。
わたし、もしかして誠士郎様に庇ってもらったの?
「冬さん、怪我はありませんか?」
「はい、大丈夫です」
「しゃべるな誠士郎。今手当を…」
「いえ、それよりも続きを」
手当てをしようとする泰時様を手で制し、誠士郎様はわたしの手を取る。
「大丈夫です。宝珠、感じました。もう誘導してもらわなくても…」
『冬!後ろよ!』「危ない!」
お姉さんと誠士郎様の声が重なる。
誠士郎様はわたしを抱きしめてそのまま地面に倒れこむ。
「はっ!」
泰時様は刀で氷の塊を砕く。
けど、今までよりも大きな塊は砕ききれず、大粒の破片が泰時様とわたしを庇った誠士郎様の背中に降り注いだ。
「せ、誠士郎様!」
「大丈夫、です。泰時君は…」
「僕もまだ、立てる」
ふらつきながらも泰時様は刀を構えた。
『冬、貴女が今すべき事は何?二人を心配する事?』
お姉さんに言われなくてもわかってる。
わたしが今、するべき事は、宝珠の力を霊具に乗せる事!
霊具はまだわからないけれど、宝珠は見つけた。
確かに感じた。
わたしと同じ『冬』の名を持つ宝珠。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈 
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

処理中です...