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第弐幕 宿祢
第十四話
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「…ゆ……の……ふ…どの…」
なんだか体が揺れている。
遠くで声も聞こえる。
もしかしてわたし、寝坊したのかな?
早く起きなさいって、秋ちゃんが起こしに来たのかも。
「ふゆ…の…」
もう少し寝ていたいなぁ。
「あと5分…」
「さっさと起きるでござる!冬殿!」
バチィィン
怒鳴り声と乾いた音。
そして後からやってきた目も覚める強烈な痛み。
というか、目、覚めた。
「いったぁぁい」
「よかった…。目が覚めたようでござるな」
目の前にはホッと安堵の息をつく宿祢がいた。
「ほっぺが痛い」
「す、すまないでござる…。何度呼びかけても起きぬから、つい」
「起きないからって叩かれてたら、おたふくになっちゃうよ」
「申し訳ないでござる。だが、拙者も言いたい事があるでござるよ」
「言いたい事?」
「崖から飛び降りるなど、なんと無謀な!下に木があったから助かったものの、下手をすれば死んでいたでござるよ」
「下にある木が見えたから飛び降りたの。それにいざとなったら宿祢は飛べるでしょ」
「拙者は飛べるが、冬殿は飛べぬ」
「わたしは宿祢を助けたかったの。あのままじゃ宿祢、殺されちゃうかもしれなかったんだよ。というか、殺されようとしていたでしょ」
「拙者は冬殿を助けたくて…」
「わたしも宿祢を助けたかったの」
「冬殿…」
宿祢がわたしを心配して、わたしを思って怒ってくれている事は、痛いほどわかっているよ。
ほっぺの痛みが、その証拠。
とっても危険な事をしたんだっていう、確かな証拠。
でもわかってほしいの。
わたしだって宿祢の事、心配なんだって。
「危ない事してごめんなさい。あの場から逃げるには、それしか思いつかなくて」
「…どうして冬殿は、そこまでしてくれるのでござるか?ここで死んでは、姫巫女になるという夢が潰えるのでござるよ」
「わたしは、誰かを助けたくて姫巫女を目指しているの。宿祢を見捨てて姫巫女になったって、わたしは誰も助けられないよ」
「冬殿は、凄いでござるな」
「そんな事ないよ。わたしは今までずっと秋ちゃんに守ってもらってきた。だから今度は、わたしが秋ちゃんを守る番なの。秋ちゃんだけじゃなく、里のみんなも」
「秋ちゃんとは、冬殿の大切な人でござるか?」
「うん。わたしのお姉さんみたいな人。秋ちゃんの作るおはぎ、とってもおいしいんだよ。今度宿祢にも食べさせてあげるね」
「それは楽しみでござるな」
「うん。約束ね」
そう言って小指を出したら、宿祢は不思議そうに見てきた。
指切りげんまん、知らないのかな。
「約束するときはね、こうやって小指を絡めるの」
「こうでござるか?」
「うん。…ゆーびきーりげんまん、嘘ついたら針千本のーます。ゆびきった」
「針千本とは…」
「これでもう、宿祢は死ねないね」
「…そうでござるな」
どこか吹っ切れた宿祢の笑顔は、なんだか太陽みたいにあったかい。
わたし、この笑顔好きだなぁ。
「それにしても、宿祢ってござる口調だったんだね」
「あ…。これは、その…。幼少時からの癖なのでござるが、へ、変でござろう」
「ううん。すっごく宿祢に似合ってるよ」
「そうでござるか」
照れ笑いを浮かべる宿祢は、なんだかちょっと年下にも見えた。
『冬ー』
「あ、お姉さん、こっちこっち」
『よかった…。無事だったのね。もう、心配したわよ』
「ごめんなさい」
「幽霊のお姉さん殿でござるか?」
「うん」
「怒っておるのだろう」
「なんでわかるの?」
「拙者も、冬殿の無茶には怒っておるからな」
「次からは気を付けます」
『本当に気を付けて。霊体でも寿命が縮むかと思ったわ』
お姉さんと宿祢にもう一度謝ってから、わたし達はこの後の作戦を考え始めた。
このまま逃げていても何も変わらない。
戦う以外に、宿祢を守る方法はない。
でも大人数相手に真正面からぶつかっても勝てない。
『部隊というものは大抵の場合、司令塔を潰せばなんとかなるものよ』
「司令塔って言うと、听穣?」
『そうなるわね』
「でも、听穣を潰すなんて、どうやればいいのかな?」
『听穣の相手は迦楼羅に任せて、まずは他の天狗達をどうにかする方法を考えましょう』
「いつまでもここにいる訳にもいかぬでござる」
「そうだね」
いくら戦わなくちゃいけないといっても、相手を傷つけたい訳じゃない。
出来る限り相手にも怪我をさせたくないというわたしの考えは甘いのかもしれない。
それでもそんなわたしの思いを二人は汲くんでくれた。
「よぉし!それじゃあこの作戦でいくよっ」
「うむ」
『ええ』
わたしの号令に二人が頷いた。
なんだか体が揺れている。
遠くで声も聞こえる。
もしかしてわたし、寝坊したのかな?
早く起きなさいって、秋ちゃんが起こしに来たのかも。
「ふゆ…の…」
もう少し寝ていたいなぁ。
「あと5分…」
「さっさと起きるでござる!冬殿!」
バチィィン
怒鳴り声と乾いた音。
そして後からやってきた目も覚める強烈な痛み。
というか、目、覚めた。
「いったぁぁい」
「よかった…。目が覚めたようでござるな」
目の前にはホッと安堵の息をつく宿祢がいた。
「ほっぺが痛い」
「す、すまないでござる…。何度呼びかけても起きぬから、つい」
「起きないからって叩かれてたら、おたふくになっちゃうよ」
「申し訳ないでござる。だが、拙者も言いたい事があるでござるよ」
「言いたい事?」
「崖から飛び降りるなど、なんと無謀な!下に木があったから助かったものの、下手をすれば死んでいたでござるよ」
「下にある木が見えたから飛び降りたの。それにいざとなったら宿祢は飛べるでしょ」
「拙者は飛べるが、冬殿は飛べぬ」
「わたしは宿祢を助けたかったの。あのままじゃ宿祢、殺されちゃうかもしれなかったんだよ。というか、殺されようとしていたでしょ」
「拙者は冬殿を助けたくて…」
「わたしも宿祢を助けたかったの」
「冬殿…」
宿祢がわたしを心配して、わたしを思って怒ってくれている事は、痛いほどわかっているよ。
ほっぺの痛みが、その証拠。
とっても危険な事をしたんだっていう、確かな証拠。
でもわかってほしいの。
わたしだって宿祢の事、心配なんだって。
「危ない事してごめんなさい。あの場から逃げるには、それしか思いつかなくて」
「…どうして冬殿は、そこまでしてくれるのでござるか?ここで死んでは、姫巫女になるという夢が潰えるのでござるよ」
「わたしは、誰かを助けたくて姫巫女を目指しているの。宿祢を見捨てて姫巫女になったって、わたしは誰も助けられないよ」
「冬殿は、凄いでござるな」
「そんな事ないよ。わたしは今までずっと秋ちゃんに守ってもらってきた。だから今度は、わたしが秋ちゃんを守る番なの。秋ちゃんだけじゃなく、里のみんなも」
「秋ちゃんとは、冬殿の大切な人でござるか?」
「うん。わたしのお姉さんみたいな人。秋ちゃんの作るおはぎ、とってもおいしいんだよ。今度宿祢にも食べさせてあげるね」
「それは楽しみでござるな」
「うん。約束ね」
そう言って小指を出したら、宿祢は不思議そうに見てきた。
指切りげんまん、知らないのかな。
「約束するときはね、こうやって小指を絡めるの」
「こうでござるか?」
「うん。…ゆーびきーりげんまん、嘘ついたら針千本のーます。ゆびきった」
「針千本とは…」
「これでもう、宿祢は死ねないね」
「…そうでござるな」
どこか吹っ切れた宿祢の笑顔は、なんだか太陽みたいにあったかい。
わたし、この笑顔好きだなぁ。
「それにしても、宿祢ってござる口調だったんだね」
「あ…。これは、その…。幼少時からの癖なのでござるが、へ、変でござろう」
「ううん。すっごく宿祢に似合ってるよ」
「そうでござるか」
照れ笑いを浮かべる宿祢は、なんだかちょっと年下にも見えた。
『冬ー』
「あ、お姉さん、こっちこっち」
『よかった…。無事だったのね。もう、心配したわよ』
「ごめんなさい」
「幽霊のお姉さん殿でござるか?」
「うん」
「怒っておるのだろう」
「なんでわかるの?」
「拙者も、冬殿の無茶には怒っておるからな」
「次からは気を付けます」
『本当に気を付けて。霊体でも寿命が縮むかと思ったわ』
お姉さんと宿祢にもう一度謝ってから、わたし達はこの後の作戦を考え始めた。
このまま逃げていても何も変わらない。
戦う以外に、宿祢を守る方法はない。
でも大人数相手に真正面からぶつかっても勝てない。
『部隊というものは大抵の場合、司令塔を潰せばなんとかなるものよ』
「司令塔って言うと、听穣?」
『そうなるわね』
「でも、听穣を潰すなんて、どうやればいいのかな?」
『听穣の相手は迦楼羅に任せて、まずは他の天狗達をどうにかする方法を考えましょう』
「いつまでもここにいる訳にもいかぬでござる」
「そうだね」
いくら戦わなくちゃいけないといっても、相手を傷つけたい訳じゃない。
出来る限り相手にも怪我をさせたくないというわたしの考えは甘いのかもしれない。
それでもそんなわたしの思いを二人は汲くんでくれた。
「よぉし!それじゃあこの作戦でいくよっ」
「うむ」
『ええ』
わたしの号令に二人が頷いた。
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