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するべからず②
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2人は看板を目にしていた。
そこには"うごくべからず"そう書いてある。
「"うごくべからず"だと…!?じゃああの線を超えると動いた瞬間…」
看板の先にはまた雑に線が敷かれていた。それも何故か2本。1本は看板より2メートルほど前に、そして、もう1本の線は2メートルほど看板の後ろに。
「それよりもだ。あの線の2本。何を意味していると思う?」
「恐らくですがひとつの可能性はありますけど」
「同じだ。僕と同じ考えなんじゃないのか」
「恐らく」
「「セーフゾーン」」
2人は声を合わせた。
「あの約4メートルの間がセーフゾーン。何も守らなくてもいい場所では無いのかそう言いたいんだろ?」
「はい。私はそう思います」
「とりあえず、あそこまでは行く。もし、仮にだ。仮にあそこから"うごくべからず"が始まった場合のときを考えて俺だけ最初に行かせてくれ」
「嫌です」
田原はそうはっきりと断った。
「何故だ?」
「単純ですよ。仮にあそこが"うごくべからず"なら人見さんが動くことが出来なくなった場合ここからの脱出は不可能になります」
「そうか、そうだな。わかった。二人で行こう」
人見秀一はゆっくりとゆっくりとほふく前進して、恐らくセーフゾーンと思われる場所に手を入れた。
「どうです?」
「どうやら、大丈夫なようだ!」
急いでセーフゾーンに入った。
「疲れた。少し休憩したいくらいだ」
2人は安堵の息を漏らす。
しかし、状況は変わっていない。
「どうしますか?」
「どうするも何もどうもできまい。それよりもだ、田原。足の具合はどうだ?」
「はい、全く動きません。感覚がないというか奪われたというべきなのでしょうか」
「それだけ聞ければいい」
ここからどうするべきか。どうも出来ないのは確か。
「看板の裏を見てくる」
看板の裏には"すすむべからず"と書いていた。
「何!?」
目の前は"うごくべからず"後ろには"すすむべからず"どういうことだ。単純に進んだらダメだということなのだろうか。
すると、田原が心配そうにこちらを見つめる。
「人見さん。あの先に行ったら…」
「あぁ。恐らくだが、動いた瞬間に終わるだろうな」
「そ、そんな……」
あの看板の先の線を超えると終わり。どうすればいい。
その時、田原が声を上げた。
「ね、ねぇ。人見さん。あそこよ、前よ、前!よく見てよ!」
「ど、どうしたんだ急に」
言われた通りに前を見ると"うごくべからず"の看板よりも前、線の数メートル前に人が倒れていた。
「な、何!?あれは…」
「ねぇ、見てください。あの足を!あの足を!」
倒れている人の右足には靴がない。そして、左足の靴はあの、漫画家が履いていた靴と瓜二つだった。
「ま、まさか!」
「はい。あれは絶対に行方不明になった漫画家です!」
しかし、あの先は"うごくべからず"。助けるには1度入るしか方法はない。
「ねぇ、人見さん助けてあげて!あの人!あの人を!」
「あ、あぁ。だが、待ってくれ。あの漫画家を助けたいのは同じだ。見捨てるなんて選択肢はない。だが、あそこに入れば動けない。"うごくべからず"に従わなくてはならない!」
入れば終わりのこの線を超えずにどう助ける…。
「何か策を考えるしかありません」
「そうだな…」
目の前は"うごくべからず"後ろは"すすむべからず"。
すると声が聞こえてくる。
「だ、誰かそこにいるのか…。た、助けてくれ、助けてくれ!もう、身体中が動かないんだ」
やはりあそこに入れば身体中が動かなくなるらしい。なら、どうする。どうやって助ける。
「人見さん!お願いします!彼を助けてあげて…!」
思考をめぐらせる。
彼を助けるにはあの線を超えるしか方法はない。しかし、看板には"うごくべからず"と書いてある。先程の"あるくべからす"はほふく前進等の足を使わない動きで何とか攻略できた。ならばこの"うごくべからず"も何らかの方法であの先へ行くことが出来るということなのではないか。
「どうするべきか…」
"うごくべからず"と"すすむべからず"
そして、答えはでた。
「悪い、田原。彼を助けることは出来ない」
「え?ど、どうして?」
「あそこにはやはり入ることは出来ない。と言うよりも入ったら終わりだ」
「そ、それは承知の上です。でも、彼を見殺しにすることはできません!確かに戻っても終わりならここで一生過ごすことになるでしょう。でも、それでも助かる道がないなら彼だけでも助けましょうよ!」
「違うんだ。彼を助けに行けば僕らが助からないんだ」
「へ?」
人見秀一は悔しそうな顔をうかべる。その顔を見て田原はなぜなんですかとしつこく聞く。
「田原。悪いな。今教える。彼を助けられない理由を」
「その理由って…?」
「あぁ。つまり、この看板の効力は自分の進む方向によって決まるということだよ」
「ど、どういうことですか?」
「簡単な事だったんだ。とても簡単なこと」
人見秀一はたんたんと語り始めた。
「最初にあった"あるくべからず"あれは両足でもコンマの差があるだろうからダメだろうという話でほふく前進にしたわけだ」
「はい、そうでしたけど…」
「そして、"うごくべからず"あれは解決不可能だ。あの漫画家と同様に入ったら全身が動かなくなる」
「だから、それは承知の上ですよ!」
「動く方向でその効力が決まると言ったよな」
「はい…」
「つまり、動く方向。今前を向いて全身しようとしているから"うごくべからず"の効力が働いてしまうわけだ」
「それがどう言う…」
「あぁ。つまり、後ろを向いて…」
言葉と同時に人見秀一は後ろを向いた。
「歩き出せば進む方向は先程の方向、意味がわかるか?」
「え、はい。それが…?」
「つまりだ。今俺が向いている方向は看板の裏側、"すすむべからず"の効力が働くということだよ」
「ま、まさか…」
「あぁ。だからあそこに入った時点で終わりなんだよ。仮に後ろを向いてあそこに入るとしよう、最初は特に何も無く入れる。"すすむべからず"の効力が効かないからな。でも、そこからどうやって戻る?」
「そ、それは……」
「そして、前から入っても同じだ。あそこに前を向いて入ると全身が動かなくなる。そうなれば後ろをむくことも出来ない」
「つまり、あそこに入れば本当に終わりだったわけだ。俺たちはまだあそこには入っていない。今後ろを向いて帰れば働くのは"もどるべからず"の方。もどる、つまり、後ろに進めば終わり。前に進めばいいだけだ。だから、彼は助けられない」
「そ、そんな……海くん…」
「海くん…?」
「す、すみません。最初あの人ただの知り合いって言ったの嘘なんです。彼は私の恋人…」
「だから、僕と一緒に行って彼を見つけてもらいたかったわけか」
「す、すみません。こんなことになるとは…」
「知れて良かったと取るべきか悪かったと取るべきか…」
すると、前で倒れていた漫画家が声を上げる。
「愛美。俺ここに入ってから気づいたんだよ。ここに入れば終わりだって。俺がその線との間にいれば助かったのに。俺ってバカだよな」
「で、でもなんでこの中に、"うごくべからず"の所へ入ったの!?」
「お前、見えないのか。あるだろう。あそこに看板が」
よく見てもそんなものはない。
「そ、そんなのないよ!」
「え、なんで。あれ、さっきまで俺見えてたのに…」
涙が溢れ出る。
「幻覚か…。それともこの道の番人にでも騙されたのか」
分からない。ただ、彼があそこに入ってしまった以上助けることは出来ない。
「漫画家の海くん。悪いが君を助けることは出来ない」
「あぁ。ありがとうございます。一つだけお願いがあります」
「なんだ?」
「彼女を。愛美をお願いします。俺が幸せにすることはもうできないから」
「ま、待ってよ!私もここに残る。彼がいない人生なんて考えたくない!目の前に彼がいるのに、私、動けなくてもいい。だから私を彼の元に連れて行ってよ、人見さん!」
「それは出来ない。彼もそう願ってる」
「その人の言う通りだ。俺のことはもういい。忘れてくれ、違う人と出会って恋して新しい人生を始めてくれ。最初からここに来たのが行けなかったんだ。それが無ければ…」
涙を流す漫画家に涙を流すその恋人の田原愛美。それを見つめる人見秀一。
「俺も出来れば助けたかった。でも、もうそれは出来ない。田原、忘れろなんて言わないし言えない。でも、これだけ言う。彼の思いを無駄にするな」
「は、はい……」
人見秀一は田原をかつぎあげる。
足が動かないのだから仕方ない。
「さようなら、海くん…」
「あぁ。ありがとう、愛美…」
やはり、思った通り来た道に戻ると普通に歩けた。ただ、戻ることはもうできない。そうするべきだから。そうしなくてはいけないから。
「来た道に戻るぞ」
「はい…」
看板を抜け、最初の看板を抜けると強い風が吹いた。
「うっ……」
「強い風…」
後ろは振り向かない。多分、既にあの道は消えている。それでも、今後ろを振り向いたら彼に申し訳がない。
田原もそう感じている。今後ろを振り向いたら彼に会いに行ってしまうと思うから。
「さようなら、海くん…」
2人は岩だらけの動きにくい所へとようやく戻ってきた。
「足の方はどうだ?」
聞いてみると田原は元気よく答える。
「だ、大丈夫みたいです…。動きます」
あの道から帰ってくると、何事もなかったように足は動いていた。
「なぁ、田原…」
「大丈夫です。もう、大丈夫」
「そうか」
2人は山を無事に降りて、ようやく帰ってこられたのだった。
「田原ごめんな」
「いえ、人見さん、ありがとうございます」
「え?」
「私がこうして帰ってこれたのは人見さんのおかげです。海くんのことは悲しいけど、一人で行ってたら多分海くんに会うことなく終わってましたから」
「そうか…」
「はい。だから、謝らないでくださいね」
「あぁ、わかった」
後日もう一度一人であの道を探してみたが、どこにも見当たらなかった。地図で確認してもその道は見つからない。
あの道が一体なんだったのか、それは分からない。でも、あの道はまた人を騙すだろう。
神なのかそれとも他の何かの仕業なのか、僕の黙示録には新たなページが埋まっていた。
そこには"うごくべからず"そう書いてある。
「"うごくべからず"だと…!?じゃああの線を超えると動いた瞬間…」
看板の先にはまた雑に線が敷かれていた。それも何故か2本。1本は看板より2メートルほど前に、そして、もう1本の線は2メートルほど看板の後ろに。
「それよりもだ。あの線の2本。何を意味していると思う?」
「恐らくですがひとつの可能性はありますけど」
「同じだ。僕と同じ考えなんじゃないのか」
「恐らく」
「「セーフゾーン」」
2人は声を合わせた。
「あの約4メートルの間がセーフゾーン。何も守らなくてもいい場所では無いのかそう言いたいんだろ?」
「はい。私はそう思います」
「とりあえず、あそこまでは行く。もし、仮にだ。仮にあそこから"うごくべからず"が始まった場合のときを考えて俺だけ最初に行かせてくれ」
「嫌です」
田原はそうはっきりと断った。
「何故だ?」
「単純ですよ。仮にあそこが"うごくべからず"なら人見さんが動くことが出来なくなった場合ここからの脱出は不可能になります」
「そうか、そうだな。わかった。二人で行こう」
人見秀一はゆっくりとゆっくりとほふく前進して、恐らくセーフゾーンと思われる場所に手を入れた。
「どうです?」
「どうやら、大丈夫なようだ!」
急いでセーフゾーンに入った。
「疲れた。少し休憩したいくらいだ」
2人は安堵の息を漏らす。
しかし、状況は変わっていない。
「どうしますか?」
「どうするも何もどうもできまい。それよりもだ、田原。足の具合はどうだ?」
「はい、全く動きません。感覚がないというか奪われたというべきなのでしょうか」
「それだけ聞ければいい」
ここからどうするべきか。どうも出来ないのは確か。
「看板の裏を見てくる」
看板の裏には"すすむべからず"と書いていた。
「何!?」
目の前は"うごくべからず"後ろには"すすむべからず"どういうことだ。単純に進んだらダメだということなのだろうか。
すると、田原が心配そうにこちらを見つめる。
「人見さん。あの先に行ったら…」
「あぁ。恐らくだが、動いた瞬間に終わるだろうな」
「そ、そんな……」
あの看板の先の線を超えると終わり。どうすればいい。
その時、田原が声を上げた。
「ね、ねぇ。人見さん。あそこよ、前よ、前!よく見てよ!」
「ど、どうしたんだ急に」
言われた通りに前を見ると"うごくべからず"の看板よりも前、線の数メートル前に人が倒れていた。
「な、何!?あれは…」
「ねぇ、見てください。あの足を!あの足を!」
倒れている人の右足には靴がない。そして、左足の靴はあの、漫画家が履いていた靴と瓜二つだった。
「ま、まさか!」
「はい。あれは絶対に行方不明になった漫画家です!」
しかし、あの先は"うごくべからず"。助けるには1度入るしか方法はない。
「ねぇ、人見さん助けてあげて!あの人!あの人を!」
「あ、あぁ。だが、待ってくれ。あの漫画家を助けたいのは同じだ。見捨てるなんて選択肢はない。だが、あそこに入れば動けない。"うごくべからず"に従わなくてはならない!」
入れば終わりのこの線を超えずにどう助ける…。
「何か策を考えるしかありません」
「そうだな…」
目の前は"うごくべからず"後ろは"すすむべからず"。
すると声が聞こえてくる。
「だ、誰かそこにいるのか…。た、助けてくれ、助けてくれ!もう、身体中が動かないんだ」
やはりあそこに入れば身体中が動かなくなるらしい。なら、どうする。どうやって助ける。
「人見さん!お願いします!彼を助けてあげて…!」
思考をめぐらせる。
彼を助けるにはあの線を超えるしか方法はない。しかし、看板には"うごくべからず"と書いてある。先程の"あるくべからす"はほふく前進等の足を使わない動きで何とか攻略できた。ならばこの"うごくべからず"も何らかの方法であの先へ行くことが出来るということなのではないか。
「どうするべきか…」
"うごくべからず"と"すすむべからず"
そして、答えはでた。
「悪い、田原。彼を助けることは出来ない」
「え?ど、どうして?」
「あそこにはやはり入ることは出来ない。と言うよりも入ったら終わりだ」
「そ、それは承知の上です。でも、彼を見殺しにすることはできません!確かに戻っても終わりならここで一生過ごすことになるでしょう。でも、それでも助かる道がないなら彼だけでも助けましょうよ!」
「違うんだ。彼を助けに行けば僕らが助からないんだ」
「へ?」
人見秀一は悔しそうな顔をうかべる。その顔を見て田原はなぜなんですかとしつこく聞く。
「田原。悪いな。今教える。彼を助けられない理由を」
「その理由って…?」
「あぁ。つまり、この看板の効力は自分の進む方向によって決まるということだよ」
「ど、どういうことですか?」
「簡単な事だったんだ。とても簡単なこと」
人見秀一はたんたんと語り始めた。
「最初にあった"あるくべからず"あれは両足でもコンマの差があるだろうからダメだろうという話でほふく前進にしたわけだ」
「はい、そうでしたけど…」
「そして、"うごくべからず"あれは解決不可能だ。あの漫画家と同様に入ったら全身が動かなくなる」
「だから、それは承知の上ですよ!」
「動く方向でその効力が決まると言ったよな」
「はい…」
「つまり、動く方向。今前を向いて全身しようとしているから"うごくべからず"の効力が働いてしまうわけだ」
「それがどう言う…」
「あぁ。つまり、後ろを向いて…」
言葉と同時に人見秀一は後ろを向いた。
「歩き出せば進む方向は先程の方向、意味がわかるか?」
「え、はい。それが…?」
「つまりだ。今俺が向いている方向は看板の裏側、"すすむべからず"の効力が働くということだよ」
「ま、まさか…」
「あぁ。だからあそこに入った時点で終わりなんだよ。仮に後ろを向いてあそこに入るとしよう、最初は特に何も無く入れる。"すすむべからず"の効力が効かないからな。でも、そこからどうやって戻る?」
「そ、それは……」
「そして、前から入っても同じだ。あそこに前を向いて入ると全身が動かなくなる。そうなれば後ろをむくことも出来ない」
「つまり、あそこに入れば本当に終わりだったわけだ。俺たちはまだあそこには入っていない。今後ろを向いて帰れば働くのは"もどるべからず"の方。もどる、つまり、後ろに進めば終わり。前に進めばいいだけだ。だから、彼は助けられない」
「そ、そんな……海くん…」
「海くん…?」
「す、すみません。最初あの人ただの知り合いって言ったの嘘なんです。彼は私の恋人…」
「だから、僕と一緒に行って彼を見つけてもらいたかったわけか」
「す、すみません。こんなことになるとは…」
「知れて良かったと取るべきか悪かったと取るべきか…」
すると、前で倒れていた漫画家が声を上げる。
「愛美。俺ここに入ってから気づいたんだよ。ここに入れば終わりだって。俺がその線との間にいれば助かったのに。俺ってバカだよな」
「で、でもなんでこの中に、"うごくべからず"の所へ入ったの!?」
「お前、見えないのか。あるだろう。あそこに看板が」
よく見てもそんなものはない。
「そ、そんなのないよ!」
「え、なんで。あれ、さっきまで俺見えてたのに…」
涙が溢れ出る。
「幻覚か…。それともこの道の番人にでも騙されたのか」
分からない。ただ、彼があそこに入ってしまった以上助けることは出来ない。
「漫画家の海くん。悪いが君を助けることは出来ない」
「あぁ。ありがとうございます。一つだけお願いがあります」
「なんだ?」
「彼女を。愛美をお願いします。俺が幸せにすることはもうできないから」
「ま、待ってよ!私もここに残る。彼がいない人生なんて考えたくない!目の前に彼がいるのに、私、動けなくてもいい。だから私を彼の元に連れて行ってよ、人見さん!」
「それは出来ない。彼もそう願ってる」
「その人の言う通りだ。俺のことはもういい。忘れてくれ、違う人と出会って恋して新しい人生を始めてくれ。最初からここに来たのが行けなかったんだ。それが無ければ…」
涙を流す漫画家に涙を流すその恋人の田原愛美。それを見つめる人見秀一。
「俺も出来れば助けたかった。でも、もうそれは出来ない。田原、忘れろなんて言わないし言えない。でも、これだけ言う。彼の思いを無駄にするな」
「は、はい……」
人見秀一は田原をかつぎあげる。
足が動かないのだから仕方ない。
「さようなら、海くん…」
「あぁ。ありがとう、愛美…」
やはり、思った通り来た道に戻ると普通に歩けた。ただ、戻ることはもうできない。そうするべきだから。そうしなくてはいけないから。
「来た道に戻るぞ」
「はい…」
看板を抜け、最初の看板を抜けると強い風が吹いた。
「うっ……」
「強い風…」
後ろは振り向かない。多分、既にあの道は消えている。それでも、今後ろを振り向いたら彼に申し訳がない。
田原もそう感じている。今後ろを振り向いたら彼に会いに行ってしまうと思うから。
「さようなら、海くん…」
2人は岩だらけの動きにくい所へとようやく戻ってきた。
「足の方はどうだ?」
聞いてみると田原は元気よく答える。
「だ、大丈夫みたいです…。動きます」
あの道から帰ってくると、何事もなかったように足は動いていた。
「なぁ、田原…」
「大丈夫です。もう、大丈夫」
「そうか」
2人は山を無事に降りて、ようやく帰ってこられたのだった。
「田原ごめんな」
「いえ、人見さん、ありがとうございます」
「え?」
「私がこうして帰ってこれたのは人見さんのおかげです。海くんのことは悲しいけど、一人で行ってたら多分海くんに会うことなく終わってましたから」
「そうか…」
「はい。だから、謝らないでくださいね」
「あぁ、わかった」
後日もう一度一人であの道を探してみたが、どこにも見当たらなかった。地図で確認してもその道は見つからない。
あの道が一体なんだったのか、それは分からない。でも、あの道はまた人を騙すだろう。
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