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二章 夜市編
29.夜祭-参-
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妖花は虚実の門への道を走る。
家屋に挟まれた広い道には妖怪達の姿はない。私を誘い出すように通りやすい道をわざと作っているように思えた。
「あれだけ妖怪達がいたのに誰もいない。罠かもしれない…。でも、向かうしかない。私にはそれ以外選択肢はない」
妖花は今するべき選択肢はこれしかないと思っていた。式神がいない今、この世界から出るには虚実の門から出るしかない。ならばその門に行かなければならない。例え、妖怪達が待ち伏せをしていようとも何とかして脱出するしかない。
特に作戦がある訳では無いし無策で挑むほど馬鹿では無い。だから今は門に行くことが重要であり、出ることが目的では無い。
「急ごう、まずはどんな門なのか確認しないと」
目の前にはまだ門は見えない。道が左右に分かれている丁字路に差し掛かり、妖花は左側の曲がり角の側で立ち止まった。
そっと覗くと門があることが分かった。
「あれが虚実の門かな…?」
視認した門なのかは分からなかったが、式神からすぐ近くにあると聞かされており、周りに門は見えなかったためあの門が虚実の門であると妖花は確信した。
虚実の門は呼ノ後の門のように大きな門と思っていたが思いの外小さかった。
神社の鳥居ほどの大きさの門は呂色の深く美しい黒色はその門の存在感を引き立てている。
「やっぱり門には妖怪達がたくさんいるみたいね」
妖花の目には妖怪達が写っていた。何をしているのかは確認できない。ただ門に並んでいるだけなのか他に理由があるのか。
数は100、200?わからない。どれだけの妖怪があそこに集まっているのだろう。
流石にあれだけ多いと何を言っているかはこの距離ではわからなかった。
「式神さん一体どこに…もしかしてもう殺されていたり…」
脳裏に過ぎるあの光景。式神が一つ目小僧に襲われる直前の記憶。
妖花は首を横に振った。
仮に式神さんがあのまま刺されていたとしたとして殺されてしまったなんて証拠ないじゃない。
生きている証拠もないけれど。
最悪の結果が脳裏にこびりついてしまい頭から離れない。
それに妖花は分かっていた。もしもあの後すぐに一つ目小僧を倒したなら私のいる家屋に降りてくるはず。だが一度も降りてくることはなく私が外に出てもあの家屋の屋根の上に式神達がいる様子はなかった。
ということは………
「もう少し考える?いや、そんな時間はない。それにしてもあの妖怪達は何をやってるの?」
そっと覗いていると妖怪達のいる隙間からある妖怪を囲んでいることがわかった。見た事のある服装。そして、私を助けてくれたあの姿だけは決して忘れない。だからこそ最悪の状況ということも分かった。
「し、式神さん!」
思わず声が出てしまった。腕を後ろに縛られ、囲まれ動く事が出来ず、睨む姿を確認した。
やはり捕まっていた。殺されてはいないものの状況は最悪。
もう一度目を向けて式神を視認すると式神と目があった。式神は表情は変わらなかったものの少し首を振ってこちらの存在に気づいたことを伝えてくれた。
しかし、その首を振る仕草だけで妖花は理解した。
私のことはいいからお前は逃げろ
そう言われている気がした。
でも、それだけはできない。私は式神さんを助ける。仮に私が人間界に続く抜け道を探しに行ったとして抜け道を見つける保証はない、仮に抜け道を見つけたとしても私たちの世界につながっているとは限らない。
ならば何をするかは考えなくても分かる。
必ず2人で生きてこの世界を出る。それしかない。それに私は誰かに借りを作ることが嫌いだ。だから恩返しさせてもらう。
「やってやる…!」
しかし今すぐに自分が妖怪達の前に姿を現したとしてもすぐに捕まるだけだろう。ならば…
そう考えていると大きな声が聞こえてくる。
「聞いてるか!女のガキ!お前を助けていた妖怪は俺たちがもう捕まえた、あとはお前だけだ。死んでいるならそれでいい。死んでいないなら今すぐにここに来い、虚実の門だ。分かるだろう?この雑魚に教えてもらっているだろうからな~」
どうやらこの機械から出ているらしい。人間の世界にもあるようなスピーカーだ。
木に括り付けられたスピーカーを見ながら妖花は考える。
どうする…どうする…
「あと30分待つ。それで出てこなければこいつは殺す。お前が出てきたなら解放する。聞こえてたら来いよ、情がないなら別に構わん。死んだ時に此奴に呪われろ」
妖花はそれを聞いて焦る。
「あんな薄っぺらい言葉信用できるわけない」
妖花はもし、自分が出て行った時のことを考えて持ち物を見る。
持ち物は短刀と鞄。鞄の中身は学校からの帰りのままなので教科書と筆記用具のみ。優等生万歳とは言っていられない。学校の自分が真面目すぎたせいで妖怪達に対抗する手段がない。短刀しかないがたまたま手に入れた物だ。
これからは用心して何か武器やらを外出時は持って行こう。
妖花はそう強く決心した。
「この中で使うならやっぱり短刀かな」
だがあの数の妖怪。馬鹿正直に出て行ったところで捕まって終わりだ。そんなことをしても仕方がない。
しかし、今はもうやるしかない。作戦を考える時間などない。時間が経てばたつほど状況が悪化するばかりだ。
「よし、やろう」
決意を固めた妖花は曲がり角から離れて近くにあった家屋の塀を登り始めた。疲労などは忘れて、今できることをやろうと自分の身体に言い聞かせる。塀を登った妖花はすぐに家屋の一階の屋根に飛び乗るとそこから屋根を通じて二階の屋根に手をかけると力を振り絞って登る。
あと少し、あと少し。
そして妖花は登り切った。
「やっと登れた…」
家屋の屋根の上にいた。あのあと家屋から家屋へと移動を重ねながらなんとか式神の近くの家屋の屋根に登ることができた。
「…。」
やはりここから吹く風は気持ちがいい。それに自分一人で登れたことに妖花は自分自身を褒めたかった。
しかし、今はそんなことをしている場合ではない。
「ここからならよく見える」
はっきりと式神がいることを確認した。
腕を後ろで組んで縄で括られている。足も同じような形で括られており、身動きが取れないようだった。
「私なら…やれる」
妖花は深呼吸をした。今から一か八かの作戦を実行する。その成功のために、この鳴り止まない鼓動と震えを抑えようとする。
震えと鼓動は止まらない。
ドクン、ドクン。
もう一度深呼吸をした。それでも止まない。
だから少し考えた。自分を助けてくれた式神のことを。すると自然に鼓動が安定し震えが止まった。
今ならいける
妖花は助走をつけてその屋根の上から勢いよく飛び降りた。
式神のいる妖怪達が囲む最悪の場所へ。
「私ならできる!」
妖花は短刀を握り締めていた。それは他の妖怪達を刺すためではない。そう、あの縄を解くため。騒がしい妖怪達は妖花の存在に気づかなかった。それが功を奏した。式神の真上に大きな影が出来たことに気付いて何体か妖怪達が上を向くとそこにはもう妖花がいた。
刹那。妖花は使ったことがないはずの短刀を握り締めて鮮やかに縄を切り、妖怪達の前に姿を現した。
それを見て襲いかかる妖怪に妖花は強張って動けない。
"死"
その文字が頭に浮かんだ妖花が襲われそうになる直前、地面が隆起した。
それは全く自然ではない、地面が勝手に動いたようにも見えた。その隆起した地面の土は拳のような形になり襲いかかる妖怪を殴った。
「ぐはっ…」
妖怪が吹っ飛ばされて辺りが静かになった。
一体何が起こった?妖花は式神に目を向けると式神は地面に手をついて何かをぶつぶつと呟いている。
「式神さんがやってくれたの?」
そう聞くとこちらを振り向いた。
「あぁ。見れば分かるだろ」
妖花はその声を聞いて安堵の息を漏らした。
「式神さんに借りが増えたみたい」
「何を言ってる?」
式神は首を傾げながらこちらを見る。
「いえ、何でもないです!」
笑顔になって妖花は式神の方を見た。
「そうか、ならいい。それよりも良くやった」
式神は妖花の切った縄に目を向ける。
「お前の切った縄は妖怪の動きを封じる縄だ。おかげで乱暴にせずに済んだ」
それを言い終わると妖怪達に目を向ける。
「本当は最終手段だったんだがな」
式神は戦闘態勢に入り、地面に手をついた。するとまた地面が隆起し始め、蛇のような姿になった。
「土術・傀儡蛇」
「なんだよ…これは!」
「答える事はない」
蛇の姿となった地面は次々と妖怪達に襲いかかる。大きさは約10メートル。妖花は驚きのあまり声が出なかった。
「やれ」
蛇となった地面は式神の一言で妖怪達を尾で叩いたり、周りの家屋を壊してこちらに近づけないようにしている。
妖怪達はそれを見て恐れ慄く。逃げる物、呆然として立ちつく者、腰が抜けて動けない者。
そんな中一つ目小僧が式神に向けて「お前、一体何者だ!?」と蒼ざめた顔でこちらを見ながらそういう。
すると式神は表情を変えずに答えた。
「俺はただの式神だ。それ以上それ以下でもない。お前に教えることなど何もない」
そう言った後一つ目小僧に向かって蛇の姿をした土が襲い掛かった。
鈍い音が鳴り響き、妖花は思わず目をぎゅっと閉じた。
「し、式神さん、もういいです。私…こんなことになるなんて思ってなくて!」
そっと目を開けると一つ目小僧の目と鼻の先に蛇の尾が叩きつけられていた。
「あぁ。心配するな、あいつらを殺すつもりはない」
「そうだったんですか…」
少し妖花はほっとした。
一つ目小僧は地べたに手をついておろおろしている。
「お前、こんな力を持っているなんてな!騙しやがったな!」
「騙す?それは違うな。元々私の目的はこの子供を元の世界に戻す、それだけだ」
式神が術を解くと先ほどまでいた蛇が崩れて落ち、元の地面に戻った。
一つ目小僧は立ち上がって式神に言葉を飛ばす。
「お前…この力はどう見ても普通の式神の力ではないな!式神といってもあの十二天将か?」
「お前に答える事は何もない。お前がそうだと思ったならそうだろうし、そうでないと思ったのならそうではない」
「俺の問いには答えるつもりはないわけか」
舌打ちをしながら一つ目小僧は話を続ける。
「十二天将は安倍晴明の使役する式神のはずだ。ここにいたとしたら驚きだがまぁいい。お前がそうだとしてもそうではなくても武が悪い」
「ならばここは大人しく引いてもらおうか」
式神にそう告げられ一つ目小僧は逃げるように立ち去った。
立ち去る直前「くそが」と負け惜しみを言っていたが妖花と式神は気にせずにその背中が消えるまで見ていた。
「悪かったな。怖い思いをさせたろう」
「いえ、式神さんが無事で良かったです」
妖花が笑顔でそう告げると式神は表情を変えずに「そうだな」とだけ呟いた。
妖花達の夜市での戦いが終わった瞬間だった。
家屋に挟まれた広い道には妖怪達の姿はない。私を誘い出すように通りやすい道をわざと作っているように思えた。
「あれだけ妖怪達がいたのに誰もいない。罠かもしれない…。でも、向かうしかない。私にはそれ以外選択肢はない」
妖花は今するべき選択肢はこれしかないと思っていた。式神がいない今、この世界から出るには虚実の門から出るしかない。ならばその門に行かなければならない。例え、妖怪達が待ち伏せをしていようとも何とかして脱出するしかない。
特に作戦がある訳では無いし無策で挑むほど馬鹿では無い。だから今は門に行くことが重要であり、出ることが目的では無い。
「急ごう、まずはどんな門なのか確認しないと」
目の前にはまだ門は見えない。道が左右に分かれている丁字路に差し掛かり、妖花は左側の曲がり角の側で立ち止まった。
そっと覗くと門があることが分かった。
「あれが虚実の門かな…?」
視認した門なのかは分からなかったが、式神からすぐ近くにあると聞かされており、周りに門は見えなかったためあの門が虚実の門であると妖花は確信した。
虚実の門は呼ノ後の門のように大きな門と思っていたが思いの外小さかった。
神社の鳥居ほどの大きさの門は呂色の深く美しい黒色はその門の存在感を引き立てている。
「やっぱり門には妖怪達がたくさんいるみたいね」
妖花の目には妖怪達が写っていた。何をしているのかは確認できない。ただ門に並んでいるだけなのか他に理由があるのか。
数は100、200?わからない。どれだけの妖怪があそこに集まっているのだろう。
流石にあれだけ多いと何を言っているかはこの距離ではわからなかった。
「式神さん一体どこに…もしかしてもう殺されていたり…」
脳裏に過ぎるあの光景。式神が一つ目小僧に襲われる直前の記憶。
妖花は首を横に振った。
仮に式神さんがあのまま刺されていたとしたとして殺されてしまったなんて証拠ないじゃない。
生きている証拠もないけれど。
最悪の結果が脳裏にこびりついてしまい頭から離れない。
それに妖花は分かっていた。もしもあの後すぐに一つ目小僧を倒したなら私のいる家屋に降りてくるはず。だが一度も降りてくることはなく私が外に出てもあの家屋の屋根の上に式神達がいる様子はなかった。
ということは………
「もう少し考える?いや、そんな時間はない。それにしてもあの妖怪達は何をやってるの?」
そっと覗いていると妖怪達のいる隙間からある妖怪を囲んでいることがわかった。見た事のある服装。そして、私を助けてくれたあの姿だけは決して忘れない。だからこそ最悪の状況ということも分かった。
「し、式神さん!」
思わず声が出てしまった。腕を後ろに縛られ、囲まれ動く事が出来ず、睨む姿を確認した。
やはり捕まっていた。殺されてはいないものの状況は最悪。
もう一度目を向けて式神を視認すると式神と目があった。式神は表情は変わらなかったものの少し首を振ってこちらの存在に気づいたことを伝えてくれた。
しかし、その首を振る仕草だけで妖花は理解した。
私のことはいいからお前は逃げろ
そう言われている気がした。
でも、それだけはできない。私は式神さんを助ける。仮に私が人間界に続く抜け道を探しに行ったとして抜け道を見つける保証はない、仮に抜け道を見つけたとしても私たちの世界につながっているとは限らない。
ならば何をするかは考えなくても分かる。
必ず2人で生きてこの世界を出る。それしかない。それに私は誰かに借りを作ることが嫌いだ。だから恩返しさせてもらう。
「やってやる…!」
しかし今すぐに自分が妖怪達の前に姿を現したとしてもすぐに捕まるだけだろう。ならば…
そう考えていると大きな声が聞こえてくる。
「聞いてるか!女のガキ!お前を助けていた妖怪は俺たちがもう捕まえた、あとはお前だけだ。死んでいるならそれでいい。死んでいないなら今すぐにここに来い、虚実の門だ。分かるだろう?この雑魚に教えてもらっているだろうからな~」
どうやらこの機械から出ているらしい。人間の世界にもあるようなスピーカーだ。
木に括り付けられたスピーカーを見ながら妖花は考える。
どうする…どうする…
「あと30分待つ。それで出てこなければこいつは殺す。お前が出てきたなら解放する。聞こえてたら来いよ、情がないなら別に構わん。死んだ時に此奴に呪われろ」
妖花はそれを聞いて焦る。
「あんな薄っぺらい言葉信用できるわけない」
妖花はもし、自分が出て行った時のことを考えて持ち物を見る。
持ち物は短刀と鞄。鞄の中身は学校からの帰りのままなので教科書と筆記用具のみ。優等生万歳とは言っていられない。学校の自分が真面目すぎたせいで妖怪達に対抗する手段がない。短刀しかないがたまたま手に入れた物だ。
これからは用心して何か武器やらを外出時は持って行こう。
妖花はそう強く決心した。
「この中で使うならやっぱり短刀かな」
だがあの数の妖怪。馬鹿正直に出て行ったところで捕まって終わりだ。そんなことをしても仕方がない。
しかし、今はもうやるしかない。作戦を考える時間などない。時間が経てばたつほど状況が悪化するばかりだ。
「よし、やろう」
決意を固めた妖花は曲がり角から離れて近くにあった家屋の塀を登り始めた。疲労などは忘れて、今できることをやろうと自分の身体に言い聞かせる。塀を登った妖花はすぐに家屋の一階の屋根に飛び乗るとそこから屋根を通じて二階の屋根に手をかけると力を振り絞って登る。
あと少し、あと少し。
そして妖花は登り切った。
「やっと登れた…」
家屋の屋根の上にいた。あのあと家屋から家屋へと移動を重ねながらなんとか式神の近くの家屋の屋根に登ることができた。
「…。」
やはりここから吹く風は気持ちがいい。それに自分一人で登れたことに妖花は自分自身を褒めたかった。
しかし、今はそんなことをしている場合ではない。
「ここからならよく見える」
はっきりと式神がいることを確認した。
腕を後ろで組んで縄で括られている。足も同じような形で括られており、身動きが取れないようだった。
「私なら…やれる」
妖花は深呼吸をした。今から一か八かの作戦を実行する。その成功のために、この鳴り止まない鼓動と震えを抑えようとする。
震えと鼓動は止まらない。
ドクン、ドクン。
もう一度深呼吸をした。それでも止まない。
だから少し考えた。自分を助けてくれた式神のことを。すると自然に鼓動が安定し震えが止まった。
今ならいける
妖花は助走をつけてその屋根の上から勢いよく飛び降りた。
式神のいる妖怪達が囲む最悪の場所へ。
「私ならできる!」
妖花は短刀を握り締めていた。それは他の妖怪達を刺すためではない。そう、あの縄を解くため。騒がしい妖怪達は妖花の存在に気づかなかった。それが功を奏した。式神の真上に大きな影が出来たことに気付いて何体か妖怪達が上を向くとそこにはもう妖花がいた。
刹那。妖花は使ったことがないはずの短刀を握り締めて鮮やかに縄を切り、妖怪達の前に姿を現した。
それを見て襲いかかる妖怪に妖花は強張って動けない。
"死"
その文字が頭に浮かんだ妖花が襲われそうになる直前、地面が隆起した。
それは全く自然ではない、地面が勝手に動いたようにも見えた。その隆起した地面の土は拳のような形になり襲いかかる妖怪を殴った。
「ぐはっ…」
妖怪が吹っ飛ばされて辺りが静かになった。
一体何が起こった?妖花は式神に目を向けると式神は地面に手をついて何かをぶつぶつと呟いている。
「式神さんがやってくれたの?」
そう聞くとこちらを振り向いた。
「あぁ。見れば分かるだろ」
妖花はその声を聞いて安堵の息を漏らした。
「式神さんに借りが増えたみたい」
「何を言ってる?」
式神は首を傾げながらこちらを見る。
「いえ、何でもないです!」
笑顔になって妖花は式神の方を見た。
「そうか、ならいい。それよりも良くやった」
式神は妖花の切った縄に目を向ける。
「お前の切った縄は妖怪の動きを封じる縄だ。おかげで乱暴にせずに済んだ」
それを言い終わると妖怪達に目を向ける。
「本当は最終手段だったんだがな」
式神は戦闘態勢に入り、地面に手をついた。するとまた地面が隆起し始め、蛇のような姿になった。
「土術・傀儡蛇」
「なんだよ…これは!」
「答える事はない」
蛇の姿となった地面は次々と妖怪達に襲いかかる。大きさは約10メートル。妖花は驚きのあまり声が出なかった。
「やれ」
蛇となった地面は式神の一言で妖怪達を尾で叩いたり、周りの家屋を壊してこちらに近づけないようにしている。
妖怪達はそれを見て恐れ慄く。逃げる物、呆然として立ちつく者、腰が抜けて動けない者。
そんな中一つ目小僧が式神に向けて「お前、一体何者だ!?」と蒼ざめた顔でこちらを見ながらそういう。
すると式神は表情を変えずに答えた。
「俺はただの式神だ。それ以上それ以下でもない。お前に教えることなど何もない」
そう言った後一つ目小僧に向かって蛇の姿をした土が襲い掛かった。
鈍い音が鳴り響き、妖花は思わず目をぎゅっと閉じた。
「し、式神さん、もういいです。私…こんなことになるなんて思ってなくて!」
そっと目を開けると一つ目小僧の目と鼻の先に蛇の尾が叩きつけられていた。
「あぁ。心配するな、あいつらを殺すつもりはない」
「そうだったんですか…」
少し妖花はほっとした。
一つ目小僧は地べたに手をついておろおろしている。
「お前、こんな力を持っているなんてな!騙しやがったな!」
「騙す?それは違うな。元々私の目的はこの子供を元の世界に戻す、それだけだ」
式神が術を解くと先ほどまでいた蛇が崩れて落ち、元の地面に戻った。
一つ目小僧は立ち上がって式神に言葉を飛ばす。
「お前…この力はどう見ても普通の式神の力ではないな!式神といってもあの十二天将か?」
「お前に答える事は何もない。お前がそうだと思ったならそうだろうし、そうでないと思ったのならそうではない」
「俺の問いには答えるつもりはないわけか」
舌打ちをしながら一つ目小僧は話を続ける。
「十二天将は安倍晴明の使役する式神のはずだ。ここにいたとしたら驚きだがまぁいい。お前がそうだとしてもそうではなくても武が悪い」
「ならばここは大人しく引いてもらおうか」
式神にそう告げられ一つ目小僧は逃げるように立ち去った。
立ち去る直前「くそが」と負け惜しみを言っていたが妖花と式神は気にせずにその背中が消えるまで見ていた。
「悪かったな。怖い思いをさせたろう」
「いえ、式神さんが無事で良かったです」
妖花が笑顔でそう告げると式神は表情を変えずに「そうだな」とだけ呟いた。
妖花達の夜市での戦いが終わった瞬間だった。
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