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二章 夜市編

19.いざ商店街へ

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授業を6時間受け、私たちは放課後教室内で話し合いをしていた。

「今日少し行くの遅くなるけど構わないかい?」

「大丈夫だよー」

「私もです」

2人は柳から言われたことを了承した。
どうやら柳は何か用があるらしい。なら別に今日行かなくてもいいのではないかと思ったりもしたがもう今日行こうと決めたことなので何か言おうと言う気持ちにはならなかった。

それに私もとりあえず部活に顔を出そうと思っていたので柳からの提案には賛成だった。

日も暮れようとする夕方、部活も終わり妖花は急いでクラスに行った。するとそこには2人がもう来ていた。

「遅くなってごめん」

「いいよ、大丈夫」

3人は並んで商店街へと向かい始めた。
商店街までは約10分ほど。3人とも家の方向とは逆の道ではあったものの明日が休みと言うこともあり、少し寄り道をしてもいいだろうと思っていた。

「そろそろ着くかな」

「うん。あとその道を曲がればすぐだよ」

神楽の言葉に対して優しく妖花は言葉を返した。その顔に少し不安が残っているのを神楽は感じ取っていたがあまり気にはしなかった。
道を曲がると妖花の言う通り商店街が見えてくる。
その前で3人は立ち止まった。

「覚悟はいい?」

柳の問いに2人は「うん」とうなづいたことを確認したあと「じゃあ、行こうか」と柳の言葉に反応して2人も歩き出した。

「普通だね」

「うん」

商店街はとても普通で妖怪がいるようには思えなかった。魚屋、八百屋などさまざまなお店が連なっている。

「柳くん、そのお店はどこにあるかな?」

そう聞くと柳が立ち止まり、振り返る。
手招きをしてきたので2人とも柳の方へと集まると柳が小声で喋り出した。

「もうそろそろなんだ。そこでひとつだけ約束してくれるかな」

「約束?」

そう聞くと柳は静かな声で答えた。

「あぁ、単純な話だよ。今日そのお店、というか道と言うのかその場所にお爺さんまたは妖怪が見えたなら今日はなしにしよう。危険すぎるからね」

確かにその通りだ。柳は妖怪が見えるのだろうが私たちはどうかわからない。お爺さんであろうが妖怪であろうが危険なのは確かなことだ。

「分かった、私はそれに賛成」

妖花は柳の約束に対して賛成した。それは神楽も同じだった。

「私も賛成だよ。やっぱり危険を伴うのは嫌だからね」

「じゃあこれは約束だからね。じゃあ向かおうか」

また3人は歩みを進めた。そして数十メートル歩いたところで立ち止まった。

「あそこだよ。あの喫茶店の隣。2人は何に見える?」

「駄菓子屋だよ」

神楽はそう答える。そんな中、妖花は呟いた。

「私…道に見える…」

妖花は驚きを隠せない様子だった。まさか自分も見えているなんて思わなかったのだ。
心拍数が上昇するのを感じる。妖花の目の前には道のみ。妖怪の姿はない。

「誰もいないみたい」

神楽は駄菓子屋の前まで行って、お店の中をのぞいて答えた。
柳と妖花も神楽に続いてその場所の前まで向かう。

夕日が照らし出す中、妖花の前に見える景色はどこかに続いているであろう道だった。

「誰もいないな」

柳は少しほっとしたのか安堵の息を垂らす。

「私からはさ、駄菓子屋にしか見えないんだよね。どうしようか」

「多分、ここは道で間違えないと思う。多分、妖術か何かでそう見せているだけだろう」

「勝手に入っていいのかな?」

「大丈夫さ、ただ道に入るだけなんだから」

そう柳が言うと神楽はそうじゃなくてと否定する。

「2人から見たら道だけど私から見たらただの駄菓子屋だから、なんていうか他の人から見たら不法侵入になっちゃうんじゃないかなって」

心配をしている神楽の肩を妖花が叩く。

「大丈夫、もし何か言われたら私も一緒になって謝るから。少し冒険したって誰も怒らないよ」

妖花は笑顔でそう伝えた。
柳もその言葉にうなづいた。

「あぁ、冒険というかなんというか、新しい発見は素晴らしいことだからね。もしかしたらこの奥は行き止まりかもしれない。だから気軽に行こう」

「わ、わかった…」

神楽は了承した。しかし、神楽はこう思っていた。

『妖花ちゃん。喋ってるときずっと震えが止まってなかった。多分本当は怖いんだろう、でもその怖さに負けないぐらいの好奇心があるんだ。私も見習わなくちゃ。今の弱い私を変えるために』

神楽は自分を変えるため。
自分の弱さを自覚しながらも変えるため新しい自分のためにこの世界に足を踏み込む。

柳は噂の真相。そして妖怪の存在の証明。その2つの目的を心に秘め、足を踏み入れる。

妖花は好奇心。ただそれだけ、恐怖に負けない好奇心で歩みを進める。今欠けている自分の何かを見つけるために、足を踏み入れる。

「じゃあ、行こうか」

妖花達も「うん」と言い、その場所へと入っていく。

妖花と柳から見たこの場所はただの一本道。よく見てみるとすぐに階段らしきものがある。
2人は同時にその道へと足を踏み入れた。

神楽から見たこの場所はただの駄菓子屋。
美味しそうな駄菓子がたくさん箱に詰められたりしてあるだけで変わったものはない。

「じゃあ入るよ」

神楽は駄菓子屋の中へと入った。周りは昔ながらの駄菓子がたくさん置いてあった。
その駄菓子はどれも本物に見えた。手に取ろうと手を伸ばそうとするもそれをグッと我慢して前を向いた。

「どれも本物にしか見えないけど罠かもしれないもんね。触れたらダメだよね」

神楽は少しずつではあるが前に進む。
そしてその奥にある畳に足を踏み入れようとしたそのときだった。

「きゃっ」

その悲鳴に2人とも後ろを振り返る。
すると神楽が転んでいた。

「だ、大丈夫?」

「どうしたんだい、泣塔さん!」

どうしたのかと神楽の方へと行くと神楽は「大丈夫」とだけ言うと、妖花から手を差し伸べられ、その手を握って神楽は立ち上がった。そして呟く。

「あのね、2人とも。ここ本当に道みたいね」

その言葉に2人は反応する。

「神楽にも道に見えてるの?」

「うん、駄菓子屋の畳の上に登ろうとした時急に景色が変わって道になってたんだ」

「やはり、妖術のようなもので化かしていたみたいだね」

「そうだね」

「だから、びっくりしたっていうのもあるんだけど段差だと思ってたから足を踏み外しちゃって転んじゃったんだ」

そういうことだったのかと妖花はほっとした。とりあえず3人で無事にこの道へとやって来れた。

振り向いた時、この道と商店街とでは全く雰囲気が変わっていた。なんというか嫌な感じはしないものの独特な雰囲気でなんとも言えなかった。

「じゃあ行こうか」

3人は道を歩き出した。運よく人にも見られず、妖怪にも出会わずここまで来れたのでとりあえず前に向かって進んだ。

「階段だね」

「そうだね」

道の先にはコンクリートの階段があり、下に続いていた。階段の先は暗くてよく見えない。3人はゆっくりと階段を降りていった。

「一体どこにつながっているんだろうね」

「わからない。だけど何かあるのは間違えないだろうね」

「柳くん、妖花ちゃん。不思議な体験もしたからもう私は妖怪がいるって信じてるよ」

3人はさまざまな感情を抱きながら降りていく。興奮、好奇心、不安、恐怖。
妖花は期待と不安で胸がいっぱいになりつつ、階段を降りていった。

「着いた」

妖花達は階段を降りた。そして着いた。その瞬間、寒気がした。景色も変化した。

「行き止まりじゃないけど路地みたいだね」

降りた場所は路地。コンクリートの道。周りはビルに囲まれている。先ほどまで夕日を照らしていた空の景色はもう真っ暗な夜空に変わっていた。

「暗いね」

「だね、すっかり夜になってたみたい」

振り返り、階段の方を見ると電灯などがなく、階段の奥は暗く、何も見えなくなっていた。この路地には壊れかけの電球があり、なんとか周りが見えるぐらいの光はあった。

「結構暗くなったね」

時間を確認すると7時を指していた。

「この奥なのかな?」

目の前に続く道はビルの無機質なコンクリートも相まって狭く感じる。右折のみができるように道が続いている。

「じゃあ行こうか」

私たちが右折した。しかし、そこは行き止まりだった。行き止まりと知って3人が安堵したその時だった。

タッタッタ

誰かがこちらに歩いてくる音がする。
それは私たちがさっき来たはずの道からだった。

「みんな、静かに」

「うん…」

息を殺してその足音の正体を確かめようとする。しかし、体が震えてうまく動かない。

「やばい、きた!」

確かめようとする前にもうその足音の主の姿が見えた。その姿に3人とも驚いた表情を見せる。

「ね、猫!?」

三人は同時に叫んだ。

「なんにゃ、お前ら」

その足音の主、人の体に顔が猫という奇妙な生物は3人を見るなりそう言った。

「え?着ぐるみ?」

「わからない。ただ、何か知っているのかも」

「え…。」

神楽は驚いて声が出なかった。

その奇妙な生物は重そうな荷物を肩に背負い、こちらを見つめていた。猫では無いだろう。それに口の動き方が着ぐるみのそれではない。

「お前ら、少し失礼にゃ。にゃんだと聞いたんだから答えるにゃ」

「あぁ、僕らはたまたまここに迷い込んでしまったんだ」

「たまたまね…まぁいいにゃ」

「あの、あなたは…」

そう訊こうとした直後だった。
勢いよく提灯に火が灯る。

「何!?」

「急に何が起きた?」

柳は驚いたようにその提灯を見つめる。
提灯は不気味とは違う、あたたかい光を放ち、暗かった路地を明るく照らす。
妖花もまた提灯を見ていると声を上げる。

「見て!」

提灯は自分たちがきた場所、つまり階段に向かってどんどん灯っていく。
その灯りが階段の頂上へと到達した時、階段の奥に光が見える。階段を登らないと奥の景色は見えないため、何が階段の奥に広がっているのかは分からなかった。

「これは一体…?」

「今日ってなんか祭りとかやってたかな?」

「やって…ないよ…今日は。」

震える手をぎゅっと握りしめながら神楽は伝えた。その言葉を聞き、2人はもう一度階段の光を見つめる。

「じゃあ一体なんなんだろう。ここまで強い光が来るなんてさ。ここは商店街の見えない道。ありえない話じゃない、普通に光がきたのかもしれないし」

「それはないにゃ」

不意にあの生物が喋り出した。

「なぜそう言えるんです?」

「単純にゃ。ここは夜市。夜ににゃったんだから夜市が始まるのは当然にゃ。いや、正確には誘われたというべきにゃ」

夜市…夜市ってなんなのだろうか。一体、この先に何があるんだろう。そしてこの猫の顔をした生物は何を知っているの?そして何者なの?
さまざまな疑問が浮かぶ妖花は立ち尽くすしかなかった。

「あの、えっと…猫さん?ってなんて呼べばいいかわからないんですけど」

神楽は猫のようなその生物に向けて言った。するとすぐに返事が返ってきた。

「わしはただの商人にゃ。猫商人とでも呼んでくれにゃ」

「じゃあ猫商人さん。その、説明不足って言ったらいいのか、いまいちよく理解ができてなくて…夜市がここから始まるって僕はあそこからきたんですよ?」

「そりゃ、お前らのきた道が夜市に変わっただけにゃ。ま、少しくらいなら話してもいいのかにゃー」

猫商人に話を聞くことにした。

「関係があるかと言うとあるにゃ。お前らがどこからきたかは知らにゃいけど、この道は妖怪が通る道にゃからな。だから不思議にゃ」

「何が不思議なんですか?」

「この道に来ていることがにゃ。」

猫商人は自分が持っていた荷物を置くとその上に座り、また喋りだす。

「この道は多分だが術で見えなくなってるはずにゃけど…」

「あぁ、そのことでしたら普通に僕らは見えてましたよ」

そう言うととても驚いた表情を見せる。

「本当かにゃ!?それは!」

「はい、本当です」

「そうか…まぁそれが分かったならいいにゃ。わしはここで去るにゃ、もう夜市は始まってしまってるにゃからね」

「ま、待ってください!まだ話を!」

「時間がないにゃ。手短に頼むにゃ」

「あの、夜市ってなんなんですか?」

「夜市…そうにゃね。こう言う歌があるにゃ。」

そう言ってすーっと息を吸い込むと歌を歌いだした。

「今宵、夜市は開かれる~。八百万の神のよう~、10万、100万、それ以上~、なんでも売ってる市場がさ、取引次第で手に入る~、才能、記憶に物、食いもん。あぁ~夜市は開かれる、あぁ~夜市開かれる~、君もいくのか夜市にさ~。僕は行かない夜市には~、だって困るよ買うものに~、迷ってしまって仕方ない~、だけどいくのさ夜市にさ~、だから今宵、開かれる~、夜市に行くのさ僕たちは~、何度も何度も夜市にな~」

「ってな感じにゃ」

その歌を聴いて3人とも理解した。この、夜市が一体なんなのかを。

「それはもう、人間世界じゃまずありえない…」

「そりゃそうにゃ。ここは夜市にゃ。人間はまずここに来ることさえできないにゃ」

「じゃあ私達はどうすれば…」

「悪いけど知らないにゃ。生きた人間を見るのは初めてでわしも少し戸惑ってたからにゃ。物知りの妖怪に聞くのをおすすめするにゃ」

そう言ったあと荷物をまとめて階段の奥の光へと猫商人は向かった。その後ろ姿を妖花たちは見送ることしかできなかった。
猫商人の言うことが本当ならばあることを知ることができた。

「あの猫商人の言うとおりならここから先は妖怪の世界ってこと、つまり私たち異界にたどり着いてしまったってことだよ」

柳は続ける。

「それに帰り道が変わったってことは…」

その言葉を聞いて妖花は冷や汗を描くのだった。
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