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二章 夜市編
11.入院
しおりを挟む私の名前は千子妖花。中学二年生。
入院してからもう6日。あの日、一人で走り始めた後、買物をしようとしたのことは覚えている。ただ何を買おうとしたのかは全く覚えていない。
それに疲れが出たのか40度の高熱で入院時間が延びている。
ゴールデンウィークも半分が終わった。みんなと遊ぶ約束なども全て断ってしまった。悪いことをしてしまったと思っている。
そして、最近まで午前四時に目を覚ましてしまう謎の現象も今ではなくなっている。覚えているのは夜の景色を見ていた。それだけだった。
なぜそんなことを気にしてしまうのか。何か、何かを忘れているような気がする。
気にすることでもないのかもしれない。しかしこんな経験をするのは初めてではない。
だからこそ何があったのか、それを知りたい。
自分の力で。知りたい、その欲が私の運命を変えると言うことを私はまだ知る由もない。
私の物語は静かに始まる。
………………………………………………………………
ピピピピ、ピピピピ、ピピピピ
「何度だろう」
体温計で熱を測るもまだ40度の高熱。
頭もクラクラするし全然治ってる感じしないんだよね…
皐月
妖花が入院してから6日目。
ゴールデンウィーク初日に病院へと運ばれた妖花だったが精密検査を受けた結果、特に何もなく、正常だった。
「えぇ、何もないですね。いたって健康ですよ」
担当医はそう言った。病室のベットであまり気にしないように考えようと決意する。
「あーもう。やっぱり気にせず忘れた方がいいのかな。まぁ特に何かあったわけでもないし、自分がなんで倒れたかなんて」
もう忘れることにした。こんなにどうでもいいことを考えても仕方ない、それを考えてしまうほど暇になってしまっていた。
コンコン、コンコン
病院のドア叩く音がする。
「どうぞ」
その声に反応してドアが開く。そこには夏海が立っていた。
「妖花ー!きたよー!それに、今日は…」
そう言って後ろに目をやると、黒髪の美少女が心配そうな顔でこちらを覗いていた。
「妖花。大丈夫?」
「な、なご、ゴホッゴホッ」
「大丈夫ー!?」
「大丈夫なの?」
二人は心配して私の方へと駆けつける。
「ご、ごめん。ちょっとまだ熱があってね。」
「そうなんだ…」
なごみが来てくれた。それに夏海も。暇だったはずの私の気持ちは直ぐになくなり、2人が来てくれたことだけで嬉しかった。
「あと少しで退院できるかもって先生が言ってたから。2人ともありがとう」
「うん!」「良かった」
2人とも返事を返す。
「なごみが来てくれるなんて思わなかったよ」
ここ最近なごみとは連絡が取れていなかった。携帯を持っていないなごみはいつも家まで来て連絡をしてくれるから。
「ごめん。最近忙しくてね」
暗い顔になる彼女を見てそれなら仕方がないと納得しつつ、二人に風邪をうつしては悪いので帰ってもらうことにした。
「ゴールデンウィーク明けには学校には行けると思うから。また学校でね」
「じゃあまた来るからね」
2人との会話も終えて、夏海が先に病室を後にする。すると、出ていこうとしていたなごみが立ち止まり、私の方へと近づいてくる。
「どうしたの?なごみはまだ行かないの?」
なごみは私の方をじっと見つめる。
するとなごみが口を開く。
「ねぇ、妖怪って信じる?」
なごみからそう聞かれて妖花は普通に受け答えをする。
「妖怪?オカルト部だから信じてなくはないけど、それがどうかしたの?」
「いや、なんでもない」
なごみは何かを伝えようとしている、そんな顔をしているように感じた。
「そう、ならいいんだけど。なごみも変なこと聞くね」
私が笑いながら答えるとなごみは笑わずに「うん、変なこと聞いたね」と足早に病室を後にした。
なんだったのだろう。なごみの雰囲気がいつもと違ったな。多分オカルト部へ入部希望なのかな。そんな仮説を立てつつ、私は睡眠をとることにした。
月日は経ち、ゴールデンウィークも終わり学校が始まって約一週間。まだ私は学校には行けていなかった。
退院して、家で休んでいた。
容態がまだ安定せず、熱が出ていたからだ。
謎の熱に悩まされていた私に毎日のように夏海はきてくれた。
「おーい、元気してる?」
「夏海、毎日ありがとうね」
「いいよ、これ今日のプリント。帰り道だから。それに妖花と話したいしね」
笑顔でそう言った夏海は椅子に座って、妖花と夏海は夕暮れまで話をした。
「それじゃあまたね」
「うん!ありがとう」
夏海が部屋を出ようとドアに手をかけた時、こちらを心配そうな顔つきで見る。
「最近、なごみが学校にこないんだ。妖花には言わないでって言われていたんだけど、心配で」
「それって本当に?」
「うん。もう3日ほど学校に来ていないんだけど、休む前日に妖花には言わないでって言われたんだ。」
なぜそんなことを言う必要があったのだろう。
「多分、妖花に心配かけないようにしたんじゃないかな」
夏海からそう言われてとりあえずは納得することにした。しかし言わなければ言わないで心配はしてしまう。私が学校に通える頃にはなごみも学校に来るのだろう。
だからわざわざ私には伝えなかったのかな。
妖花はなごみのことが心配になっていたが夏海にあまり気にされても困るので普通に受け答えした。
「そう。ならいいんだけど…私が学校に行けるようになった時には元気で学校に来てるよ」
そう言うと夏海はうなづいて部屋を後にした。
夏海が去った後、自室は静かな雰囲気にとらわれる。
なぜなごみは私に言わないでって言ったんだろう。そんなこと知ったら知りたくなるよ…
私達友達じゃない…確かに今は私に心配をかけたくないんだろうけど…
いつになったら容態は良くなるのか。
学校に行きたいよ…みんなと会いたい。
涙ぐんでベッドで寝ているとコンコンと音がする。
「お母さん?」
慌てて涙をぬぐい、誰が来たのかと見てみると、そこにはボロボロになったなごみの姿があった。
「な、なごみ!」
「ごめん、夏海に話聞いてない?」
「それよりもその格好!なんでそんなにボロボロなの?」
とても心配してしまう。なごみに何があったのだろうか。
妖花は重い体を起こして、なごみの元へと向かう。
「あぁ…ボロボロなのは気にしないで。そろそろ喋っておくべきだと思って」
「喋っておくべきこと?」
「私、今修行をしているの」
修行?なごみは不思議な子だと思ったいたけどここ最近休んでいたのは修行をしていたかららしい。なぜ修行を?と言う疑問は生まれていたがとりあえず話を続けた。
「それをわざわざ伝えに?」
「うん。夏海がいらない心配をかける頃だと思ったから」
「うん、さっき来てけど。合わなかったの?」
「会ってない」
夏海が部屋を後にして、数分後のことだった。それなら会っていると思ったのだが。
そんなことを思いながら妖花はなごみの体の心配をしていた。
「会ってないのね。それよりも体は大丈夫なの?」
「あぁ。これは平気。別に痛くもない。私は妖花の方が心配。もう結構経ってるのに治ってない」
「まぁね。私も早く治したいんだけど、どうも治りが遅くて」
たしかに普通の熱にしては治らなすぎる。
いつもなら数日で完治しているのだが。
するとなごみが何かを取り出す。
「これ、お守り」
「ありがとう」
「ずっと肌に離さず持っていて」
そう伝えると、すぐに部屋を後にしようとする。
「待って!なごみ!」
「どうしたの」
「その…修行ってなんの修行をしているの?」
疑問に思ったことをなごみに伝えた。
すると何か考えるそぶりをした後、こちらを真剣に見つめる。
「それはふつうに私の家のこと。詳しくは言えないけど、親が厳しいから」
親が厳しいとかそういう問題ではないような気もする。でも、私からは何も言えない。なごみの顔がそう言ってる。
「そう…怪我しないで、気をつけてね?」
「うん。あと、私休学すると思う」
軽い口調で重要なことを言われて思わず聞き返す。
「え!?今なんて言ったの?」
驚いた妖花はもう一度聞き返した。
「だから休学するって」
妖花は立ち上がってなごみの肩を両手で押さえる。それほど驚いた。
「なんで…?なんで休学するの?そんなにその修行って大事なの?」
「うん。大事なんだ。もう担任の先生にも伝えてある。だからね、妖花にも伝えておきたかったんだ」
そう言われて妖花はそれ以上何もいう気にはなれなかった。
「だからね、ごめんね」
そう言われて妖花は怒号を飛ばした。
「ごめんじゃないよ!!」
そのあとすすり泣きながらなごみに伝える。
「ごめんじゃなくて…そんな謝らないでよ…私に止める権限はないし、なごみが決めたんだから!私は応援するよ」
「ありがとう、妖花」
なごみも涙目になっている。
「ねぇ、どれくらい休学するつもりなの?」
「分からない。もしかしたら学校やめるかもしれない。だから会いに来たんだよ」
「そっか…分からないのね…」
「でも!これだけは言える。絶対に学校には行くから。待っててね」
「うん!」
妖花は笑顔でうなづいた。
いつ戻るか分からないボロボロのなごみを見て何をするのか、それは妖花には分からないがなんとなく、命が関わっているように感じた。
「なら待ってるよ!」
そう言うとなごみは「夏海には後で伝えるよ」と言って部屋を後にした。
「大丈夫なのかな…なごみ。でも待ってるからね」
とてもなごみを心配した。しかしそれは要らぬ心配だろうと決めつけた。
しかし、その夜はずっとなごみの怪我と修行のことばかりを考えて今日を過ごした。
そして次の日。
私は驚いた。
「熱がない!それに体がとても軽い」
病気が治っていたのだ。昨日の今日なのでなごみのお守りが効いたと考え、なごみに内心感謝をした。
「それはよかったわ。明日から学校行けそう?」
母親にそう言われて妖花は元気に答えた。
「うん!もちろんだよ!」
こうして長かった私の学校を休んでいた生活は幕を閉じた。
これから何が起こるのか、それを全く知らない私は気楽に生活していた。
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