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一章 始まりの妖怪編
5.ゴールデンウィーク初日
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首を絞められるように苦しい。
そんな朝だった。
妖花は目を覚ました。
朝日が照らし、その光で目が覚めて辺りを見渡す。
妖花はベッドではなく、窓の前に倒れていたことから昨日のことが夢ではないということにもわかった。それよりもまず安心した。
「な、何も起きてない…」
助かった、その気持ちだけが押し推せる。
昨日死にそうになる程苦しかったあの痛みも影の姿ももうない。
「私の中に取り憑いた…なんてことないよね…?」
それはないと決めつけてはいけないが、もしかしたら…という気持ちがある。
そのせいなのか胸のざわつきは治ることを知らず、深呼吸など試みるもなんの意味もなかった。それに少し熱があるような気がする。頭がボーッとして何も考えられなくなる。
「こんな時に私何してるのかな…」
今日は楽しみにしていたことがある。
だからこそ元気でいなければならない。
「今日はみんなと遊ぶし、このことは忘れて楽しもう。」
今日は昨日約束していた夏海となごみの二人と服を買いに行く約束をしていたのだ。
そう思うと少し気持ちが軽くなる。
自室を出て階段を降り、リビングの扉を開けながら「おはよう」と言うもリビングには誰もいなかった。リビングの中心にあるテーブルに目がいき、見てみると置き手紙があり、そこには『お母さんたちは今日おばちゃんの家に行くから今日のお金は隣に置いてあるからそれでなんとかしてちょうだい。追伸、今日の朝ごはんは冷蔵庫に入れてあるからそれを食べてください。』と書いてあった。
「わかったよ、お母さん、お父さん」
となりにあった包みを開けるとそこには2万円入っていた。
「わざわざありがとう」
親に感謝しつつお金を財布へ入れてから今日の出かけるための服を二階の自室で選びはじめた。
「久しぶりに3人で遊ぶからどれ着て行こうかなー」
慎重にきていく服を選んでいるとインターホンの鳴る音が聞こえてきた。
「誰だろう」
誰がきているのかをインターホンに付いているカメラで確認するとそこにはなごみが立っていた。
なごみとわかった私はすぐに玄関に向かい、扉を開ける。
「えぇ!早くない?今日は朝から遊ぶ約束してるけど10時集合だった気がするけど…」
妖花がそういうと、なごみは黙り込んで下を向いていた。何かあったのだろうか。そうでなければなごみがこんな顔をするはずがない。
妖花が聞こうとした時、先になごみが口を開いた。
「ごめん、今日行けなくなった」
涙目で俯きながら言う彼女に私はどうしたらいいのか一瞬わからなくなる。
「え?本当に?」
「うん、悪いとは思ってるけど、急な用事ができたの」
申し訳なさそうな顔でこちらを見るなごみに対して、妖花は肩をぽんと叩いた。
「顔をあげてよ。気にしないで。遊ぶのなんて次の機会があるし。今回は残念だったけどまたさ…」
私が続きの言葉を言おうとした時なごみの冷徹な目でこちらを見ていた。
「ど、どうしたのなごみ…」
目の色を変えない彼女はこちらをぎろりと睨むと口を開く。
「いや…なんでもない。見間違えだったから」
その言葉を言う頃にはなごみの目はいつもの優しい目に戻っていた。
なごみのあの目は昨日の先生を見る目とはまた違う。どす黒い、嫌な、嫌悪を覚えるような、敵を見るような、そんな目。
「本当に大丈夫。一瞬、いや、やっぱりいい。今日は楽しんできて」
そう言うとなごみは振り返ってまたねと言ったあと走って帰っていった。
「なんだったんだろう…というかなごみを抜きにして遊ぶの!?なごみも楽しんでって言ってたし、夏海と相談して決めようかな。」
とりあえず、玄関のドアを閉めて、家の中へと入った。
「それにしてもあの目…。何か、なごみに嫌なことでもしちゃったかな…」
そんな考えをしつつ、また自室で服を選ぶため二階への階段を上って行った。
その間も体の暑さを忘れることはなかった。
妖花の家をあとしたなごみは走りながら考えていた。
「あれは…気のせいかもしれない。一瞬だったから。はぁ、本当に今日は悪いことをした。でも今日は絶対に外せない用事ができたんだ。許して、2人とも。」
自分でも分かる。急に断られたらどんだけ嫌な気持ちになるのか。でも妖花は優しい。私が断っても笑顔でいてくれた。だから私はあの子と友達でいるんだろう。
「急ごう。」
なごみは勢いよく走り、森の中へと消えていった。
場面は変わり、ショッピングモールの前にある人々が待ち合わせに使う時計台の下に1人の美少女が誰かを待っていた。
「2人ともまだかなー」
1人の美少女、獅子田夏海は時計台の前で2人、千子妖花と天野なごみを待っていた。
時刻は現在9時。ゴールデンウィークということもあり、混雑している中10時の約束なのに9時という1時間早い時間に来て1人待っていた。
「あと1時間…2人とも早くこないかなー!」
夏海は元気だった、それが取り柄だったからそれを絶やさず1人でも待ち続けた。
気温も暑くも寒くもないちょうど良く、天気も快晴だったため一人で待つのにもそこまで苦痛ではなかった。
すると何人かの男達が夏海の方へと向かっている。
「待ち合わせなのかな…?」
そんなことを思いつつ、時計台の下にいると男達に話しかけられる。
「ねぇ、君1人?俺らと遊ばね?」
チャラついた男達3人が彼女を囲む。
「わ、私ですか!?どうして私と遊ぶんですか!?」
なぜこの人たちが私を誘うのだろうと不思議に思った夏海は直接なぜ誘うのか聞いてみる。
「なぜ私なんですか?」
「え、いや君が可愛いからちょっと声かけてさ、暇だったら遊ぼうよって誘ったんだけど。」
「いえ、私なんて全然ですよ!それに私は暇ではないです!友達を待ってるので!」
正直に告げると男達はすぐに声をかけてくる。
「いいじゃん、いこうよ、男待ってんの?」
「いえ、女の子ですけど…」
そういうと男達はなぜかガッツポーズをとっている。夏海はなぜだろうと首を傾けていた。
「まじこんな可愛い子ナンパできるとかラッキーすぎねぇ?」
「ついてるわ、成功したらまじやばいよな」
「あの子の連れってことは可愛い可能性高くね?」
「何話してるんですかー?」
夏海は男達に尋ねると男達は振り返り、また夏海を囲む。
「じゃあさ、その子が来てからでいいからさー、遊ぼうよ俺たちとさ。」
「結構です!、今日は久しぶりに3人で遊ぶので!」
「え?じゃあ3人と3人でちょうどいいじゃん。遊ぼうよー、お兄さん達がお金なら出してあげるからさー」
うーん、どうやってこの状況を切り抜けようかな…
「いえ、遠慮しておきます!知らない人について行ったらダメだってお母さんが言ってたからー!」
「君面白いねー、本当お願い、じゃあさぁー連絡先だけでいいから教えてよ?」
夏海は困り果てていた、嫌なことは嫌と言いたい、しかし夏海の性格上そのようなことは死んでも言えないのだ。後からあの人になぜあのようなことを言ってしまったと反省することが日常茶飯事なのだ。
「先ほどもおっしゃったようにお母さんか…」
「もうさ、本当頼むって!交換したらすぐ帰るからさー。」
夏海は押しに弱いタイプだった。人のことばかりを考えている夏海にとって自分のことは二の次で相手のことを先に考えてしまうのだ。
「わ、わかりました…交換したらすぐに帰ってくださいね?」
上目遣いで夏海が答えると、男達は不敵な笑みを浮かべて携帯を取り出した。
「よっしゃあー!じゃあ早速携帯だしてよー」
『私って本当にダメな子だな。』
内心そう思いつつ、携帯を取り出そうと持っていたバッグに手をかけたその時、ある人影がこちらへ歩み寄ってくる。
やっと来た、妖花やなごみが来たのだと、そう夏海は思っていた。
しかし予想に反して全く違う人が姿を現した。
「あなたたち、私のクラスの生徒に用でも?」
そこには担任の森岩先生の姿があった。
「なんだてめえ、この子の先公か?」
「はい、だからそういったことはやめていただきたいのだが」
そう言ってくれる先生を夏海は見ていたが男達は「あっそ、ねぇねぇ」と無視をしている。
「あの、何度も言わせないでくださいよ?その子が困っているでしょう?」
「うるせぇーなー!引っ込んでろよ先公如きが調子のんな」
そう言って先生を無視してまたこちらに話しかけてくる男達に夏海は恐怖で足が震える。
「あいつ邪魔だからさ、ちょっと来てよ。」
そう言って男は私の腕を掴むと強引に引っ張ってくる。
「きゃっ!」
「早く行こうよー。」
男達は夏海の腕を離してくれそうにはなかった。それに男の腕の握力で腕が痛む。
「痛い…」
小さな声でそう言うと、先生が怒り狂った顔で男たちを睨んだ。
「おい!うちの学校の生徒に手を出すのは担任である私が許さない!」
男の腕を掴むと夏海から男を引き離す。
「うるせえんだよ、あっち行ってろよ。」
「そういうわけにはいかない!先生は生徒を守る義務がある!」
先生がそういうと、男達は先生の周りを囲む。そして胸ぐらを掴むと先生に向かって拳を振り上げようとしたその時だった。
「君たちー、公共の場で何をしているんだー!」
声が聞こえる。大きな声だった。
「君大丈夫かい?」
肩を叩かれやっと誰が来たのかを理解した。警察官だった、2人の警察官が夏海の前に立っている。
「警官かよ!早く行くぞ、お前ら!」
そう言って男達は走って逃げていった。
それを追いかけていく、警察に感謝をしつつ、目の前にいた、助けてくれた担任の教師にも感謝を述べた。
「せ、先生ありがとうございます!わざわざ助けていただいて!」
「気にするな獅子田!先生として当然のことをしただけだ!」
「あのー、お二人さん、一応事情聴取だけいいですかね?」
警察官にいわれ、先ほど起こったことを丁寧に伝えた。そうするとわかりましたと敬礼して警察官は人ごみの中に入っていった。
「改めてお礼を言わせてください!こういうことが起こるのこれで3回目なんですよね。」
「まぁ、一人で女の子がいたら声もかけられるだろう、学校でも誰かと帰るようにしておくように!」
「はい!」
「早く二人が来てくれればこんなことにならなかったのかも。って私が早く来すぎたのが原因か…」
少し肩を落とした。夏海はとても楽しみにしていた、だから早く待ち合わせ場所まで来たのにこんなことが起きるとは思っていなかった。私の反省すべき点が増えてしまったな。
わかりやすく、落胆する夏海に先生は大丈夫かと声をかけてくれる。
「本当に大丈夫なのか!?無理はするなよ。」
「えぇ!大丈夫です!」
「そうか…それならいいんだ!それとお前が待っている二人って…」
「いつもの二人ですよ?なごみちゃんと妖花!」
その二人の名前を口に出すと先生は青ざめた顔になる。
「そ…そうかぁ…俺はすぐに帰らなくてはならないのでこれで帰るな…ゴールデンウィークだからって気を抜きすぎるんじゃないぞぉ……」
とても覇気のない喋りに夏海は少し戸惑ってしまった。
『急にどうしたんだろう…』
内心そう思いながら先生を見送ったあとまた一人でまた二人を待っていた。今の時刻は9時45分。まだ二人の姿はない。
そして少し時間が経った頃彼女は現れた。
「遅れてごめん!待ってるなら電話に出てくれればよかったのに。」
予定の時間ちょうど、10時ぴったりに彼女、千子妖花は集合場所へと現れた。
「いいよー!少し困ったことはあったけど大丈夫だったからー!って電話!?」
「それは良かった。うん、ずっと電話してたんだよ?」
「で、電話ね…ごめん、ずっと電源切ってたみたい…」
申し訳なさそうに答えると、妖花は一瞬困った顔をしたがすぐに笑顔に戻る。
「そんなことだと思ったのよ、じゃあなごみが来ないのも知らなかったんだ。」
たしかになごみの姿がない。携帯の通知を確認すると妖花から「なごみ用事ができて今日これないみたい。」と連絡が入っていた。
「な、なごみこないんだ…そっか…」
手の力が抜ける。それほどまでにとても悲しかった。久しぶりに遊べると思っていたのに。落胆していると、肩を優しく叩かれ、妖花の方を向くと笑顔で答えた。
「うん、だから今日はなごみに合う服でも探そうかなって思ったんだけど。」
妖花はにっこりと笑った。
そんな彼女を見て私も彼女を見習わなくてはならない、そう思った。
「そうだね!なごみちゃんに似合う良い服を見つけよう!それじゃあ、出発ー!」
そう拳を大きく上に振り上げ、買い物をする
ために妖花とともに歩き出したのだった。
そんな朝だった。
妖花は目を覚ました。
朝日が照らし、その光で目が覚めて辺りを見渡す。
妖花はベッドではなく、窓の前に倒れていたことから昨日のことが夢ではないということにもわかった。それよりもまず安心した。
「な、何も起きてない…」
助かった、その気持ちだけが押し推せる。
昨日死にそうになる程苦しかったあの痛みも影の姿ももうない。
「私の中に取り憑いた…なんてことないよね…?」
それはないと決めつけてはいけないが、もしかしたら…という気持ちがある。
そのせいなのか胸のざわつきは治ることを知らず、深呼吸など試みるもなんの意味もなかった。それに少し熱があるような気がする。頭がボーッとして何も考えられなくなる。
「こんな時に私何してるのかな…」
今日は楽しみにしていたことがある。
だからこそ元気でいなければならない。
「今日はみんなと遊ぶし、このことは忘れて楽しもう。」
今日は昨日約束していた夏海となごみの二人と服を買いに行く約束をしていたのだ。
そう思うと少し気持ちが軽くなる。
自室を出て階段を降り、リビングの扉を開けながら「おはよう」と言うもリビングには誰もいなかった。リビングの中心にあるテーブルに目がいき、見てみると置き手紙があり、そこには『お母さんたちは今日おばちゃんの家に行くから今日のお金は隣に置いてあるからそれでなんとかしてちょうだい。追伸、今日の朝ごはんは冷蔵庫に入れてあるからそれを食べてください。』と書いてあった。
「わかったよ、お母さん、お父さん」
となりにあった包みを開けるとそこには2万円入っていた。
「わざわざありがとう」
親に感謝しつつお金を財布へ入れてから今日の出かけるための服を二階の自室で選びはじめた。
「久しぶりに3人で遊ぶからどれ着て行こうかなー」
慎重にきていく服を選んでいるとインターホンの鳴る音が聞こえてきた。
「誰だろう」
誰がきているのかをインターホンに付いているカメラで確認するとそこにはなごみが立っていた。
なごみとわかった私はすぐに玄関に向かい、扉を開ける。
「えぇ!早くない?今日は朝から遊ぶ約束してるけど10時集合だった気がするけど…」
妖花がそういうと、なごみは黙り込んで下を向いていた。何かあったのだろうか。そうでなければなごみがこんな顔をするはずがない。
妖花が聞こうとした時、先になごみが口を開いた。
「ごめん、今日行けなくなった」
涙目で俯きながら言う彼女に私はどうしたらいいのか一瞬わからなくなる。
「え?本当に?」
「うん、悪いとは思ってるけど、急な用事ができたの」
申し訳なさそうな顔でこちらを見るなごみに対して、妖花は肩をぽんと叩いた。
「顔をあげてよ。気にしないで。遊ぶのなんて次の機会があるし。今回は残念だったけどまたさ…」
私が続きの言葉を言おうとした時なごみの冷徹な目でこちらを見ていた。
「ど、どうしたのなごみ…」
目の色を変えない彼女はこちらをぎろりと睨むと口を開く。
「いや…なんでもない。見間違えだったから」
その言葉を言う頃にはなごみの目はいつもの優しい目に戻っていた。
なごみのあの目は昨日の先生を見る目とはまた違う。どす黒い、嫌な、嫌悪を覚えるような、敵を見るような、そんな目。
「本当に大丈夫。一瞬、いや、やっぱりいい。今日は楽しんできて」
そう言うとなごみは振り返ってまたねと言ったあと走って帰っていった。
「なんだったんだろう…というかなごみを抜きにして遊ぶの!?なごみも楽しんでって言ってたし、夏海と相談して決めようかな。」
とりあえず、玄関のドアを閉めて、家の中へと入った。
「それにしてもあの目…。何か、なごみに嫌なことでもしちゃったかな…」
そんな考えをしつつ、また自室で服を選ぶため二階への階段を上って行った。
その間も体の暑さを忘れることはなかった。
妖花の家をあとしたなごみは走りながら考えていた。
「あれは…気のせいかもしれない。一瞬だったから。はぁ、本当に今日は悪いことをした。でも今日は絶対に外せない用事ができたんだ。許して、2人とも。」
自分でも分かる。急に断られたらどんだけ嫌な気持ちになるのか。でも妖花は優しい。私が断っても笑顔でいてくれた。だから私はあの子と友達でいるんだろう。
「急ごう。」
なごみは勢いよく走り、森の中へと消えていった。
場面は変わり、ショッピングモールの前にある人々が待ち合わせに使う時計台の下に1人の美少女が誰かを待っていた。
「2人ともまだかなー」
1人の美少女、獅子田夏海は時計台の前で2人、千子妖花と天野なごみを待っていた。
時刻は現在9時。ゴールデンウィークということもあり、混雑している中10時の約束なのに9時という1時間早い時間に来て1人待っていた。
「あと1時間…2人とも早くこないかなー!」
夏海は元気だった、それが取り柄だったからそれを絶やさず1人でも待ち続けた。
気温も暑くも寒くもないちょうど良く、天気も快晴だったため一人で待つのにもそこまで苦痛ではなかった。
すると何人かの男達が夏海の方へと向かっている。
「待ち合わせなのかな…?」
そんなことを思いつつ、時計台の下にいると男達に話しかけられる。
「ねぇ、君1人?俺らと遊ばね?」
チャラついた男達3人が彼女を囲む。
「わ、私ですか!?どうして私と遊ぶんですか!?」
なぜこの人たちが私を誘うのだろうと不思議に思った夏海は直接なぜ誘うのか聞いてみる。
「なぜ私なんですか?」
「え、いや君が可愛いからちょっと声かけてさ、暇だったら遊ぼうよって誘ったんだけど。」
「いえ、私なんて全然ですよ!それに私は暇ではないです!友達を待ってるので!」
正直に告げると男達はすぐに声をかけてくる。
「いいじゃん、いこうよ、男待ってんの?」
「いえ、女の子ですけど…」
そういうと男達はなぜかガッツポーズをとっている。夏海はなぜだろうと首を傾けていた。
「まじこんな可愛い子ナンパできるとかラッキーすぎねぇ?」
「ついてるわ、成功したらまじやばいよな」
「あの子の連れってことは可愛い可能性高くね?」
「何話してるんですかー?」
夏海は男達に尋ねると男達は振り返り、また夏海を囲む。
「じゃあさ、その子が来てからでいいからさー、遊ぼうよ俺たちとさ。」
「結構です!、今日は久しぶりに3人で遊ぶので!」
「え?じゃあ3人と3人でちょうどいいじゃん。遊ぼうよー、お兄さん達がお金なら出してあげるからさー」
うーん、どうやってこの状況を切り抜けようかな…
「いえ、遠慮しておきます!知らない人について行ったらダメだってお母さんが言ってたからー!」
「君面白いねー、本当お願い、じゃあさぁー連絡先だけでいいから教えてよ?」
夏海は困り果てていた、嫌なことは嫌と言いたい、しかし夏海の性格上そのようなことは死んでも言えないのだ。後からあの人になぜあのようなことを言ってしまったと反省することが日常茶飯事なのだ。
「先ほどもおっしゃったようにお母さんか…」
「もうさ、本当頼むって!交換したらすぐ帰るからさー。」
夏海は押しに弱いタイプだった。人のことばかりを考えている夏海にとって自分のことは二の次で相手のことを先に考えてしまうのだ。
「わ、わかりました…交換したらすぐに帰ってくださいね?」
上目遣いで夏海が答えると、男達は不敵な笑みを浮かべて携帯を取り出した。
「よっしゃあー!じゃあ早速携帯だしてよー」
『私って本当にダメな子だな。』
内心そう思いつつ、携帯を取り出そうと持っていたバッグに手をかけたその時、ある人影がこちらへ歩み寄ってくる。
やっと来た、妖花やなごみが来たのだと、そう夏海は思っていた。
しかし予想に反して全く違う人が姿を現した。
「あなたたち、私のクラスの生徒に用でも?」
そこには担任の森岩先生の姿があった。
「なんだてめえ、この子の先公か?」
「はい、だからそういったことはやめていただきたいのだが」
そう言ってくれる先生を夏海は見ていたが男達は「あっそ、ねぇねぇ」と無視をしている。
「あの、何度も言わせないでくださいよ?その子が困っているでしょう?」
「うるせぇーなー!引っ込んでろよ先公如きが調子のんな」
そう言って先生を無視してまたこちらに話しかけてくる男達に夏海は恐怖で足が震える。
「あいつ邪魔だからさ、ちょっと来てよ。」
そう言って男は私の腕を掴むと強引に引っ張ってくる。
「きゃっ!」
「早く行こうよー。」
男達は夏海の腕を離してくれそうにはなかった。それに男の腕の握力で腕が痛む。
「痛い…」
小さな声でそう言うと、先生が怒り狂った顔で男たちを睨んだ。
「おい!うちの学校の生徒に手を出すのは担任である私が許さない!」
男の腕を掴むと夏海から男を引き離す。
「うるせえんだよ、あっち行ってろよ。」
「そういうわけにはいかない!先生は生徒を守る義務がある!」
先生がそういうと、男達は先生の周りを囲む。そして胸ぐらを掴むと先生に向かって拳を振り上げようとしたその時だった。
「君たちー、公共の場で何をしているんだー!」
声が聞こえる。大きな声だった。
「君大丈夫かい?」
肩を叩かれやっと誰が来たのかを理解した。警察官だった、2人の警察官が夏海の前に立っている。
「警官かよ!早く行くぞ、お前ら!」
そう言って男達は走って逃げていった。
それを追いかけていく、警察に感謝をしつつ、目の前にいた、助けてくれた担任の教師にも感謝を述べた。
「せ、先生ありがとうございます!わざわざ助けていただいて!」
「気にするな獅子田!先生として当然のことをしただけだ!」
「あのー、お二人さん、一応事情聴取だけいいですかね?」
警察官にいわれ、先ほど起こったことを丁寧に伝えた。そうするとわかりましたと敬礼して警察官は人ごみの中に入っていった。
「改めてお礼を言わせてください!こういうことが起こるのこれで3回目なんですよね。」
「まぁ、一人で女の子がいたら声もかけられるだろう、学校でも誰かと帰るようにしておくように!」
「はい!」
「早く二人が来てくれればこんなことにならなかったのかも。って私が早く来すぎたのが原因か…」
少し肩を落とした。夏海はとても楽しみにしていた、だから早く待ち合わせ場所まで来たのにこんなことが起きるとは思っていなかった。私の反省すべき点が増えてしまったな。
わかりやすく、落胆する夏海に先生は大丈夫かと声をかけてくれる。
「本当に大丈夫なのか!?無理はするなよ。」
「えぇ!大丈夫です!」
「そうか…それならいいんだ!それとお前が待っている二人って…」
「いつもの二人ですよ?なごみちゃんと妖花!」
その二人の名前を口に出すと先生は青ざめた顔になる。
「そ…そうかぁ…俺はすぐに帰らなくてはならないのでこれで帰るな…ゴールデンウィークだからって気を抜きすぎるんじゃないぞぉ……」
とても覇気のない喋りに夏海は少し戸惑ってしまった。
『急にどうしたんだろう…』
内心そう思いながら先生を見送ったあとまた一人でまた二人を待っていた。今の時刻は9時45分。まだ二人の姿はない。
そして少し時間が経った頃彼女は現れた。
「遅れてごめん!待ってるなら電話に出てくれればよかったのに。」
予定の時間ちょうど、10時ぴったりに彼女、千子妖花は集合場所へと現れた。
「いいよー!少し困ったことはあったけど大丈夫だったからー!って電話!?」
「それは良かった。うん、ずっと電話してたんだよ?」
「で、電話ね…ごめん、ずっと電源切ってたみたい…」
申し訳なさそうに答えると、妖花は一瞬困った顔をしたがすぐに笑顔に戻る。
「そんなことだと思ったのよ、じゃあなごみが来ないのも知らなかったんだ。」
たしかになごみの姿がない。携帯の通知を確認すると妖花から「なごみ用事ができて今日これないみたい。」と連絡が入っていた。
「な、なごみこないんだ…そっか…」
手の力が抜ける。それほどまでにとても悲しかった。久しぶりに遊べると思っていたのに。落胆していると、肩を優しく叩かれ、妖花の方を向くと笑顔で答えた。
「うん、だから今日はなごみに合う服でも探そうかなって思ったんだけど。」
妖花はにっこりと笑った。
そんな彼女を見て私も彼女を見習わなくてはならない、そう思った。
「そうだね!なごみちゃんに似合う良い服を見つけよう!それじゃあ、出発ー!」
そう拳を大きく上に振り上げ、買い物をする
ために妖花とともに歩き出したのだった。
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