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「マ、マリア?」

どうしたのかとまた名前で呼んでしまった。

するとマリアはそっと俺を抱きしめた。

「あなたが何も覚えでなくてもあなたは私の大事な息子のルークよ。これからまた楽しい思い出を作って行けばいいのよ」

「マ……母さん……」

「だからお願い……もうひとりで遠くに行かないで……」

マリアの切実なつぶやきにそれ以上何も言えなくなってしまった。

「わ、わかった。本当に何も覚えてないんだ……色々教えてくれ、母さん」

俺はマリアを安心させるように笑顔を見せた。

その後、マリアは今までの事を色々と話してくれた。

父親のことは詳しくは言わなかったが時期的に俺で間違いなさそうだった。

俺が出ていってすぐにマリアは子供を宿していることに気がついた。

両親にはおろせと反対されたようだ。
子供に聞かせたくなかったのか言葉を濁したが家を出て交流もないらしい。

ひとりでルークを育ててここまで育ててくれた。

俺はルークのまだ幼さの残る手をそっと撫でた。

「母さんがここまで俺を大切に育ててくれたことはわかった……それでなんで俺は記憶を失ったのかな?」

一番聞きたかった事を聞くとマリアの顔が一瞬強ばった。
しかしすぐに顔を崩して笑顔を見せる。

「あなた冒険者になりたいって訓練してたの……その訓練中に事故があって……」

マリアが辛そうに話した。

「俺が冒険者?」

「ええ、私は危険だからやめてった言ったのにあなたの意思は強くて……でももうなりたくないでしょ?」

マリアがうかがうように聞いてくる。

「なんでルーク……俺は冒険者に興味があったのかな?」

「それは……」

マリアは言えないでいる。

「それは、俺の父親と関係があったりする?」

「ルーク……やっぱり知ってたの?」

マリアは諦めたように力なく笑った。

「母さんの口から、父親の事を聞かせて欲しい」

「わかったわ」

マリアは仕方なさそうしながら話し出した。

マリアから聞く俺の話はなんだかむず痒く、美化されている気がした。
しかし俺の事を話すマリアはあのころのように可愛らしく、時折女の顔が見えた。

「母さんは俺達を捨てた最悪な父親の事、好きなのか?」

「捨てたって……言ったじゃない。あの人はあなたがお腹にいることなんて知らなかったの、決してあなたを捨てたわけじゃないのよ」

どうかな?

俺がもしあの時マリアやルークの事を知っていたとしてここに残っただろうか?

今、死んだがこの歳の時なら残るだろうが……

俺の息子のルーク。

俺は頭の中で話しかけてみる。

なんで俺はルークの体に乗り移ったのだろうか。
ルークの意思は今どこにいるのだろうか……

わからない事だらけだが……

目の前で俺の事を心配そうに見つめるマリアに目をやる。

今はこの二人を命懸けで守り、幸せにしてやりたい。

いつかルークの意思が戻った時にこいつらが安心して幸せに暮らせるように……

俺はマリアの手をそっと握った。

「今までごめん。これからは俺が母さんを守るよ」

「え?」

マリアは驚いた顔をして俺を見つめる。

「えっと、正直母さんのことも自分のことも何も覚えてないんだ、でも二人を何故か愛おしく思う。だから俺と母さんのためにこれからは生きると誓うよ」

「ルーク……」

「だからこれからよろしくな」

俺はマリアのサイドの髪をサッとあげて耳にかけてやった。

「ふふ、ルーク父親に似てきたね」

「え!?」

突然そんな事を言われて戸惑っているとマリアは笑って立ち上がった。

「なんでもない、ルークが元気になってくれて本当に良かった」

マリアは俺をもう一度とギュッと抱きしめた。

今度はしっかりとルークを挟み込むように俺も抱きしめ返した。
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