上 下
157 / 687
番外編【ネタバレ注意】

三巻販売御礼の番外編第二弾 ルンバとリリアン

しおりを挟む
この話は三巻発売のお礼として書きました。

三巻のネタバレもあるので読んでない人、これから読む予定の人は気をつけて下さい。

ミヅキと会ったリリアンとルンバのお話です。











「はぁ…」

朝起きてお腹を撫でるとため息をひとつ…隣を見ると旦那のルンバが朝の仕事の支度のためにもうベッドを抜け出ていた。

私、リリアンは冒険者仲間だったルンバと結婚して念願だった冒険者達の為のお店も持った。

夫婦仲も良好、口数の少ない男だけどとても優しく、怖い顔でオドオドする姿がまた可愛らしい。

そんなところに惚れて私からアプローチして告白したが蓋を開ければ向こうもずっと私を好きだったと言うパターン。

店もそこそこお客が入り生活するには十分な安定がもてた。そんな順風満帆な出だしだったが…唯一の気がかりは「子供が出来ないこと」だった。

ルンバは授かり物だからといつも優しく声をかけてくれる…私もあの人も子供が好きだからとすぐに子作りに励んだが私達の元に子供が授かることはなかった…

そんな憂鬱な気持ちもお店に出ればおくびにも出さない、明るい声と笑顔で冒険者達を迎え入れてお腹いっぱいにさせて送り出す。

まぁでっかい子供が沢山いると思えばいいかと子供の事は諦めかけた頃にあの子はやってきた。

手のかかる冒険者の一人のベイカーさんが連れてきた幼い女の子で名は「ミヅキ」と言った。

可愛いらしい容姿には似つかわしくない真っ暗で大きな従魔を従え、自分の事に無頓着ながら料理の知識は抜群というチグハグな幼女は何となくほっとけない子だった。

しかし愛嬌もあり、時折大人っぽい言動や仕草から何やら訳ありな過去が垣間見れた…まだ幼い子供に何があったのと心配になるが本人は話す気が無いようで周りもそれを温かく見守る事にした。





「リリアンさん!」

ミヅキは明るい性格からすぐにここに慣れたようで私達にもすごく懐いてくれた、それが可愛くてミヅキを自分子供のように可愛がりいつしか子供が出来ないことなど気にならなくなっていた。

「ふふ…」

夜にふっと昼間のミヅキの事を思い出し笑っていると

「なんだ?」

まだ起きていたルンバから声がかかった。

「あら、ごめんなさい。まだ起きてたのね」

「いや、大丈夫だ。それより何に笑ったんだ?」

「ふふ、今日ねミヅキちゃんが間違えて私の事をお母さんって呼んだのよ。その後間違えちゃったって恥ずかしそうに顔を真っ赤にしてて…ふふ、本当に可愛い子ね」

「そうか…」

ルンバからは少しだけ不満そうな声が返ってきた。

「あら?何拗ねてるの?」

「なんでもない」

くるっと背中を向けてしまったルンバに声をかける。

「あっ!わかったあなたもお父さんって呼ばれたかったのね」

「うっ…」

図星らしい、本当に可愛い人だ。耳まで赤くしている。

「本当に子供が出来なくてもいつかミヅキちゃんがそう呼んでくれるかもよ」

私は大きなルンバの背中にそっと寄り添った…

「リリアン…」

心配そうに振り返ったルンバに私は笑顔で微笑んだ、決して強がりではなくそれでいいと思えたからだ。

「ああ、あの子は俺たちの本当の子供だな」

「ええ…」

その日深く愛し合い、お互いの気持ちを確かめ合った私達は次の朝、盛大に寝坊する事になったのだが……

「おはよう!ミヅキちゃん」

朝慌てた様子でミヅキちゃんに会うと顔をじっと見られた。

やだ、なんかわかるのかしら…

キョロキョロと自分の身だしなみを確認するが一応大丈夫そうだ。

「なに?ミヅキちゃん」

私は膝を曲げてミヅキに目線を合わせると…

「なんか…今日のリリアンさんすごく綺麗!それに…ここが暖かい!」

ミヅキはお腹にギュッと抱きついてきた。

時折甘える仕草が愛しく思わず抱き返す……やっぱりこの子は私達の天使だ。

その数ヶ月後…

「オェ…」

突然の嘔吐に私はトイレへと駆け込んだ!

数日前からなんだかモヤモヤして胸の辺りがスッキリしなかった。

変な物でも食べたかしら…

お店を開く者としてさすがに食べ物に当たったなどきまり悪いので、こっそりと医者にかかると思わぬ事を言われる。

「おめでただね」

「おめでた?食中毒が?」

「何言ってるんだい、赤ちゃんだよ!リリアンおめでとう」

「うそ…」

「そんな事で嘘なんかつかん!どうする?ルンバには言うかい?」

顔なじみのおばあちゃんの医者は私達が子供が来ない事に悩んでいたことを知っているだけ嬉しそうにしくれた。

「よかったね、わたしゃ悪いがあんた達に子供は無理だと思ってたよ…ここまで出来ないと何らかの原因がある可能性が高いからね」

「そ、そうなんですか!?」

「ああ、どうにもできる事じゃないから言わないがね…しかしよかった。なんか周りに変化でもあったのかな?」

そう言われてミヅキの笑顔が浮かんできた。

あの子が来てからお店は繁盛するし、夫婦仲はさらに良くなるし、いいこと尽くしだった。

「そういえば…」

ミヅキにお腹をギュッと抱きしめられた事があったことを思い出す。
そういえばあの日から月ものが来ていない。

「まさか…」

私は少しだけ迷ってルンバにはまだ赤ちゃんの事は内緒にする事にした。

安定期に入れば問題ないと言われたのでそれまでは…もしダメだった時にあの人に悲しい思いはさせたくなかった。

しかし不安も他所に何事もなく順調に過ごしている時王都に行く話が飛び込んできた。

ルンバは悩んでいたが私が後押しして王都へと行くことになった。

「なら、ミヅキも連れていかないか?」

王都へはミヅキに教えてもらったハンバーグの店を出して欲しいとのお願いだった。

ルンバとしては発案者のミヅキがいなくては話にならないらしくミヅキが行くならと首を縦に振る。

そこでミヅキにお願いしてみると行ってみたいと答えが返ってきた。

王都へは娘として付いてきて欲しいと説明すると恥ずかしそうにしながらも嬉しそうに頷いてくれた。

そしてあれからお母さんとなかなか呼んでくれないミヅキに「お母さんって呼んでいいのよ」と言うと思わぬ返事が返ってきた。

「それはリリアンさん達の子供に取っておいてあげたいので…」

そう言って私のお腹を優しく見つめるミヅキはまるでその日が確実に来ることを知っているかのようだった…

この子は…

ふっと力が抜けると思わずまだルンバにも言ってないことをミヅキに話してしまった。

「この子ならきっとそれを許してくれるわ」

その言葉だけでミヅキは察してくれた、驚き自分の事の様に喜んでくれる。

この子のお姉ちゃんになってね…

私は大事な大事な娘に感謝を込めて強く抱きしめた。
しおりを挟む
感想 6,824

あなたにおすすめの小説

転生したら幼女でした!? 神様~、聞いてないよ~!

饕餮
ファンタジー
  書籍化決定!   2024/08/中旬ごろの出荷となります!   Web版と書籍版では一部の設定を追加しました! 今井 優希(いまい ゆき)、享年三十五歳。暴走車から母子をかばって轢かれ、あえなく死亡。 救った母親は数年後に人類にとってとても役立つ発明をし、その子がさらにそれを発展させる、人類にとって宝になる人物たちだった。彼らを助けた功績で生き返らせるか異世界に転生させてくれるという女神。 一旦このまま成仏したいと願うものの女神から誘いを受け、その女神が管理する異世界へ転生することに。 そして女神からその世界で生き残るための魔法をもらい、その世界に降り立つ。 だが。 「ようじらなんて、きいてにゃいでしゅよーーー!」 森の中に虚しく響く優希の声に、誰も答える者はいない。 ステラと名前を変え、女神から遣わされた魔物であるティーガー(虎)に気に入られて護られ、冒険者に気に入られ、辿り着いた村の人々に見守られながらもいろいろとやらかす話である。 ★主人公は口が悪いです。 ★不定期更新です。 ★ツギクル、カクヨムでも投稿を始めました。

収容所生まれの転生幼女は、囚人達と楽しく暮らしたい

三園 七詩
ファンタジー
旧題:収容所生まれの転生幼女は囚人達に溺愛されてますので幸せです 無実の罪で幽閉されたメアリーから生まれた子供は不幸な生い立ちにも関わらず囚人達に溺愛されて幸せに過ごしていた…そんなある時ふとした拍子に前世の記憶を思い出す! 無実の罪で不幸な最後を迎えた母の為!優しくしてくれた囚人達の為に自分頑張ります!

野草から始まる異世界スローライフ

深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。 私ーーエルバはスクスク育ち。 ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。 (このスキル使える)   エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。 エブリスタ様にて掲載中です。 表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。 プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。 物語は変わっておりません。 一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。 よろしくお願いします。

異世界は流されるままに

椎井瑛弥
ファンタジー
 貴族の三男として生まれたレイは、成人を迎えた当日に意識を失い、目が覚めてみると剣と魔法のファンタジーの世界に生まれ変わっていたことに気づきます。ベタです。  日本で堅実な人生を送っていた彼は、無理をせずに一歩ずつ着実に歩みを進むつもりでしたが、なぜか思ってもみなかった方向に進むことばかり。ベタです。  しっかりと自分を持っているにも関わらず、なぜか思うようにならないレイの冒険譚、ここに開幕。  これを書いている人は縦書き派ですので、縦書きで読むことを推奨します。

「デブは出て行け!」と追放されたので、チートスキル【マイホーム】で異世界生活を満喫します。

亜綺羅もも
ファンタジー
旧題:「デブは出て行け!」と追放されたので、チートスキル【マイホーム】で異世界生活を満喫します。今更戻って来いと言われても旦那が許してくれません! いきなり異世界に召喚された江藤里奈(18)。 突然のことに戸惑っていたが、彼女と一緒に召喚された結城姫奈の顔を見て愕然とする。 里奈は姫奈にイジメられて引きこもりをしていたのだ。 そんな二人と同じく召喚された下柳勝也。 三人はメロディア国王から魔族王を倒してほしいと相談される。 だがその話し合いの最中、里奈のことをとことんまでバカにする姫奈。 とうとう周囲の人間も里奈のことをバカにし始め、極めつけには彼女のスキルが【マイホーム】という名前だったことで完全に見下されるのであった。 いたたまれなくなった里奈はその場を飛び出し、目的もなく町の外を歩く。 町の住人が近寄ってはいけないという崖があり、里奈はそこに行きついた時、不意に落下してしまう。 落下した先には邪龍ヴォイドドラゴンがおり、彼は里奈のことを助けてくれる。 そこからどうするか迷っていた里奈は、スキルである【マイホーム】を使用してみることにした。 すると【マイホーム】にはとんでもない能力が秘められていることが判明し、彼女の人生が大きく変化していくのであった。 ヴォイドドラゴンは里奈からイドというあだ名をつけられ彼女と一緒に生活をし、そして里奈の旦那となる。 姫奈は冒険に出るも、自身の力を過信しすぎて大ピンチに陥っていた。 そんなある日、現在の里奈の話を聞いた姫奈は、彼女のもとに押しかけるのであった…… これは里奈がイドとのんびり幸せに暮らしていく、そんな物語。 ※ざまぁまで時間かかります。 ファンタジー部門ランキング一位 HOTランキング 一位 総合ランキング一位 ありがとうございます!

転生テイマー、異世界生活を楽しむ

さっちさん
ファンタジー
題名変更しました。 内容がどんどんかけ離れていくので… ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓ ありきたりな転生ものの予定です。 主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。 一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。 まっ、なんとかなるっしょ。

転生初日に妖精さんと双子のドラゴンと家族になりました

ひより のどか
ファンタジー
ただいま女神様に『行ってらっしゃ~い』と、突き落とされ空を落下中の幼女(2歳)です。お腹には可愛いピンクと水色の双子の赤ちゃんドラゴン抱えてます。どうしようと思っていたら妖精さんたちに助けてあげるから契約しようと誘われました。転生初日に一気に妖精さんと赤ちゃんドラゴンと家族になりました。これからまだまだ仲間を増やしてスローライフするぞー!もふもふとも仲良くなるぞー! 初めて小説書いてます。完全な見切り発進です。基本ほのぼのを目指してます。生暖かい目で見て貰えらると嬉しいです。 ※主人公、赤ちゃん言葉強めです。通訳役が少ない初めの数話ですが、少しルビを振りました。 ※なろう様と、ツギクル様でも投稿始めました。よろしくお願い致します。 ※カクヨム様と、ノベルアップ様とでも、投稿始めました。よろしくお願いしますm(_ _)m

天才になるはずだった幼女は最強パパに溺愛される

雪野ゆきの
ファンタジー
記憶を失った少女は森に倒れていたところをを拾われ、特殊部隊の隊長ブレイクの娘になった。 スペックは高いけどポンコツ気味の幼女と、娘を溺愛するチートパパの話。 ※誤字報告、感想などありがとうございます! 書籍はレジーナブックス様より2021年12月1日に発売されました! 電子書籍も出ました。 文庫版が2024年7月5日に発売されました!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。