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11章

589.馬車馬

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ケンタウロスはあたたかい温もりに目を覚ました。

見ると人間の少女が自分の体に手を当てている。

「ナニヲ…」

起き上がろうとすると…

「まって!骨が折れてるから無理しないで!今回復させるからね」

そう言い自分の腕を優しく掴んだ。

少女が触れる部分から痛みが引いていく、完全に全身の痛みが無くなるとゆっくりと立ち上がった。

見下ろすと随分と小さな子供だった…その隣では我が主が耳を垂れている。

「イッタイナニガ…」

どうも前後の記憶が曖昧だった…

「ダイジョブカ…」

声をかけられ見ると仲間達も皆無事のようでピンピンしていた。

「アア…」

戸惑っていると子供が声をかけてきた。

「ケンタウロスさんシルバがちょっと力強くてごめんなさい…傷は癒えたと思うけど…他に痛いところある?」

すまなそうに声をかけてきた。

確かこの子は主の頭を撫でていた人間…不敬な奴だと思い棒を向けて…ゾクッ!

背筋が寒くなった。

そうだ自分は何故か主の怒りを買ってしまい叩かれたのだ…それをこの子が治してくれたのか…

ニンゲン…チリョウハカンシャスル。シカシ、ナレアウキハナイ人間…治療感謝する。しかし、馴れ合う気は無い

「グルル…」

また主の機嫌が悪くなった!

俺達は恐ろしさから一歩下がると

【こいつ…使えないなぁ…やっぱり違うやつらにしようか…】

シルバが不機嫌そうにケンタウロスを睨みつけた。

【こらシルバ!唸ったら怖がってるよ!】

ミヅキがシルバに伏せと手を出すと、シルバがピタッと唸るのをやめてミヅキに甘えるように寄り添う。

【だがなあいつらミヅキに棒を向けたんだぞ!ミヅキが傷付きでもしたらどう責任を取るつもりだったんだ!】

【心配してくれるのは嬉しいけどそれくらいで怪我なんてしないよ~シルバは心配性なんだから】

シルバに舐められてクスクス笑うミヅキをケンタウロス達は唖然と見つめていた。

「マサカ…シュノイトシゴ」

シルバとミヅキを交互に見て理解した。

六人はシルバとミヅキの前に跪くとリーダーが声をかける。

モウシワケゴザイマセン、シュノイトシゴトハシラズ、ブレイヲ…申し訳ございません、主の愛し子とは知らず、無礼を

【あーあ、聞こえるか?】

シルバはケンタウロス達に聞こえるように声を発すると

【は、はい!】

リーダーが返事を返した。

【いいか、この可愛いミヅキは俺の主人だ。いかなる時も守るべき存在!自分の命よりも優先すべき者だ】

【はは!】

【そんなミヅキに棒を向けるとは許せん…殺そうと思ったがミヅキが助けると言うので許してやった。ミヅキの優しさに死ぬまで感謝しろ】

【ありがとうございます】

ケンタウロスは地面に頭をつけながらお礼を言った。

シルバのケンタウロスとの会話が聞こえていないミヅキはケンタウロスの様子に驚く。

【シルバ…ケンタウロス達大丈夫?なんか怖いくらい頭下げてるけど…】

【ああ、ミヅキ問題ない。ミヅキの言う事をよく聞くように言っただけだからな】

シルバは厳しい顔をケンタウロスに向けていたかと思うとニコリと笑ってこちらを振り返る。

【そう?ならありがたいけど…】

ミヅキはケンタウロス達に近づくと

「ケンタウロスさん、馬車を獣人の国まで引いて欲しいんだけど…お願いできるかな?」

伺うように聞いてみると

「ミヅキドノ、ヨロコンデ」

ケンタウロス達は頼もしげに立ち上がった!

その様子を見ていたベイカーとコジローは…

「ケンタウロスって馬車引くんですね…初めて知りました…」

コジローがベイカーに聞くと

「引くわけ無いだろ、昔あれに乗ろうとした馬鹿がいたが叩き落とされて蹴られて大怪我してたぞ。ああ見えてプライド高いみたいだからな馬扱いなんて普通は無理だろうな。本当に認めた相手なら…ってところだろ」

「さすがシルバさんとミヅキですね」

コジローは誇らしそうに頷いた。

ケンタウロス達からの了承も得られたので馬車を見せると

「コレハナカナカ…」

かなりの大きさに驚いている。

「無理なら言ってね、そしたらシルバ達が手伝ってくれるみたいだから」

ミヅキが頼むと

「シュノテヲワズラワセルワケニハイカヌ」

ケンタウロス達は頷くと馬車を引きてのハンドル部分を掴んだ。

六人で別れ各々掴むと馬車を動かす。

「「「「「「フンヌッ!」」」」」」

すると馬車は見事に前に進んだ!

「すごーい!」

ミヅキがパチパチパチと手を叩くと一緒に見ていた獣人達も手を叩く。

「おじちゃん凄いね!筋肉モリモリ!」

たくましいケンタウロスの体をキラキラした目で見つめる。

「コレクライドウトイウコトハナイ…」

ケンタウロスさん達も大丈夫そうなので早速馬車に乗り込み獣人の国を目指すことにした。

「あっ!奴隷商人のおじさん達どうしよう!」

すっかり怯えきり一気に老け込んだ奴隷商人達を見ると…

「馬車の後ろに小さい荷車つけてそれで運べばいいだろ」

ベイカーさんがどうでもよさそうに言うと

【ぼくがつくるよ!】

コハクが木魔法で鳥籠の様な物を作ってくれた。

「外から丸見えだけど…まっいいか!」

ベイカーさん達がおじさん達を籠に押し込めると馬車の後ろに籠を括り付ける。

みんなを馬車に乗せてミヅキ達も馬車の上に登ると

「よし!じゃあ獣人の国目指して出発ー!」

ミヅキの声に合わせてケンタウロス達は走り出した!


「凄い!馬より早いね!」

ケンタウロス達の走りを上から眺めていると

「ケンタウロスさんに乗ってみたいな…」

じっと見つめる。

「やめとけ、プライド高いから乗せてくれないだろ?」

ベイカーさんが言うと

【乗せてくれるってよ】

シルバが教えてくれる。

「やったー!ベイカーさん乗せてくれるって!乗ってきてもいい?」

ミヅキが聞くと

「危ないからまた今度にしな…」

ベイカーはいつもの事に驚くことなく頷いた。



一日中走りかなりの距離を進むと…

「ス、スマヌ…スコシヤスマセテクレ」

馬車の速度が遅くなった。

ケンタウロスさん達が疲れてしまったようで急いで水を用意する。

「ケンタウロスさん達休憩はもっと早く言ってよ!」

ミヅキが怒ってケンタウロスさん達に水と回復魔法をかける。

「スマナカッタ…モウダイジョウブダ」

ケンタウロス達は回復したからとまた走ろうと準備する。

「駄目です!今日はもう走るの禁止!シルバ!みんなを止めて」

ミヅキはシルバに声をかけた!

【ミヅキの言う通りにしろ、お前達はよく頑張ったゆっくり休んでまた頑張ってくれ】

【本当にそれでいいのですか?】

ケンタウロスが伺うと

【ミヅキは一度こうなっては聞かんからな、お前達もこうなる前に休みたくなったらやすめよ。無理するとまたミヅキに怒られるぞ】

【は、はい…】

ケンタウロス達は戸惑いながらも馬車から手を離した。

その様子にミヅキはほっと胸を撫で下ろした。

「じゃあ今日はここら辺で馬車止めて泊まろうか?」

ベイカーさんを見ると…

「そうだな…少し見通しが良すぎるからもう少し進んであの木が生えてる所まで行こう」

そう言って先に見える木の生えた場所を指さした。

「デハソコマデイコウ」

ケンタウロスが馬車の引き手を持とうとすると

「ケンタウロスさん達はおやすみ!えっと…シルバとプルシア…あそこまでお願い出来る?私も手伝うから」

ミヅキはシルバとプルシアを見た。

「シュガヤルナド…ワレラガ!」

キッ!

ミヅキがケンタウロス達を睨むとピタッと黙る。

【ミヅキが馬車を引くことなどない、プルシアもいつも運んで貰っているからなたまには俺がやろう】

シルバはピョンと軽く馬車から飛び降りるとケンタウロス達に変わる。

首から紐をかけて引き手に引っ掛けるとシルバが走り出した!

「ギャアッ!」

凄い勢いにミヅキは後ろに転ぶとベイカーさんが受け止めてくれた。

「あ、ありがとう…シルバ凄い速いね」

「危ないからしっかり捕まってろよ」

頷いてベイカーさんの首に手を伸ばして掴まった。

「ベイカーさん達よく立ってられるね」

凄い勢いで景色が変わる中ベイカーさんもコジローさんもなんでも無いように立っている。

「あっ!獣人の子達は大丈夫かな!」

心配になるとコジローさんが様子を見に行ってくれた。

すぐに戻ってくると…全然大丈夫だったと苦笑する。

「なんで?この馬車でまともなのは、私だけ?」

ミヅキは納得出来ないと首を傾げた。


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