間違いから始まる恋

三園 七詩

文字の大きさ
上 下
4 / 4

好きな人

しおりを挟む
次の日から私達は中庭でお昼を食べるのも止めた。

帰りは4人で……みんな気を使って色々と楽しい話をしてくれるが、どうも気分が乗らなかった。

そんな時、渡辺くんから久しぶりにメールが届く。

内容は私の心をさらに締め付けるものだった。

『聖也が今度土曜日に遊びに行かないかって言ってるけど、都合どうですか?』

聖也くん、あの時なら飛んで喜んだが今はそんな気になれない。

しかしみんなは違う出会いもあるよと気晴らしに楽しんでこいと背中を押した。

「そう、だね」

昔憧れていた聖也くんとデートだ。なかなかできるもんじゃない。

それに……また好きになれるかも……

私は自分の気持ちを騙してOKの返事を送った。

当日、朝起きてからも憂鬱だった。

集合は駅前に10時、何を着てこうかと悩みそうだが服は目に付いたものにすぐに決めた。

髪もいつも通りセットして家をでる。

駅までの足取りが重く感じた。

駅には10分前に到着した、携帯をいじりながら待っていると渡辺くんちの子猫の画像が出てきた。

「ふっかわいい……」

でもこれも消さないとかな……

デート前なのに気持ちは暗くなるばかりだった。

そして約束の時間になっても聖也くんは来ない。

遅刻か……渡辺くんは一度も遅刻なんてしなかったな。

思うのは渡辺くんとの思い出ばかりだった。

5分が過ぎた頃こちらに走ってくる人が現れてみんなが慌てて道を開ける。

誰だろうと思っていると……

「渡辺くん……」

はぁはぁと息を切らして渡辺くんが私の目の前で止まった。

「ま、真夜……ごめん。聖也来れなく、なって」

息を切らしながらそう伝えてきた。

「そう……なら帰るね」

私は渡辺くんといるのが辛くて家へと帰ろうとすると……パシッと腕を掴まれた。

「あ、あの……よかったらこのまま一緒に俺と行かない?あっ!そのチケットがあって……勿体なくて……」

渡辺くんは慌ててチケットを取り出した。

「私と?」

他に行きたい人がいるんじ……と思って聞いてみる。

「真夜と……行きたい。ほら記念に……」

渡辺くんの言葉に少し期待した自分が馬鹿みたいに思った。

「うん、そうだね。最後の記念に……」

私達は偽りの恋人ごっこの記念にデートすることになった。

チケットは水族館のもので私達は無言で駅を移動する。

電車に乗ると、相変わらず渡辺くんは私を窓際に寄せて人混みから守ってくれた。

やっぱり……優しいな。

水族館は土曜とあって混雑しており、家族連れやカップルでごった返していた。

少し歩くとすぐ引き離されそうになってしまう。

「あっ、渡辺くん……」

渡辺くんと距離ができてしまった。
するとスルッと手に大きな温もりが掴まる。

「その、逸れたら大変だから」

渡辺くんは前を見たままそういうと私の手をギュッと握りしめた。

「うん……」

私もその大きな手をギュッと握り返す。

そのまま流されるように進んで行くと、暗くなり大きな水槽が目の前に広がった。

開けた場所につくと人混みも少し薄れる。

手を離すべきかと悩んでいたが渡辺くんから手を離すことはなかった。

「あっち……行ってみる?」

「う、うん……」

渡辺くんに促されてメイン展示の巨体水槽の前に行った。

「すごい!」

そこには大きな魚や小さい魚、それにイワシの群れに色とりどりの魚などキラキラと光を浴びて優雅に泳いでいる。

「綺麗……」

戸惑う気持ちも忘れて一時水槽に心を奪われる。

「なんか、美味しそう」

「えー?」

渡辺くんのつぶやきに信じられないと声を出した。

「俺イワシ好きなんだよね」

「だからってこんな綺麗なのに……ぷっ!」

私は久しぶりに声を出して笑った。

「良かった……笑ってくれて」

渡辺くんは私をみて本当に嬉しそうに微笑んだ。

「わ、私そんなに笑ってなかった?」

急に恥ずかしくなり顔を背ける。

「うん、俺でごめんね」

そう言うと渡辺くんの握っていた手が緩みそうになる。

私は思わず離すまいと握り返した。

「真夜?」

すると渡辺くんがじっとこちらを見る。

やっぱり……私は渡辺くんが好きなんだ!

私は覚悟を決めた。

渡辺くんが私を好きで無くてもこれからまつ始める!
他の人なんて今は考えられない……この気持ちだけは嘘をついてはいけないと思った。

「渡辺くん、聞いて!」

私の真剣な顔に渡辺くんは場所を移そうと移動してくれた。

2人で無言になりながら通路を移動する。

しかしその手は離れることなく繋がれていた。

人気コーナーを過ぎると海底生物の展示室へとやってくる。

中は薄暗く少し座るベンチもあり、そこに腰掛けた。

この薄明かりが助かる……渡辺くんの表情を見なくてすんだ。

彼がどんな顔をしているのか怖かった。

私は今までの事を全て話した。
本当に最初は間違えでラブレターを書いたこと、怖くて断れなかったこと、でも本当の渡辺くんを知っていき気持ちが惹かれたこと……そして好きになってしまったこと……

話終えるが渡辺くんからの反応がない……怖くなり言葉を続けた。

「急にこんな事言われても……困るよね。今日はありがとう、ごめん」

私はいたたまれなくなり立ち上がるとその手を離そうとした。

するとグイッとさらに強く掴まれて引き寄せられる。

私は気がつくと渡辺くんの腕の中にいた……

「良かった……」

そして渡辺くんからは心から安堵するような声が漏れていた。

「わ、渡辺くん?」

「蓮弥……って呼んで」

「蓮弥くん?」

彼の行動に戸惑い顔をあげる。

暗く室内も彼の表情がよく見えるほど近くにいた。

そしてその顔は嬉しそうで今まで見た中で一番かっこよく見えた。

「あの日間違えで俺の下駄箱に来たのも今なら感謝できる。あれがなかったら俺は真夜に出会えなかった」

「それって……」

「俺も真夜が好きだ」

蓮弥くんの顔が近づいてくる……私は思わず目を閉じると……

「あー!チューしてるー」

「こら!見ないのよ」

通りかかった家族連れが私達をみて気まずそうに前を通り抜けた。

「えっと……」

「うん、デートの続きしようか?」

私達は顔を見合わせて笑いあった。


後日この事を報告すると3人は泣きながら喜んでくれた。

「良かったー!良かったよー」

「本当にごめん!私達、2人がもう両思いなのわかってたのに……余計なことを……」

「もう絶対に真夜ちゃんを離さないでね!」

「わかった」

蓮弥くんの答えに満足そうにしていた。

「しかし聖也くんをけしかけて良かった……」

千夏ちゃんのつぶやきに何それ?と私達は顔を向ける。

聞けばあの後聖也くんの元に向かい私達の事を話したらしい、それで2人の誤解を解けるようにとデートを申し込んだそうだ。

「聖也は知ってたんだ……」

「だから当日いきなり行けないことにしてもらったの、そしたら渡辺くんが絶対行くと思ってた」

「真夜だって明らかに未練あったし、チケットもあれば断れずに行くでしょ?」

私達はみんなの策略にまんまとハマっていた。

「んー!なんか悔しいけど……」

私はチラッと蓮弥くんの恥ずかしそうな顔を見つめる。

この顔がまた近くで見れるならまぁいっか!

私はそっと蓮弥くんの手を握りしめた。


……終わり……
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(5件)

荒谷創
2023.06.19 荒谷創

ウイウイ(*´ω`*)ヨキヨキ

雨降って地固まる

意地なんて張っても役に立たない事も多いのですよ。
素直が一番です(^ω^)

イケメンと我が身をくらべてしまうと自信を持てない気持ちは分かりますけどね。
私も見知らぬお年寄りに『ひぃ!殺さないでくれぇ!』と絶叫されたりしましたし、奥さんから『連続殺人犯の目付き』と言われる身ですから、よく分かりますとも(*-ω-)

解除
荒谷創
2023.06.19 荒谷創

間違え→間違い
作者さんの作品では散見されますね。

言葉は万能ではありませんが、意志疎通の大事なツールです。
労を惜しまず、語り尽くしましょう。

三園 七詩
2023.06.20 三園 七詩

いつもありがとうございます(´>∀<`)ゝ

解除
荒谷創
2023.06.19 荒谷創

女子に親切で動物を慈しみ、母を敬愛するとは良い心掛けですねぇ♪

解除

あなたにおすすめの小説

お化けが見えるだけなのに……

三園 七詩
恋愛
幽霊が見える主人公の結奈は心霊トラブルから仕事を辞めることになった。 そんな時目に入ってきた素敵なカフェに惹かれて中に入る。 カフェの店主はダンディーなイケメンだったが結婚しているようで子供もいる。 優しい店主に素敵な雰囲気の店で、しかも従業員を募集中のこと。 住み込み付きの仕事に飛びつくがどうも娘さんのバイトの面接が条件らしい。 結奈は見事それに合格してここで働くこととなった。 ここでは幽霊が見えるのを内緒にようとしていた矢先……店主さんの娘さんも幽霊が見える体質だと知る。 そのうちに娘の玲那ちゃんと仲良くなった。 そして玲那ちゃんに幽霊の事で相談を受けるようになってしまった。

サトリと私

三園 七詩
恋愛
佐鳥(サトリ)はサトリの末裔で人の心を読む事ができる。 そのせいで人の薄汚れた本音を幼い頃から聞いていて人を信用していなかった。 そんの時に昔の幼なじみの女の子が転校して戻ってきた。 幼なじみは佐鳥に会って喜んんでいるが…本音は?

望まれない結婚〜相手は前妻を忘れられない初恋の人でした

結城芙由奈 
恋愛
【忘れるな、憎い君と結婚するのは亡き妻の遺言だということを】 男爵家令嬢、ジェニファーは薄幸な少女だった。両親を早くに亡くし、意地悪な叔母と叔父に育てられた彼女には忘れられない初恋があった。それは少女時代、病弱な従姉妹の話し相手として滞在した避暑地で偶然出会った少年。年が近かった2人は頻繁に会っては楽しい日々を過ごしているうちに、ジェニファーは少年に好意を抱くようになっていった。 少年に恋したジェニファーは今の生活が長く続くことを祈った。 けれど従姉妹の体調が悪化し、遠くの病院に入院することになり、ジェニファーの役目は終わった。 少年に別れを告げる事もできずに、元の生活に戻ることになってしまったのだ。 それから十数年の時が流れ、音信不通になっていた従姉妹が自分の初恋の男性と結婚したことを知る。その事実にショックを受けたものの、ジェニファーは2人の結婚を心から祝うことにした。 その2年後、従姉妹は病で亡くなってしまう。それから1年の歳月が流れ、突然彼から求婚状が届けられた。ずっと彼のことが忘れられなかったジェニファーは、喜んで後妻に入ることにしたのだが……。 そこには残酷な現実が待っていた―― *他サイトでも投稿中

誕生日当日、親友に裏切られて婚約破棄された勢いでヤケ酒をしましたら

Rohdea
恋愛
───酔っ払って人を踏みつけたら……いつしか恋になりました!? 政略結婚で王子を婚約者に持つ侯爵令嬢のガーネット。 十八歳の誕生日、開かれていたパーティーで親友に裏切られて冤罪を着せられてしまう。 さらにその場で王子から婚約破棄をされた挙句、その親友に王子の婚約者の座も奪われることに。 (───よくも、やってくれたわね?) 親友と婚約者に復讐を誓いながらも、嵌められた苛立ちが止まらず、 パーティーで浴びるようにヤケ酒をし続けたガーネット。 そんな中、熱を冷まそうと出た庭先で、 (邪魔よっ!) 目の前に転がっていた“邪魔な何か”を思いっきり踏みつけた。 しかし、その“邪魔な何か”は、物ではなく────…… ★リクエストの多かった、~踏まれて始まる恋~ 『結婚式当日、婚約者と姉に裏切られて惨めに捨てられた花嫁ですが』 こちらの話のヒーローの父と母の馴れ初め話です。

貧乏庶民に転生!?将来楽しみな子を見つけたので私が守ります!

三園 七詩
恋愛
貧乏な庶民の家に転生してしまったマリル。家の環境は最悪…こんな家族は捨ててやる! 仕事を探していたマリルはある御屋敷のお坊ちゃまの世話役の仕事にありつけることになった。 しかしそのお坊ちゃまは病気のせいで醜く屋敷に幽閉されていた。でもよく見てみると長くボサボサの髪の隙間から見える顔は結構いい。 これはもったいないとばかりにマリルはお坊ちゃまの為に奮闘する事にした。

【完結】悪役令嬢の真実

三園 七詩
恋愛
悪役令嬢と言われた侯爵令嬢のお話 それは第一王子の婚約者として上手くいっていた人生に訪れた変化だった。 急に学園に編入してきた光の魔法をもつヒカル嬢…彼女の言うことに周りは翻弄されていく?

第二の人生正しく生きる

三園 七詩
ファンタジー
そこそこの腕の冒険者として生きてきたレオドールは魔物の討伐途中で命を落とした。 冒険者として命を落とす覚悟を決めていたレオドールはいい人生だったと振り返る。 そんな時一度だけ恋をした女を思い出し、もう一度くらい会いたかったな……と思った瞬間にこの世を去った。 そして目覚めると見覚えのない天井で目が覚める。 そして隣にはあの時思い出した少女が大人になった姿で目の前に現れた。 彼女は俺を見ると泣き出し強く抱きしめた……そして知らない名前で俺を呼んだのだった。

料理の腕が実力主義の世界に転生した(仮)

三園 七詩
ファンタジー
りこは気がつくと森の中にいた。 なぜ自分がそこにいたのか、ここが何処なのか何も覚えていなかった。 覚えているのは自分が「りこ」と言う名前だと言うこととと自分がいたのはこんな森では無いと言うことだけ。 他の記憶はぽっかりと抜けていた。 とりあえず誰か人がいるところに…と動こうとすると自分の体が小さいことに気がついた。 「あれ?自分ってこんなに小さかったっけ?」 思い出そうとするが頭が痛くなりそれ以上考えるなと言われているようだった。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。