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過去

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「藤野さん…?」

「はい、俺の事も気にかけてくれてて…それで今住み込みで働いているって言ってしまって、決して寅吉さん達の秘密は言ってません!」

「それはわかる、言ったらすぐに充に反応があるしわしにもすぐにわかる」

あっ、そうなんだ…

「それで…家は言えないから猫神社のそばだって言ったら寅吉さんの名前を言われて…驚いて挨拶もそこそこに帰ってきました…俺何か不味いこと言ってしまいましたか?」

心配になって寅吉さんをじっと見ているとふっと笑った。

「そんな顔をしなくても大丈夫だ、藤野さんは…そうな、昔の知り合いだ」

「そ、そうなんですか…よかった…」

充はふっと力が抜けた。

「そうか…充は花江さんと知り合いだったのか、ふく達が懐いたのも必然かなぁ」

「え?」

「藤野花江さんという方だ、彼女は昔っから捨て猫を拾っては世話をしてくれる人でな、わしも昔世話になった」

世話になったってのは猫達の面倒を見てくれたってことかな?

「そうなんですか!確かに藤野さん猫好きですね、でも最近は飼ってないみたいですけど…」

「そうか…花江さんも歳を取ったから猫を飼ったら良くないと考えてるのかもな」

「え?なんでですか?」

充は意味がわからなかった。
猫が好きなら飼えばいいのにと…

「花江さんは優しい人だからな、自分が最後まで面倒を見れないかもしれないからと考えているんだろう」

そうなのか…

「そう言えば動物を飼うのに御年寄は身寄りがいないと飼えないって聞いた事あります…」

なんか悲しいが命を大切にした結果なのかもしれない。

充は藤野さんの寂しそうな顔が頭に焼き付いていた。

「寅吉さん…お願いがあるんですけど…」

充の真剣な顔に寅吉さんは笑顔で話せと促した。


次の日充はふくとまるを連れてまた藤野さんの家を訪れた。

寅吉さんも行かないかと誘ったが自分はいいと…藤野花江さんによろしくと言っていた。

「いいか、これから会う人の前で変な事はしちゃダメだぞ。ちゃんと猫でいるんだ」

「「にゃー」」

俺の変な説明にふく達は素直に鳴き声をあげるとトコトコと前を歩く。

前にあったアパートのそばなので何となく道を覚えているようだった。

「にゃ!」

「にゃ?」

アパートの前まで来ると建物がなくなっていることに驚きながら周りをウロウロと嗅ぎ回っている。

「アパートなくなっちゃったんだよ」

少し寂しそうに言うと二人は足元にきて顔を擦り寄せた。

慰めてくれてるようだ。

「ありがとうな、でも大丈夫だ。ふく達に俺の新しい居場所を作ってもらったからそんなに寂しくないんだよ」

「「にゃ?」」

よくわかって無いようなので気にするなと頭を撫でた。

そのままアパート跡地を通り過ぎて藤野さんの家へと向かう。

昔ながらの日本家屋の家が藤野さんの家だった。

扉の隣のインターホンを押すと中から藤野さんの声がする。

「はーい」

俺は少し緊張して背筋を伸ばした。

「にゃーん」

すると下で藤野さんの返事を真似するようなまるの声に吹き出し、肩の力が抜けた。


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