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料理番
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寅吉さんはゼンさんにふく達を頼み話があると部屋へと充を連れていった。
部屋に入ると寅吉さんは前に座れと自分もいつもの席に腰掛ける。
「まずはご馳走様、ちらし寿司もおにぎりも美味かった。それにふく達の面倒もしっかりと見てるようで助かる」
寅吉さんがペコッと頭を下げた。
「い、いえ。でもふく達そんなに手はかからないしいい子達です…」
充は何か言いにくそうに語尾を弱めた。
先程の驚く寅吉さんの顔が頭をチラつく。
「まずはふく達の事で聞きたい事がある、あの子達が人化になった事だ」
「は、はい…ご飯を食べさせるのに猫の姿だったので猫用のご飯をあげようと思っていたら、普通のが食べたいと…人になれば食べられるって姿を変えました。何か不味かったですか?」
恐る恐る寅吉さんに確認する。
「何!?飯を食いたいから姿を変えたのか?」
「はい…」
寅吉さんは理由に驚き目を見開いた後に笑いだした。
「そうか、そうか飯につられたか…」
嬉しそうに何度も確認している。
「人の姿になるのになんか理由があったんですか?」
充は気になって聞いてみた。
「ふく達の母親が亡くなったことは言ったよな」
充はこくっと頷いた。
「あれはな、二人の前で轢かれたんだ…ふくとまるは珍しい子だから人間に捕まっていてな…それを母親であるユキが連れ戻し逃げているところ慌てて道路に飛び出してしまった。それからあの二人は人にはならなかったんだ。まだ今より幼く覚えているのかわからんがな、何となく人になるのを恐れていたのかもしれん」
「そうだったんですか…」
充はそんなふく達の事情も知らずに無神経なことをしてしまったのでは無いかと不安になった。
そんな充の気持ちがわかったのか寅吉さんが優しく微笑んだ。
「大丈夫だ、わし達は猫又で人との繋がりも大事にしてる。全ての人が悪いなんて思っとらん。それに猫又にとって人になるのは暮らしていくのに重要な事なんだ。だからまたああやって人になる事ができて安心した」
「それならよかったです」
「それだけ充の飯を気に入ったんだな」
料理を褒められてこそばゆく充が照れていると寅吉さんが改まってお願いする。
「充の料理はあの子らの母親と似てる気がした…ふく達もそれを感じ取ってるのだろう。わしらもな」
「ありがとうございます、俺も…みんなが美味しそうに食べてくれるのが嬉しくて…」
「ならこの屋敷のみんなの分も頼まれてくれんか?ふく達の世話で大変な時はもちろん休んでくれて構わん。前はあの子らの母親が食事を作っててくれてのぉ…皆もまた上手い飯を食いたがってるんだ」
「ふく達のお母さんが…俺にそんな大役出来るかどうか…俺、普通の飯しか作れませんよ」
「普通でいいんだ、普通で…ふくとまるもゼンも気に入ってたし、もちろんわしも気に入ったんだ」
そこまで言われて悪い気はしない。
充は嬉しそうにこくっと頷く。
「はい!やらせて下さい」
充の返事に寅吉さんはニコッと笑って手を差し出す。
充は握手だと気がついて慌てて立ち上がり寅吉さんの手を掴んだ。
「よろしく頼む、食材の事など詳しい事はゼンから聞いてくれ。今日からあの調理場の料理番は充だ」
「が、頑張ります」
充はペコッと勢いよく頭を下げた。
部屋に入ると寅吉さんは前に座れと自分もいつもの席に腰掛ける。
「まずはご馳走様、ちらし寿司もおにぎりも美味かった。それにふく達の面倒もしっかりと見てるようで助かる」
寅吉さんがペコッと頭を下げた。
「い、いえ。でもふく達そんなに手はかからないしいい子達です…」
充は何か言いにくそうに語尾を弱めた。
先程の驚く寅吉さんの顔が頭をチラつく。
「まずはふく達の事で聞きたい事がある、あの子達が人化になった事だ」
「は、はい…ご飯を食べさせるのに猫の姿だったので猫用のご飯をあげようと思っていたら、普通のが食べたいと…人になれば食べられるって姿を変えました。何か不味かったですか?」
恐る恐る寅吉さんに確認する。
「何!?飯を食いたいから姿を変えたのか?」
「はい…」
寅吉さんは理由に驚き目を見開いた後に笑いだした。
「そうか、そうか飯につられたか…」
嬉しそうに何度も確認している。
「人の姿になるのになんか理由があったんですか?」
充は気になって聞いてみた。
「ふく達の母親が亡くなったことは言ったよな」
充はこくっと頷いた。
「あれはな、二人の前で轢かれたんだ…ふくとまるは珍しい子だから人間に捕まっていてな…それを母親であるユキが連れ戻し逃げているところ慌てて道路に飛び出してしまった。それからあの二人は人にはならなかったんだ。まだ今より幼く覚えているのかわからんがな、何となく人になるのを恐れていたのかもしれん」
「そうだったんですか…」
充はそんなふく達の事情も知らずに無神経なことをしてしまったのでは無いかと不安になった。
そんな充の気持ちがわかったのか寅吉さんが優しく微笑んだ。
「大丈夫だ、わし達は猫又で人との繋がりも大事にしてる。全ての人が悪いなんて思っとらん。それに猫又にとって人になるのは暮らしていくのに重要な事なんだ。だからまたああやって人になる事ができて安心した」
「それならよかったです」
「それだけ充の飯を気に入ったんだな」
料理を褒められてこそばゆく充が照れていると寅吉さんが改まってお願いする。
「充の料理はあの子らの母親と似てる気がした…ふく達もそれを感じ取ってるのだろう。わしらもな」
「ありがとうございます、俺も…みんなが美味しそうに食べてくれるのが嬉しくて…」
「ならこの屋敷のみんなの分も頼まれてくれんか?ふく達の世話で大変な時はもちろん休んでくれて構わん。前はあの子らの母親が食事を作っててくれてのぉ…皆もまた上手い飯を食いたがってるんだ」
「ふく達のお母さんが…俺にそんな大役出来るかどうか…俺、普通の飯しか作れませんよ」
「普通でいいんだ、普通で…ふくとまるもゼンも気に入ってたし、もちろんわしも気に入ったんだ」
そこまで言われて悪い気はしない。
充は嬉しそうにこくっと頷く。
「はい!やらせて下さい」
充の返事に寅吉さんはニコッと笑って手を差し出す。
充は握手だと気がついて慌てて立ち上がり寅吉さんの手を掴んだ。
「よろしく頼む、食材の事など詳しい事はゼンから聞いてくれ。今日からあの調理場の料理番は充だ」
「が、頑張ります」
充はペコッと勢いよく頭を下げた。
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