上 下
11 / 19

王子として

しおりを挟む
王子が疾走して数日後…

「やはり王子の行方は分かりません…今日より王子の捜索は打ち切りたいと思います」

部屋で執務をこなしているとニルギルから声をかけられた…

顔をあげると申し訳なさそうな顔をしている。

もう既に諦めていた事だからと私は苦笑いした。

「いやもういいんだ。覚悟は決めた…私はグレイ王子として生きていく」

「おま…いや、王子…これからはあなた様にお仕えできること嬉しく思います…ずっと支え続ける事をお約束致します」

ニルギルは手を胸に当てて深く頭を下げた…庶民生まれのこの俺に…

この日からニルギルが普段からも俺の事を王子と呼ぶようになり、俺もそのまま過ごすことになった。

「そういえば…婚約者候補の話ですが…」

ニルギルが言いにくそうに話し出した。

「ああ、とうとう婚約破棄になったのか?」

気にしないように書類に目を通しながら聞き返すと…

「それが…もう一度だけ会いたいと…」

「ルフナ様が?」

思わず顔をあげてしまった!

「はい…もしかしたら最後に何か言われるかも知れません。すみませんルフナ様が苦手なのに…」

あんな別れ方をしてしまったのだ…ただでさえ嫌われているようなのに、あの可愛らしい顔が歪み、小さく愛らしい口からなんと罵倒されるのだろうか。

考えるだけで憂鬱になるが、仕方ない…最後のしての仕事だ。

「わかった…いつ頃になる?」

「それが…すぐにでも会いたいと言われていて、いまこちらに向かっているようです」

「今!?」

ガタッ!と音を立てて思わず立ち上がってしまった。

「わかった、すぐに用意を…」

「はい!」

俺とニルギルは急いでルフナ様を迎える準備をした。

せめて敵対し合わないように別れなければ…


「失礼致します。ルフナ様がお見えです」

扉からの従者の声に俺は背筋をピンと伸ばした…

「どうぞ…」

入室の許可を出すと扉が開いて久しぶりにルフナ様の顔を見た…一瞬目があったと思ったら、その顔は何かを我慢するように唇を噛み締めて下を向いている。

そこまで嫌われているのか…

「よく来てくれた、座ってくれ」

目の前のソファーを指し示すと…

「その前に…どうしても王子様と二人で話がしたいのですが…」

ルフナ様が俺とニルギルを見つめた。

「しかし…」

ニルギルが難色を示すと…

「私に身体検査をしても構いません!ただ…王子様ともう一度だけ…」

何かを訴えるような表情に私ももう一度話したいと思った。

「ニルギル、いいんだ。ルフナ嬢どうぞこちらに…皆は下がってくれ」

俺が声をかけるとルフナ様の手を引いて近づいた。
従者やメイド達は予めルフナ様に言われていたのだろう、素直に従い部屋を出ていった。

「王子…」

ニルギルが心配そうに見つめると…

「ルフナ嬢だから大丈夫だ」

彼女の手を軽く手を握り返すとビクッとルフナ様の肩が跳ねた。

この反応…やはり嫌われているのか…

「わかりました…すぐ隣の部屋におります。何かあればお呼びください」

「わかった」

俺はどうにか微笑むとニルギルは後ろ髪を引かれるような面持ちで部屋を出ていった。

こうして部屋に俺とルフナ様の二人っきりになった。

「ようやく会えましたね」

ルフナ様から思いもよらない笑顔を向けられた…

「えっ…君は、怒ってないのかい?」

てっきり何か恨み言か罵倒されるかと思っていたら…会えたとは…?

私はわけがわからずに首を傾げた。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

拝啓、婚約者さま

松本雀
恋愛
――静かな藤棚の令嬢ウィステリア。 婚約破棄を告げられた令嬢は、静かに「そう」と答えるだけだった。その冷静な一言が、後に彼の心を深く抉ることになるとも知らずに。

婚約解消は君の方から

みなせ
恋愛
私、リオンは“真実の愛”を見つけてしまった。 しかし、私には産まれた時からの婚約者・ミアがいる。 私が愛するカレンに嫌がらせをするミアに、 嫌がらせをやめるよう呼び出したのに…… どうしてこうなったんだろう? 2020.2.17より、カレンの話を始めました。 小説家になろうさんにも掲載しています。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

【1/21取り下げ予定】悲しみは続いても、また明日会えるから

gacchi
恋愛
愛人が身ごもったからと伯爵家を追い出されたお母様と私マリエル。お母様が幼馴染の辺境伯と再婚することになり、同じ年の弟ギルバードができた。それなりに仲良く暮らしていたけれど、倒れたお母様のために薬草を取りに行き、魔狼に襲われて死んでしまった。目を開けたら、なぜか五歳の侯爵令嬢リディアーヌになっていた。あの時、ギルバードは無事だったのだろうか。心配しながら連絡することもできず、時は流れ十五歳になったリディアーヌは学園に入学することに。そこには変わってしまったギルバードがいた。電子書籍化のため1/21取り下げ予定です。

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る

家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。 しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。 仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。 そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。

【完結】義弟に逆襲されています!

白雨 音
恋愛
伯爵令嬢ヴァイオレットには、『背が高い』というコンプレックスがある。 その為、パーティではいつも壁の花、二十一歳になるというのに、縁談も来ない。 更には、気になっていた相手を、友人に攫われてしまう…。 そんな時、義弟のミゲルが貴族学院を卒業し、四年ぶりに伯爵家に帰って来た。 四年前と同様に接するヴァイオレットだが、ミゲルは不満な様で…??  異世界恋愛:長めの短編☆ 本編:ヴァイオレット視点 前日譚:ミゲルの話 ※魔法要素無。 《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、ありがとうございます☆ 

美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛

らがまふぃん
恋愛
 こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。この作品の前作が、お気に入り登録をしてくださった方が、ありがたいことに200を超えておりました。感謝を込めて、前作の方に一話、近日中にお届けいたします。よろしかったらお付き合いください。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。 *らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

処理中です...