上 下
2 / 30

2.病院

しおりを挟む
「マリル、道具を磨いておいて」

「はーい!」

私がこの病院にきて1週間が経とうとしていた。

その間に私は雑用の仕事は完璧に覚えて、助手の仕事も少し出来ようになっていた。

「マリルって凄いね」

雑用の2人は私の仕事ぶりに舌を巻いている。

最初はいい気がしなかった2人も私が仕事を回したりやり方を教えたりすると次第に心を許してくれるようになっていた。

「マリルちゃん、手当てありがとうね。これ良かったら食べて」

私は怪我の手当てをしたお姉さんからお菓子の袋をもらった。

「いいんですか!?ありがとうございます」

簡単な傷の手当てなら私がやるようになっていてたまにこうやってお菓子をもらえていた。

リズとミクロムにもあげよう!

私は道具を洗って片ずけるとお菓子を持って雑用の2人の元へと向かった。

「リズ、ミクロムお菓子もらったから食べよ」

2人は洗濯をしていたところで私の声に振り返った。

「やった!」

「マリルありがとう」

お菓子を分けると口に放り込み私も洗濯を手伝う。

「マリルは傷の手当ての仕事してたんでしょ?洗濯は私達がやるからいいよ」

2人に休めと言われるが働いている2人を無視して休めない。

「私は下働きのなんでもやる係なんだよ。それに3人でやればすぐだよ」

タライに沈んだ洗濯を3人で上からジャブジャブと踏み込む。

汚いところは手でしっかりと洗って何度かすすぎをして終わりだ。

こうして手伝うことでいい関係をきずいていた。

「マリル、先生がお呼びよ」

洗濯がひと段落したところで私は助手のミリーさんに声をかけられた。

「はい、じゃ2人とも後でね」

リズ達に抜けることを言って私は先生の元に向かうべくミリーさんの後に続いた。

ミリーさんはズンズンと不機嫌そうに前を無言で歩いている。

「あの…先生はどのような御用でしょうか?」

「.........」

ミリーさんは聞こえているはずなのに私の事を無視していた。

はぁ…

私はそっとため息をついた。

ミリーさんは幼くして自分の仕事をしている私が気に食わないようでことある事に私をいじめていた。

まぁいじめと言っても無視とか影で悪口をいう程度なので軽く流していた。

「あんまり調子に乗るんじゃないよ」

部屋に着くとミリーさんはジロっと私を睨んでここだとばかりに部屋を指さした。

「はい、ありがとうございます」

私がお礼を言うとそれも気に食わないとふんっと顔を背けて行ってしまった。

ああいう人はどんな態度をとっても気に食わないのだろう。

私は気持ちを切り替えて扉をノックした。

「マリルです」

「入りなさい」

ラジェット先生の声が聞こえて私は扉を開いた。

ラジェット先生は背を向けて仕事をしていたが私が入るとゆっくりと振り返った。

そして悲しそうに眉を下げている。

あっ…

なんとなく私は察した。

きっと良くない話を今からされるのだろう。

私はそんな顔をおくびも出さないで笑顔を見せた。

「マリル、実はね…」

ラジェット先生は初めて会った時のように優しく話し出した。

「君はよくやってくれている、仕事を覚えるのも早いし機転も利くし効率もいい」

「ありがとうございます」

「でもね、そんな君だからと気味悪るがる人もいるんだよ」

ミリーさんですね。

わかっていたが声には出さなかった。

「約束の1週間だが、よく働いてくれたから治療費はもういいよ」

「それって…ここを出ていけってことですよね」

「すまない」

ラジェット先生は本当にすまなそうに謝ってくれた。

「いいえ、先生には感謝しています。本当に今までありがとうございました」

感謝しているのは本当だ、そんな先生を困らせたくなくて私はここを去ることを決めた。

「マリルなら何処でもやって行けると思う」

「そうでしょか?それなら何かいい場所などあったら教えて頂けませんか?」

先生ならいい就職先を知っていそうだったのでダメ元で聞いてみる。

先生は少し考えた後に何か思い出した顔をするが口を噤んだ。

「先生、私どんなところでも頑張れます!」

あんなクソみたいな両親の元にいたのだ、少しくらい劣悪でも頑張れる。

私の強い思いに先生は重い口を開いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

モブですが、婚約者は私です。

伊月 慧
恋愛
 声高々に私の婚約者であられる王子様が婚約破棄を叫ぶ。隣に震える男爵令嬢を抱き寄せて。  婚約破棄されたのは同年代の令嬢をまとめる、アスラーナ。私の親友でもある。そんな彼女が目を丸めるのと同時に、私も目を丸めた。  待ってください。貴方の婚約者はアスラーナではなく、貴方がモブ認定している私です。 新しい風を吹かせてみたくなりました。 なんかよく有りそうな感じの話で申し訳ございません。

【完結】私は駄目な姉なので、可愛い妹に全てあげることにします

リオール
恋愛
私には妹が一人いる。 みんなに可愛いとチヤホヤされる妹が。 それに対して私は顔も性格も地味。暗いと陰で笑われている駄目な姉だ。 妹はそんな私の物を、あれもこれもと欲しがってくる。 いいよ、私の物でいいのならあげる、全部あげる。 ──ついでにアレもあげるわね。 ===== ※ギャグはありません ※全6話

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

実は家事万能な伯爵令嬢、婚約破棄されても全く問題ありません ~追放された先で洗濯した男は、伝説の天使様でした~

空色蜻蛉
恋愛
「令嬢であるお前は、身の周りのことは従者なしに何もできまい」 氷薔薇姫の異名で知られるネーヴェは、王子に婚約破棄され、辺境の地モンタルチーノに追放された。 「私が何も出来ない箱入り娘だと、勘違いしているのね。私から見れば、聖女様の方がよっぽど箱入りだけど」 ネーヴェは自分で屋敷を掃除したり美味しい料理を作ったり、自由な生活を満喫する。 成り行きで、葡萄畑作りで泥だらけになっている男と仲良くなるが、実は彼の正体は伝説の・・であった。

側妃のお仕事は終了です。

火野村志紀
恋愛
侯爵令嬢アニュエラは、王太子サディアスの正妃となった……はずだった。 だが、サディアスはミリアという令嬢を正妃にすると言い出し、アニュエラは側妃の地位を押し付けられた。 それでも構わないと思っていたのだ。サディアスが「側妃は所詮お飾りだ」と言い出すまでは。

妹に魅了された婚約者の王太子に顔を斬られ追放された公爵令嬢は辺境でスローライフを楽しむ。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。  マクリントック公爵家の長女カチュアは、婚約者だった王太子に斬られ、顔に醜い傷を受けてしまった。王妃の座を狙う妹が王太子を魅了して操っていたのだ。カチュアは顔の傷を治してももらえず、身一つで辺境に追放されてしまった。

愛する婚約者に殺された公爵令嬢、死に戻りして光の公爵様(お父様)の溺愛に気づく 〜今度こそ、生きて幸せになります〜

あーもんど
恋愛
「愛だの恋だのくだらない」 そう吐き捨てる婚約者に、命を奪われた公爵令嬢ベアトリス。 何もかもに絶望し、死を受け入れるものの……目を覚ますと、過去に戻っていて!? しかも、謎の青年が現れ、逆行の理由は公爵にあると宣う。 よくよく話を聞いてみると、ベアトリスの父────『光の公爵様』は娘の死を受けて、狂ってしまったらしい。 その結果、世界は滅亡の危機へと追いやられ……青年は仲間と共に、慌てて逆行してきたとのこと。 ────ベアトリスを死なせないために。 「いいか?よく聞け!光の公爵様を闇堕ちさせない、たった一つの方法……それは────愛娘であるお前が生きて、幸せになることだ!」 ずっと父親に恨まれていると思っていたベアトリスは、青年の言葉をなかなか信じられなかった。 でも、長年自分を虐げてきた家庭教師が父の手によって居なくなり……少しずつ日常は変化していく。 「私……お父様にちゃんと愛されていたんだ」 不器用で……でも、とてつもなく大きな愛情を向けられていると気づき、ベアトリスはようやく生きる決意を固めた。 ────今度こそ、本当の幸せを手に入れてみせる。 もう偽りの愛情には、縋らない。 ◆小説家になろう様にて、先行公開中◆ *溺愛パパをメインとして書くのは初めてなので、暖かく見守っていただけますと幸いですm(_ _)m*

悪役令嬢なので舞台である学園に行きません!

神々廻
恋愛
ある日、前世でプレイしていた乙女ゲーに転生した事に気付いたアリサ・モニーク。この乙女ゲーは悪役令嬢にハッピーエンドはない。そして、ことあるイベント事に死んでしまう....... だが、ここは乙女ゲーの世界だが自由に動ける!よし、学園に行かなければ婚約破棄はされても死にはしないのでは!? 全8話完結 完結保証!!

処理中です...