45 / 52
第四十五話 霊峰ケイラ(3)
しおりを挟む「なあ、お前」
「はい?」
「結局人間というのは、どこに進もうとしとるんだ?」
「いや、そんな事を私に聞かれても・・・」
「個人的な意見で構わん。流石にそれを人間の総意だとは思わん」
「うーん」
いきなり無茶振りが過ぎるよ。この幼女。
『人類の進む先』なんて哲学みたいな問いの答えなんて持ち合わせてないよ。
今はともかく、元はただの一般小市民だよ?
「そうだなあ。別に何も考えてないんじゃない?」
「なんだと?」
「人間は神様じゃないからね。人類の進む先は、人類のたどり着いた場所でしかないよ」
「なんじゃそれは。それではまるで思考停止ではないか。やる気ないのか?」
「そんな事ないよ。むしろ行動力の化身だよ」
「そうは聞こえんかったが」
「まあ、どんな場所に行きたいかというよりは、取り敢えず作れる道を作ってみて、そこからどんな場所に持っていけるかを考える感じかな。
人間にはいろんな考えの人がいるから、そんな人達がとにかく色んな道を、思い思いに、手当たり次第に、次から次へと作っちゃってね。それが原因で人間同士での言い争いになったりもするんだけど」
「無茶苦茶じゃの」
「そうだね(笑)」
思わず頭を抱えてうなだれる景羅。
まあ、創造主たる万能の力を持った神様には、とても理解はできないよね。
「全く意味がわからん。よくもそんな事でこれほどに繁殖・繁栄できたもんだ」
「ほんと不思議だよね」
「お前が言うか」
再び頭を抱える景羅。
いちいちリアクションがいいのでちょっと楽しくなって来た。
「それにしても、お前は若いのにやたらと詳しいのだな。しかも、妾の姿を見えているようだし、お主、本当に人間か?」
「失礼な。私は人間だよ。ちょっとイレギュラーな部分があるのは確かだけど、ちゃんとれっきとした人間だよ。たぶん」
「・・・結局どっちじゃ」
「だから人間だって」
別の世界のだけどね。
「・・・まあよい。思ったよりも随分面白い話じゃった。特別にお前の名前を覚えておこう。名は何という」
「え、私の名前?えっと、ナナだけど」
神様になら、本名の朝倉奈々って名前を教えておいた方がいいかなとも思ったけど、あとあと面倒ごとになっても困るのでやめておいた。
神様の絡んだ面倒ごととか、考えるだけでおぞましい。
「ふむ。ナナか。覚えておこう。
本来、土地神である妾はその立場上、地上の生き物と個別に関わることはせんのだが、今回は特別じゃ」
「はあ。それはどうも」
何がどう、特別なのかはわからないけど、取り敢えずは友好的な関係で神様と面識を持てたって事で喜んでおくべきかな。
まあ、本来の目的は何も解決してないんだけど。
「それじゃ、そろそろ私は戻るね。魔物はどうにもならないみたいだし、村人たちの避難の準備をしなくちゃ」
「そうか」
私が村を出てすでに数時間。
今だに魔物が無限湧きしているとすれば、流石にそろそろキツイはず。
いい加減に戻ってあげないと文句の一つも言われかねない。
勝手に飛び出して結局、何も解決出来なかった訳だし。
「ああ、そうそう。村の者達に、たまには祠の参拝に行くように言っておけ。あと、供物は甘味か酒が良い、と」
「わかった。言っとくよ」
まさか、神様からお供え物のリクエストをされるとは思わなかった。
「なら、お酒はないけど、甘味なら今持ってるから、それ供えて行こうか?」
「ほう。良い心がけじゃな。ならばついでに魔力も奉納して行くといい」
「魔力を奉納?」
「うむ」
どうやら、魔力のあるこの世界では、寺や祠を参拝すると、魔力が奉納されるらしい。
もっとも、参拝者には魔力を奉納した自覚はなく、手を合わせて拝んだり祈ったりした際に少量の魔力が流れて行くらしい。
ちなみに、龍脈の魔力を享受するゾッテ村の人間が、もう少し多く参拝して祠に魔力を奉納(厳密には返納)していれば、村と龍脈との繋がりが太くなり、龍脈の枯渇も、回避出来た可能性があったらしい。
「じゃあ、せっかくだし奉納もして行くよ」
「うむ。助かる」
私は景羅から祠の方へと体を向き直し、胸の前で手を合わせて目を瞑る。
「む、何故そっちを向くのじゃ。本体は妾じゃぞ?」
うん。わかってるけど、ついさっきまで話をしてた幼女に向かって手を合わせて拝むのは、ちょっとなんかアレな感じなので却下だ。
さて、どうせ普段から使い道もなく、無駄に余らせてる魔力だし、いい機会だから最大MPの半分くらい奉納しとこうかな。
神様としても、奉納される魔力の量は多いに越したことはないだろうし。
さて、それじゃあ行きますか。
(手を合わせて・・・魔力を、ほぉーー!!)
「ひゃっ!!?」
私が一気に魔力を送ると、景羅が変な声を出して少し仰け反った。
「あれ、驚かせちゃった?」
「ちょ、ちょ、おい、ナナ!!お前はなんちゅー量の魔力を持っておるのじゃ!てか、そんなものを全部奉納してしまって、ぶっ倒れてもしらんぞ!?」
「え、あ、うん」
予想外にも驚かれてしまった。
まだ半分残ってるとか、とても言い出せない感じだよね
神様相手なら多少の規格外っぷりはスルーしてもらえるかと思ったんだけど。
神様的にも私は非常識な存在らしい。
どんだけだよ、私。
「それじゃ、もう行くね」
「ああ・・・」
さて、今度こそさっさと帰ろう。
「いや待て、お前に一つ言っておくべきことが出来た」
「え?また?今度は何?」
早く戻らないと本当にマズイんだけど。
「今の大量の魔力奉納で、枯れた龍脈が復活したっぽい」
「・・・え」
0
お気に入りに追加
124
あなたにおすすめの小説
チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!
芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️
ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。
嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる!
転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。
新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか??
更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
しっかり者のエルフ妻と行く、三十路半オッサン勇者の成り上がり冒険記
スィグトーネ
ファンタジー
ワンルームの安アパートに住み、非正規で給料は少なく、彼女いない歴35年=実年齢。
そんな負け組を絵にかいたような青年【海渡麒喜(かいときき)】は、仕事を終えてぐっすりと眠っていた。
まどろみの中を意識が彷徨うなか、女性の声が聞こえてくる。
全身からは、滝のような汗が流れていたが、彼はまだ自分の身に起こっている危機を知らない。
間もなく彼は金縛りに遭うと……その後の人生を大きく変えようとしていた。
※この物語の挿絵は【AIイラスト】さんで作成したモノを使っています
※この物語は、暴力的・性的な表現が含まれています。特に外出先等でご覧になる場合は、ご注意頂きますようお願い致します。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
オタクおばさん転生する
ゆるりこ
ファンタジー
マンガとゲームと小説を、ゆるーく愛するおばさんがいぬの散歩中に異世界召喚に巻き込まれて転生した。
天使(見習い)さんにいろいろいただいて犬と共に森の中でのんびり暮そうと思っていたけど、いただいたものが思ったより強大な力だったためいろいろ予定が狂ってしまい、勇者さん達を回収しつつ奔走するお話になりそうです。
投稿ものんびりです。(なろうでも投稿しています)
嫌われ者の悪役令息に転生したのに、なぜか周りが放っておいてくれない
AteRa
ファンタジー
エロゲの太ったかませ役に転生した。
かませ役――クラウスには処刑される未来が待っている。
俺は死にたくないので、痩せて死亡フラグを回避する。
*書籍化に際してタイトルを変更いたしました!
プラス的 異世界の過ごし方
seo
ファンタジー
日本で普通に働いていたわたしは、気がつくと異世界のもうすぐ5歳の幼女だった。田舎の山小屋みたいなところに引っ越してきた。そこがおさめる領地らしい。伯爵令嬢らしいのだが、わたしの多少の知識で知る貴族とはかなり違う。あれ、ひょっとして、うちって貧乏なの? まあ、家族が仲良しみたいだし、楽しければいっか。
呑気で細かいことは気にしない、めんどくさがりズボラ女子が、神様から授けられるギフト「+」に助けられながら、楽しんで生活していきます。
乙女ゲーの脇役家族ということには気づかずに……。
#不定期更新 #物語の進み具合のんびり
#カクヨムさんでも掲載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる