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第二十二話「野営」
しおりを挟む「で、旅の話なんだけど」
ぶっきらぼうに話題を戻す。
俺は早く旅に出たいのだ。
「そうだったな」
「良いよね?」
「どうせダメだと言っても行くんだろ」
「まあね」
「なら好きにしろ」
「ありがとう。だからルビーさん大好きだ。愛してるぜっ」
「言ってろ」
真面目な話を軽口を混ぜながら話す。
俺とルビーさんの昔からのスタイルだ。
「なるほど……。『ルビ×サフィ』ね。この背徳感、悪くないわ」
後ろから、よくわからない事を口走るマリンの声が聞こえる。
何がなるほどだよ。
「マリン様、『サフィ×ルビ』と言う倒錯感もアリかと。御主人シャまはやはり、御主人でシュので」
まさかのエミィ参戦だ。
それによってマリンの妄想がこれまでにない程の盛り上がりを見せ始める。
なんだこのバカバカしい展開は。
そういえば、エミィが腐属性持ちだったのを忘れていた。てか、さっきまでルビーさんにガクブルしてなかったっけ?
なんで急に絶好調なんだよ。
「あーなるほど。御主人様とお館様ってわけね。なかなかやるじゃない」
そう言って、マリンは親指を立てた腕を前に出し、エミィに向かってサムズアップのポーズをとる。そしてニヤリとニヒルに笑う。
それを見たエミィも同じくサムズアップのポーズをとり、ニヤリと笑ってマリンに返す。
お前ら仲良いな。
◇
それから話は二転三転し、とうとう最終的には、「もう、お前らめんどくさいからさっさと出発しろ、シッシッ」というとても感動的な別れの挨拶で幕を閉じる事になった。
結局俺は、強敵ルビーさんを相手に戦いながらも、余計な事しかしない仲間達に翻弄され、ルビーさんは最後まで騒がしい俺達に散々振り回されて、無駄に疲れさせられ、エミィは終始、緊張したり、怯えたり、調子に乗ったりと大忙しで、マリンに至っては、最初から最後まで大いに楽しんでいる様子だった。
「それじゃ、行きましょうか!」
お前はすごいよ。
◇
ルビーさんとの感動的な別れの挨拶も終え、ようやく出発する。
「おい、マリン」
「嫌よ!御者なんて絶対しないんだから!」
衝動買いで金貨を無駄遣いした罰として、当分は御者のはずのマリンだったが、何を思ったかエミィを抱き抱えて荷台の隅で籠城戦を繰り広げていた。
「何やってんの。ほら、マリンはこっち」
「近寄らないで!それ以上近づいたらこの子の命がないわよ!」
「ご、ご主人シャまーっ!!!」
そんなくだらない事をやりながらも、結局俺が操車する事になった馬車は悠然と走り出し、ベイクの町を後にした。
「ところで、まずは何処に向かうの?」
「王都だよ」
俺たちが最初に向かう場所は、このイヴニール王国の首都、王都イヴルヘイムだ。
「そっか。王都で冒険者登録もしないとダメだもんね」
「ベイク村には冒険者ギルドがないからね。あと、エミィの年季の入ったギフトカードも再発行しないとな。さすがに不自然だし」
「よ、よろしくお願いしまシュ」
王都までの道のりは、約一ヶ月。
旅の目的の世界樹へ向かうのなら少し遠回りというか、寄り道になってしまうのだが、旅の最初にしておかないといけない事がいくつかあるので仕方ない。
予定ではまず、ベイク村から十日ほどの距離にあるゾッテ村へと向かい、そこで食料や備品などを補給する。
そして、主街道から外れて市街道を使い、二十日ほどかけて王都へ向かう。
市街道を使うのは、主街道で行くよりも十日分ほど距離を短縮出来るからなのだが、本来なら立ち寄る事になるエンドラーゼ市には立ち寄ることができなくなるので、ゾッテ村での補給が重要になってくる。
なので、ゾッテ村に着くまでにはある程度、旅に慣れておかなくてはならない。
少なくとも、出発直前になって旅の許可で揉めたり、人質立て篭もり事件でぐだぐたしたりと、そんなくだらない事で無駄に時間を使っているようではダメなのだ。
予定していた距離の半分も進めていないが、辺りがだんだんと暗くなって来た。
明日からはちゃんとやろうと心に決めて、今夜はこの辺で野営をすることにする。
「野営なんて初めてだから、ちょっとワクワクするわね!」
「最初だけだよ」
「ワクワクでシュ!」
「お前もか」
すっかりピクニック気分の二人は、元気よくテントの設営やら、石を集めて焚き火でカマドを作ったりしていた。
俺はと言うと、そのテントのちゃんと組めていないところを直したり、崩れ始めているカマドの石を補強したりしている。
しかし、さすがに料理に関してはマリンは完璧だった。
よくもまあ、こんな調理器具だけであんなに手際よく料理が出来るもんだと感心するほどだった。
エミィに関しては、彼女はもともと食事を必要としない種族だったので、料理が出来ないのは仕方ないのだが、何かの琴線に触れたのか、マリンから色々と教わっているようだった。
久々にマリンのご満悦な表情も飛び出し、旅を始めて最初の野営は、とても楽しげなものとなった。
その後2人は仲良く就寝し、結局俺が朝まで火の番をする事になったが、2人の寝顔で勘弁してやることにした。
翌朝。
「さあ朝食よ!エミィちゃんも手伝って!」
「はい!マリン姉シャま!」
相変わらず元気よく、朝食作りに取り掛かる2人。いつの間にかマリンがマリン姉シャまと呼ばれるようになっていた。
料理がきっかけか、それとも昨夜テントの中でずいぶん盛り上がっていたガールズトークがきっかけはかは分からないが、随分と仲良くなったようだ。
何気にマリンもエミィの事をエメラルドじゃなくエミィと呼ぶようになっていたしな。
実は、なんだかんだ言って一番壁を作っているのがマリンだったりするので、これはなかなかいい傾向だ。
「へえ、これは美味いな」
朝食に出て来たのは、見た目はなんの変哲も無い普通の野菜スープだったが、予想以上に美味かった。
「でしょ?」
マリンがドヤ顔で答える。
しかし、これは確かにドヤ顔にもなる美味さだ。
「ああ。全然食べたことのある味なのに、格段に美味い。なんだこれ」
「フフン、秘密っ!」
「フフン、なのでシュ!」
随分と得意げだが、どうも種明かしをするつもりは無いらしい。うーん、気になる。
様子からして、エミィも協力しているっぽいので、あとでそちらから攻めてみよう。
◇
「それじゃ、出発するわよ」
朝食も終え、野営の後片付けを済ませると、早々にマリンが御者台に乗り込んだ。
「あれ?御者は嫌なんじゃなかったのか?」
「いいのよ。サフィアは後ろで寝てなさい」
「居眠り運転は危険なのでシュ」
ああ、そう言うことね。
2人は、朝まで俺一人に見張りをさせてしまった事を悪いと思っているようだ。
「じゃあ、お言葉に甘えようかな」
「ええ。お昼ご飯の頃には起こしてあげるから、それまでは好きなだけ寝てなさい」
「おやすみなさいなのでシュ」
俺は2人に礼を言って、荷台で横になって少し眠る事にした。
寝ようとした時にマリンが、「抱き枕いる?いるなら貸すわよ?」とか言って来たが、それ絶対エミィの事だろ。勝手に抱き枕にしてやるなよ。って、貸すってなんだよ。お前のじゃ無いぞ?
エミィもエミィで「い、いりまシュか!」って、何で期待顔なんだよ。
確かに抱き心地は良さそうだけど、さすがにそれは遠慮しておこう。
そうして俺は馬車に揺られ、あっという間に眠りについてしまった。
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