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第65話 異世界ショッピング

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「ふわああぁ。……あれ?今何時??なんだかすっかり明るくなってるんだけど。もしかしで、もうお昼??」

 私は窓から差し込む光を見ながら、ゆっくりと身体を起こす。

 昨日はあれから、私とトコは宿屋に戻り、特に何か話をするわけでもなく、チャチャっと翌日の準備を済ませ、床に付いてしまった。
 やはり、体はそれなりに疲れていたのか、私はすぐにに眠りに着いてしまった。

 そして今、その眠りから目覚めてみれば、どうやらすっかり寝坊をしてしまっていたようだ。
 まあ、別に誰かと用事の約束があったわけでもないので、特段問題はないのだが。

 窓の外からの光で目覚めた私は、体の疲労感は多少残っているものの、すっかり気力は回復し、十分な睡眠が取れただろう実感が感じられる。
 窓の外はすっかり明るく、すでに太陽は天辺まで昇りきっており、この体の怠さは、恐らく寝過ぎた事によるものだろう。
 まさに、休日の朝といった感じだ。

「さて、いつまでもダラダラしてないで、さっさとやる事をやっちゃわないとね」

 私はそう言い、ベッドから降りると、いつもの鍛治師装備に着替え、出かける準備に取り掛かる。

「とはいっても、ローブを羽織るくらいだけど」

 突然、この世界に召喚された私には、衣類はこの世界に来た時に着ていたものしかない。
 いくら冒険者だからといえ、流石に替えの衣類がないのはちょっと厳しい。
 まあ、裁縫スキルのおかげで、ちぎれてボロボロになった袖も直せたし、最悪、この一着だけでも何とかなるちっちゃなるけど、でも、女子としては、それはどうかと思うよね。

 というわけで、今日は街に繰り出す事にしよう。
 本来の目的に加えて、身の回りの生活用品を揃えるのだ。

「取り敢えず、手持ちの10万ゴールドがあれば一通りは揃うでしょ。まあ、このお金は生産者ギルドから融資されたものだけど、これも必要経費という事で」

 そんな事を考えながらも、私は手際よく着替えと身支度を整え、そして、腰につけたポーチに視線を移す。

「トコ、もう朝だよ。いや、正確にはとっくにお昼を過ぎてるけど。そろそろ出といで」

 私は、ポーチの中にいるトコに向けて、そんな言葉で呼びかける。

 この部屋は、もともと私が取っていた一人用の部屋なので、当然ベッドは一つしかない。
 トコくらいなら一緒に寝ても問題は無かったが、どうも一人で考えたいことがあるとかで、さっさとポーチの中にはいっていってしまった。
 ポーチの中の寝心地ってどうなんだろう。
 そもそも、魔道具であるトコにも睡眠する必要はあるのだろうか?

 私がそんな事を考えていると、目の前の空間が一瞬歪む。
 そして、その歪んだ空間から、突然トコが現れた。

「ん。エト寝すぎ」
「ごめんごめん。トコはゆっくり寝れた?」
「??……ん」

 どうやらトコも寝るらしい。
 まあ、適当に答えただけなのかもしれないが。

「そう。なら良かった。じゃ、いこうか」
「ん?どこに行く?」
「んー、ショッピング?で、そのあとお仕事。要するに、トコと楽しくデートだね」
「ん。よくわからないけど、わかった」

 うん。やっぱり適当だったらしい。



 さて。やってまいりました商業区のメイン通り。

 並んでいるお店はゲーム時代と全然違って、ありとあらゆるものが、この区画で揃ってしまう。
 現実世界でのショッピングモールなんて目じゃない程の、なんでも有りの品揃えの豊富さだ。

 普通の女子高生よろしく、私もウインドウショッピングは大好きだ。
 なので、このまま日が暮れるまでウインドウショッピングを楽しむ事は可能だが、今日は他にやる事もあるので程々に抑えておく。
 そもそも、あの地下工房のリフォームが終わらない事には買っても置く場所がない。
 まあ、置き場所に関しては、ポーチに入れればどうとでもなるんだけど、いやいや、そういうこっちゃない。
 買って、帰って、広げて、キャッキャするまでがワンセットだ。
 一旦寝かせておくなんて有り得ない。

 取り敢えず、すぐに必要ですぐに使えるものだけ買って行く事にする。
 そう、まずは衣類やタオルなどの衛生用品。
 あとは、歯ブラシや髪櫛、目覚まし時計etc……。

「エト、ちょっと買い過ぎ。しかも服ばっかり」

 私が意気揚々と買い物をしていると、隣に並んで歩くトコからそんな言葉をかけられた。

「ん?いやあ、でもこんなの見せられたら仕方ないでしょ。流石ファンタジーの世界だよね!」
「??」

 私はこの世界の裁縫技術を舐めていた。
 裁縫技術もそうだが生地のクオリティも半端ない。
 よく考えればそれもそうだ。
 ここはゲームの世界の要素が混じった世界。
 ゲームのイベントムービーなどでよく見ていた、美麗な3DCGによって表現される、あの、素敵な衣装達が、いま、現実に目の前に存在するのだ。
 可愛く結われたリボンの大きな輪っかも、自重でダラリと落ちる事なく、背中に垂らした格好いいマントも、風もないのにふわりとたなびく。
 もはや、技術や生地の問題でもないような気もするが、そんな事は考えてはいけない。

 そんな謎技術によって作られた、この数々の衣服達に、私のタガが外れてしまったとして、誰が責められると言うのだろう。
 いや、責められない!

「でも、そんな大量の服、どうするつもり?それにその服、フリフリだらけで動きにくそう。あんまりエトっぽくない」
「ん?ああ、大丈夫。それで問題ないんだよ」
「??」

 私の答えに、首を傾げるトコ。
 ふんふん、どうやらまだ気付いて無いようだね。

「だってこの服、ほとんどトコの服だもん」
「……ん。……ん?」
「そう、これは絶対トコに似合う!間違いなく似合うから!!これでトコの可愛さは限界突破間違いなし!いや!天元突破だね!!ねえ、どれが一番似合うかな!?あー、そうか!きっとどれも似合っちゃうよなあ!!困った!!これは困った!!あたたたたぁ~!!じゃあ今日はどれの気分!?どれが着たい気分かな!?たぶん、この辺りかな!いや!こっちも捨てがたいな!!いやいや!こっちも悪くない!!ねえ、どれがいい!?!?!」
「……」

 私の矢継ぎ早な捲し立てに、トコはちょっと引き気味だ。
 トコったらもう、遠慮なんていらないのに。

「エト」
「ん!?決まった!?どれ!?!どの服!?」
「キモい」
「あ、うん。そう言うのいいから、ねえ、どれよ、どれ!?!?どれにする!?!?」
「えええぇ……」
「ん?これ?これね!?そっかそっか!うん!悪くないね!いや、いいね!」
「……エト。周りを見る。凄いギャラリー」
「ほえ?」
「……マイナス5万点」





「エト、正座」
「は、はいぃっ!」

 私とトコはあの後、群がるギャラリー達の元から逃げるように駆け出し、そのまま例の地下工房へと逃げ込んだ。

「いやあ、ごめんごめん、興奮し過ぎてちょっと熱くなっちゃったよ」
「……」

 取り敢えず、今日のウインドウショッピングは一旦中止となり、ご機嫌斜めなトコに説教を受けつつ、何とか宥めようと必死に努める。

「ねえ、機嫌直してよトコ。今度スイーツが人気のお店に連れて行ってあげるから。ね?その時は何でもいくらでも頼んでいいから、だから機嫌直して?お願い」
「……」
「ねえ、ほんとごめんってば。私もちゃんと反省してるから、ね?ね?」

 私はそう言い、手のひらを合掌させて、お願いのポーズでなんとかすがる。
 そんな私の目の前には、先ほどの店で購入した、ひらひらふりふりの超絶可愛い洋服を着た、超絶可愛いトコが、ジト目でこちらを睨みつけながら、仁王立ちで私の顔を見下ろしていた。
 うん、やっぱり可愛い。

「……結局こんなの着せといて、どこが反省?」
「いや、なんというか、こればっかりはやっぱり抑えきれなくて」

 やはり、嫌がるトコを無理やりどうにか言いくるめて、この服を半ば強引に着せてしまったのが良くなかったのか、すっかりトコはおかんむりだ。
 でも、私は後悔していない。
 イヤイヤ抵抗しながらも、ちょっと嬉しそうな顔をした瞬間を、私は見逃しはしなかった。
 まあ、余計に怒りそうだから言わないけどね。

「……二度目はない。スイーツの約束は必ず守る。破ったら許さない」
「もちろんですとも!」

 やはりトコも女の子。
 スイーツの魅力は絶大だった。



 と、言うわけで、ようやくトコのお許しをいただき、そしてここは例の地下工房。
 これから私達が寝ぐらとする、鍛治工房兼、店舗兼、住居となる場所だ。

「で、なんでここ?」
「まあ、もともとウインドウショッピングはおまけのつもりだったからね」
「おまけ?」
「そう。今日やる予定だったのは、ゲラルドさんの大工道具の修理。出来れば早く直してあげたいからね」

 そう。私の今日の目的は、ゲラルドさんの大工道具の修理をする事。
 大体、あの鉱山に行くことになったのは、この大工道具を修理する為の素材を探しに行くためだったからね。
 ルビーという名前のGMと、カラミティの行方の情報集めはその後だ。

「ん。そう」
「そうそう。だからトコは、終わるまでちょっと待っててね」
「ん?私は使わない?」
「うん。今日はここの設備でやるよ。この槌だけならともかく、トコの金床まで使っちゃうと、大工道具が神級道具になっちゃいそうだし」
「……ん。わかった」

 大工道具の修理に関しては、修理素材もあるのでそれほど難しい事はない。
 それよりも、トコが金床に変形されては、せっかく着せた超絶可愛い洋服がビリビリに破られてしまいかねない。
 わりとその服、高かったんだから。
 ま、裁縫スキルで直せるとは思うけどね。

「じゃあ、始めるよ」
「ん」
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