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第55話 穂月

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 この神剣エターナルには、一つの想いが込められていた。
 
 それは、この武器を使う、チームの仲間たちへの私の想い。

 槌に打たれ、ひび割れて、剥がれ落ちた神剣のカケラに込められた、仲間に対する感謝や信頼、尊敬や憧れ。そして、大好きなみんなとの楽しかった想い出。
 そんな様々な感情と、それらを紡いだ多くの思い出が、まるでアルバムのように、私を忘れないでと言う願いと共に、それには強く刻まれていた。

 そんな“想い“の込められた神剣のカケラを、私はこの槌で何度も打ち付け、そのアルバムの最後のページに、『必ずもう一度会いに行く』という希望と約束の想いを追加した。
 そして、その“感謝と願い“の想いが、“希望と約束“の想いに変わったその時、神剣のカケラ達は、真っ赤に燃えたぎるマグマとなって、宙を漂い、そして、一つの球体へと集束した。

 しかし、神剣エターナルに込められていたのは、そんな仲間への想いだけでは無かった。

 私の槌でも砕けずに、ボロボロになりながらも、カケラとなって溢れ落ちず、折れずに残った芯の部分。
 そこにあるのは間違いなく、私の心の、芯の部分と同じ物。

 鍛治師としての私の“魂”が込められている。

「間違いない。私の作った神剣に、私の想いが宿ってるんなら、それが無いのはあり得ない」

 私の、鍛治師としての想いの全て。
 私が鍛治師である事のプライドや情熱の全て。
 私の一番大事な部分。
 ひいては私の、神級鍛治師エトとしての、そして、鍛治師の父に憧れる、詠村月穂としての“魂“だ。
 こそれはもはや、私の分身といっていい。

「こりゃ、確かに私じゃなきゃ打ち直せないわけだ」

 いま、私の目の前にあるのは、神剣エターナルに込められた、そんな私の魂そのもの。
 これから私は、それを打ち直さなければならない。
 神剣エターナルを、生みの親である私自身が、使えるようにする為に。

 エターナルを打ち直すには、今、そこに込められている想い以上の強い想いが必要だ。
 しかし、今そこに込められているのは、“想い“ではなく“魂“だ。
 それは先程のような、私から生み出された仲間に対する“想い“ではなく、それを生み出した私自身。私の“魂“そのものだ。

 と言う事は、必要なのは、そこに込められた私の魂を、超える魂……?
 
「いやいや、!そんなの意味がわかんないよ!!私の魂を超える魂とか、そんなのあるわけないじゃない!私は私。それ以上でもそれ以下でもない!これは私の魂そのもの。私の分身なんだから、いくらボロボロだからって、他の何かで書き換えたり、別のに作り替えたりしちゃいけない!だったら私に出来る事は一つだけ!!」

 私はそう言い、右手に握った槌を振り上げ、

「あんたは変わる必要はないし、私も変えるつもりはない!だから、私の魂を込め直す!!もう一度、私の想いを受け取って!!エターナル!!」

 そして激しく振り下ろす!

「——鍛治スキル【修繕】!!」

 その瞬間、槌と金床からは青い光が、そして私の腕からは真っ赤な炎が溢れ出す。

「あんたはそのままでいいんだよ!!」

 私はそう叫びながら槌を打ち込み、腕から溢れる炎と一緒に、私の想い、私の魂を注ぎ込む。

「ぐっ!」

 その瞬間、私の右腕に凄まじい衝撃の波が走り、そのまま吹き飛ばされそうになるが、私はギリリと歯を食いしばり、足を踏み込み、それを何とか堪え切る。

「私の分身、神剣エターナル。今はこんなにボロボロだけど、鍛治師だって同じだよ。炭に汚れて、熱さに汗して、何度も何度も槌を振って、それでも、納得できる物はそう簡単には出来なくて。たとえ、身も心もボロボロになっても、鍛治師にとっては折れない心が一番大事。だから、私は絶対折れたりしない!あんたを作った時の私はまだ、ゲームの中での鍛治しか知らなかったけど、実際の鍛治とは全然違うのはわかってるけど、それでも、鍛治師としての心なら、少しは成長してるはず!」

 私は打ち付けた槌を介しながら、叫ぶように、あるいは訴えるように、神剣エターナルへと語りかける。

「だから、それもあんたに分けてあげる!!」

 再び槌に力を込めそう叫ぶと、ボロボロだった神剣は肌を赤く燃やしながら、歪んで曲がり、そして所々欠けていたその剣身を、まるで私の言葉に応えるように、私の想いを取り込みながら、真っ直ぐで薄い、とても美しい剣へと変化させた。

「!?!?」

 私は思わず声を失う。
 そして激しく昂る感情を抑えきれずに、真っ赤に熱を帯びたそれを見て、まるで、自分の心も真っ赤に燃えているかのように、胸の熱さを感じていた。

「凄い……想像以上だよ……!!うん、いける!あとはこの私の魂と、私の想いを一つにして、世界で一つの私の相棒、今の私に出来る最高の武器に仕上げる!!」

 思わず私はそう叫び、握った槌を再び振り上げ、そして、最後の工程に移ろうと、視線をエターナルから外したしたその瞬間。

「!?えっ」

 私の手に握られた星砕の槌は突如青い光で輝き出し、そして、それを握りしめる右腕が、突然、前よりも黒く染まり出した。

「!!!!なっ!?これってまさか!!」

 これってまさか、……武器食い!?
 もしかして、覚醒した槌の本気の力に私の腕が耐えきれなくなってる?!

 星砕の槌を握る私の右腕は、みるみる速さで黒く染まり出し、次第に右腕の感覚が少しずつ失われ始めていた。

「ぐうううっ!」

 あと、もう少しで完成すると言うところで、まさかの星砕の槌による武器食いの発動。
 色の濃さもその範囲も、以前とはまるで違うが、明らかにこれは、あの時と同じ、武器食いの症状だ。
 恐らくこれはレベル制限。
 恐らく、覚醒した槌のランクが私のレベルを超えてしまった。

 くそ!!ここまで来て、こんなタイミングで!!
 せっかくここまで“想い”と“魂”に真正面から向き合ったのに!
 やっとあんた達を一つに出来ると思ってたのに!

 だめだ、武器食いの侵食が速すぎる!
 このままじゃ槌も握っていられなくなる!!

 くそ!……こんな所で終わりなんて……

「——って!これで諦めるなんて出来るわけないじゃない!、絶対しない!だってここで諦めたら、あんた達に必死で込めた私の想いも、注ぎ直した私の魂も、全部嘘になっちゃうんだから!!私は絶対、私を、あんた達を諦めない!」

 私はまるで、そう自分に言い聞かせるように、そして、私の込めた“想い“と“魂“に響かせるようにそう言い放つと、もう、ほとんど感覚のない右腕にありったけの力を込めて、再び槌を振り上げる!

「嫌だ!私は鍛治師だ!死んでも諦めてやるもんか!神級鍛治師エトではなく、一人の詠村月穂として、そんなの絶対、断固拒否だ!!“想い“と“魂“、あんた達だってそうでしょ!!だったらお願い!!こんな私に力を貸して!!」

 その瞬間、目の前の薄く伸びた綺麗な神剣が、まるで私の言葉に応えるかのように、突如真っ赤に燃え出した。
 そして、更にそれに呼応するかように、宙に漂うマグマの球体、私の“想い”が込められた神剣のカケラ達が、まるで“魂“に引き寄せられるように、その真っ赤に燃える薄い神剣を包み込んだ。

「あんた達……ありがと!!」

 マグマのように溶ける神剣のカケラ達は、その私の魂の込められた薄い剣身を包み込み、まるで溶け合うように、互いに結合し始める。

 目の前のそれは、今は、私の“想い“と“魂“が込められた、二つ素材に分かれているが、元々は一つの立派な剣だった。
 そこに込められている私の“想い“と“魂“の中には、私の強さと弱さも存在する。
 あの時、別れる仲間の為にと想いを込めて、鍛治師としての全力を出し切った、私の最後の最高傑作。

 そんな神剣の、恐ろしく硬く、鋭く、よく斬れる、“想い”の篭ったその部分も、何度も槌に打たれれば、割れて剥がれて落ちてしまう。
 それでも決して折れずに、割れずに、砕けずに、最後まで残った、“魂“の篭ったその部分も、何度も何度も打たれれば、凹み歪んで曲がってしまう。
 私も、あんた達も、決して完璧なんかじゃない。

 でも!!だからこそ! 

「そんなあんた達が一つになれば!!!折れず、曲がらす、よく斬れる、私よりもよっぽど立派な、最高の武器になれるはず!!今の私がもう一度、ちゃんとあんたを打ち直す!!」

 私はそう言い、最後の力を振り絞る。
 その握った槌は決して離さず、私の意地と覚悟を込めて、大きく腕を振り上げる。

「これがホントに、最後の最後!!!」

 その叫び声と共に、私の右手の星砕の槌は勢いよく真下へと振り下ろされ、


 “キーーーーン!!!“


 甲高い金属音と共に、神剣エターナルへと打ち込まれた。

 その音は、かつて聞いた事のある金属音。
 あの時、エターナルを完成させた時にも聞こえてきた、とてもとても懐かしい音。

 そして、そんな金属音と共に、辺りは眩い程の白い光で埋め尽くされた。

 私は目を閉じ、そしてゆっくりとその目を開ける。

 すると、辺りを覆っていた白い光は徐々に消え、そして、完全にその光が消えた時、そこには大きく姿を変えた、世界で一つの細身の剣が、鈍色の大きな金床の上で、白銀に輝きながら、凛と静かに佇んでいた。

「……おかえり。私の相棒」

 それは、片側のみに刃を付けた、反りのある、一振りの刀。
白い入道雲が写り込んだかのような、美しく波打つ波紋が描かれた、私の思い描いていた、私だけの特別な剣。
 
 目の前にウィンドウが表示される。



 武器名:神刀・穂月
 種類:詠村月穂 専用武器【刀】
 攻撃力:8635 
 耐久力:5762 
 武器ランク:S+ 
 生産者:詠村月穂



 私の思い描いていた、世界で一番の最高の刀。

 昔、一度見せてくれた、お父さんの最高傑作、【穂月】。

 こっちでは、神刀らしいよ。



 私はそんな事を考えながら、膝から崩れ落ちるように、その意識を手放した。
 

 
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