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第53話 魂
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「え、うそ……」
私の予想とは裏腹に、アランの盾は壊れる事なく、見事にカラミティの攻撃を受け止め、そしてそのまま弾き返してしまった。
どう考えてもあの盾にはカラミティの攻撃を受け止める強度はなかったはず。
私はその光景が信じられず、思わずアランとアランの持つ盾に視線を交互に行ったり来たりとさせてしまう。
アランに怪我もないし、盾も砕けず形を保っている。
何がどうなればそんな事に??
「アランさん……なにやったの??」
「いや、正直私も驚いてるところよ……。勢いでああは言ったものの、流石に盾が壊れる事は覚悟してたもの。なのに……」
アランも流石に驚いた様子で、未だ盾の形を保つ盾と、自分の体を見ながら戸惑いの様子を隠せないでいた。
アランの盾を見てみると、そこには先程よりも更に細かいヒビが無数に増え、もはやそれは、粉々に砕け散った盾の破片を集めて出来た数万ピースの立体パズルのようだった。
破片を集めて接着剤で無理やり固めたような、そんな状態だ。
「……あ、そう言えば。あの時、私の盾と身体が一瞬光ったような……。エトちゃん、私に何かした?」
「ううん、してないけど。でも、確かに光ったのは私も見たよ」
確かにあの時、アランが盾でカラミティの攻撃を受けるその瞬間、アランの盾と、アランの身体の周り全体に光の膜が発生していた。
そう言えばあの感じ、どこかで見た事があるような……。
もしかして、私の時みたいに盾が覚醒??
いや、確かに槌の覚醒の時も光りは出たけど、それとは全く違う感じだ。
「……まあ、ひとまずいいわ。不吉な感じはしないし、壊れなくった事を喜びましょう」
「う、うん……」
いや、それ、もう壊れてるようなもんなんだけどね……。
さっきは何とかなったけど、流石にもう次は……。
アランはそう言って強引に気持ちを切り替え、次の攻撃に備えて盾を構える。
しかし、何か違和感を感じたのか、構えを解いて改めて手に持つその盾を見つめた瞬間、アランの顔に、少し苦い表情が浮かび上がった。
流石のアランも、これ以上は無理だと理解したようだ。
「参ったわね。見るんじゃ無かったわ……。でも、さっきだって何とかなったんだし、せめて最後にもう一度だけなら……」
「いや、それはもう、さすがに……」
「——何言ってんの。ダメに決まってるでしょ」
「え?」
「!?」
それでもまだ諦めようとしないアランに対し、私が止めに入ろうとしたその瞬間、近くから聞き覚えのある声が聞こえてきた。
思わず声の方に振り返ると、そこには意外な人物の姿があった。
「え?シーラさん!?」
そこにいたのは、ガルカンのクランメンバーであり、クラン唯一の回復術師、シーラさんだった。
急いで駆けつけて来たようで、少し息が乱れている。
「え!?なんで!?てか、いつの間に!?」
「話は後よ。今のは本当に危なかったんだから」
シーラは私の問いに短くそう答えると、すぐに表情を切り替え、アランの方へ顔を向ける。
「無茶し過ぎって言いたいところだけど、よくやったわ。でも、もうダメよ。今のは強化魔法が間に合ったから何とかなっただけなんだから。私から見てもその盾はもう無理。次の攻撃は防げないわ」
「なるほど。あの光はそう言うことね。感謝するわ」
シーラの言葉に、アランはそう答えるが、その表情を見る限り、やはりまだ諦める気は無さそうだ。
先程の攻撃を凌げたのが強化魔法のおかげと言うのはわかったが、その前からアランの盾の耐久値は0になっていた。
強化されていたとは言っても、それはあくまで補助的な効果でしかなく、盾の状態は確実に悪化していた。
戦闘職でもないシーラが見てもダメだとわかる程の状態だ。
しかし、その状態で盾の形を保っているのはやはりおかしい。
ずっと考えていたが、どうしてそんな事になっているのかはずっと理解できなかった。
しかし、一つだけ思い出したことがある。
この現象、私は何処かで見た覚えがある。
そう、ゲラルドさんの大工道具だ。
あの道具たちも、耐久値が0になっていたのに、砕けずに形を保ったままだった。
ならば、その大工道具とこの盾に、何か共通しているものがあるはずだ。
その共通点とは何か。
それを考えると、答えは驚くほどすぐに出た。
それは、想いの強さ。
どちらも、その持ち主がその職に着いた時からずっと使っていたもので、言ってみれば、自分の魂が篭っていると言っても過言ではない程だ。
そう考えれば、私の神剣も強い想いの込められた、魂の宿った
武器だと言えるだろう。
それに、トコやカラミティのようなインテリジェンスアイテムも、知性ある魂の宿った魔道具だ。
この世界はゲームの影響を多分に受けた、まるでファンタジーを絵に描いたような世界だ。
そんな世界において、この因果関係をただのこじつけだと考える事は、今の私にはとても難しい。
「取り敢えず、その盾はもうやめときなさい。あなたは十分頑張ったわ。エトちゃん、あとは任せて大丈夫?」
「え?あ、うん。行けるよ。でも……」
この状況において、恐らくシーラの判断は正しい。
いくら魂の篭ったあの盾でも、次の攻撃に耐えられるとは思えない。
しかし、それではアランの今までの頑張りが無駄になってしまうような気がして、少し後ろめたい気にもなってしまう。
だからと言って、私が出なければアランを危険な目に遭わせてしまう。
やはり、ここはシーラの言う通り、私が出るしか……
「ダメよ!向こうもあともう少しなのに。そんなことしたら折角の流れが無駄になるわ!盾もまだ壊れては!……」
「アランさん……」
アランはそれでも抵抗しようとそう言うが、改めて自分の手に持つ盾を見て、思わず言葉をつまらせた。
アランもその盾がとっくに限界を超えている事に気づいていないわけがなく、それゆえ、それ以上は強く出れず、歯噛みをしながら顔を歪めた。
アランは決して意地になっているわけではない。
私達全員が生きて帰るために、あのカラミティを倒すために、自分の危険を承知の上で、命をかけた覚悟の上で言っているのだ。
そんなアランを前に、私は何も言えなくなり、思わず視線を逸らしてしまう。
しかし、こうしている間にも、すぐに次の攻撃は来てしまう。
こんなところでモタモタしているわけにはいかない。だけど、でも……。
「まったく……。ねぇ、あなたアランとか言ったわね」
「!?え、ええ」
そんな私の焦りを感じ取ったのか、シーラは一つ、大きなため息をついた後、アランの方に顔を向けて話しかけた。
「あなたがエトちゃんを出したくない理由は私も理解はしているし、間違ってはいないと思うわよ。でも、私からすればかなりどうでもいい、くだらない事なのよね」
「……くだらない、ですって?」
そんなシーラの言葉にアランのまゆはピクリと跳ね、そしてシーラを睨みつけるように鋭い視線で顔を向けた。
「そうよ。確かにエトちゃんを見ていると保護欲をそそられるし、それを原動力に勢い付かせるってのは別にいいとは思うわよ。特にあの三人はそう言うのが好きっぽいし、上手くハマってると思うわ」
「だったら!」
「でもね、」
シーラはそう言って言葉を区切ると、アランの目をしっかりと見据えながら、言い聞かせるように言葉を続けた。
「でもそれは、あの三人を奮起させるきっかけでしかないわ。いつまでも護衛クエストごっこの様な遊びみたいな事されてても困るのよ。この状況で何をあの三人は気持ちよくなって戦ってんのよ。どうせなら私も混ぜなさいよね!ホント、前衛の冒険者はみんな単純で自分勝手なんだから。全くばかばかしい」
「……」
「シーラさん……ちょっと言い過ぎ……てか、なんか私情も混ざってたような……」
シーラの遠慮なしの暴言に、私は思わず間に入って取り繕うとするが、シーラの勢いは止まらない。
「そりゃ、このままあなたが最後までエトちゃんを守り切れれば、それが一番いいんだろうけど、あなたもここまでの流れを見てたでしょ。最後までそんなに上手く行くわけが無いじゃない。むしろ、今の状態は上手く行き過ぎなくらいなんだから。言っとくけど、あなたの力が足りないとかそう言う事を言ってるんじゃないわよ。少なくとも、この流れを作ってここまでやれてるのはあなたのおかげで間違いないわ。ただ、あなたはあの三人を見くびり過ぎよ」
「……どう言う事」
「こんな展開、向こうの三人は百も承知だって事。見てなさい」
シーラはそう言うと、体を戦闘中の三人の方へ向ける。
「シーラさん、何するつもり?」
「ん?作戦会議」
「は??」
シーラは一言そう言葉を返すと、戦闘中のガルガンに向かって大きな声で声を飛ばした。
「ガルカン!!何をチンタラやってんのよ!こっちはもう、盾が限界よ!!あと、アランが無茶し過ぎ!!」
「ちょ!シーラさん!!」
突然シーラがこちらの状況を大声で伝え始めた。
こんなの、カラミティに次を撃ってくれと言っているようなものだ。
「おう!!だろうな!!!こっちもだ!!取り敢えずアランは後ろに引っ込めとけ!!これ以上は俺らの株を奪い過ぎだ!!」
シーラの呼び掛けに、そう答えるガルカン。
シーラの言った通り、こうなる事は予想済みだったようだ。
そして、アランの活躍は、ガルカンにとっても想定以上だったらしい。
「おい!!テメェら!準備は出来てんだろうな!!やっとテメェらの出番だせ!!まあ、肉壁だけどな!!!気合いを入れて女子供を守りやがれ!!!」
「「「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおお!!!」」」」」」」
ガルカンの大音声の掛け声と同時に、待ってましたと言わんばかりに叫びながら、こちらへと雪崩れ込んでくる冒険者達。
ガルカンのクラン【動猛獣の牙】のメンバー達はもちろん、アラン以外の【エルヴィン桃源郷】のハーレムメンバー達も、あちらこちらから同時にこちらへ向かってくる。
「うわ、うわ、すご」
そして各所から駆けつけて来た冒険者達は、こちらに着くと瞬時にフォーメーションを組み、私達を守る様に一瞬で壁の陣形を作り上げた。
「すごいでしょ。うちのクランの連携力と団結力はかなりのものよ。リーダーのガルカンは凄いバカでアレだけど、何故かカリスマ性だけはピカイチだからね」
「うん、まあ、わからなくはない……」
私が冒険者達の機敏な動きに驚いていると、シーラは若干ドヤ顔で私にそう説明をして来た。
確かにガルカンは一癖も二癖もある性格だが、それがカリスマ性だと言われれば妙に納得できてしまう。
強さは文句なしに飛び抜けてるし、あの癖のある性格も、決断力のあるリーダーシップと捉えれば、前衛冒険者としては憧れや尊敬の対象として映るのだろう。
ここに来て、私の中でのガルカンの評価は、前より少し上がったかもしれない。
「彼らクランメンバーは何があっても対処できるように、バラけて待機してたのよ。この陣形も、前もって決めていた陣形の一つよ。たしか、【守りの陣・極】だったかしら」
「ほう」
「まあ、極みも何も、ただ壁になる様にそれっぽく並んでるだけなんだけどね。“極“以外のバージョンも見た事ないし。まさかあんな、“カッコいい陣形の練習“や、“派手でイカした連携フォーメーションの練習“が本当に役に立つなんて、思っても見なかったわ」
「な、なるほど」
やはりガルカンはガルカンだった。
ついでに、クランメンバーの大半が何故か男の前衛冒険者ばかりだった事にも、私は激しく納得できてしまった。
同じクランメンバーであるはずのシーラが、ガルカンに対してはわりと雑な扱いだったのも、大いに納得できてしまう。
ちなみに、アランも冒険者から予備の盾を借り、ほかのハーレムメンバー二人と共に、その陣形に混ざっていた。
なるほど。飛び入りのメンバーも普通に混ざれるような、なかなかに自由度の高い陣形のようだ。
「それじゃ、最後の仕上げと行きますか」
「仕上げ?」
「そう。この肉壁全員に、強化魔法をね。彼らは馬鹿だから本当に全員で来ちゃったでしょ?敵からしたら、強力な一発で一網打尽出来る、大チャンスよ。まあ、流石にないとは思うけど、一応それなりの備えは必要なわけ」
「なるほど……」
確かに言われてみればその通りだ。
あのカラミティなら無いとは言えない。
どんな可能性も、カラミティに限ってはどんな事でも否定はできない。
「でも、今更だけど、強化魔法って回復術師が使えたっけ?」
「いいえ。強化魔法は付与術師の専門だもの。回復術師は治癒と解毒と、あと、解呪とかの神聖魔法くらいね」
「だよね。え?じゃあ誰が強化魔法を?」
「そりゃ、もちろん付与術師様よ」
「??」
シーラはそう言うと、私達とカラミティのちょうど中間あたりで防御の陣形を作っている、冒険者達の方へと顔を向けた。
そして、それに釣られるように私も視線を動かすと、その陣形の少し後方でポツンと立つ、一人の少女の姿が確認できた。
あ。あれって……。
そこにいたのは、まるで冒険者らしくない格好をした、私と同じくらいの年頃の女の子。ごくごく普通の質素なワンピースを着た、清楚ながらもどこか凛々しく、短い栗色の髪がとても印象的な、それは、サフィアの妹、マリンだった。
「そろそろ良いわよ!余裕があれば前の三人にもお願いね!マリンちゃん!!」
「はい!!」
シーラの呼び掛けにマリンは短くそう答え、ピンと両手を前に突き出し、少し何かを念じたその瞬間、冒険者達の身体の周りに光の膜が発生した。
「まさか、その付与術師ってサファイアの妹さんの事!?」
「そうよ。しかも、あの子は相当な才能の持ち主よ。私のかなり曖昧な教え方でもあっさり習得しちゃったんだから。兄妹揃ってとんでも無いわね」
「そりゃ、とんでも無いね……」
まさかサファイアの妹が付与術師だったとは。
サファイアからはそう言う話は聞いていなかったし、話の感じでは付与魔法も今日初めて覚えたっぽい。
もしかしたら、彼女の患っている魔力欠乏症は付与術師として覚醒するための副作用か何かだったのかもしれない。
「出来ました!このまま、前線にも撃ちます!!」
私がそんな事を考えていると、マリンはそう叫びながら伸ばした腕を少し上げ、カラミティと戦う三人に向けて再び強化魔法を発動した。
「プロテクション!!」
マリンの放った強化魔法は、真っ直ぐ三人の元へと飛んでいき、縦横無尽に動き回る三人の体へと、的確に命中した。
「凄い……」
「ええ。あんなの私でもそこそこ難しいわよ。ほんと、末恐ろしいわね。でも、無茶し過ぎね」
「??」
シーラはそう言うと、素早くマリンの元へと駆け出し、それと同時に、マリンは身体を左右に揺らして、その場に膝をついてしまった。
「マリンさん!?!?」
それを見た私は思わずそう叫び、シーラと同じく飛び出そうとしたその瞬間、まるでそんな私の行動を静止するかのように、後ろの方から誰かが私の服を引っ張った。
「え!?」
私は驚き、思わずその場で振り返る。
「エト、慌て過ぎ。マイナス20点」
「トコ!?」
振り返ったそこにいたのは、毎度神出鬼没なトコだった。
「え、トコ、ポーチの中で休んでたんじゃ?もう平気なの?ってか、今はそれどころじゃ……」
「それはこっちのセリフ。良いから落ち着く」
「え、いや、でも」
わたしは訳がわからずに、服を掴んだままのトコの手も振り払えず、顔だけマリンの方へと振り返ると、マリンはシーラに支えられながらも、ゆっくりと立ち上がっていた。
病み上がりな上に、慣れない魔法を無理に連続で使ったせいで、立ちくらみのようなものを起こしただけのようだ。本当に無茶をし過ぎだ。シーラさんがマリンにそんな感じの説教をしているので、取り敢えずすぐに私が駆けつける必要はなさそうだ。
「エト、まずいことになった」
「え?」
「ガベルがイライラし始めた」
「……は?」
いや、イライラも何も、カラミティは最初からずっと敵意丸出しだったよね?
今更イライラとか言われても……
と、そんな事を思ったその瞬間。
「グアアアアア!!!貴様らアアアアアアアアアアア!!!!次から次へと小賢しい事ばかりしおって!!!!!人間ごときが調子に乗るな!!!!!」
「ぐあっ!!」
「おいおい、何だよこりゃ!!!」
「焦るな!!落ち着けばまだ何とか出来る!!」
私は突然聞こえてきたカラミティの叫び声と、それに驚くガルカン達の声に思わず驚き、身体を肩から跳ね上げる。
そして、即座に声のした方へと振り返ると、完全に連携を失ったサファイア達三人と、ドス黒い魔力を身体中から放つカラミティの姿を見て、大きく目を見開いた。
「ガベルは基本的に怒りっぽい。でも、本気で怒る事はほとんどない。ガベルなりに我慢はしてる。たぶん、さっきまでも我慢してた」
「はあ!?あれで??」
「でも、本気で怒ると理性がなくなる。ああなったらもう、手がつけられない。今のガベルは、もう、今までのガベルじゃない」
「いや、マジ……」
そんなトコの話を聞いて、私は改めてカラミティの方へと向き直る。
トコの言った通り、カラミティはこれまでのカラミティとはまるて別人で、あの三人ですら、完全に防御に徹してなお、ギリギリの戦いをしている。
その上、状況はどんどん悪くなっている。
三人の武器が、強化をしたにもかかわらず凄まじい速度で消耗して行っている。
強化をしてなおこの消耗度、あと数分も持たないだろう。
このまま行けば、確実にバッドエンドだ。
「ちょっとこれは、だいぶまずい……」
最終形態になった上に、発狂モードとか、流石にちょっとやりすぎでしょ。
もう、切れるカードはほとんど全て出し尽くした。
あと、残っているとすれば……
「……こうなったら、もう、一か八か……」
ここまで来たら、残されているのは一つだけ。
今の私に残された、最後の奥の手。
神剣エターナル。
もう、それを出すしか方法は無い。
使えば左腕も武器食いで使い物にならなくなるだろうけど、あのカラミティとやりあえるのはきっと神剣くらいのもの。
それでも、今となってはこの神剣でも良くて対等かそれ以下だ。
しかも私は剣士ではないので、剣技では確実にカラミティに劣る。
それでもみんなと連携して戦えば、いくらか勝機も見えなく無いが、恐らくそれまで私の腕も、三人の武器も持たないだろう。
「くそ!どうすればいいの!!」
この戦いにおいて、後半はほとんど私は何も出来ていない。
むしろ、サファイアやガルカンにマチルダ、そしてシーラやマリン、さらには大勢の冒険者達に、私は守られていただけだ。
一体私は何をしてるんだ。
何かしなきゃ。
でも、私に何が出来る。
出来る事はないか。
だめだ、やっぱり何も思いつかない。
もう、仕方ない。
今のカラミティに通用するかはわからないけど、
それを使えば私がどうなるかもわからないけど、
私の最後の奥の手、神剣エターナルなら……
「エト。マイナス500点」
「え……トコ?」
「その神剣でも、ガベルには勝てない。それはエトもわかってるはず」
「それは、でも……」
トコは私の考えを見透かし、即座に否定し、首を振る。
「それはエトが作った武器。でも、エトの使う武器じゃない」
「……どう言う事……?」
確かにこれは、自分の為の武器ではない。
ゲーム時代の仲間のみんなの為に作ったものだ。
でも、だからってそれがどう言う意味に……
「なら作るしかない。エトが使える、神剣よりも強い武器」
「はあ!?そんなの簡単に作れるわけがないでしょ!大体、素材も何も」
「なら打ち直せばいい」
「え?いやいや、打ち直しって、覇斬の剣もメッキの魔剣も二人に使ってもう無……まさか!?」
そこまで言って、私はようやくトコの真意に気がついた。
「神剣エターナル。エト用に打ち直す」
「!!!!」
私の予想とは裏腹に、アランの盾は壊れる事なく、見事にカラミティの攻撃を受け止め、そしてそのまま弾き返してしまった。
どう考えてもあの盾にはカラミティの攻撃を受け止める強度はなかったはず。
私はその光景が信じられず、思わずアランとアランの持つ盾に視線を交互に行ったり来たりとさせてしまう。
アランに怪我もないし、盾も砕けず形を保っている。
何がどうなればそんな事に??
「アランさん……なにやったの??」
「いや、正直私も驚いてるところよ……。勢いでああは言ったものの、流石に盾が壊れる事は覚悟してたもの。なのに……」
アランも流石に驚いた様子で、未だ盾の形を保つ盾と、自分の体を見ながら戸惑いの様子を隠せないでいた。
アランの盾を見てみると、そこには先程よりも更に細かいヒビが無数に増え、もはやそれは、粉々に砕け散った盾の破片を集めて出来た数万ピースの立体パズルのようだった。
破片を集めて接着剤で無理やり固めたような、そんな状態だ。
「……あ、そう言えば。あの時、私の盾と身体が一瞬光ったような……。エトちゃん、私に何かした?」
「ううん、してないけど。でも、確かに光ったのは私も見たよ」
確かにあの時、アランが盾でカラミティの攻撃を受けるその瞬間、アランの盾と、アランの身体の周り全体に光の膜が発生していた。
そう言えばあの感じ、どこかで見た事があるような……。
もしかして、私の時みたいに盾が覚醒??
いや、確かに槌の覚醒の時も光りは出たけど、それとは全く違う感じだ。
「……まあ、ひとまずいいわ。不吉な感じはしないし、壊れなくった事を喜びましょう」
「う、うん……」
いや、それ、もう壊れてるようなもんなんだけどね……。
さっきは何とかなったけど、流石にもう次は……。
アランはそう言って強引に気持ちを切り替え、次の攻撃に備えて盾を構える。
しかし、何か違和感を感じたのか、構えを解いて改めて手に持つその盾を見つめた瞬間、アランの顔に、少し苦い表情が浮かび上がった。
流石のアランも、これ以上は無理だと理解したようだ。
「参ったわね。見るんじゃ無かったわ……。でも、さっきだって何とかなったんだし、せめて最後にもう一度だけなら……」
「いや、それはもう、さすがに……」
「——何言ってんの。ダメに決まってるでしょ」
「え?」
「!?」
それでもまだ諦めようとしないアランに対し、私が止めに入ろうとしたその瞬間、近くから聞き覚えのある声が聞こえてきた。
思わず声の方に振り返ると、そこには意外な人物の姿があった。
「え?シーラさん!?」
そこにいたのは、ガルカンのクランメンバーであり、クラン唯一の回復術師、シーラさんだった。
急いで駆けつけて来たようで、少し息が乱れている。
「え!?なんで!?てか、いつの間に!?」
「話は後よ。今のは本当に危なかったんだから」
シーラは私の問いに短くそう答えると、すぐに表情を切り替え、アランの方へ顔を向ける。
「無茶し過ぎって言いたいところだけど、よくやったわ。でも、もうダメよ。今のは強化魔法が間に合ったから何とかなっただけなんだから。私から見てもその盾はもう無理。次の攻撃は防げないわ」
「なるほど。あの光はそう言うことね。感謝するわ」
シーラの言葉に、アランはそう答えるが、その表情を見る限り、やはりまだ諦める気は無さそうだ。
先程の攻撃を凌げたのが強化魔法のおかげと言うのはわかったが、その前からアランの盾の耐久値は0になっていた。
強化されていたとは言っても、それはあくまで補助的な効果でしかなく、盾の状態は確実に悪化していた。
戦闘職でもないシーラが見てもダメだとわかる程の状態だ。
しかし、その状態で盾の形を保っているのはやはりおかしい。
ずっと考えていたが、どうしてそんな事になっているのかはずっと理解できなかった。
しかし、一つだけ思い出したことがある。
この現象、私は何処かで見た覚えがある。
そう、ゲラルドさんの大工道具だ。
あの道具たちも、耐久値が0になっていたのに、砕けずに形を保ったままだった。
ならば、その大工道具とこの盾に、何か共通しているものがあるはずだ。
その共通点とは何か。
それを考えると、答えは驚くほどすぐに出た。
それは、想いの強さ。
どちらも、その持ち主がその職に着いた時からずっと使っていたもので、言ってみれば、自分の魂が篭っていると言っても過言ではない程だ。
そう考えれば、私の神剣も強い想いの込められた、魂の宿った
武器だと言えるだろう。
それに、トコやカラミティのようなインテリジェンスアイテムも、知性ある魂の宿った魔道具だ。
この世界はゲームの影響を多分に受けた、まるでファンタジーを絵に描いたような世界だ。
そんな世界において、この因果関係をただのこじつけだと考える事は、今の私にはとても難しい。
「取り敢えず、その盾はもうやめときなさい。あなたは十分頑張ったわ。エトちゃん、あとは任せて大丈夫?」
「え?あ、うん。行けるよ。でも……」
この状況において、恐らくシーラの判断は正しい。
いくら魂の篭ったあの盾でも、次の攻撃に耐えられるとは思えない。
しかし、それではアランの今までの頑張りが無駄になってしまうような気がして、少し後ろめたい気にもなってしまう。
だからと言って、私が出なければアランを危険な目に遭わせてしまう。
やはり、ここはシーラの言う通り、私が出るしか……
「ダメよ!向こうもあともう少しなのに。そんなことしたら折角の流れが無駄になるわ!盾もまだ壊れては!……」
「アランさん……」
アランはそれでも抵抗しようとそう言うが、改めて自分の手に持つ盾を見て、思わず言葉をつまらせた。
アランもその盾がとっくに限界を超えている事に気づいていないわけがなく、それゆえ、それ以上は強く出れず、歯噛みをしながら顔を歪めた。
アランは決して意地になっているわけではない。
私達全員が生きて帰るために、あのカラミティを倒すために、自分の危険を承知の上で、命をかけた覚悟の上で言っているのだ。
そんなアランを前に、私は何も言えなくなり、思わず視線を逸らしてしまう。
しかし、こうしている間にも、すぐに次の攻撃は来てしまう。
こんなところでモタモタしているわけにはいかない。だけど、でも……。
「まったく……。ねぇ、あなたアランとか言ったわね」
「!?え、ええ」
そんな私の焦りを感じ取ったのか、シーラは一つ、大きなため息をついた後、アランの方に顔を向けて話しかけた。
「あなたがエトちゃんを出したくない理由は私も理解はしているし、間違ってはいないと思うわよ。でも、私からすればかなりどうでもいい、くだらない事なのよね」
「……くだらない、ですって?」
そんなシーラの言葉にアランのまゆはピクリと跳ね、そしてシーラを睨みつけるように鋭い視線で顔を向けた。
「そうよ。確かにエトちゃんを見ていると保護欲をそそられるし、それを原動力に勢い付かせるってのは別にいいとは思うわよ。特にあの三人はそう言うのが好きっぽいし、上手くハマってると思うわ」
「だったら!」
「でもね、」
シーラはそう言って言葉を区切ると、アランの目をしっかりと見据えながら、言い聞かせるように言葉を続けた。
「でもそれは、あの三人を奮起させるきっかけでしかないわ。いつまでも護衛クエストごっこの様な遊びみたいな事されてても困るのよ。この状況で何をあの三人は気持ちよくなって戦ってんのよ。どうせなら私も混ぜなさいよね!ホント、前衛の冒険者はみんな単純で自分勝手なんだから。全くばかばかしい」
「……」
「シーラさん……ちょっと言い過ぎ……てか、なんか私情も混ざってたような……」
シーラの遠慮なしの暴言に、私は思わず間に入って取り繕うとするが、シーラの勢いは止まらない。
「そりゃ、このままあなたが最後までエトちゃんを守り切れれば、それが一番いいんだろうけど、あなたもここまでの流れを見てたでしょ。最後までそんなに上手く行くわけが無いじゃない。むしろ、今の状態は上手く行き過ぎなくらいなんだから。言っとくけど、あなたの力が足りないとかそう言う事を言ってるんじゃないわよ。少なくとも、この流れを作ってここまでやれてるのはあなたのおかげで間違いないわ。ただ、あなたはあの三人を見くびり過ぎよ」
「……どう言う事」
「こんな展開、向こうの三人は百も承知だって事。見てなさい」
シーラはそう言うと、体を戦闘中の三人の方へ向ける。
「シーラさん、何するつもり?」
「ん?作戦会議」
「は??」
シーラは一言そう言葉を返すと、戦闘中のガルガンに向かって大きな声で声を飛ばした。
「ガルカン!!何をチンタラやってんのよ!こっちはもう、盾が限界よ!!あと、アランが無茶し過ぎ!!」
「ちょ!シーラさん!!」
突然シーラがこちらの状況を大声で伝え始めた。
こんなの、カラミティに次を撃ってくれと言っているようなものだ。
「おう!!だろうな!!!こっちもだ!!取り敢えずアランは後ろに引っ込めとけ!!これ以上は俺らの株を奪い過ぎだ!!」
シーラの呼び掛けに、そう答えるガルカン。
シーラの言った通り、こうなる事は予想済みだったようだ。
そして、アランの活躍は、ガルカンにとっても想定以上だったらしい。
「おい!!テメェら!準備は出来てんだろうな!!やっとテメェらの出番だせ!!まあ、肉壁だけどな!!!気合いを入れて女子供を守りやがれ!!!」
「「「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおお!!!」」」」」」」
ガルカンの大音声の掛け声と同時に、待ってましたと言わんばかりに叫びながら、こちらへと雪崩れ込んでくる冒険者達。
ガルカンのクラン【動猛獣の牙】のメンバー達はもちろん、アラン以外の【エルヴィン桃源郷】のハーレムメンバー達も、あちらこちらから同時にこちらへ向かってくる。
「うわ、うわ、すご」
そして各所から駆けつけて来た冒険者達は、こちらに着くと瞬時にフォーメーションを組み、私達を守る様に一瞬で壁の陣形を作り上げた。
「すごいでしょ。うちのクランの連携力と団結力はかなりのものよ。リーダーのガルカンは凄いバカでアレだけど、何故かカリスマ性だけはピカイチだからね」
「うん、まあ、わからなくはない……」
私が冒険者達の機敏な動きに驚いていると、シーラは若干ドヤ顔で私にそう説明をして来た。
確かにガルカンは一癖も二癖もある性格だが、それがカリスマ性だと言われれば妙に納得できてしまう。
強さは文句なしに飛び抜けてるし、あの癖のある性格も、決断力のあるリーダーシップと捉えれば、前衛冒険者としては憧れや尊敬の対象として映るのだろう。
ここに来て、私の中でのガルカンの評価は、前より少し上がったかもしれない。
「彼らクランメンバーは何があっても対処できるように、バラけて待機してたのよ。この陣形も、前もって決めていた陣形の一つよ。たしか、【守りの陣・極】だったかしら」
「ほう」
「まあ、極みも何も、ただ壁になる様にそれっぽく並んでるだけなんだけどね。“極“以外のバージョンも見た事ないし。まさかあんな、“カッコいい陣形の練習“や、“派手でイカした連携フォーメーションの練習“が本当に役に立つなんて、思っても見なかったわ」
「な、なるほど」
やはりガルカンはガルカンだった。
ついでに、クランメンバーの大半が何故か男の前衛冒険者ばかりだった事にも、私は激しく納得できてしまった。
同じクランメンバーであるはずのシーラが、ガルカンに対してはわりと雑な扱いだったのも、大いに納得できてしまう。
ちなみに、アランも冒険者から予備の盾を借り、ほかのハーレムメンバー二人と共に、その陣形に混ざっていた。
なるほど。飛び入りのメンバーも普通に混ざれるような、なかなかに自由度の高い陣形のようだ。
「それじゃ、最後の仕上げと行きますか」
「仕上げ?」
「そう。この肉壁全員に、強化魔法をね。彼らは馬鹿だから本当に全員で来ちゃったでしょ?敵からしたら、強力な一発で一網打尽出来る、大チャンスよ。まあ、流石にないとは思うけど、一応それなりの備えは必要なわけ」
「なるほど……」
確かに言われてみればその通りだ。
あのカラミティなら無いとは言えない。
どんな可能性も、カラミティに限ってはどんな事でも否定はできない。
「でも、今更だけど、強化魔法って回復術師が使えたっけ?」
「いいえ。強化魔法は付与術師の専門だもの。回復術師は治癒と解毒と、あと、解呪とかの神聖魔法くらいね」
「だよね。え?じゃあ誰が強化魔法を?」
「そりゃ、もちろん付与術師様よ」
「??」
シーラはそう言うと、私達とカラミティのちょうど中間あたりで防御の陣形を作っている、冒険者達の方へと顔を向けた。
そして、それに釣られるように私も視線を動かすと、その陣形の少し後方でポツンと立つ、一人の少女の姿が確認できた。
あ。あれって……。
そこにいたのは、まるで冒険者らしくない格好をした、私と同じくらいの年頃の女の子。ごくごく普通の質素なワンピースを着た、清楚ながらもどこか凛々しく、短い栗色の髪がとても印象的な、それは、サフィアの妹、マリンだった。
「そろそろ良いわよ!余裕があれば前の三人にもお願いね!マリンちゃん!!」
「はい!!」
シーラの呼び掛けにマリンは短くそう答え、ピンと両手を前に突き出し、少し何かを念じたその瞬間、冒険者達の身体の周りに光の膜が発生した。
「まさか、その付与術師ってサファイアの妹さんの事!?」
「そうよ。しかも、あの子は相当な才能の持ち主よ。私のかなり曖昧な教え方でもあっさり習得しちゃったんだから。兄妹揃ってとんでも無いわね」
「そりゃ、とんでも無いね……」
まさかサファイアの妹が付与術師だったとは。
サファイアからはそう言う話は聞いていなかったし、話の感じでは付与魔法も今日初めて覚えたっぽい。
もしかしたら、彼女の患っている魔力欠乏症は付与術師として覚醒するための副作用か何かだったのかもしれない。
「出来ました!このまま、前線にも撃ちます!!」
私がそんな事を考えていると、マリンはそう叫びながら伸ばした腕を少し上げ、カラミティと戦う三人に向けて再び強化魔法を発動した。
「プロテクション!!」
マリンの放った強化魔法は、真っ直ぐ三人の元へと飛んでいき、縦横無尽に動き回る三人の体へと、的確に命中した。
「凄い……」
「ええ。あんなの私でもそこそこ難しいわよ。ほんと、末恐ろしいわね。でも、無茶し過ぎね」
「??」
シーラはそう言うと、素早くマリンの元へと駆け出し、それと同時に、マリンは身体を左右に揺らして、その場に膝をついてしまった。
「マリンさん!?!?」
それを見た私は思わずそう叫び、シーラと同じく飛び出そうとしたその瞬間、まるでそんな私の行動を静止するかのように、後ろの方から誰かが私の服を引っ張った。
「え!?」
私は驚き、思わずその場で振り返る。
「エト、慌て過ぎ。マイナス20点」
「トコ!?」
振り返ったそこにいたのは、毎度神出鬼没なトコだった。
「え、トコ、ポーチの中で休んでたんじゃ?もう平気なの?ってか、今はそれどころじゃ……」
「それはこっちのセリフ。良いから落ち着く」
「え、いや、でも」
わたしは訳がわからずに、服を掴んだままのトコの手も振り払えず、顔だけマリンの方へと振り返ると、マリンはシーラに支えられながらも、ゆっくりと立ち上がっていた。
病み上がりな上に、慣れない魔法を無理に連続で使ったせいで、立ちくらみのようなものを起こしただけのようだ。本当に無茶をし過ぎだ。シーラさんがマリンにそんな感じの説教をしているので、取り敢えずすぐに私が駆けつける必要はなさそうだ。
「エト、まずいことになった」
「え?」
「ガベルがイライラし始めた」
「……は?」
いや、イライラも何も、カラミティは最初からずっと敵意丸出しだったよね?
今更イライラとか言われても……
と、そんな事を思ったその瞬間。
「グアアアアア!!!貴様らアアアアアアアアアアア!!!!次から次へと小賢しい事ばかりしおって!!!!!人間ごときが調子に乗るな!!!!!」
「ぐあっ!!」
「おいおい、何だよこりゃ!!!」
「焦るな!!落ち着けばまだ何とか出来る!!」
私は突然聞こえてきたカラミティの叫び声と、それに驚くガルカン達の声に思わず驚き、身体を肩から跳ね上げる。
そして、即座に声のした方へと振り返ると、完全に連携を失ったサファイア達三人と、ドス黒い魔力を身体中から放つカラミティの姿を見て、大きく目を見開いた。
「ガベルは基本的に怒りっぽい。でも、本気で怒る事はほとんどない。ガベルなりに我慢はしてる。たぶん、さっきまでも我慢してた」
「はあ!?あれで??」
「でも、本気で怒ると理性がなくなる。ああなったらもう、手がつけられない。今のガベルは、もう、今までのガベルじゃない」
「いや、マジ……」
そんなトコの話を聞いて、私は改めてカラミティの方へと向き直る。
トコの言った通り、カラミティはこれまでのカラミティとはまるて別人で、あの三人ですら、完全に防御に徹してなお、ギリギリの戦いをしている。
その上、状況はどんどん悪くなっている。
三人の武器が、強化をしたにもかかわらず凄まじい速度で消耗して行っている。
強化をしてなおこの消耗度、あと数分も持たないだろう。
このまま行けば、確実にバッドエンドだ。
「ちょっとこれは、だいぶまずい……」
最終形態になった上に、発狂モードとか、流石にちょっとやりすぎでしょ。
もう、切れるカードはほとんど全て出し尽くした。
あと、残っているとすれば……
「……こうなったら、もう、一か八か……」
ここまで来たら、残されているのは一つだけ。
今の私に残された、最後の奥の手。
神剣エターナル。
もう、それを出すしか方法は無い。
使えば左腕も武器食いで使い物にならなくなるだろうけど、あのカラミティとやりあえるのはきっと神剣くらいのもの。
それでも、今となってはこの神剣でも良くて対等かそれ以下だ。
しかも私は剣士ではないので、剣技では確実にカラミティに劣る。
それでもみんなと連携して戦えば、いくらか勝機も見えなく無いが、恐らくそれまで私の腕も、三人の武器も持たないだろう。
「くそ!どうすればいいの!!」
この戦いにおいて、後半はほとんど私は何も出来ていない。
むしろ、サファイアやガルカンにマチルダ、そしてシーラやマリン、さらには大勢の冒険者達に、私は守られていただけだ。
一体私は何をしてるんだ。
何かしなきゃ。
でも、私に何が出来る。
出来る事はないか。
だめだ、やっぱり何も思いつかない。
もう、仕方ない。
今のカラミティに通用するかはわからないけど、
それを使えば私がどうなるかもわからないけど、
私の最後の奥の手、神剣エターナルなら……
「エト。マイナス500点」
「え……トコ?」
「その神剣でも、ガベルには勝てない。それはエトもわかってるはず」
「それは、でも……」
トコは私の考えを見透かし、即座に否定し、首を振る。
「それはエトが作った武器。でも、エトの使う武器じゃない」
「……どう言う事……?」
確かにこれは、自分の為の武器ではない。
ゲーム時代の仲間のみんなの為に作ったものだ。
でも、だからってそれがどう言う意味に……
「なら作るしかない。エトが使える、神剣よりも強い武器」
「はあ!?そんなの簡単に作れるわけがないでしょ!大体、素材も何も」
「なら打ち直せばいい」
「え?いやいや、打ち直しって、覇斬の剣もメッキの魔剣も二人に使ってもう無……まさか!?」
そこまで言って、私はようやくトコの真意に気がついた。
「神剣エターナル。エト用に打ち直す」
「!!!!」
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