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第47話 覚醒
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レイドバトル。
MMORPGではお馴染みの戦法。
複数パーティーが一体の強力な敵を相手に、共に力を合わせて戦う、協力プレイの事。
その戦い方は敵のタイプによって様々だが、ざっくりと言えば、数人の前衛が順番に敵のタゲを取りながら回し、自分達以外に攻撃が向かないようにしながら、他のプレイヤーがひたすら後ろからタコ殴りすると言う戦い方だ。
今回の戦いにおいては、煽りの上手いサフィアと攻撃力の高いガルカンが確実に敵のヘイトを集めながらタゲを取り、他の冒険者達が地道にダメージを与えていくと言う戦法。
二人がいなければ、私一人ではとても出来なかった作戦だ。
「うん、安定してるよ!いい感じ!でも火力的に持久戦になるだろうから、スタミナ配分にだけは気をつけて!重量級のガルカンは特にね!」
「うっせえ!むしろサソリよりも楽なくらいだ!!」
ガルカンの言う通り、二人は思った以上に余裕を持ってやれている。
やはり、タゲが分散出来る分、無理なく動けているようだ。
この世界でもタゲ回しと言うやり方はもちろん存在するはずだが、良くも悪くもガルカンの力量が他と比べて開きがあるため、恐らく今まではガルカンが一手にタゲを引き受けていたのだろう。
それゆえに、ここに来る手前までの戦いでは、無理な攻撃や敵の攻撃を引きつけるための強引なスタンドプレーが目立っていたが、私やマチルダ、そしてエルヴィンとの共闘を経験して、早くも効果的な連携の感覚を掴みつつある。
盾役のタンクロールや全体の戦況を把握して作戦を立てる司令塔の役割から解放され、純粋なアタッカーとして機能し出したガルカンは、驚くほど頼もしく、そして末恐ろしくもあった。
「いいよ!みんな!ガルカンからタゲを奪うつもりでガンガン攻撃しちゃっていいよ!!」
「「「「「うおおおおおお!!」」」」」
「ちょ!お前らっっ!!」
私の掛け声に、冒険者達はさらに激しい攻撃を繰り出し怒涛のタコ殴りを展開する。
稀に、一瞬タゲが向いたり、流れ弾や範囲攻撃による被弾はあるものの、瞬時にシーラさんによる回復魔法が飛んできてすぐに復帰し、まるでゾンビアタックかのように、その攻撃の波は止まる事がなかった。
時おり、サフィアやガルカンの方にもその回復魔法は飛んできていたが、ヘイト管理に影響が出ない程度に、上手く威力調節がされており、シーラさんがかなりの手練れである事を再認識させられる。
しかし、シーラさんのMPは枯渇していたはず。
恐らく、私がエルヴィンのために渡したエリクサーは結局間に合わずに使われる事なく、MP回復の為にマチルダさんの判断でシーラさんに使ったのだろう。
ガス欠だったはずのシーラさんがすっかり元気になって、相変わらずのいい働きをしている。
さすがマチルダさん。いい判断だ。
そんな感じで安定した戦闘を続けること数分。
その戦闘が長引くにつれて、私はようやくここに来て、自分の想定の甘さに気がつき始めていた。
「え、全然減ってない……」
そう。カラミティのHPが、全く減っていなかったのだ。
それは、サフィアとガルカンの攻撃と、周りの冒険者達によるタコ殴りの総ダメージ量が、カラミティの自動回復の回復量を上回れていないと言う事を意味していた。
流石にカラミティの自動回復がいつまでも続くとは思わないが、それまでみんなのスタミナが持つかと言われればかなり怪しい。
少なくとも、唯一の回復術師であるシーラさんのMPはまず持たない。
たとえ、そのMPをエリクサーでなんとかしたとしても、冒険者たちのスタミナまではどうにもならない。
ここは現実世界だ。
ゲームのように、画面の前でポチポチしてるわけじゃない。
疲れは必ずやってくる。
ゲームのように、ボタンを押せば必ずその通りに体が動くと言うわけじゃないのだから。
「参ったな……」
この状況を打破する方法は、二つしかない。
カラミティの自動回復を止めるか、今よりダメージ量を増やすかのどちらかだ。
だが、どちらも今の現状ではとても難しい。
まず、カラミティの自動回復を止める方法を私が知らない。
そもそも、この自動回復が魔法によるバフ効果なのか、それともカラミティ固有のパッシブスキルによるものなのか、あるいはそれ以外か。それすらもわかっていない現状では、どうすることもできない。
となれば、あとはこちらの火力を上げるしかない。
しかし、戦力としてはこれ以上、上乗せできるような要素が見当たらない。
サフィアもガルカンも、周りの冒険者達も、私が期待していた以上の活躍を見せている。
サフィアとガルカンの連携は素晴らしく、勢い任せのガルカンがもっと足を引っ張るかと思っていたが、予想外にも完璧な連携を見せ、おかげでマチルダの負担も減り、そのフォローも完璧だ。
周りの冒険者達に至っては、シーラさんの神懸り的な絶妙な回復魔法の撃ち回しにより、最大以上の効率で攻撃を与えられている。
そんなみんなに対して、これ以上を望むことはとても難しい。
もはや、完璧と言っていい出来だ。
しかし、そこに穴がないかと言われれば、ないとは言えない。
唯一ひとりだけ、ほどんど何も出来ていない役立たずがいる。
……私だ。
この戦いにおいて、私はまるで役に立てていない。
ノックバック効果のある星砕の槌で、稀に起こるタゲ外れや範囲攻撃に対してカラミティのバランスを一瞬崩すくらいの事しか出来ていない。
このメンツなら私がそれをしなくても、恐らくどうにでも対処できる様な内容だ。
しかも、この槌の効果にカラミティはだいぶ慣れ始めている。
いよいよもって役立たずだ。
この星砕の槌はノックバック効果はあるものの、ダメージ量はそこまでない。
そもそも武器ではない槌の、鈍器としての打撃は、獣と化したカラミティに対してあまりにも相性が悪すぎる。
しかも、あまり闇雲に打ち込んでも、ノックバックの効果のせいで、むしろ戦いの邪魔になってしまう。
斬撃を放てる覇斬の剣が折れていなければ、もっと違っていたかも知れないのに……。
ゾンビアタックの冒険者たちの方が、よっぽど役に立っている。
何から何まで上手くいかない……。
「おい!チビ助!!後どれくらいかかりそうだ!!これを続けるのは構わねえが、スタミナが切れる前に武器が先に駄目になっちまうぞ!!」
「?!?!だ、大丈夫!修理なら出来るから!!」
「……はんっ、そう言えばテメェは鍛治師だったな。ならいい!!お前ら!もっと火力上げて行きやがれ!!」
「「「「「うおおおおおお!!!」」」」」
ガルカンはそう言うと、持っていた斧を私の方に放り投げ、瞬時にマジックバックから予備の武器を取り出して攻撃を再開する。
恐らく、私の反応でこの戦闘の手詰まり感を感じ取ったのだろう。ガルカンはすぐさまそれを理解し、無理を承知で冒険者達に、私が言い出せなかった火力の上乗せの指示を言い放った。
「ガルカン……」
私はガルカンの放り投げた斧を手を伸ばしてキャッチし、その斧を見て思わず眉を顰めてしまった。
これはひどい。
恐らくかなりの業物だと思われるこの斧は、もう、ほとんど修復出来ないほどになっていた。
今までこんな状態の武器を振るって、文句も言わずに完璧なタゲ回しをしていたのか。
斧の扱いに関しては誰よりも優れているはずのガルカンが、斧をここまで消耗させている。
恐らくサフィアの双剣も似たような状況になっているだろう。
この武器を修復する事は、私なら可能だ。
依頼主のゲラルドさんには申し訳ないが、キングスコーピオンから手に入れた「再生の黒砂鉄」を使えば、異次元工房を使ってすぐに修理は出来る。
だが、それではただの現状維持にしかならず、問題の解決にはならない。
「せめて、ちゃんとした鍛冶場で修理が出来れば……」
異次元工房は、どんな場所でも鍛治が出来る超便利スキルだが、素材の投入後に槌を一振りするだけで、完成まで全て自動で行われる。
その為、作成中の細かい調整をする事が出来ない。
しかし、ちゃんとした本物の鍛冶場を使う事が出来れば、私のカンスト済みの鍛治スキルや、ゲーム外で学んだ知識や技術、感覚などを遺憾無く発揮し、むしろ元の状態よりも強力なものにする事も可能だ。
それが出来れば、火力の上乗せは出来そうなのに……。
「流石にそればっかりは仕方ないよね……」
この集団戦において、鍛治師としての私に出来る事は限られている。
そもそも戦闘職でもない生産職が戦いの最前線に出張っている時点で色々とおかしい。
悔しいが、この戦いにおける私の役割は、時々放つノックバック攻撃と武器の修理。その程度だ。
「……納得いかない」
他のみんなは自分達の役割を完璧にこなしている。
私の役割は、本当にこれで良いの?
そりゃ、鍛治師としてみれば前線で体を張れているだけで十分以上に凄いのだろうが、私はただの鍛治師じゃない。
異世界から来たS級鍛治師だ。
自分で言うのもなんだけど、そんな非常識な存在である私が、そして諦めの悪いこの私が、それで納得できるわけない。
私は鍛治師だ。
戦うことではなく、使い手にとっての最高の武器を作る鍛治師だ。
ならば鍛治師として、自分にできる事は、仲間の武器を作ること。
そう、私は本来そう言う役割の職業だ。
だが、今持っている素材は鉱山入り口付近で採った、たいしてレアでもない鉱石くらい。せいぜいキングスコーピオンの素材がいくらか余っているだけだ。
異次元工房を使えばすぐに武器は作れるが、今より弱い武器を作っても仕方がない。
ならば素材に手当たり次第、マテリアルソウルを使ってみるか。
上手くいけばそれなりのものは出来るかも……。
いや、それでも覇斬の剣クラスの物すら作れる気がしない。
それじゃ駄目だ。意味がない。
「だったら……」
だったら、異次元工房で素材を入れた後に振る、槌の一振りに全てを込めるしかない。
願いや思い、祈りでも何でもいい。
異世界人という非常識な私なら、きっと非常識な結果も生み出せる。かも知れない。
とにかく私はこの槌に、思い付くありったけのものを注ぎ込む。奇跡を起こせそうな色んな思いを。
私は槌に、力を込める。
色んな思いを巡らせた結果、私が最終的に注ぎ込んだものは、いつか、元の世界へと戻り、父と同じ鍛治師となって、父が唸るような最高の刀をこの手で必ず作り上げる。そんな夢と理想だった。
その為には、こんな所で躓いているわけにはいかない。
私はここで、必ず凄い武器を作るんだ!!
私もみんなも、絶対みんなで生きて帰るんだ!!
私がそんな決意を心に決めたその瞬間、突然、手に持つ星砕の槌が青く光り、次第に熱を帯び始めた。
「え、なに……」
その刹那。
「エト!危ない!!」
「え!?」
まるで槌の変化に呼応するかのように、今まで全く向かなかったカラミティのタゲが、突然、私の方に向いて来た。
さっきから何が起こっているのか、全く訳がわからない。
そんな私の戸惑いもよそに、カラミティはこちらに向かって飛びかかってくる。
「あぁ、もう!こっちはいろいろ取り込み中なんだよ!邪魔しないで!!!」
そんな叫びを上げながら、私は迫り来るカラミティを払うように、力を込めた槌の一撃を力いっぱい繰り出した。
しかし、カラミティはその巨体に見合わない素早さで、私の攻撃を空中でひらりと躱しながら、そのまま手に持つ黒い剣を私目がけて振り下ろして来た。
「ふん!そんな変な色した神剣なんかに、私達が負けるもんか!!!私がもっと凄いのを作るんだから!!」
私は再び槌を振るう。
今にも溢れ出しそうな、怒りにも似たこの激情を、そのまま槌の力に変えながら。
そしてその一撃が、カラミティの持つ黒い神剣に直撃したその瞬間。
「?!?!」
何かがカチリと音を立てた。
「え?な、グアァァァァァァァ!!!!!」
「え、エト!!!」
カラミティの黒い神剣と、私の星砕の槌がぶつかったその瞬間、突然、星砕の槌から青白い光が溢れ出し、同時に凄まじい衝撃と共に、まるで磁石が反発するかのような激しい逆の引力が発生し、私は大きく吹き飛ばされた。
「ぐうぅ!なんなの、これ!一体なにがどうなって!!!!!」
私は強力な引力に引っ張られ、勢いよく吹き飛ばされながらそう言うと、突然私の目の前に、見覚えのないウインドウ画面が現れた。
「え?なに!?」
突然の出来事に私は思わずそう呟くと、現れたウインドウに表示されている内容を見て、さらに驚き、目を見開いた。
【実績解除:星砕の槌の覚醒】
?!
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複数パーティーが一体の強力な敵を相手に、共に力を合わせて戦う、協力プレイの事。
その戦い方は敵のタイプによって様々だが、ざっくりと言えば、数人の前衛が順番に敵のタゲを取りながら回し、自分達以外に攻撃が向かないようにしながら、他のプレイヤーがひたすら後ろからタコ殴りすると言う戦い方だ。
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二人がいなければ、私一人ではとても出来なかった作戦だ。
「うん、安定してるよ!いい感じ!でも火力的に持久戦になるだろうから、スタミナ配分にだけは気をつけて!重量級のガルカンは特にね!」
「うっせえ!むしろサソリよりも楽なくらいだ!!」
ガルカンの言う通り、二人は思った以上に余裕を持ってやれている。
やはり、タゲが分散出来る分、無理なく動けているようだ。
この世界でもタゲ回しと言うやり方はもちろん存在するはずだが、良くも悪くもガルカンの力量が他と比べて開きがあるため、恐らく今まではガルカンが一手にタゲを引き受けていたのだろう。
それゆえに、ここに来る手前までの戦いでは、無理な攻撃や敵の攻撃を引きつけるための強引なスタンドプレーが目立っていたが、私やマチルダ、そしてエルヴィンとの共闘を経験して、早くも効果的な連携の感覚を掴みつつある。
盾役のタンクロールや全体の戦況を把握して作戦を立てる司令塔の役割から解放され、純粋なアタッカーとして機能し出したガルカンは、驚くほど頼もしく、そして末恐ろしくもあった。
「いいよ!みんな!ガルカンからタゲを奪うつもりでガンガン攻撃しちゃっていいよ!!」
「「「「「うおおおおおお!!」」」」」
「ちょ!お前らっっ!!」
私の掛け声に、冒険者達はさらに激しい攻撃を繰り出し怒涛のタコ殴りを展開する。
稀に、一瞬タゲが向いたり、流れ弾や範囲攻撃による被弾はあるものの、瞬時にシーラさんによる回復魔法が飛んできてすぐに復帰し、まるでゾンビアタックかのように、その攻撃の波は止まる事がなかった。
時おり、サフィアやガルカンの方にもその回復魔法は飛んできていたが、ヘイト管理に影響が出ない程度に、上手く威力調節がされており、シーラさんがかなりの手練れである事を再認識させられる。
しかし、シーラさんのMPは枯渇していたはず。
恐らく、私がエルヴィンのために渡したエリクサーは結局間に合わずに使われる事なく、MP回復の為にマチルダさんの判断でシーラさんに使ったのだろう。
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さすがマチルダさん。いい判断だ。
そんな感じで安定した戦闘を続けること数分。
その戦闘が長引くにつれて、私はようやくここに来て、自分の想定の甘さに気がつき始めていた。
「え、全然減ってない……」
そう。カラミティのHPが、全く減っていなかったのだ。
それは、サフィアとガルカンの攻撃と、周りの冒険者達によるタコ殴りの総ダメージ量が、カラミティの自動回復の回復量を上回れていないと言う事を意味していた。
流石にカラミティの自動回復がいつまでも続くとは思わないが、それまでみんなのスタミナが持つかと言われればかなり怪しい。
少なくとも、唯一の回復術師であるシーラさんのMPはまず持たない。
たとえ、そのMPをエリクサーでなんとかしたとしても、冒険者たちのスタミナまではどうにもならない。
ここは現実世界だ。
ゲームのように、画面の前でポチポチしてるわけじゃない。
疲れは必ずやってくる。
ゲームのように、ボタンを押せば必ずその通りに体が動くと言うわけじゃないのだから。
「参ったな……」
この状況を打破する方法は、二つしかない。
カラミティの自動回復を止めるか、今よりダメージ量を増やすかのどちらかだ。
だが、どちらも今の現状ではとても難しい。
まず、カラミティの自動回復を止める方法を私が知らない。
そもそも、この自動回復が魔法によるバフ効果なのか、それともカラミティ固有のパッシブスキルによるものなのか、あるいはそれ以外か。それすらもわかっていない現状では、どうすることもできない。
となれば、あとはこちらの火力を上げるしかない。
しかし、戦力としてはこれ以上、上乗せできるような要素が見当たらない。
サフィアもガルカンも、周りの冒険者達も、私が期待していた以上の活躍を見せている。
サフィアとガルカンの連携は素晴らしく、勢い任せのガルカンがもっと足を引っ張るかと思っていたが、予想外にも完璧な連携を見せ、おかげでマチルダの負担も減り、そのフォローも完璧だ。
周りの冒険者達に至っては、シーラさんの神懸り的な絶妙な回復魔法の撃ち回しにより、最大以上の効率で攻撃を与えられている。
そんなみんなに対して、これ以上を望むことはとても難しい。
もはや、完璧と言っていい出来だ。
しかし、そこに穴がないかと言われれば、ないとは言えない。
唯一ひとりだけ、ほどんど何も出来ていない役立たずがいる。
……私だ。
この戦いにおいて、私はまるで役に立てていない。
ノックバック効果のある星砕の槌で、稀に起こるタゲ外れや範囲攻撃に対してカラミティのバランスを一瞬崩すくらいの事しか出来ていない。
このメンツなら私がそれをしなくても、恐らくどうにでも対処できる様な内容だ。
しかも、この槌の効果にカラミティはだいぶ慣れ始めている。
いよいよもって役立たずだ。
この星砕の槌はノックバック効果はあるものの、ダメージ量はそこまでない。
そもそも武器ではない槌の、鈍器としての打撃は、獣と化したカラミティに対してあまりにも相性が悪すぎる。
しかも、あまり闇雲に打ち込んでも、ノックバックの効果のせいで、むしろ戦いの邪魔になってしまう。
斬撃を放てる覇斬の剣が折れていなければ、もっと違っていたかも知れないのに……。
ゾンビアタックの冒険者たちの方が、よっぽど役に立っている。
何から何まで上手くいかない……。
「おい!チビ助!!後どれくらいかかりそうだ!!これを続けるのは構わねえが、スタミナが切れる前に武器が先に駄目になっちまうぞ!!」
「?!?!だ、大丈夫!修理なら出来るから!!」
「……はんっ、そう言えばテメェは鍛治師だったな。ならいい!!お前ら!もっと火力上げて行きやがれ!!」
「「「「「うおおおおおお!!!」」」」」
ガルカンはそう言うと、持っていた斧を私の方に放り投げ、瞬時にマジックバックから予備の武器を取り出して攻撃を再開する。
恐らく、私の反応でこの戦闘の手詰まり感を感じ取ったのだろう。ガルカンはすぐさまそれを理解し、無理を承知で冒険者達に、私が言い出せなかった火力の上乗せの指示を言い放った。
「ガルカン……」
私はガルカンの放り投げた斧を手を伸ばしてキャッチし、その斧を見て思わず眉を顰めてしまった。
これはひどい。
恐らくかなりの業物だと思われるこの斧は、もう、ほとんど修復出来ないほどになっていた。
今までこんな状態の武器を振るって、文句も言わずに完璧なタゲ回しをしていたのか。
斧の扱いに関しては誰よりも優れているはずのガルカンが、斧をここまで消耗させている。
恐らくサフィアの双剣も似たような状況になっているだろう。
この武器を修復する事は、私なら可能だ。
依頼主のゲラルドさんには申し訳ないが、キングスコーピオンから手に入れた「再生の黒砂鉄」を使えば、異次元工房を使ってすぐに修理は出来る。
だが、それではただの現状維持にしかならず、問題の解決にはならない。
「せめて、ちゃんとした鍛冶場で修理が出来れば……」
異次元工房は、どんな場所でも鍛治が出来る超便利スキルだが、素材の投入後に槌を一振りするだけで、完成まで全て自動で行われる。
その為、作成中の細かい調整をする事が出来ない。
しかし、ちゃんとした本物の鍛冶場を使う事が出来れば、私のカンスト済みの鍛治スキルや、ゲーム外で学んだ知識や技術、感覚などを遺憾無く発揮し、むしろ元の状態よりも強力なものにする事も可能だ。
それが出来れば、火力の上乗せは出来そうなのに……。
「流石にそればっかりは仕方ないよね……」
この集団戦において、鍛治師としての私に出来る事は限られている。
そもそも戦闘職でもない生産職が戦いの最前線に出張っている時点で色々とおかしい。
悔しいが、この戦いにおける私の役割は、時々放つノックバック攻撃と武器の修理。その程度だ。
「……納得いかない」
他のみんなは自分達の役割を完璧にこなしている。
私の役割は、本当にこれで良いの?
そりゃ、鍛治師としてみれば前線で体を張れているだけで十分以上に凄いのだろうが、私はただの鍛治師じゃない。
異世界から来たS級鍛治師だ。
自分で言うのもなんだけど、そんな非常識な存在である私が、そして諦めの悪いこの私が、それで納得できるわけない。
私は鍛治師だ。
戦うことではなく、使い手にとっての最高の武器を作る鍛治師だ。
ならば鍛治師として、自分にできる事は、仲間の武器を作ること。
そう、私は本来そう言う役割の職業だ。
だが、今持っている素材は鉱山入り口付近で採った、たいしてレアでもない鉱石くらい。せいぜいキングスコーピオンの素材がいくらか余っているだけだ。
異次元工房を使えばすぐに武器は作れるが、今より弱い武器を作っても仕方がない。
ならば素材に手当たり次第、マテリアルソウルを使ってみるか。
上手くいけばそれなりのものは出来るかも……。
いや、それでも覇斬の剣クラスの物すら作れる気がしない。
それじゃ駄目だ。意味がない。
「だったら……」
だったら、異次元工房で素材を入れた後に振る、槌の一振りに全てを込めるしかない。
願いや思い、祈りでも何でもいい。
異世界人という非常識な私なら、きっと非常識な結果も生み出せる。かも知れない。
とにかく私はこの槌に、思い付くありったけのものを注ぎ込む。奇跡を起こせそうな色んな思いを。
私は槌に、力を込める。
色んな思いを巡らせた結果、私が最終的に注ぎ込んだものは、いつか、元の世界へと戻り、父と同じ鍛治師となって、父が唸るような最高の刀をこの手で必ず作り上げる。そんな夢と理想だった。
その為には、こんな所で躓いているわけにはいかない。
私はここで、必ず凄い武器を作るんだ!!
私もみんなも、絶対みんなで生きて帰るんだ!!
私がそんな決意を心に決めたその瞬間、突然、手に持つ星砕の槌が青く光り、次第に熱を帯び始めた。
「え、なに……」
その刹那。
「エト!危ない!!」
「え!?」
まるで槌の変化に呼応するかのように、今まで全く向かなかったカラミティのタゲが、突然、私の方に向いて来た。
さっきから何が起こっているのか、全く訳がわからない。
そんな私の戸惑いもよそに、カラミティはこちらに向かって飛びかかってくる。
「あぁ、もう!こっちはいろいろ取り込み中なんだよ!邪魔しないで!!!」
そんな叫びを上げながら、私は迫り来るカラミティを払うように、力を込めた槌の一撃を力いっぱい繰り出した。
しかし、カラミティはその巨体に見合わない素早さで、私の攻撃を空中でひらりと躱しながら、そのまま手に持つ黒い剣を私目がけて振り下ろして来た。
「ふん!そんな変な色した神剣なんかに、私達が負けるもんか!!!私がもっと凄いのを作るんだから!!」
私は再び槌を振るう。
今にも溢れ出しそうな、怒りにも似たこの激情を、そのまま槌の力に変えながら。
そしてその一撃が、カラミティの持つ黒い神剣に直撃したその瞬間。
「?!?!」
何かがカチリと音を立てた。
「え?な、グアァァァァァァァ!!!!!」
「え、エト!!!」
カラミティの黒い神剣と、私の星砕の槌がぶつかったその瞬間、突然、星砕の槌から青白い光が溢れ出し、同時に凄まじい衝撃と共に、まるで磁石が反発するかのような激しい逆の引力が発生し、私は大きく吹き飛ばされた。
「ぐうぅ!なんなの、これ!一体なにがどうなって!!!!!」
私は強力な引力に引っ張られ、勢いよく吹き飛ばされながらそう言うと、突然私の目の前に、見覚えのないウインドウ画面が現れた。
「え?なに!?」
突然の出来事に私は思わずそう呟くと、現れたウインドウに表示されている内容を見て、さらに驚き、目を見開いた。
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