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第46話 違和感
しおりを挟む「グオオオオッ!!!!」
私の渾身の一撃を超至近距離で受けたカラミティは、その衝撃と共にくぐもった声を漏らし、大きく弧を描くようにして吹き飛ばされた。
そしてそのまま地面に叩きつけられるように倒れ落ち、まるで事切れたかのように動かなくなっていた。
「うおっし!!やったか!!」
「どうだろうな。だが、少なくとも致命傷には違いない」
「まあ、普通ならそうなんだろうけど。……普通ならね」
カラミティに対しては、これまで私が何度も優勢に持ち込んでも、そのたび思いもよらない形で裏切られ、散々な目に会ってきた。
そんな経験ゆえのただの杞憂かも知れないが、とても嫌な予感しかしない。
私がそんな事を思っていると、いつの間にか私の後ろに立っていたマチルダが、ボソリと声をかけてくる。
「私の出番は?」
「あ、ごめん、なんか盛り上がっちゃって」
「ヤレヤレ。まあ、それで倒せたのならかまわんさ。おつかれ様だな」
「あ、うん。いや、まあそう……なんだけど」
思いの外あっけない終わりだったけど、これはこれでリアルな感じもしなくもない。
ここは現実世界だ。いつもゲームやアニメみたいな展開が起こるわけじゃない。
でも、なんだろう、この違和感は。
「おいテメェ、さっきから煮え切らねな!!まだなんかあんのかよ!」
「いや……」
「まあ、確かに事がうまくいき過ぎて不安に思う気持ちはわからなくはない。まさか、この挟撃で全ての攻撃がクリーンヒットするとは流石に思っていなかったからな」
そう。
この攻撃は元々、最後の私のオマケの一撃はともかく、サフィアかガルカンのどちらかの攻撃を当てる事で、形勢を逆転させるきっかけを作る為のものだった。
どちらかの攻撃が有効打になれば御の字と言う状況で、それが二人のどちらの攻撃もしっかり通り、そのうえ私のダメ押しの一撃まで綺麗に入った。
戦闘力の高い三人で、数の優位があったにしても、流石にこれは出来過ぎだ。
「じゃあ、何だよ。まだ倒せてないって事か?」
「いや、倒しはしたと思うよ。でも、まだ終わってないと言うか……」
「は?」
この感じ、凄く身に覚えがある。
いや、でもまさか。
それこそゲームじゃあるまいし……。
「どうしたエト。確かに上手くいき過ぎだという気持ちはわかるが流石にもう……な!?!!」
「なんだ!?!?」
「おいおいマジかよ……」
その時、サフィアとガルカン、そして私の四人ともが、倒れているカラミティの方から激しいプレッシャーを感じ取った。
強烈な怒りと殺意が詰め込まれたような何かが、まるで台風のような風圧となり、こちらに迫っている。
サフィアとガルカン、そしてマチルダは、その発生源であるカラミティを見て、目を見開いて驚愕する。
「ちょ、何だよありゃ……」
「あれは一体……何が起こって……」
「エトの杞憂はこれか……」
私たち四人の視線の先。
そこには、ゆっくりと立ち上がりながらこちらを見据え、みるみると巨大化しながら獣の姿へと変わりゆくカラミティの姿が存在した。
「コロス……コロス……コロス……オマエ……ヲ……スベテヲ……コロス……」
「ふざけんじゃねえ!バケモンになって復活とかそんなのアリかよ!」
「流石にこの展開はないな……」
「おいエト、どう言う事だ。何かしっているのか」
「……第二形態。ボス戦での定番だよ」
「はぁ!?!?」
ゲームではお馴染みの、ボスの第二形態。
最初の第一形態は思ったよりも楽に倒せて、その次からが本番という、もはや様式美のような戦闘展開だ。
あれだけ手こずったカラミティが、強力な仲間を得たからとは言え、こんなにあっさり倒せた事に違和感しか感じなかった。
そしてその違和感は、とても身に覚えのある感覚だった。
第二形態の予感。そのものだった。
「いやいや、どこの世界にこんな定番があんだよ!そんなの聞いた事ねえぞ!」
「ああ、俺もこんな展開は知らん」
「あるんだよ。ゲー……500年前の時代ならね」
「?!……なるほど。そう言う事か……」
「いやいや、どう言う事だよ!」
この世界はゲームじゃないと思い知ったその直後に、こんなベタな展開が来るなんて、やはり、この世界はまるでゲームのようだと思わざるを得ない。
ゲームのような存在。
それは、第二形態になったり、侍ジョブのスキルを扱うカラミティだけじゃない。ゲーム時代のステータスやスキルを引き継いで持っている私もそうだし、生産者ギルドのギルマスであるポドルさんだって、目利きスキルというスキルを持っていた。
そもそも、この世界にはジョブの概念やランクの存在、魔術師や回復術師もいる。
やはりこの世界は、間違いなくゲームの世界ではあるが、しかし、同時に現実でもある。
言ってみれば、現実世界にゲーム要素が追加された世界だ。
そう考えれば、あくまでもこの世界は現実のものであるという事さえ見失わなければ、ゲームかどうかなんて考える必要はない。
最初からわかっていた、至極簡単な事ではあるが、私はここに来てようやく、ちゃんと自分に整理がついた。
と、なれば、この状況も何ら慌てる必要はない。
基本的にはいつものゲームでの攻略法を使えばいい。
この現実世界で可能な範囲で、と言う制限はかかるものの、やってやれないことはない。
「グガガガガ!!!!」
「話は後だ、来るぞ!」
「チィ!くそったれが!」
「エト!素早さのあるお前はサフィアのフォローだ!私は盾でガルカンのフォローに回る!」
「わかった!!」
すっかり巨大な獣と化したカラミティは完全に自我を失い、その巨大からは想像できない素早さで襲い掛かってきた。
私達は即座に臨戦体制をとり、カラミティを迎え撃つ。
「クソが!やっぱりパワーアップしてるじゃねえか!!さっきより速いとか反則だろ!!」
「落ち着け!!確かに速いがそれだけだ!!強めの魔物ならこのくらいの速さの奴はいなくはない!」
「んな事わかってらあ!だが魔物はこんなアホみたいに剣なんか振り回さねえんだよ!!ってうわぁっ!あぶね」
カラミティの自我を失った暴走気味の攻撃にも、二人はなんだかんだ言いながらもしっかり対応出来ている。
むしろサファイアは先程よりも余裕を持って、ガルカンもいくらか戸惑いながらも、相手が魔物だからか流石の立ち回りを見せている。
マチルダに関しては、あのガルカンのセオリー無視の動きにまだ多少の戸惑意はあるものの、それでも完璧にフォローをしていた。
流石に防戦一方だけど、攻撃が読みやすい分、被弾はほとんどない。
うん。これならいけそうだ。
「で、こっからどうすんだよ!対応出来てもこれじゃ結局ジリ貧じゃねえか!自動回復まであるとか聞いてねえぞ!!」
相変わらずガルカンは文句ばっかりだ。
うるさい割に、仕事は期待以上にきっちりやってくれているので、ただのツンデレにしか聞こえないが。
いや、デレはないからただのツンか。
「まあ、確かにこれでは埒があかないな。事故さえなければやられることはないが、このままではいずれ俺たちのスタミナが切れるか、武器がダメになるかのどちらかだ。倒せなければ俺たちの負けだ」
私の近くでカラミティと戦うサフィアは、冷静にそう言いながらもなかなか攻撃に移れず、焦燥の表情を浮かべていた。
ちなみに、マチルダの指示でサフィアのフォローに回った私だったが、サフィアは流石の身のこなしで、ほとんど自分で何とかしてしまい、私は半分いらない子状態となっていた。
やっぱりサフィアはすごいなあ。
と、呑気にそんな事を思っていると、私と違って随分忙しそうなマチルダの方から、恨めしそうな視線が飛んでくる。
「おい、エト。暇なら作戦を考えろ。私はお前と違って忙しい!」
「は、はい!!」
マチルダの、やけにトゲのある言葉に思わずそう返すと、私は辺りを見回し、周囲で固唾を飲みながらこちらを注視している冒険者たちを確認する。
うん。大丈夫。いけそうだ。
こちらを見守る冒険者達は、どの顔も真剣な表情で、今すぐにでも参戦したいが足手まといになるのがわかっているだけに踏み切れない、と言うような、そんな表情をした冒険者ばかり。
大半がガルカンのクランメンバーと言うこともあってか、誰も彼も血の気だけは多そうだ。
クランの中でもガルカンが頭一つも二つも飛び抜けていて、一見あまり目立たないが、彼らもれっきとしたAランクパーティーの一員で、ステータス値だけで言えばマチルダと同じかそれ以上のはず。
せっかく駆けつけてきてくれたそんな彼らを、このまま使わない手はない。
「さあ!クランメンバーと桃源郷のみんな!戦闘準備だよ!」
突然発した私の呼びかけに、辺りに一瞬の静寂が生まれる。
「な!?ちょ、おい!」
「いや、彼らでは流石に無茶だぞ!!」
「お、おい、エト!」
戦いながらも私の言葉に驚く三人。
周りの冒険者達もざわつき始めるが、私の言葉は止まらない。
「みんな!冒険者なら戦ってなんぼでしょ!!このまま指を咥えて見てるだけでいいの?!命懸けでここまでやってきたんでしょ!だったら全員でコイツを倒すよ!!」
私は思いつくまま煽りの言葉を捲し立てる。
そんな私の言葉を聞いて、冒険者達は一人二人と、次第にその目をギラつかせていく。
この作戦にはみんなの協力が必要だ。
こんな私のためにこんな所まで駆けつけてくれた人たちに対して、かなり身勝手な言い草ではあるが、後で謝るので許してほしい。
「サフィア!ガルカン!!絶対にタゲは切っちゃダメだからね!!手を抜いたりなんかしたら死人が出るよ!!」
「おい!テメェ!!何を勝手な事を!!」
私の言葉に、ガルカンが当然のように噛み付いてくる。
「リーダーならリーダーらしく、仲間を守れて当然だよね!」
「ふざけろ!コイツらを守りながらとか無理に決まってんだろ!」
「なに?そんなに仲間が頼りないの?」
「ああ?」
瞬間、私の言葉に怒りの表情を見せるガルカン。
どうやら変なスイッチを踏んでしまったらしい。
こんな口の悪い横暴キャラのくせに、仲間を悪く言われるのは許せないようだ。やっぱりツンデレか。
しかも、スイッチを踏んだのはガルカンだけではなく、周りの冒険者達もだったようで、彼らの方から怒りのような見えない圧まで感じられる。
「テメェ、後で覚えてやがれよ。鍛治師ごときがよくも俺に……」
「はいはい」
案の定、ガルカンがまたゴチャゴチャと言い出すが、取り敢えず今は無視だ。
サフィアも「俺はそもそもリーダーじゃ無いんだが……」とか呟いていたが、今はそう言う話じゃないのでそれも無視だ。
これ以上は私にヘイトが向きそうなので、さっさと仕上げの言葉をかける。
「みんな!さっきから文句ばっかりのへっぽこガルカンに喝を入れちゃえ!!自分達もちゃんと戦えるって、過保護なリーダーに証明するよ!!!!」
そんな私の大音声で、冒険者達はカッと目を見開き、そして一斉に飛び出して行った。
「「「「「「「ウ、ウオオオオオオオオオ!!!!!」」」」」」」
さすがはガルカンのクランメンバー。扱いやすくてとても助かる。
「さあ!ここからは駆けつけてくれた他の冒険者達も含めた全員での総力戦、レイドバトルでケリをつけるよ!!」
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