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第28話 実力

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 俺の目の前にいるのは、自称鍛治師の猫耳族の赤髪少女。
 左手に握られた槌や、およそ戦闘向きではないと思われるその出で立ちからも、確かに鍛治師にしか見えない。
 だが、その動きは生産職である鍛治師のそれではない。

 先刻、俺が女剣士に放った一撃に、一瞬で割って入るその俊敏さ、さらには不意打ちの双剣に対する瞬時の対応、そしてその直後に迷いなくカウンターを放つその判断力。
 おまけにそのカウンターの一撃の馬鹿げた威力。
 どれをとっても、ただの鍛治師ができる芸当ではない。
 手練れの剣士であってもその域にいる者はかなり少ない。

「おい、鍛治師」
「なに」

 俺は双剣を振るいながら、少女に話しかける。

「お前は何なんだ」
「だから鍛治師だって!!見たらわかるで、しょ!!」

 少女はそう言いながらも、俺の双剣を左手の槌一本で全てをいなしていく。

 しかし、手数が倍の俺に対して、話している余裕は流石にないのか、先程までの余裕はほとんど無くなっている。
 一瞬でも気を抜いたら終わりだと言わんばかりに、かなり真剣な表情で槌を振るっている。

 そもそも、俺の双剣での攻撃を、全て片手で処理できている時点であり得ない。
 しかも、その手に握られているのは鍛治打ち用の槌であり、武器ですらない。
 もちろん、武器としても使えないわけではないが、槌で剣と打ち合うとか、正気の沙汰とは思えない。

「で!どうすんの!!そろそろ諦めてもらえると助かるんだけど!!」
「悪いな。そう言うわけにも行かないんだ」

 そう言って俺は、双剣の速度を更に上げる。

「なっ!?ああ、もう!!」

 しかし、少女もそれに必死に食らいつく。
 攻撃をする側と、その攻撃を避けながら受け流す側では、後手に回らざるを得ない分、圧倒的に不利なはず。
 武器を振るう速度は少なく済むが、その分、より精密な予測と反射神経、そしてそれについて行けるだけの武器捌きと身のこなしが必要となる。
 しかも、こちらは手数が二倍の双剣だ。
 当然、必要となるその技術はどちらも倍に跳ね上がる。
 つまり、この少女にはそれだけの技術があるという事だ。
 恐らく、全力を出した俺でも、その域には届かないだろう。

「だが、そこまでだ」
「え、なに!?」

 俺は、休みなく振り続けている双剣の、片方の剣の柄を素早く口に咥え、もう片方の剣を両手で握る。
 そして、そのまま、瞬時に地面を蹴って少女の懐まで潜り込む。

「ええええ!?!?」

 しかし、その俺の行動を見た少女は、瞬時の判断で後ろへ飛び退き、俺の両手から繰り出される威力の増した斬撃を、やはり、その槌で的確に弾き返した。

「なにそれ!!って、え!?」

 直後、俺の剣の勢いを利用した渾身の回し蹴りが、少女の横腹に炸裂した。

「があぁっ!!!!」

 咄嗟の受け身も間に合わなかった少女の身体は、文字通りその勢いのまま宙に飛ばされ、地面をゴロゴロと転がりながら、やがて止まった。
 この戦いが始まってから、これが2人にとっての初めての有効打となった。

「うぅっ……イテテテテ……」

 どれほど身体能力が優れていても、どれほど技術が高くても、やはりこの少女は鍛治師だ。
 この少女には、恐ろしいほどの技術や判断力が備わっているが、場数を踏んだ前衛職が持つような戦闘センスは、そこまで高くないように感じられた。

 だからこそ、突然の変化に対応できなかった。
 正確には、変化の全てにいちいち対応しすぎて、最後のただの回し蹴りにまで対応しきれなかったのだ。
 逆に言えば、戦闘センスも必要ないほどの、ある種の力技だけでここまでやれているという事になる。
 実際にこの目で見ていなければ、とても信じられない程の有り得なさだ。
 しかも、本当に恐ろしいのは、俺と戦いながら少しずつ上手くなっていた事だ。

 戦いを長引かせるのは最悪手だ。
 今すぐにでも、ケリをつけてしまわないと、いよいよ手に負えなくなってしまう。
 
 俺は口に咥えていた剣を再び手に取り、倒れながら起き上がろうとする少女に向かって、全力の速さで駆け出した。
 そして、少女の元にたどり着いたその瞬間、

「させるかぁぁぁ!!!」

 俺の横から、先程の女剣士が叫びながら剣を振り下ろしてきた。

「!?」

 俺はその振り下ろされた斬撃を、片方の剣で弾き返し、横飛びをして少し距離を取る。

 女剣士は一瞬体勢を崩しながらも、強く地面を蹴り、素早く少女の前に位置を取ってこちらに向かって剣を構えた。

「お前か。なかなかいい判断だ。だが、圧倒的に速さが足りない。俺の隙をつくのならば、叫ばず、その殺気も隠しておくべきだったな。アレでは俺に避けてくれと言っているようなものだぞ」
「くっ……」

 この女剣士も、決して弱くはない。
 あの少女が出鱈目なだけで、十分に一流の剣士だ。
 先程の不意打ちの一撃も、俺でなければ入っていたはずだ。

「貴様、どういうつもりだ」
「どういう?……なにがだ」
「とぼけるな!なぜ私を斬らなかった。今の攻撃は完全に見切られていた。剣を弾かずとも、躱して斬り返せていただろう」
「……」

 確かに、俺ならばあそこから反撃に移る事は容易に出来た。
 しかし……。

「マチルダさん、ありがとう。助かったよ」
「エト!?」

 女剣士の後ろでは、俺の蹴りをくらったはずの少女が涼しい顔で武器を構えて立っていた。
 ノーダメージという事はないだろうが、蹴りの1発程度では殆ど支障は無いようだ。
 もし俺が女剣士に反撃していたら、その隙をついて攻撃するつもりだったのだろう。

「エト!大丈夫なのか!?」
「うん、大丈夫だよ。ありがとう」
「良かった」

 女剣士は武器を構えてこちらを警戒しつつも、少女に声をかける。

「エト、もしかしてまだやるのか?」
「うん。ダメージ自体は大した事ないし。でもやっぱりあの人、めちゃくちゃ強いね」
「ああ。そう言うエトも大概だとは思うがな。あんな忙しい戦いは初めて見たぞ」
「あっちは双剣だしね。でも、そろそろ慣れて来たよ」
「慣れて来たって……」

 そう。この少女の成長の仕方は異常だ。
 最初のうちは、その規格外な身体能力の高さでゴリ押しをしていただけだったが、戦っていく中で、その単調だった動きは次第に消え、今や手練れの域にまで達しようとしている。
 たった数分の間、俺と打ち合いをしていただけで、だ。
 この異常な修練速度は驚異的だ。
 早くケリを付けておかないと、必ず面倒な事になる。

「双剣にも慣れたけど、左手にもだいぶ慣れてきたから。だからもう大丈夫」
「……やれやれ、エトには敵わないな。だがせめて、武器は剣に持ち替えたらどうだ。エトの強さならば私の腕を食ったあの剣でも問題ないだろう。この戦況を大きく変えられるぞ」
「うーん、まだこれでいいや。少し思うところもあるし」
「……ふむ。エトに何か考えがあるのなら構わないが、油断はするなよ」
「わかってる」

 会話を終え、少女の前を開ける女剣士。
 どうやら、まだこの俺とやるらしい。
 それよりも、だ。

「おい、鍛治師」
「なに?」
「今の会話はどう言う意味だ」
「今の会話??」
「左手に慣れたとか言っていたが」
「あー、うん。ついさっき、ちょっとやらかしちゃってね」
「やらかした?」
「うん。これ」
「!?!?」

 そう言って、おもむろに自分の右腕の袖をまくる少女。
 そこには、酷く黒く変色した、少女の細い右腕があった。
 女剣士の革鎧には袖が無い為、腕が食われているのは見てすぐに分かったが、まさか、服の袖に隠れていたこの少女の腕まで、既に武器に食われていたとは。

「まあ、そういうわけだから、こっちは暫く使えないんだよね」
「……しかし、これは」

 酷い。
 いや、酷いなんてもんじゃない。
 今、右腕を動かせているだけでも奇跡だ。
 こんなに酷い武器喰いはそうそう見かける事はない。
 これだけの実力者がこれ程までになるとは、一体どんな武器を使ったんだ。

「だから仕方なく左手でやってたんだけど、やっと慣れて来たよ」
「……」

 要するに、今までは利き腕ではない方の腕であの槌を振るい、この俺の双剣の攻撃を綺麗に完封していたと言う事になる。

「なるほどな。あれだけの身体能力を持ちながら、戦闘センスをまるで感じられなかったのはその為か」
「うーん、右手が使えててもあの蹴りは避けれなかったと思うよ。私は戦闘職じゃ無いし、武器の扱いはともかく、戦闘センスに関しては無いのは自覚してるから」
「馬鹿を言え。むしろセンスの塊だ。恐らくまた俺が同じような攻撃をしてもきっちりと対応するだろう。それで戦闘センスがないとか言うと、後ろの女剣士が泣くぞ」
「え?」

 そう言って振り返る少女。
 少女の振り向いた先には、苦笑いを浮かべる女剣士が居心地悪そうに佇んでいた。

「エト……」
「あ!?いや!!マチルダさんの戦闘センスは凄いと思ってるよ!!ほら、プレストスコーピオンの時とか!凄かったよ!!ほら、私のはただの力押しだから!!ね!?」
「やめてくれ、慰められると余計に凹む」
「あわわわわっ!?!?」

 なんなんだ、この少女は。
 この状況で、俺を目の前にして完全に気を抜いている。
 さっきとはまるで別人のようだ。

「おい」
「え?今度はなに!?またダメだし!?」
「アホか。そうじゃない」
「え、なに!?私はアホです!なんかごめんなさい!」
「……」

 本当になんなんだこの少女は。
 取り敢えずアホなのは間違いなさそうだが。
 まったく。すっかり毒気を抜かれて、もはや戦う気分では無くなってしまった。
 ん?もしや、これも作戦のうちか!?

「え?なに!?なんで無言!?!?」

 いや、違うな。これは普通にただのアホだ。

「ついでだから聞くが、なにやらいい剣を持っているらしいじゃないか。なぜ使わない」
「え?あー。だってこっちの方が取り回し効くし。剣であの手数を捌くのは流石に大変かなって」
「……」
「え?なに??なんでまた無言!?」

 戦いの間も少し思っていたが、この少女、俺の双剣を全て的確に処理をするくせに、一度も攻撃を仕掛けてこなかった。
 初めのうちは双剣に対応するので手一杯だからだと思っていたが、どうにも攻撃のチャンスを窺っている様子は感じられなかった。
 慣れない左手の扱いにも慣れ、俺の双剣に慣れたと言う今、ろくな攻撃力も持たない槌から武器を持ち替えない理由は1ミリもない。
 この期に及んで、まだ槌を選ぶと言う事は、この少女は最初から、俺を倒すつもりはなかったと言うのか。

「おい」
「あ、はい!なんでしょう!!」

 なぜ敬語?
 あらゆる意味でよく分からん奴だ。

「お前、俺を倒す気はあるのか?」
「え?まあ、そっちがあるなら。でも、そっちもないでしょ?」
「なっ……」

 俺は言葉を失った。

「お、おい、エト。それはどういう事だ??」
「だってこの人、あれだけの手数と速度で攻撃してくる割に、的確に私の急所“以外だけ“を攻撃して来てたし。さっきのだってマチルダさんには攻撃しなかったでしょ。あの状況じゃ急所に当たらない方が不自然になるからやめたんじゃない?」
「……」

 これは……まいったな。
 まさかそこまで見透かされていたとは。
 この少女、本当に何者だ。

「で、どうするの?やっぱり続ける?私としては出来れば諦めて降参してほしいんだけど」
「そうか。なら降参だ」
「そう。そりゃやっぱり続け……って、え??」
「降参と言った。俺の負けだ」
「……ええええぇ?!?!?」



 俺の降参の発言に酷く驚く鍛治師の少女。
 気持ちは分からんでもないが、実際のところ、本当に驚きなのはこっちの方だ。
 この俺がこんなにも気持ちよく負けを認められたのは、剣術を学び始めた幼少の頃以来だ。
 もし、このまま戦いを続けていれば、もしかするといずれは勝てたかもしれない。
 だがそれは、相手を本当に殺すつもりでやればの話だ。
 そうなればこの少女も本気を出すだろうから、結局どの程度の勝率が見込めるかは分からないが、体格差や経験の差を利用しての搦手や騙し打ちでも使えば、俺の勝機はそれほど低くはないだろう。
 しかし、俺の目的はこの少女を殺すことではない。
 問答無用でいきなり攻撃を仕掛けたのは俺の方で、誰から見ても非道ではあるが、悪党にまでなるつもりはない。
 償えないほどの罪を、犯す事はしてはならない。

 ならば俺に、勝ちの目はない。
 降参だ。

「え?降参してくれるの??」
「ああ。俺の負けだ。それと、いきなり襲いかかって悪かった。それについては謝罪する。申し訳ない」
「はぁ……」

 そう言って少女は後ろを振り返り、女剣士と目を合わせる。

「ふむ。謝罪を受けるかどうかはエトが決めればいい。結局私は何もしていないからな」
「うん……」
「ただその前に」

 女剣士は視線を少女から俺の方へと変え、こちらに向かって話しかけてきた。

「私から、一ついいか」
「ああ。なんだ」
「私はお前によく似た人物を知っている」
「……」
「名前を聞いてもいいか」

 女剣士は真っ直ぐにこちらを見つめながらそう問いかけてくる。
 その瞳は、確信と疑惑の入り混じった、とても居心地の悪い眼差しだった。
 恐らく、この女剣士は俺の素性を知っている。
 どこまで知っているかは分からないが、今更隠す意味もない。

「……サフィア・フリージアだ」
「やはりな」

 俺は何も言わずに次の言葉を待つ。
 次に発せられる言葉は俺への罵倒か、それとも。

「元・王国近衛兵団の筆頭候補が物盗りの真似事か。堕ちたものだな」
「……ああ。まったくだ」

 罵倒ではなく、非難の言葉だった。
 ろくに交渉もせず、力ずくで少女の持つ古代の素材を奪おうとしたのだ。
 誇り高き王国軍の剣士として、あるまじき行為。
 非難されても当然の愚行だ。
 それも覚悟の上での行動ではあったが、やはりキツイものがある。

「マチルダさん、この人のこと知ってるの?」
「ああ。というか、他国を含め、双剣使いの剣士といえば私は一人しか知らない。

 ヴァルシーザ王国最強剣士の一人、“流星のサフィア“だ」


◆ ——エト視点———


「流星のサフィア??」

 マチルダの言った言葉に私は思わず反応した。
 たしか、トコの魔道具としての正式名称は“流星の金床”だったはず。
 もしかして、トコと何か関係が!?

「ああ。この男の二つ名だ。常識を超えるほどの異常な素早さと、それを活かして無数に襲い掛かる双剣の剣捌きの様子からそう名付けられたらしい」
「なるほど……」

 どうやらただの二つ名らしい。
 この人の場合は二つ名だけど、トコの場合はれっきとした名前の一部だからね。
 特に関係は無さそうだ。
 そう言えば、トコはどこいった?

「私も話に聞いていただけで、実際にその素早さと剣捌きを見たのは今回が初めてだが、確かにそう名乗るだけの事はあるな」
「言っておくが、そんな恥ずかしい名前を自分で名乗った事は一度もない。周りが勝手にそう呼んでいるだけだ」
「そうか。だが、なかなか似合っていると思うが?」
「……やめてくれ」

 なんだか本人は嫌がっているみたいだけど、確かにイメージに合った二つ名だ。
 ちょっとシンプルすぎる感じはあるけれど、それはそれでなかなか強そうな感じで悪くない。

「んー、でも、実際に戦った私としては、流星じゃなくて流星群って感じだったけど。まあ、“流星群のサフィア”じゃちょっと語呂が悪いし、二つ名なんてカッコよくてナンボだしね」
「うむ。まったくその通りだな」
「あ、マチルダさんもそう思う?」
「もちろんだ。冒険者ならば当然だ」
「お前らなぁ……」

 やはりマチルダさんはわかってる。
 この人も結構イケるクチらしい。
 冒険者なんていう職業に就いておいて、厨二的要素が嫌いなわけがない。むしろ大好物だ。
 もちろん、自分に二つ名が付くとなったら、それは丁重に全力でお断りをするけれども。
 それとこれとは話が別だ。

「まったく。誰も彼も、どうしてみんなすぐ、勝手に二つ名を付けようとするんだ。まあ、それでも俺の二つ名はまだマシな方だったがな」
「え、そうなの??」
「ああ。聞いた話によれば、“慈しみの愛剣姫“とか言う二つ名の女剣士がいたらしい。それに比べればまだマシだ」
「おおー!なにそれ!カッコイイ!!つけた人天才!!」

 凄い!この二つ名はヤバイ。
 愛剣姫というたった3文字で、優しさと強さと気高さを見事に表現し、その3つの異なる感情を慈しみという広く大きな慈愛で包み込む。
 それをたった7文字で表現し、直球ど真ん中に突き刺さる。
 これぞ完璧、至高の二つ名だ。
 
「そうか??」
「絶対そうだよ!!ね!マチルダさんもそう思うでしょ!!」
「……」
「あれ?マチルダさん??」
「え?あ、いや。……も、もう、そろそろこの話題は終わりでいいんじゃないかな」
「え?いや、だって、慈しみの愛……」
「ああああぁ!わかった!わかった!いいと思う!うん、カッコイイなぁ!だからもう、終わりにしよう。な?」
「ふぇ??」
「あぁ……なるほど」
「え?え??」

 私は訳がわからず、マチルダとサフィアの顔を交互に見るが、どちらも罰の悪そうな表情で目を逸らしていた。

 え?なになに??

「まあ、なんだ。取り敢えず話を戻そうか」
「話を戻す?」
「ああ。まずは俺の事を話そう。そっちの女剣士はある程度知っていそうだが、一応な」

 サフィアはそう言いながら、両手に持っていた二本の剣をマジックバックに収納し、軽く腕を組んで話し始めた。

「俺は元、ヴァルシーザ王国近衛騎士団の一人、今はただのランクA冒険者のサフィア・フリージアだ」

 サフィアはそう言いながら、私とマチルダの目を見たあと、言葉を続けた。

「自分で言うのもなんだが、王国軍で俺は最強の剣士だった。ライバルと呼べるような相手も、そこには一人もいなかった。まさか、こんな所で俺と同じか、それ以上の相手と出会うとは思っても見なかったがな」
「え?」
「そうだな。私も正直驚いている」
「え?え?」

 もしかして私、めちゃくちゃ強い??
 確かにレベルはカンストしてるし、この世界の人達のレベルがあまり高くないのは知ってたけど、でも私はただの鍛治師だよ??
 まあ、ゲームの時にはそういう場面になる事がほとんどないから、あんまりピンと来てなかったけど、レベル99のスキルカンストの鍛治師とレベル50の戦闘職がガチンコでPvPすれば、確かに鍛治師でも勝てそうな気はする。
 でも、鍛治師には戦闘職の専用スキル技は使えないので、そういうのを駆使されれば流石にわからないけど。

「そんな俺が、近衛騎士を辞めてこんな所に来た理由は、ある物を探すためだ」
「探す?もしかして、エトの持っている古代素材の事か?」
「いや、本当に探している物とは違うが、それを作るための素材になる可能性はある」
「ふむ……。で、その本当に探しているものとは」

 マチルダのその問いかけに、サフィアは少しの間を置き、ゆっくりと答えた。

「古代の時代に存在していたと言われる、幻のアイテム『エリクサー』だ」
「なっ!?」

 サフィアの言葉に驚くマチルダ。
 サフィアの表情は変わらない。

 どうやら、エリクサーはこの時代では、本当に存在していたのかすら不明確な幻のアイテムとして認知されているらしい。
 もちろん、私は持っている。
 この腰のポーチの中に99個ほど……。

「それがあれば、マリンが助かるかも知れないんだ」


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