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第5話 生産者ギルド
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自分の店を見知らぬオジサンに乗っ取られ、しかもここが500年後の世界という衝撃の事実を知った私は、これまでに起きた様々な事を思い返しながら、途方に暮れていた。
「なんなのこの仕打ち。とうとう寝床まで失っちゃったじゃない」
思えば私はこの半日で、とんでもない数のとんでもないイベントを経験しているように思う。
こんなの、半日でやっていいイベント量じゃないよ。
「もう、いよいよどうすればいいのか分からなくなって来たよ……」
本来であれば明日は、私が夢にまで見た本当の鍛治と触れ合う、とても大事な日だったはず。
父親の作業場について行き、私の有り余る知識と、それを上回る程の溢れんばかりの情熱をぶつけて、鍛治師になる夢を認めてもらう予定だった。
なのに、今のこの状況はなんだ。
気づいたら空にいて、しかもそこはゲームの世界。
その後落下しながら紅翼竜に襲われ、なんとか撃破。
そのまま商業区に墜落して死にかけ、ギルドに行くも知り合いは誰もいない。
大きな商会の会頭さんと仲良くなるも、自分の店は乗っ取られていて、寝床も失った。
「なんかもう、思い返しただけでどっと疲れたよ。はぁ。これ本当に1日の出来事?」
私は大きなため息を吐きながら、当てもなく商業区の街並みをトボトボと歩いていた。
「よう、嬢ちゃん!なんだか元気ねえな!腹が減ってるなら一本どうだ!!」
「ん?」
私が、くたびれたサラリーマンの様に街道を歩いていると、一人の男が声をかけて来た。
見ると、30代前半くらいの犬っぽい顔の男が露店の中からこちらを見て呼びかけていた。
「嬢ちゃんはべっぴんさんだから一本10Gに負けとくぜ、どうだ?」
男のいる露店の看板を見ると、どうやら串焼き屋のようだ。
それと、声をかけて来たその店主は、犬っぽい顔というか、普通に犬人族の男だった。
「串焼き?」
「おうよ。俺の焼く串焼きは絶品だぜ!」
「うーん」
確かに、目の前に並ぶ焼き上がった串焼きはどれも美味しそうで、とても食欲をそそる。
言われてみればこの半日、あまりにも急展開すぎて飲まず食わずだったので、確かにお腹はへっていた。
「じゃあ、貰おうかな」
「まいどあり!!」
男はそう言って生肉を串に刺し、慣れた手つきで焼き始める。
「あれ、わざわざ新しいの焼いてくれるの?そっちの出来てるやつでいいのに」
「気にすんな。なんだか嬢ちゃん元気がないみたいだからな。焼きたての美味いやつを食って元気になってもらわねえと。単に腹が減ってるだけならそっちの串焼きでもいいが、嬢ちゃんの場合はただの腹減りって訳でも無さそうだからな。若いのがそんな顔をしてるのはなんだか見てらんねえんだよ」
「そっか……ありがと」
「いいって事よ」
すっかりメンタルをやられてしょぼくれ気分だったけど、犬顔の店主の優しさのおかげで、ちょっとだけ元気を取り戻した気がする。
腐ってても仕方がない。このままじゃ現実世界に戻ることも出来ないしね。
「よし出来た!これを食えば元気100倍間違いなしだぜ!」
「ありがと。いただきます」
私は店主から焼きたての串焼きを受け取り、フーフーと少し冷まして口に頬張る。
「どうだ!美味いだろ!!」
犬顔の店主が顔を突き出して聞いてくる。
確かに、焼きたての串焼きは、普通に美味しかった。
ただ、正直に言えば味はごく普通で、店主が身を乗り出して聞いて来るほどの、驚くべき味というものではなかった。
しかし、この串焼きは私が今までに食べたどんな料理よりも、一番美味しいと感じた。
「うん、美味しい。控えめに言って、世界一だよ」
「世界一だぁ!?ガハハハ!そりゃさすがに言い過ぎだぜ!でも、嬢ちゃんのその笑顔で言われると悪い気はしねえな!!ガハハハ!!」
「私の笑顔も世界一だからね」
「言うねえ!だが、違いねえ。ガハハハ!!」
この世界の街の人の温かさに触れ、私は元気を取り戻した。
◆
私は今、気持ちを新たに、とある場所へと向かっていた。
流れで武具店赤猫まで来てしまったせいで、当初の目的地であった商業ギルド会館から離れてしまった為、予定を変更して生産者ギルド会館へ向かう事にした。
もともと、行くのはどっちでも良かったので、自分の所属ギルドである生産者ギルド会館へと行き先を変更した。
ここからなら生産者ギルド会館の方が若干近いと言うのもあるが、所属のギルド会館なら、レンタルルームを借りる事ができると言うのも理由の一つだ。
とにかく今は、寝床の確保が最優先だ。
この辺りは商業区と生産区の境界線付近という事もあって、辺りには様々な家や店が建ち並び、工房のような施設も多く、とても活気に溢れていた。
本当に見ていて飽きない街並みだ。
「でも、やっぱり所持金8Gってのは無いよねぇ」
良い素材やアイテムを見つけると、つい衝動買いをしてしまう、買い物でストレスを発散するタイプの私にとってはなかなかに厳しい状況だ。
手持ちの素材の一部を売却する方法もあったが、あくまでそれはその場しのぎであり、根本的な解決にはならない。
むしろ素材は今後の金策のために必要になると思うので、それを売るのは悪手だろう。
「元の世界に戻れるまでどれくらいかかるかわからないし、まずは金策を頑張らないと!」
この世界にどのくらい滞在するかはわからないが、生きていくためにもお金は必要だ。
私は仕事を斡旋してもらう為にも、一路、生産者ギルド会館へと向かう。
少し歩くと生産者ギルド会館の姿が見えてきた。
会館の外観は上級建築師によって様々な装飾が施されており、各所で赤色の旗が風でなびいていた。
旗には生産者ギルドの紋章が描かれており、右手をモチーフにしたような独特なデザインが特徴的だ。
「旗の紋章は500年前と同じなんだね」
何となくだけど、懐かしい気がする。
私はここで仕事を探しながらも、この世界の情報や『伝説の鍛治師エト』についても探りを入れてみる事にする。
よし、行こう。
ドアを開け館内に入ると、そこには多くの生産職の人達で溢れ、想像以上に賑わっていた。
凄い人の数だけど、いつもこんな感じなのかな?それともたまたま今だけ人が多いのかな?
そんなことを考えながら、フロア内にある案内掲示板を頼りに受付へと向かった。
「当会館の受付を務めます、ナーシャと申します。本日はどう言った御用件でしょうか?」
受付に付くと、ナーシャさんという名前の、やたらと胸部の自己主張が激しい受付嬢が、ニコリと私に微笑みかけて来た。
「なるほど。なかなか良いものをお持ちで」
「はい?」
おっと、思わず声に出ちゃったよ。
「いえ、ただの独り言です。お気になさらず」
「はぁ」
ナーシャさんは、全体的にスリムでありながらも、胸元にはとても良いものをお持ちであられる。
薄いエメラルドグリーンのパッツンショートにインテリ風の眼鏡がなんとも言えない雰囲気を醸し出している。
有り体に言って、エロい。
「ぐぬぬ・・・」
「??」
制服の上からでもわかる大人の魅力に、私は明らかに圧倒されていた。
い、いやいや、確かに私には色気みたいなものはないけど、そもそもジャンルが違うというか、方向性の違いだから別に悔しくなんてないんだからね。
ナーシャさんは美人系お姉さんタイプだとしたら、私は可愛い系小動物タイプなのだ。
そこはもう、好みの問題で、優劣をつけること自体がナンセンスだ。
それに、私が本気を出してキャラメイクしたこの美少女が、可愛くないわけがない。そう、ないのだ!
「あの、どうかなさいましたか?」
「あ、いえ。何でもないです。ちょっと考え事してただけなので」
「はあ、そうですか」
取り敢えず、話題を変えよう。
いや、そもそも何も始まってなかったっけ。
「えっと、そう言えば何だか凄い人ですね。ここはいつもこんな感じなんですか?」
「いえ、普段はこれほど混み合う事はほとんど無いんですが、ちょっと色々ありまして」
「ほう?」
どうやらこの人だかりは、何かイレギュラーな事があっての事らしい。
そう言えば、この人達は生産者ギルドの受付ではなく、併設されている商業ギルドの出張窓口に殺到しているようだ。
「何か、商業ギルドの出張窓口がカオスな事になってますね。こんな所に殺到するくらいなら直接商業ギルド会館の方に行けばいいのに」
「まあ、あちらはもっと酷いことになっているらしいので……あはは」
そう言って苦笑いを浮かべるナーシャさん。
その笑顔から滲み出る疲労の様子から推測するに、煽りを喰らってか生産者ギルドもそれなりに混乱が起きているようだ。
「何があったんですか?」
「ええ、こちらとしてもまだ正確な情報を確認している所なんですが、どうやら紅翼竜の素材が大量に学術区の方から持ち込まれたという話でして」
「……」
そう言えばそんなことあったね……。
つい半日前のことなのに色々とありすぎてすっかり忘れてたよ。
「それから、武器図鑑に未登録の武器も見つかったという情報もあり、生産者ギルドにも問い合わせが殺到している状態です」
「……」
そう言えばそんな剣もあったね……。
しかし、この世界ではあの剣は未登録の武器だったのか。
あれでこの騒ぎなら、もしも刺さってたのが神剣だったら相当大変な事になっていたところだ。
ギリギリセーフというところか。
「な、なるほど。ご苦労様です」
「いえいえ、これも仕事ですから」
よし、話題を変えよう(2回目)。
◆
それから私は、ナーシャさんにギルドについて色々と聞き、いくつかの興味深い話を聞く事ができた。
この城塞都市ソレントを拠点として活動している冒険者は約1万人で、そのうち生産者ギルドに登録している冒険者は約2000人程らしい。
そして、私の持つ「神剣エターナル」のような神級装備は約500年前に4つ生み出されたのみで、その内3つ、神槍、神弓、神斧はとある場所で厳重に保管されている。
最後の一つ「神剣エターナル」のみが行方しれずだということだ。
そりゃ、そうだよね……。その神剣は私のポーチの中にしっかり入ってるし……。
しかし、神装備が4つだけって事は、私が作ったのが最後で、それから500年ものあいだ誰も作れてないって事だよね?
この500年の間に何かあったのかな?
その他の情報としては、「依頼掲示板」や「武器図鑑」「レンタルハウス」等はゲームの時と同様だった。
生産者ギルドに登録している冒険者の管理や、冒険者のギルドランクの昇降格の審議・決定も、ゲームの時同様にギルド会館で行われているらしい。
「ちなみに、ランクSの鍛冶師って今は何人ぐらいいるんですか?」
「え?ランクSの鍛治師ですか?いませんよ??0人です」
「ほえ??」
ナーシャさんはそう言うと、何やらタブレットPCのような物を取り出し、指で板をなぞりながら、何かを確認してるようだった。
さすが500年。そんなのもあるんだ。
「この生産者ギルドの発足以来、ランクSの鍛冶師は500年前に神装備を製作された4人だけですね。順番に、
神槍ユエリック 製作者:シエン
神弓クラルーフ 製作者:グレース
神斧アレックス 製作者:フレイヤ
神剣エターナル 製作者:エト
となります。」
うん。ありがと。でもそういう事を聞いてるんじゃ無いんだな。
0人てのはどういう事かを聞いてるんだよね。
だってその4人目のエトさんはここにいますから。
だからランクS鍛治師は0人じゃなくて1人ですよー。
「……ん?」
「なにか?」
「いえ、なんでもないです」
そう言えば私のステータス画面にランクSの表記ってあったっけ?
この世界に来てから何度かステータス画面は表示させていたが、レベルの表記はあったがランク表記は見た記憶がない。
なんだか嫌な予感がする。
『ステータスオープン』
私は居ても立っても居られず、心の中で小さくそう呟く。
すると、目の前に半透明なステータス画面が現れた。
小さくで呟いたからか、そのステータス画面は普段より小さく表示されたていた。無駄に自由度が高い。
しかし、その画面にはランク表記がどこにも無く、そのかわり詳細画面を開くタブを発見した。
なるほど、ランクはこっちで確認出来るのか。
私は恐る恐る、その詳細タブを開いた。
名前:エト
レベル:99
職業:未登録
冒険者所属国:無所属
冒険者ランク:ー
所属ギルド:無所属
ギルドランク:ー
「マジか……」
何となく、そんな気はしていたけど、流石に厳しい。
しかも、今の私は鍛治師ですらない。
レベルをカンストし、アホほどスキルを持っている、無職の一般人だった。
いや、それどんな無職よ。
てか、私のランクS期間、短かったなぁ……。
「なんなのこの仕打ち。とうとう寝床まで失っちゃったじゃない」
思えば私はこの半日で、とんでもない数のとんでもないイベントを経験しているように思う。
こんなの、半日でやっていいイベント量じゃないよ。
「もう、いよいよどうすればいいのか分からなくなって来たよ……」
本来であれば明日は、私が夢にまで見た本当の鍛治と触れ合う、とても大事な日だったはず。
父親の作業場について行き、私の有り余る知識と、それを上回る程の溢れんばかりの情熱をぶつけて、鍛治師になる夢を認めてもらう予定だった。
なのに、今のこの状況はなんだ。
気づいたら空にいて、しかもそこはゲームの世界。
その後落下しながら紅翼竜に襲われ、なんとか撃破。
そのまま商業区に墜落して死にかけ、ギルドに行くも知り合いは誰もいない。
大きな商会の会頭さんと仲良くなるも、自分の店は乗っ取られていて、寝床も失った。
「なんかもう、思い返しただけでどっと疲れたよ。はぁ。これ本当に1日の出来事?」
私は大きなため息を吐きながら、当てもなく商業区の街並みをトボトボと歩いていた。
「よう、嬢ちゃん!なんだか元気ねえな!腹が減ってるなら一本どうだ!!」
「ん?」
私が、くたびれたサラリーマンの様に街道を歩いていると、一人の男が声をかけて来た。
見ると、30代前半くらいの犬っぽい顔の男が露店の中からこちらを見て呼びかけていた。
「嬢ちゃんはべっぴんさんだから一本10Gに負けとくぜ、どうだ?」
男のいる露店の看板を見ると、どうやら串焼き屋のようだ。
それと、声をかけて来たその店主は、犬っぽい顔というか、普通に犬人族の男だった。
「串焼き?」
「おうよ。俺の焼く串焼きは絶品だぜ!」
「うーん」
確かに、目の前に並ぶ焼き上がった串焼きはどれも美味しそうで、とても食欲をそそる。
言われてみればこの半日、あまりにも急展開すぎて飲まず食わずだったので、確かにお腹はへっていた。
「じゃあ、貰おうかな」
「まいどあり!!」
男はそう言って生肉を串に刺し、慣れた手つきで焼き始める。
「あれ、わざわざ新しいの焼いてくれるの?そっちの出来てるやつでいいのに」
「気にすんな。なんだか嬢ちゃん元気がないみたいだからな。焼きたての美味いやつを食って元気になってもらわねえと。単に腹が減ってるだけならそっちの串焼きでもいいが、嬢ちゃんの場合はただの腹減りって訳でも無さそうだからな。若いのがそんな顔をしてるのはなんだか見てらんねえんだよ」
「そっか……ありがと」
「いいって事よ」
すっかりメンタルをやられてしょぼくれ気分だったけど、犬顔の店主の優しさのおかげで、ちょっとだけ元気を取り戻した気がする。
腐ってても仕方がない。このままじゃ現実世界に戻ることも出来ないしね。
「よし出来た!これを食えば元気100倍間違いなしだぜ!」
「ありがと。いただきます」
私は店主から焼きたての串焼きを受け取り、フーフーと少し冷まして口に頬張る。
「どうだ!美味いだろ!!」
犬顔の店主が顔を突き出して聞いてくる。
確かに、焼きたての串焼きは、普通に美味しかった。
ただ、正直に言えば味はごく普通で、店主が身を乗り出して聞いて来るほどの、驚くべき味というものではなかった。
しかし、この串焼きは私が今までに食べたどんな料理よりも、一番美味しいと感じた。
「うん、美味しい。控えめに言って、世界一だよ」
「世界一だぁ!?ガハハハ!そりゃさすがに言い過ぎだぜ!でも、嬢ちゃんのその笑顔で言われると悪い気はしねえな!!ガハハハ!!」
「私の笑顔も世界一だからね」
「言うねえ!だが、違いねえ。ガハハハ!!」
この世界の街の人の温かさに触れ、私は元気を取り戻した。
◆
私は今、気持ちを新たに、とある場所へと向かっていた。
流れで武具店赤猫まで来てしまったせいで、当初の目的地であった商業ギルド会館から離れてしまった為、予定を変更して生産者ギルド会館へ向かう事にした。
もともと、行くのはどっちでも良かったので、自分の所属ギルドである生産者ギルド会館へと行き先を変更した。
ここからなら生産者ギルド会館の方が若干近いと言うのもあるが、所属のギルド会館なら、レンタルルームを借りる事ができると言うのも理由の一つだ。
とにかく今は、寝床の確保が最優先だ。
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「でも、やっぱり所持金8Gってのは無いよねぇ」
良い素材やアイテムを見つけると、つい衝動買いをしてしまう、買い物でストレスを発散するタイプの私にとってはなかなかに厳しい状況だ。
手持ちの素材の一部を売却する方法もあったが、あくまでそれはその場しのぎであり、根本的な解決にはならない。
むしろ素材は今後の金策のために必要になると思うので、それを売るのは悪手だろう。
「元の世界に戻れるまでどれくらいかかるかわからないし、まずは金策を頑張らないと!」
この世界にどのくらい滞在するかはわからないが、生きていくためにもお金は必要だ。
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少し歩くと生産者ギルド会館の姿が見えてきた。
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「旗の紋章は500年前と同じなんだね」
何となくだけど、懐かしい気がする。
私はここで仕事を探しながらも、この世界の情報や『伝説の鍛治師エト』についても探りを入れてみる事にする。
よし、行こう。
ドアを開け館内に入ると、そこには多くの生産職の人達で溢れ、想像以上に賑わっていた。
凄い人の数だけど、いつもこんな感じなのかな?それともたまたま今だけ人が多いのかな?
そんなことを考えながら、フロア内にある案内掲示板を頼りに受付へと向かった。
「当会館の受付を務めます、ナーシャと申します。本日はどう言った御用件でしょうか?」
受付に付くと、ナーシャさんという名前の、やたらと胸部の自己主張が激しい受付嬢が、ニコリと私に微笑みかけて来た。
「なるほど。なかなか良いものをお持ちで」
「はい?」
おっと、思わず声に出ちゃったよ。
「いえ、ただの独り言です。お気になさらず」
「はぁ」
ナーシャさんは、全体的にスリムでありながらも、胸元にはとても良いものをお持ちであられる。
薄いエメラルドグリーンのパッツンショートにインテリ風の眼鏡がなんとも言えない雰囲気を醸し出している。
有り体に言って、エロい。
「ぐぬぬ・・・」
「??」
制服の上からでもわかる大人の魅力に、私は明らかに圧倒されていた。
い、いやいや、確かに私には色気みたいなものはないけど、そもそもジャンルが違うというか、方向性の違いだから別に悔しくなんてないんだからね。
ナーシャさんは美人系お姉さんタイプだとしたら、私は可愛い系小動物タイプなのだ。
そこはもう、好みの問題で、優劣をつけること自体がナンセンスだ。
それに、私が本気を出してキャラメイクしたこの美少女が、可愛くないわけがない。そう、ないのだ!
「あの、どうかなさいましたか?」
「あ、いえ。何でもないです。ちょっと考え事してただけなので」
「はあ、そうですか」
取り敢えず、話題を変えよう。
いや、そもそも何も始まってなかったっけ。
「えっと、そう言えば何だか凄い人ですね。ここはいつもこんな感じなんですか?」
「いえ、普段はこれほど混み合う事はほとんど無いんですが、ちょっと色々ありまして」
「ほう?」
どうやらこの人だかりは、何かイレギュラーな事があっての事らしい。
そう言えば、この人達は生産者ギルドの受付ではなく、併設されている商業ギルドの出張窓口に殺到しているようだ。
「何か、商業ギルドの出張窓口がカオスな事になってますね。こんな所に殺到するくらいなら直接商業ギルド会館の方に行けばいいのに」
「まあ、あちらはもっと酷いことになっているらしいので……あはは」
そう言って苦笑いを浮かべるナーシャさん。
その笑顔から滲み出る疲労の様子から推測するに、煽りを喰らってか生産者ギルドもそれなりに混乱が起きているようだ。
「何があったんですか?」
「ええ、こちらとしてもまだ正確な情報を確認している所なんですが、どうやら紅翼竜の素材が大量に学術区の方から持ち込まれたという話でして」
「……」
そう言えばそんなことあったね……。
つい半日前のことなのに色々とありすぎてすっかり忘れてたよ。
「それから、武器図鑑に未登録の武器も見つかったという情報もあり、生産者ギルドにも問い合わせが殺到している状態です」
「……」
そう言えばそんな剣もあったね……。
しかし、この世界ではあの剣は未登録の武器だったのか。
あれでこの騒ぎなら、もしも刺さってたのが神剣だったら相当大変な事になっていたところだ。
ギリギリセーフというところか。
「な、なるほど。ご苦労様です」
「いえいえ、これも仕事ですから」
よし、話題を変えよう(2回目)。
◆
それから私は、ナーシャさんにギルドについて色々と聞き、いくつかの興味深い話を聞く事ができた。
この城塞都市ソレントを拠点として活動している冒険者は約1万人で、そのうち生産者ギルドに登録している冒険者は約2000人程らしい。
そして、私の持つ「神剣エターナル」のような神級装備は約500年前に4つ生み出されたのみで、その内3つ、神槍、神弓、神斧はとある場所で厳重に保管されている。
最後の一つ「神剣エターナル」のみが行方しれずだということだ。
そりゃ、そうだよね……。その神剣は私のポーチの中にしっかり入ってるし……。
しかし、神装備が4つだけって事は、私が作ったのが最後で、それから500年ものあいだ誰も作れてないって事だよね?
この500年の間に何かあったのかな?
その他の情報としては、「依頼掲示板」や「武器図鑑」「レンタルハウス」等はゲームの時と同様だった。
生産者ギルドに登録している冒険者の管理や、冒険者のギルドランクの昇降格の審議・決定も、ゲームの時同様にギルド会館で行われているらしい。
「ちなみに、ランクSの鍛冶師って今は何人ぐらいいるんですか?」
「え?ランクSの鍛治師ですか?いませんよ??0人です」
「ほえ??」
ナーシャさんはそう言うと、何やらタブレットPCのような物を取り出し、指で板をなぞりながら、何かを確認してるようだった。
さすが500年。そんなのもあるんだ。
「この生産者ギルドの発足以来、ランクSの鍛冶師は500年前に神装備を製作された4人だけですね。順番に、
神槍ユエリック 製作者:シエン
神弓クラルーフ 製作者:グレース
神斧アレックス 製作者:フレイヤ
神剣エターナル 製作者:エト
となります。」
うん。ありがと。でもそういう事を聞いてるんじゃ無いんだな。
0人てのはどういう事かを聞いてるんだよね。
だってその4人目のエトさんはここにいますから。
だからランクS鍛治師は0人じゃなくて1人ですよー。
「……ん?」
「なにか?」
「いえ、なんでもないです」
そう言えば私のステータス画面にランクSの表記ってあったっけ?
この世界に来てから何度かステータス画面は表示させていたが、レベルの表記はあったがランク表記は見た記憶がない。
なんだか嫌な予感がする。
『ステータスオープン』
私は居ても立っても居られず、心の中で小さくそう呟く。
すると、目の前に半透明なステータス画面が現れた。
小さくで呟いたからか、そのステータス画面は普段より小さく表示されたていた。無駄に自由度が高い。
しかし、その画面にはランク表記がどこにも無く、そのかわり詳細画面を開くタブを発見した。
なるほど、ランクはこっちで確認出来るのか。
私は恐る恐る、その詳細タブを開いた。
名前:エト
レベル:99
職業:未登録
冒険者所属国:無所属
冒険者ランク:ー
所属ギルド:無所属
ギルドランク:ー
「マジか……」
何となく、そんな気はしていたけど、流石に厳しい。
しかも、今の私は鍛治師ですらない。
レベルをカンストし、アホほどスキルを持っている、無職の一般人だった。
いや、それどんな無職よ。
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