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第2話 ドラゴンキラー
しおりを挟む紅翼竜は既に落下中の私に追いつき、大きな口を開けて、今まさに私を丸呑みにしようと襲いかかって来ていた。
「————夏枯れの月桂樹!!不屈の護符!!」
“ギェェェェーン!!”
私は腰に着けられた「無尽蔵のポーチ」の中から2つのアイテムを取り出し、紅翼竜に向けて投げつけた。
一つは、あらゆる作用を大幅に減衰させる効果を持つ、超希少アイテムの『夏枯れの月桂樹』。
もう一つは、スキルやアイテムの効果と成功率を、飛躍的に向上させる、これまた超希少アイテムの『不屈の護符』。
どちらも神剣を作るために使った超激レアアイテムだ。
私はこの2つのアイテムを使い、紅翼竜の動きを止める事に成功した。
「よし!しばらく大人しくしててよね!」
しかし、本来は生産用のアイテムであり、モンスター相手には効き目が薄い。
そんな事は織り込み済みだ。
紅翼竜はそれなりに高ランクのモンスター。
それほど長い時間は動きを止めていられない。
私はそのまま次の一手に出る。
「スキル・異次元工房!!」
直後、目の前の空間が渦を巻く様に歪んで行く。
これは、鍛冶場が無くてもどんな場所でも鍛治生産を可能にする便利スキル『異次元工房』。
習得難易度がかなり高い割に、ゲームでは外で鍛治生産をする意味やメリットがほとんどない為、ユーザーの間では完全なネタスキルとして扱われていたスキルだ。
しかも、鍛治における大部分の工程をスキルが自動で高速処理をする仕様の為、普通に作るよりは格段に早く作り上げることが出来るが、鍛治師本人の技術は反映されにくく、高いランクの武具生産は望めない。
「次は素材!ここまで来たら未練は無いよ!若干持て余してたくらいだし!」
私はそう言ってポーチから次々と素材アイテムを取り出し、異次元工房の歪んだ空間に放り込んでいく。
ガルーダの羽根
大百足の攻殻
古竜の逆鱗
そして、ヒヒイロカネの金塊
どれも超が付く程のレア素材だ。
鍛治師の技術が反映されにくいのなら、素材のレア度でゴリ押すのみ!
大事に取っておいても死んでしまったら意味がない。
私は出し惜しみ無しに、他のレア素材もどんどんと放り込む。
「よし!こんだけ有れば十分でしょ!むしろ入れ過ぎ!」
「ギギギギギ・・・!!」
そんな時、数メートルの距離で対峙しながら共に真下へと落下している紅翼竜の体が、少しずつ動きを取り戻し始めた。
「もう遅いよ!これで私の勝ちだから!」
私はそう叫ぶと、腰に装備していた「星砕の槌」を右手に取り、目の前の歪んだ空間に目がけて大きく振りかぶり、勢いよく叩きつけた。
“キーーーーーーン!!”
星砕きの槌で叩きつけられた歪んだ空間は、突然激しい光を放ち、直後、その光は歪んだ空間と共に一瞬にして消え去ってしまった。
そして、光の消え去ったその場所には、まるで重力を無視するかのように、1本の剣がたゆたっていた。
武器名:ドラゴンキラー++
武器ランクA
攻撃力897
耐久力753
生産者:エト
「よし来た!!思ってたのとは違うけど問題無し!」
思わずガッツポーズする私。
本当はドラゴンバスターを作るつもりだったけど、クオリティアップを狙って希少素材を注ぎ込みまくった結果、キラー系の武器が出来てしまった。しかもダブルハイクオリティの。
片手持ち直剣から両手持ち大剣に変わってしまったけど、紅翼竜の撃退から討伐に変わるだけだし、別に良いよね!
私は星砕きの槌をポーチに仕舞うついでに一枚の護符を取り出し、それを目の前のドラゴンキラーに巻きつけた。
そして、そのドラゴンキラーを両手で持ち、頭上高くに持ち上げた。
「それじゃ、いくよ!!命中の護符!!」
護符の巻かれたドラゴンキラーが一瞬光り、その護符の効果が発動する。
私は空中を落下しながら、紅翼竜の方に体を向け、高く構えたドラゴンキラーを両手で勢いよく、
「いっけえーーーー!これでやられちゃえ!!!」
投げ付けた。
“グギャギャギャギャギャ!!!!!”
思い切り投げられたドラゴンキラーは真っ直ぐに紅翼竜の額へと突き刺さり、紅翼竜は大きな悲鳴を上げて体を仰け反らして悶絶した。
「あっぶない、もう硬直が解けてたんだ。命中の護符使ってて良かった。それにしても、流石はドラゴンキラー。硬い鱗を簡単に貫通したなあ」
紅翼竜の額には、まるで2本目のツノが生えたかのように、もともとあった黒い立派なツノの下に、ドラゴンキラーが突き刺さっていた。
“グギギギギギギギギギ!!!”
そんな紅翼竜は、唸り声を上げながら牙を剥き、ギラギラと血走った瞳で私を睨みつける。
そして、背中の翼をゆっくりと左右に大きく広げ、一回、二回と、まるで私を威嚇するかの様に、大きく翼を羽ばたき始めた。
「えええ!?あれで死んでないの!!?」
紅翼竜は翼を数度羽ばたかせてその場でホバリングをし、今も落下している私のちょうど上空で、位置取りを決めた。
そして、そのまま私めがけて、頭から超高速で急降下して来た。
「ちょ!ドラゴンキラー、もうちょっと仕事してよね!」
私がそんな悪態を吐いている間にも、大きな口を開けた紅翼竜はもう、目の前にまで迫り、私を丸ごと飲み込むように、その開かれた口の上顎と下顎が勢いよく閉じられた。
“バグンッッ!!!“
「え?」
予想外の状況に、思わず私は驚き、一瞬固まってしまったが、すぐに正気を取り戻し、あたりを見回し状況を確認する。
そこは紅翼竜の口の中……ではなく、紅翼竜の顔の真横だった。
手を伸ばせば触れられるほどの、そんな至近距離だった。
「紅翼竜が目測を誤った……?」
目の前にある紅翼竜の横顔を見ると、見る見る精気が失われて行くのがよく分かった。
どうやら今の動きは、紅翼竜の最後の力を振り絞ったものらしく、ドラゴンキラーはちゃんと仕事をしていたらしい。
「なんとか……倒せたみたいだね」
紅翼竜の大きな瞳はゆっくりと閉じられ、その巨体な全身からも、あらゆる力が抜けていった。
「今のは本当にやばかった……。絶対に食べられたかと思ったよ……」
なんとか窮地を脱し、今もなおバクバクと高鳴る心臓を押さえながら、私は落ち着きを取り戻す。
「まあ、倒せたのは良かったけど……。あとはこの落下をどうにかしないとなんだよね……」
私と紅翼竜は当然今も落下中。
しかも、地上まではあと百メートル程の高さまで迫っており、眼下には城塞都市の城下町。
ちょうど、魔術ギルド会館のある学術区の辺りだった。
城下町の住民達は、早い段階で空から降ってくる巨大な紅翼竜の存在に気付いており、町中大混乱で阿鼻叫喚の如く逃げ回り、なんだかんだで落下予想地点の周辺からははほぼ全員の避難が済んでいるようだった。
そして私は、何の対処も出来ないままに、地上へと激突する。
「うわあああ!ムリムリムリムリ!!!!!」
私の全力の叫び声は、建ち並ぶ家や施設を吹き飛ばす音にかき消され、私と紅翼竜は凄まじい衝撃音と共に地面に落ちた。
しかしその勢いは止まらず、滑るように幾つもの建物を次々となぎ倒して行き、数十メートル程進んだ所でようやくその勢いは止まった。
私は無意識のうちに紅翼竜の黒いツノにしがみ付いていたらしく、紅翼竜のお陰で墜落時の衝撃は大分軽減されていたようだ。
「いてててて。マジ死ぬかと思ったよ。でも、どうやら何とか助かったみたいだね……いてて」
一応、ステータス画面を出して確認して見ると、私の残りHPは2桁前半にまで減っていた。
「ホントに死にかけてるじゃないの……こっわ」
防御力の高いメイン装備を着けていてのこれだから、本当にギリギリの間一髪だったようだ。
「で、なんとか生き延びたのは良いけど、これは流石に……」
あたり一面を見ると、悲惨なまでの大惨事。
見渡す限りの建物はことごとく崩壊し、あちこちから火の手が上がり始めていた。
避難していた人達は次第に戻り始め、瓦礫の撤去や火事の消火などの作業にあたり始めている。
「さすが魔物のいる世界。この世界の人達の適応力は凄いね」
そんな事を考えながら、私は早々にこの場から離れる事にした。
この大惨事の原因は間違いなく私だ。
もちろん故意ではなく、成り行きの結果ではあるが、ここの住民からすればそんな事は関係はない。
たとえ、弁明の余地を与えられたとしても、上手く説明できる自信はない。
そもそも私がよく分かっていないし、『異世界からゲームの世界に転移して来ました』と言われて誰が納得出来るのか。
「うん、これは事故。いきなり紅翼竜が空から落ちて来ると言う、天災のような不幸な事故。私関係ない」
ワタシカンケイナイ。
うん。よし、行こう。
これまでの短期間に、あまりにも数々のあり得ない展開の連続を経験した私にとって、もはやこの程度の事で動じる事はない。
今の私ならば、この程度の現実逃避は造作もないのだ。
オールオッケー。オールクリア。何も問題無し。
私は自分自身を鼓舞し、とっととこの場から離れるべく、都市の中心部目指して何事もなかったかのように歩き始めた。
そして私は誰にも気付かれることなく、この学術区を抜ける事に成功した。
かくして、私はこの世界にいくつかの火種を残していった。
一つは、住居や施設などの、災害による大きな傷跡。
一つは、災害を振りまいた巨大なドラゴン「紅翼竜」の死骸。
そして、その紅翼竜への有効武器「大剣ドラゴンキラー」。
オールオッケー。オールクリア。何も問題無し。
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