年下王子の重すぎる溺愛

文月 澪

文字の大きさ
上 下
47 / 59
第3章 乱舞

第47話 想いの重さ

しおりを挟む
 アルが何を言ったのか一瞬分からず保けていると、無邪気な声で話しは続いた。

「リリーってフェリット伯爵家の跡取りだったでしょ? ︎︎だから貴族の次男坊やらにとっては美味しい獲物なんだよ。婿入りすれば伯爵位を継げるし、領地も手に入る。昔はお転婆だったみたいだけど、リリー本人は可愛いし文句のつけようがない。そんな奴らがこぞって求婚しようとしてんだ。ふざけてるよね」

 表情こそ柔和に微笑んでいるけれど、目がちっとも笑っていない。私は口を挟む事もできないまま、背を冷たい物が伝う。

「もちろん、中には本当にリリーが好きだからっていう奴もいたよ? ︎︎僕としてはそいつらの方が厄介だったかな。どれだけ圧力をかけても怯まないんだ。たぶんリリーの知ってるやつもいると思う。徹底的にぶっ潰してやったけどね」

 鼻息も荒く、褒めてとばかりに胸を張る。これは、どう反応するべきなのかしら。私のために頑張ってくれた事は嬉しい、のかもしれない。そこまでして欲してくれたのだから。

 でもそれって六年前、つまり五歳の頃のはずだ。私と出会ってから、ずっとそんな事をしていたのかと思うと複雑でもある。

 確かに、アルは騎士団長にも当たりが強かった。出征前、番兵と談笑していた所に行き当たった時も、割り込んできたアルには棘があったように思う。

 この三日間、ずっと一緒にいても私を離そうとしなかった。ソファでも隣に寄り添い、肩を抱いてぴったりとくっつき、うとうとする事もしばしば。

 完全に離れるのは、食事の時くらいだろうか。さすがにくっついたまま食事をするのは難しい。お風呂も一緒に入りたがったけれど、やんわりと断り今の所は事なきを得ている。いくら体を見られていると言っても、お風呂だと妙な気恥ずかしさが湧いてくるのだ。

 そんな葛藤が顔に現れたのか、アルは何を思ったか変な弁明を始める。

「あ、でも命を取ったりはしてないから安心してね。社会的に抹殺した程度だよ。それも正当な理由でだから、不正はしてない。一番しつこかったのはマセオーエン男爵の三男だったかな。エントっていう奴だけど、知ってる?」

 その名前を聞いて、私は変な声が漏れてしまった。

「エント!? え、彼が私に求婚しようとしていたのですか!? ありえません! 彼は私と一番仲が悪かったんですよ? 顔を合わせれば喧嘩ばかりで、好意を抱くなんて考えられません。私も彼は苦手で、できるだけ避けていましたから」

 エントとは十歳の時に、父の友人であるマセオーエン男爵の紹介で出会った。遊び相手にと顔合わせさせられたのに初対面から威圧的で、髪の色が変だとか、ブスだとか散々な言いようで、当時の私は負けん気が強かったから真正面からぶつかっていたのだ。時には掴み合いの喧嘩にまでなり、父に迷惑をかけた事もある。

 そんなエントが私を?

 はっきり言って理解できない。十三の時に王城で催されたお披露目の舞踏会でも、ドレスが似合わない、ちんちくりんなどと言っていた。それに嫌気がさして抜け出した庭園でアルと出会ったのだ。

 十三といえば、成人には満たないけれど婚約を意識しなければならない。男爵といえど貴族である以上避けては通れない道だ。お披露目は、ある意味お見合いの場でもある。それなのに、そんな態度で何故受け入れてもらえると思うのだろうか。

 例えその後、釣書つりがきが私の手元に届いていたとしても、見る前に破り捨てたと思う。彼を結婚相手として見る事なんてできるはずもないから。

 だから私はきっぱりと言った。

「私はエントが嫌いです。貴方が手を下さずとも、相手にしなかったのに。それに、十三にならなくても婚約の打診はできたはずです。何故こんな回りくどい事を?」

 疑問を口にすると、アルは神妙な表情で語る。

「それはやっぱりオードネンの存在が大きいね。僕が産まれた時には既に、おじい様が退位して父上が王位を継ぐ事は決まっていた。そしてオードネンの父、当時の宰相が暗殺されたのも同時期だ。それが十四年前。オードネンは虎視眈々と玉座を狙っていた。父上はもちろん、僕自身何度も暗殺されかかったんだ。そんな中で君に婚約の打診なんてしたら、君にまで危険が及ぶでしょ? ユシアンが産まれてからは特に」

 それはアルの優しさゆえだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

身分差婚~あなたの妻になれないはずだった~

椿蛍
恋愛
「息子と別れていただけないかしら?」 私を脅して、別れを決断させた彼の両親。 彼は高級住宅地『都久山』で王子様と呼ばれる存在。 私とは住む世界が違った…… 別れを命じられ、私の恋が終わった。 叶わない身分差の恋だったはずが―― ※R-15くらいなので※マークはありません。 ※視点切り替えあり。 ※2日間は1日3回更新、3日目から1日2回更新となります。

みんなのワンコ系小公爵が私の前でだけ牙を見せてくる件について

おのまとぺ
恋愛
公爵令息ルシアン・ド・ラ・パウルはいつだって王国の令嬢たちの噂の的。見目麗しさもさることながら、その立ち居振る舞いの上品さ、物腰の穏やかさに女たちは熱い眼差しを向ける。 しかし、彼の裏の顔を知る者は居ない。 男爵家の次女マリベルを除いて。 ◇素直になれない男女のすったもんだ ◇腐った令嬢が登場したりします ◇50話完結予定

婚活をがんばる枯葉令嬢は薔薇狼の執着にきづかない~なんで溺愛されてるの!?~

白井
恋愛
「我が伯爵家に貴様は相応しくない! 婚約は解消させてもらう」  枯葉のような地味な容姿が原因で家族から疎まれ、婚約者を姉に奪われたステラ。  土下座を強要され自分が悪いと納得しようとしたその時、謎の美形が跪いて手に口づけをする。  「美しき我が光……。やっと、お会いできましたね」  あなた誰!?  やたら綺麗な怪しい男から逃げようとするが、彼の執着は枯葉令嬢ステラの想像以上だった!  虐げられていた令嬢が男の正体を知り、幸せになる話。

偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~

甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」 「全力でお断りします」 主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。 だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。 …それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で… 一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。 令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……

婚約者のいる運命の番はやめた方が良いですよね?!

月城光稀
恋愛
結婚に恋焦がれる凡庸な伯爵令嬢のメアリーは、古来より伝わる『運命の番』に出会ってしまった!けれど彼にはすでに婚約者がいて、メアリーとは到底釣り合わない高貴な身の上の人だった。『運命の番』なんてすでに御伽噺にしか存在しない世界線。抗えない魅力を感じつつも、すっぱりきっぱり諦めた方が良いですよね!? ※他サイトにも投稿しています※タグ追加あり

朝起きたら同じ部屋にいた婚約者が見知らぬ女と抱き合いながら寝ていました。……これは一体どういうことですか!?

四季
恋愛
朝起きたら同じ部屋にいた婚約者が見知らぬ女と抱き合いながら寝ていました。

「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。

あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。 「君の為の時間は取れない」と。 それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。 そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。 旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。 あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。 そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。 ※35〜37話くらいで終わります。

獣人の彼はつがいの彼女を逃がさない

たま
恋愛
気が付いたら異世界、深魔の森でした。 何にも思い出せないパニック中、恐ろしい生き物に襲われていた所を、年齢不詳な美人薬師の師匠に助けられた。そんな優しい師匠の側でのんびりこ生きて、いつか、い つ か、この世界を見て回れたらと思っていたのに。運命のつがいだと言う狼獣人に、強制的に広い世界に連れ出されちゃう話

処理中です...