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第一章 暗殺者に手を

12.領地に潜入、そして作戦

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 夜の帳が落ち、日の光の代わりに灯火が街を照らす頃。

 ゲルラリオとレオ、そしてカエデの三人はウルカス男爵領に到着していた。

 三人は昼飯を何も食べずに移動しっぱなしだったので、街の適当な飯屋に入る。男爵領の街は侯爵領より規模は小さいが、それにしても活気があまりないように見えた。

「なんかこの街暗くない?」
「うむ…寂れてる…までは行ってないが活気がないな」

 適当な飯屋に入った三人は席に着き、レオとゲルラリオは小声で会話する。この飯屋も飯屋で、お世辞にも綺麗とは言えず、ところどころに掃除の手が届いていない箇所が見受けられた。

「それはそうだ。ここの領主はありとあらゆる手段で税をこの街からとっているからな」

 運ばれてきた食事に手を付けながらカエデは言う。

「でも税を取りすぎると国から言われるんじゃないの?」

 貴族、つまり領主が領民や領地に課すことができる税はある程度の基準が設けられている。仮にその基準を大きく上回ることがあれば、国が介入してくるはずだ。

「言われないギリギリを考えてやっているんだ。街が何とか機能して、領民もギリギリ飢えない。この状態ならば国は介入できない」
「え、それ国が定めた基準がざるじゃない?」
「そうだ」

 国から口を出されないギリギリを見極める男爵のその手腕にも呆れるが、それよりこのような事が出来てしまう基準を作った国の方に呆れる。

「というか何でカエデはそんなこと知ってるの?」

 カエデは夜の一族という一族の一員なはずなので、このような話に通じているのはおかしいとレオは思った。

「…もう色々知られてしまったから言うが、私たち夜の一族は海を渡った島国の名家だ。だが、何代か前の戦乱で敗れ、この大陸まで逃げ落ちてきた。だから帝王学…とまでは行かないが、このような事を小さいころから勉強していてな。まあそういうことだ」

 カエデと言う名前。
 黒髪黒目。
 海の先にある島国。

 これだけの情報が揃っているとレオは自分の故郷を思い出す。

「なるほどねー…話は戻るけど、ギリギリの税を課して私腹を肥やしてるってこと?」
「そうだ。そのあり余った金で道中に話した男を雇っている」

 夜の一族の族長でも勝てなかったという男。

 カエデ曰く、銀晶石という特殊な鉱石で作られた直剣を持ち、爆炎をまき散らすような奴だというらしい。

 剣術の腕、魔法の腕どちらも一流以上であり全員で襲い掛かっても勝てなかったほどだ、と言うことも聞いた。

「ふむ…では作戦を決めるとするかね」

 勢いよく食べていた食事の手を止めて、ゲルラリオは口を開いた。

「まず…侵入する時間は皆が寝静まってからでしょ?」
「うむ。後はどのような手順で行うか、と言った感じかの」

 これまで散々潰す潰す言ってきたが、本来の目的は人質の救出だ。なので、出来るだけ気づかれないように隠密行動をする必要があった。

「まずカエデのお母さんと妹がどこにいるか調べないといけないね。あ、夜の一族の人たちは何してるの?」

 確か夜の一族の総数は二十人ほど。カエデの母と妹は人質にされているということは分かっているが、他の夜の一族は何をしているか聞いていなかった。

「今も状況が変わっていなかったら、族長たちは今屋敷の離れにて隔離されているはずだ。人質の母と妹の場所には
あの男が待機している。男爵は知らん。どうせしょうもない事しかしていないだろう」

 人質のところに男がいるので救出したくてもできないとのこと。これは中々面倒くさい状況だなとレオは思った。

「ふむ、ならば儂が正面から突っ込み、その隙に二人で救出するのはどうだろうか?」

 少し考えた後にゲルラリオはカエデとレオに提案する。この作戦はゲルラリオという超特級戦力を餌にして男を釣りだし、その隙にカエデとレオが潜入するといった単純なものだ。

「いいんじゃない?爺ちゃんが適当に暴れれば例の男も出てくるでしょ」
「うむ。ならば下見に行くとするかの」

 一瞬にして作戦が決まり、席を立とうとする二人。

「ちょ、ちょっとそんな適当でいいの…⁉」

 そんな二人にカエデは慌てて待ったをかけた。

「良いも何も最良だと思ってるけど」
「実際にやってみなければ分からぬものもあるしな!」

 孫と祖父。

 カエデはそんなはちゃめちゃな二人を見て溜息を吐いた。
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