上 下
7 / 9
閑章①.女神さまの憂鬱

第007話.頭抱える女神さま♧

しおりを挟む




 ここは地上界と呼ばれる異世界、最果ての場所。何処にあるか誰も知らない、地上界とは完全隔絶された場所……





 空にはライトグリーンの雲、レモンイエローの雲、ピンクパープルの雲……色んなカラフルな雲が四方八方行き交います。そして、はるか上空に『次元の渦』と呼ばれる黒雲が姿をわずかに覗かせます。

 大地は所どころ縦長に穴が空いており、そこから“歪極の雲河”が見えます。言い伝えによれば、この遥か深き雲河の奥底に『天界の扉』というものがあり、そこで地上界と繋がっているそうです。

 この大地に天高くそびえ立つ3つの巨大神殿のひとつである「純白の神殿」の最上階、壁がり貫かれて丸見えになった大広間にて……大理石の机にカジりつき、ガリ勉スタイルで膨大な書類の山と格闘する人影がひとつ。


……女神さまです。


 女神さまが、書類の山を見てふぅっと溜め息をついていると……


 ふぁ~ん♪ ファ~ン♪ ふぁ~ん♪ ファ~ン♪


 ちょっと音程がズレているんでしょうか? どこか間の抜けた様な、全然緊張感の無いサイレンの音が鳴り響きます!


【禁忌ちゃ~ん、今のサイレンは何の警報なんですか?】


 テレパシーを感知し、はいは~いとフワフワ飛んで来たのはビホルダー。その名も「禁忌ちゃん」。

 “禁忌の力ビホルダー”は本来はもっと巨大で、無数の邪眼を有する禍々しい姿でした。そして、もともと地上界とこの隔絶世界のパワーバランスを調性する『バランサー』の役割を担っていた、らしいんですけど……

 ちょっとした“すったもんだ”があった末に、逆に全ての力を女神さまに吸収されちゃったんです。

 その為、今や「禁忌ちゃん」と呼ばれるソレは無数の邪眼どころか小さい愛くるしい丸っこい目がひとつあるだけ。良くみたら、目蓋まぶたがある様に見えるんですが……気の所為でしょうか?


【何か今、地上界の方で『黒瘴警報』が発動したみたいですよぉ~】


 禁忌ちゃんは、つぶらな瞳をフヨフヨ浮かせながら説明します。


……なんかカワイイ♡


 黒瘴……即ち瘴気が黒い渦となって地上界で猛威を奮っているんです。瘴気とは地上界の遥か下、地獄界で燃え広がる“消えない炎”、獄炎によって生み出される熱風の事です。

 でも、普段は地獄界から地上界へと漏れ出て来る瘴気は微量なハズなのに……


【場所は……?】

【アルカディア大陸だよ!】

【うぐふ!】



────────────────

 場所を聞き、女神さまひっくり返り頭を強打、絶賛悶絶中。
しばらくお待ち下さい。

────────────────



 至急何らかの手を打たないと、地上界に住む者達にも影響が及んでしまいます!女神さまと違い、神気を持たない“地上界の民”は瘴気に対抗する術を持ち合わせていないからです!


 一計を案じた女神さまは、少女を1人呼び寄せました。


【チェリー、いますか? 貴女に初任務を与えますから、こちらへ来て下さい♪】


 チェリーと呼ばれる少女は、すぐサッと現れました。チェリーは、女神さまの前に跪きひざまずます。


【チェリー=グレイシア、貴女に初任務を与えます。地上界の民と協力して黒い渦を調査、出来れば沈静して来て下さい!】


 2人はフワッと飛んで、刳り貫かれた壁から外に出ます。


【ちゃんと任務、出来るかな……】


 女神さまはフワフワと浮かびながら、優しく微笑みます。


【大丈夫です、だって貴女は『ワタシが出来る事はだいたい出来ちゃう』じゃないですか! 貴女は、そういうスキルを持っているんですから】


 チェリーは、おどおどして両手をブンブン振っています。


【でも、あのスキルは……発動条件が○○○過ぎて地上界では殆ど役立たずだったスキルなのに?】


 すると、女神さまはニッと笑ってこう言ったんです!


【アラ、忘れたの? 契約の際にワタシの髪の毛を1本プレゼントしたでしょ? 契約者が女神のワタシだから、あのスキル・・・・・の発動条件が髪の毛1本で済んだんですよ!】



【貴女は、ワタシがわざわざ地上界に降臨してまでスカウトして連れて来た、言わば“秘蔵っ子”なんですよ。もっと、自分に自信を持ちなさい!】


 女神さまには、今や返し切せぬ程のご恩が有るんです。仕方ないですね、とチェリーは腹を括った様です。

 飛んで移動していた2人は、“歪極の雲河”が一番間近に見られる穴の縁に並んで着地しました。雲河の奥底にうっすら見える扉は、今回は無視します。


【女神さまの言う通りにするわ、でもひとつ教えて! コレ……一体どんな意味があるの?】


 そう、今チェリーが着ているのはスカイブルーに純白のフリルが付いたメイド服だったんです!


【だって貴女は、ワタシが出来る事は何でも熟せる『スーパーメイド』なんですから! お似合いよ、とっても!】


 チェリーは片手を腰に当てて、はぁ~と溜め息をついてポリポリ頭を掻きます。


【全く、女神さまと一緒にいるといつも調子を狂わせられるんですよね。でも、もうそれも慣れちゃいましたからね】










【女神さま、まず瘴気の出処から調べるねっ!】


 そしてばちゃばちゃと、何故か・・・チェリーは歪極の雲河を泳ぎ始めたのです。






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします

希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。 国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。 隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。 「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜

なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」  静寂をかき消す、衛兵の報告。  瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。  コリウス王国の国王––レオン・コリウス。  彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。 「構わん」……と。  周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。  これは……彼が望んだ結末であるからだ。  しかし彼は知らない。  この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。  王妃セレリナ。  彼女に消えて欲しかったのは……  いったい誰か?    ◇◇◇  序盤はシリアスです。  楽しんでいただけるとうれしいです。    

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

処理中です...