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第三章 育ちゆくワイハー島

逃走と帰還

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 「まったくモッチーのせいで……」

 僕は今、夜の街を逃げ回っていた。ついにアマゾネスの暴動が起きたのだ! とはいっても、一部お年頃となったヤツだけ。それでもその中に族長が入っているからまぁ質の悪いこと! 更にはこの暴動にドーラとミラカーまでが参加してしまい、もうヤキだけではどうにもならなくなってしまったのだ。

 家で寛いでいたところを急襲され、ヤキがニャゴリューに乗り移って対応をしていたものの、一人(一匹)では限界がある。幸いドーラとミラカーの謀反に気付いた僕はいち早くその場を脱出! モロが二人になにか耳打ちしていたのを目撃したから嫌な予感がしたのだ。

 「いたわっ! みんなこっちよっ!」

 「ヒィッ!」

 アマゾネスの持つ野性的な嗅覚により速攻見つかってしまう。動物かっ! しかもモッチーの教育により、この街に住む他の種族も含めて女性には決して手をあげないのが決まり。憎たらしいことに性教育だけをしていたのではなかった。モッチーを舐めすぎていた! お前のせいで誰も手を貸してくれないじゃないかよ!

 「もう街では隠れる場所がないや。ここは一旦歌舞伎山へと身を隠すか」

 こうなってしまえば街中全てが敵に見える。途中、ショーキューやペットが匿ってくれるような素振りを見せるも、僕自身がもう彼等でも信じられない程に追い詰められていた。だから一人で暫く山の中へ身を隠すと決めたのだ。他の選択肢がこんな状況だとこれ以上浮かばないし!

 「逃げるが勝ちだな!」

 途中、サンフラワを一つだけもいで軽く振り、その明かりを頼りに登山道を登って行く。無事アオジョリーナ・ジョリ―村からの脱出に成功!


 暫くして一合目中間付近へ。ここは曰く付きの場所。だけど今はこんなところで休んでいる暇はない! 勘のいい奴ならば必ずここへも探しに来るはず! だからもっと上へ逃げなければ!

 休む間もなくゼェゼェハァハァと中間付近を通過しようとしたその時! 前方に人影が!

 「みぃぃぃぃぃつけたぁ!」

 「アヒイィィィッ!」

 「そ、そんな大声出さないでください三河君! 逆にこちらがビビるじゃないですか!?」

 そこにはモッチーとエビちゃんが待ち構えていた。万事休すか!

 「冗談よ三河君。でも街の中はとても冗談だなんて言えないわね」

 「本当ですよ。この恩はいつかどこかで返してもらいますからね!」

 「ニャ~ン」

 「お前フザケンナよ? そもそもモッチーがニャ~ンって……ん? ニャ~ン?」

 僕達は一斉に鳴き声のする方へと顔を向ける! なぜなら異世界転移には大抵猫が関係しているからだ!
 
 「猫はどこだ!」

 全員が全員キョロキョロ探すも、その姿は何処にもない。しかしアレは確かに猫の声。付近が真っ暗闇で向日葵の明かりだけではよく見えないのだ! その時!

 {ガサッ!}

 「うわっ!」 

 「どうしたモッチー!」

 「なにか暖かい毛玉が僕の顔に!」

 次の瞬間!

 {バリバリバリ!}

 「ギャアァァァァァァァァァァァッ!」

 突如としてトチ狂ったモッチーは闇雲に走り出した! となれば当然……

 {ドゴッ!}

 「うがっ!」

 「いったぁーいっ!」

 「ぐへっ!」

 運悪く三人が絡む多重事故へと発展! これには辛くも耐えることができた。が!

 {ドサバサズサッ}

 {ゴキッ! バキャッ! トガッ!}

 その場へ転んでしまい全員が地面へと頭を強打! そのまま深い眠りに落ちた。


 「……きろ! ……起きろ! 三河っ!」

 僕を呼ぶ声が聞こえる。これは……

 「う、うーん……」

 「目が覚めたか三河! 俺が誰だかわかるか?」

 「えっと……おっさんさん?」

 「フザケンナ三河! 俺だよ海道だよ! そんな冗談が言えるってことは大丈夫だろうがよ!」

 「!」

 そこには東がいた。つまり、僕は元の世界へ戻ったのだ!

 「あっ! 他のみんなはっ!?」

 急いで辺りを見回すと、近くで同じように倒れるモッチーとエビちゃんを発見。二人も無事に元の世界へと戻ってこれたようだった。

 「そうだ! あれからどれくらい時間が経ったの東!」

 「なに言ってるんだ三河? 確かに俺も一瞬気を失ったけど、実質数分間ぐらいだぜ? せいぜい5分だな」

 「5分? そんなバカな!?」

 あれだけ向こうの世界で生活していたのに、こちらの世界ではたったの5分程過ぎただけだって? ありえない!

 「うーん……」

 「いたたた……あ、あれ?」

 そんなことを考えていると、二人も目を覚ました。

 「お、不雷先生も気が付いた?」

 「あっ! あなたは海道君!? ……ってことは」

 エビちゃんはその瞬間、瞳のパッキンが役立たずとなったようにポロポロ涙が漏れ始めた。そして近くにいたモッチーも、

 「帰って……これたんですね? ふぅーっ」 

 意外と平気なんだな。まあ、モッチーとしてはあっちの世界もそれなりにエンジョイしてたし分からんでもないか。

 「いや、まだまだ安心できませんよ? 現に誰か忘れてませんか?」

 「あ! そうだヤキは? あいつ確かニャゴリューに乗り移って僕を助けてくれていたはず!」

 どこを探しても彼女の姿は見当たらない。なぜならヤキは歌舞伎山に居なかったから。アオジョリーナ・ジョリ―村で必死となって攻め入る女性陣を食い止めてくれていたのだから。

 「ヤキよ、お前のことは生涯忘れないからな。本当にありがとう」

 内心イヤッホーゥな僕。別に嫌いというワケではないのだけれど、なにせ四六時中監視されるのはちょっと。しかも考えは全て筒抜けだし。厄介払いが出来たって感じ? ヤキには悪いけど……。

 「なぁみんな。色々あったけれど、せっかくだから頂上まで上らない? このまま帰るのはなんだか忍びなくて」

 「僕は全然オッケーですよ。体力も万全だし、三河君と同じで歌舞伎山……ではなく吹雪山を制覇するのが本来の目的ですし」

 「俺は遠慮しておくよ。不雷先生がこんな状態だから一回下山して下で待ってるよ」

 「あー、それがいいかも。無理して登る必要などないしね」

 全員是にて一件落着的な感傷に浸っているものの、腑に落ちない事が多く、敢えてガン無視せざるを得ない状況であった。そもそも一番最初はクマに出会って異次元旅行となったはず。ところが、それ以降は猫が絡んでいる。紐解いてみると最初に出会ったのはそもそもクマでなく、まさかショーキューでは? 現にヤツは一度僕達と一緒にこっちの世界へと足を踏み入れたことがあった。となれば、異世界転移したのは寧ろショーキューの方? 僕達に襲い掛かろうとしたのもあの時ならば頷ける。まだミニバンの手下となっていたのだから。だったら猫とは……

 「なー、モッチーどう思う?」

 「そうですねー、取りあえず難しいことは後で考えるとしましょうか」

 その後、僕とモッチーは頂上へ、東は駐車場へと向かってそれぞれ歩み始めたのだった。


 ― 頂上にて ―

 「ふー! ついに制覇したぞ!」

 「これぐらいで何言ってるんですか三河君? 吹雪山はまだ低い方ですよ? この国にはここの倍以上ある山がゴロゴロ存在してるんですから!」

 「そーゆーんじゃないんだよモッチー。この山は僕にとってクリヤしなければならないイベントなんだ。これまでずっとケチつけられて登頂できなかったからね」

 「確かにね。……お、あっちになにやら像がありますよ? 行ってみましょうか三河君」

 二人は疲れも忘れて山頂に聳え立つその像の近くへと向かった。


 「ほほぅ、これは立派な木彫りの像ですね? 僕より少し小さいぐらいですか?」

 「モッチーより小さいのならば3cmぐらい? プーックックック!」

 「サイテーですね三河君は。一体なんの話をしているのやら」

 触ると火傷をしそうな程赤くなるモッチーの顔。図星で恥ずかしいのやら、或は図星で怒っているのやら、もしかして図星で情けなすぎて顔に出ているのやら。別にどれでもいいんだけどね。

 「お、見て下さいよ三河君。ここに像の謂れが書いてありますよ? えーっとなになに……」


 そこには不思議な物語が記されていたのだった。



 

 
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