上 下
28 / 38
第二章 その町の名はアオジョリーナ・ジョリ―村

英美とAB

しおりを挟む
 
 「うわあぁぁぁぁんっ! みぃぃぃぃかあぁぁぁぁわああああくぅぅぅんっ!」

 エビちゃんは手に持つ髑髏と水晶を放り投げ、飛びかかるように僕へと抱き着き大号泣! 過呼吸に陥るのではと思う程に延々涙を流し続ける。これには僕だけでなく、アマゾネスたちも彼女が泣き止むまで見守ることしか出来ないでいた。


 ― 30分後 ―

 「いつまで泣いてるんだよエイビ! そろそろ落ち着けや!」

 どうやら途中からウソ泣きにシフトチェンジした模様。ヤキの耳打ちがなければ気付かなかった。

 『……フッ、女の勘です!』

 「チッ! アンタがいたのをすっかり忘れていたわ!」

 「!」

 ヤキが見えないアマゾネス達には、なにもない場所へ向かって独り言を言っているように見えるエビちゃんの行動。それでもやけにリアルで、どう考えてもそこには相手が存在している如く喋り続けている彼女に対し、それこそハトが豆鉄砲喰らったような顔をした。

 「アンタはすっと三河君ベッタリだったんでしょ? ちょっとぐらいいいじゃないのよケチ!」

 『……その姿を見るに相当ご苦労なされたようですね。仕方ありません、少しだけですよ?』

 ヤキもまた、自分を人として接してくれるエビちゃんを認めている。しかも時々僕に内緒でヒソヒソ話をすることも。なんの相談をしているのだかまったく?

 「落ち着いたエビちゃん? これまでなにがあったか聞かせてよ」

 「うん」

 ここで族長が口を開く。ドサクサに紛れて僕(ヤキ)の怒りを鎮めようとの魂胆が透けて見えるが、エビちゃんの件で本当に驚きが勝って怒りが何処かへ飛んで行ってしまったから彼女の話へ耳を傾けることにした。

 「お二人はお知り合いだったんですね。そうですか……では、この場ではなんですので、食堂でお茶でも頂きながらお話ししましょう。私とて呪術師エービーのお話を聞きたいですし」

 エビちゃんの話は聞きたいけれどアマゾネスたちと歓談するのはちょっと……。なんだかまた騙されそうだし。

 『……大丈夫ですよ旦那様! その時は私が大暴れしますから! それに向こうなら村長やベアアップさんも御一緒できるでしょうし』

 「あ、アイツ等を忘れてた!」

 結局僕は参謀ヤキの案を受け入れることにした。エビちゃんには今のうちに青ジョリ達へと慣れて貰ったほうが後々楽だし。

 この後僕達は兵士を含めた全員で反対側の食堂へと移動。裏手から楽々回れるこの部屋で、茶室のような小さな出入り口の意味に疑問を抱きつつ、ババァを放置したままで。気絶してるだけだから大丈夫だろう。……と思う。


 ― 食堂にて ―

 「そうだったんだ。苦労したんだねエビちゃん。この世界へ来た時間が僕とは少しだけズレたようだね」

 そう、これはきっと吹雪山での立ち位置が関係していると思う。前回の東は逆に僕達よりかなり後の時間へ転移した。あの時あいつは僕達より下にいたはず。今回のエビちゃんは上にいたから少し前に飛ばされたと考えれば辻褄が合う。となれば、吹雪山登山道は異世界転移だけではなく、その時間すら調整できる? だけどこっちの世界では検証のしようがない。面倒だけど調査するかなー? 〝歌舞伎山〟を

 「で、話は戻るけど、族長は婿探しにアオジョリーナ・ジョリ―村へと来たんだっけ?」

 「い、いえ、婿ではなく子種を……」

 俯き加減でモジモジ話す彼女にいじらしさが見える。ヤキも当初はあんな感じだったけど最近色々と毒されているような……

 『……あっ! まさかこの女……旦那様に気があるのではないでしょね? そこんとこどうなんですか先生!』

 「やだなぁヤキさん、何言ってんのよ? 彼女に限って……」

 エビちゃんはヤキの戯言を鼻で笑いながら族長の方へと目を向けた。そこにはモジモジイジイジしながらチロチロと僕を見る族長の姿が。

 「マジか!?」

 エビちゃんは確信した。族長は僕にまいっていると。しかしそんな面倒事になっているなどと露知らずなトウヘンボクの僕は、一つの提案をしてみることに。

 「だったら面倒だからアオジョリーナ・ジョリ―村にアンタ達全員住めばいいじゃん? それともしきたりとかご先祖の土地を生涯守る的な縛りがあるの?」

 「そりゃそうよ三河く……」

 「引っ越そう!」

 エビちゃんの返答を遮ってその何十倍かの大声で答えた人物がいた。正確には声を上げながらこの部屋へ飛びいるように入室してきたのだ! その人物とは……

 「な、なにいってんのよババ様? アマゾネスの伝統とかはどうすんのよ!?」

 僕の案に賛成したのは茶室モドキで失神していたはずのババ様。どれほどの権限があるのかは知らないが、エビちゃんを押さえて答えた水分保湿力皆無のしわくちゃミイラであるババ様。いや、普通その役目は族長がするんと違う? もっとも当の族長はポーッと意識が別世界へ行ってるから正確な判断など無理だろうけど。それにしてもこのババァ、いつの間に目を覚ました? しかも盗み聞きかよ?

 「なーにABよ、あの族長のお姿を見てみ? あれは完全にそこのお人にまいっておろうぞ。ワシとてこの悪しき風習が大嫌いだったし、ちょうどいい機会じゃて」

 「ダメよ! もしそんなことになればそこにいるヤキさんが……ヒィッ!」

 般若のお面って実際の人物をもとにその表情を模ったんだな。なぜなら今のヤキがまんま般若顔となってるし。

 「誰に向かって話をしておるAB? そういえば以前お主は人ならざる者が見えると言っておったな? ……まさか今ここにそれがいるのか!?」

 「え、ええ。実はずーっと三河君の背後に一人の女性が……」

 「なんじゃと!?」

 相当に衝撃だったようで、その場に尻もちをつくババ様。この場合、なにに驚いたのかは謎。因みに僕はエビちゃんがABと呼ばれているのに少しだけフフッとなった。

 「お……お主がまさか? その白い肌といい、人ならざる者が見える能力といい……おおおっ!」

 「なんだババァ? もしかしてボケたの?」

 「黙らんか若造めがっ!」

 『……!』

 ちょっとした冗談だったが、ババ様には通用せずに一蹴された僕。それに対し今度はヤキが激高! またしても制止する間もなくババ様の体に飛び込んでしまった。

 「うぎゃああぁぁぁぁぁぁっ!」

 「あーあ。どうすんの三河君? きっとヤキさん族長の件もあったから八つ当たりも兼ねてるわよ? あの悲鳴を聞くに例の映像を脳裏に焼き付けさせてるんじゃないの? 本当にボケても私知らないわよ?」

 ちょっとだけいい薬だと思った僕は酷いのだろうか? それとババァに見えるけど実はそれ程年取っていないんじゃないかな? 顔はシワシワでも首筋はそれ程年齢を感じさせないし。逆なら美容に一生懸命って分かるんだけど、そんな概念をアマゾネスが持っているとは思えないしな。

 「あー、ヤキさんよ。それぐらいで許しておやりなさい。さっきのは僕も調子に乗ってしまっただけだから」

 「うがあっ!」

 ババ様は断末魔のような大声を出すとそのまま失神。ちょっと気の毒だったかも。

 『……これで少しは懲りたでしょうね。もし再び旦那様に悪態をつくようならばその精神を破壊してやるって念を押しておきました』

 「おーこわ! やっぱりヤキさんは味方にするのが正解のようね?」

 『……あら? そもそも敵に回るおつもりだったのですかさん?」

 「あ、あんたまでいうなぁーっ!」


 ハァ、全然話が進まないなぁもう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結160万pt】王太子妃に決定している公爵令嬢の婚約者はまだ決まっておりません。王位継承権放棄を狙う王子はついでに側近を叩き直したい

宇水涼麻
恋愛
 ピンク髪ピンク瞳の少女が王城の食堂で叫んだ。 「エーティル様っ! ラオルド様の自由にしてあげてくださいっ!」  呼び止められたエーティルは未来の王太子妃に決定している公爵令嬢である。  王太子と王太子妃となる令嬢の婚約は簡単に解消できるとは思えないが、エーティルはラオルドと婚姻しないことを軽く了承する。  その意味することとは?  慌てて現れたラオルド第一王子との関係は?  なぜこのような状況になったのだろうか?  ご指摘いただき一部変更いたしました。  みなさまのご指摘、誤字脱字修正で読みやすい小説になっていっております。 今後ともよろしくお願いします。 たくさんのお気に入り嬉しいです! 大変励みになります。 ありがとうございます。 おかげさまで160万pt達成! ↓これよりネタバレあらすじ 第一王子の婚約解消を高らかに願い出たピンクさんはムーガの部下であった。 親類から王太子になることを強要され辟易しているが非情になれないラオルドにエーティルとムーガが手を差し伸べて王太子権放棄をするために仕組んだのだ。 ただの作戦だと思っていたムーガであったがいつの間にかラオルドとピンクさんは心を通わせていた。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈 
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈 
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

虐げられた令嬢、ペネロペの場合

キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。 幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。 父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。 まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。 可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。 1話完結のショートショートです。 虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい…… という願望から生まれたお話です。 ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。 R15は念のため。

孕ませねばならん ~イケメン執事の監禁セックス~

あさとよる
恋愛
傷モノになれば、この婚約は無くなるはずだ。 最愛のお嬢様が嫁ぐのを阻止? 過保護イケメン執事の執着H♡

処理中です...