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第二章 その町の名はアオジョリーナ・ジョリ―村
英美とAB
しおりを挟む「うわあぁぁぁぁんっ! みぃぃぃぃかあぁぁぁぁわああああくぅぅぅんっ!」
エビちゃんは手に持つ髑髏と水晶を放り投げ、飛びかかるように僕へと抱き着き大号泣! 過呼吸に陥るのではと思う程に延々涙を流し続ける。これには僕だけでなく、アマゾネスたちも彼女が泣き止むまで見守ることしか出来ないでいた。
― 30分後 ―
「いつまで泣いてるんだよエイビ! そろそろ落ち着けや!」
どうやら途中からウソ泣きにシフトチェンジした模様。ヤキの耳打ちがなければ気付かなかった。
『……フッ、女の勘です!』
「チッ! アンタがいたのをすっかり忘れていたわ!」
「!」
ヤキが見えないアマゾネス達には、なにもない場所へ向かって独り言を言っているように見えるエビちゃんの行動。それでもやけにリアルで、どう考えてもそこには相手が存在している如く喋り続けている彼女に対し、それこそハトが豆鉄砲喰らったような顔をした。
「アンタはすっと三河君ベッタリだったんでしょ? ちょっとぐらいいいじゃないのよケチ!」
『……その姿を見るに相当ご苦労なされたようですね。仕方ありません、少しだけですよ?』
ヤキもまた、自分を人として接してくれるエビちゃんを認めている。しかも時々僕に内緒でヒソヒソ話をすることも。なんの相談をしているのだかまったく?
「落ち着いたエビちゃん? これまでなにがあったか聞かせてよ」
「うん」
ここで族長が口を開く。ドサクサに紛れて僕(ヤキ)の怒りを鎮めようとの魂胆が透けて見えるが、エビちゃんの件で本当に驚きが勝って怒りが何処かへ飛んで行ってしまったから彼女の話へ耳を傾けることにした。
「お二人はお知り合いだったんですね。そうですか……では、この場ではなんですので、食堂でお茶でも頂きながらお話ししましょう。私とて呪術師エービーのお話を聞きたいですし」
エビちゃんの話は聞きたいけれどアマゾネスたちと歓談するのはちょっと……。なんだかまた騙されそうだし。
『……大丈夫ですよ旦那様! その時は私が大暴れしますから! それに向こうなら村長やベアアップさんも御一緒できるでしょうし』
「あ、アイツ等を忘れてた!」
結局僕は参謀ヤキの案を受け入れることにした。エビちゃんには今のうちに青ジョリ達へと慣れて貰ったほうが後々楽だし。
この後僕達は兵士を含めた全員で反対側の食堂へと移動。裏手から楽々回れるこの部屋で、茶室のような小さな出入り口の意味に疑問を抱きつつ、ババァを放置したままで。気絶してるだけだから大丈夫だろう。……と思う。
― 食堂にて ―
「そうだったんだ。苦労したんだねエビちゃん。この世界へ来た時間が僕とは少しだけズレたようだね」
そう、これはきっと吹雪山での立ち位置が関係していると思う。前回の東は逆に僕達よりかなり後の時間へ転移した。あの時あいつは僕達より下にいたはず。今回のエビちゃんは上にいたから少し前に飛ばされたと考えれば辻褄が合う。となれば、吹雪山登山道は異世界転移だけではなく、その時間すら調整できる? だけどこっちの世界では検証のしようがない。面倒だけど調査するかなー? 〝歌舞伎山〟を
「で、話は戻るけど、族長は婿探しにアオジョリーナ・ジョリ―村へと来たんだっけ?」
「い、いえ、婿ではなく子種を……」
俯き加減でモジモジ話す彼女にいじらしさが見える。ヤキも当初はあんな感じだったけど最近色々と毒されているような……
『……あっ! まさかこの女……旦那様に気があるのではないでしょね? そこんとこどうなんですか先生!』
「やだなぁヤキさん、何言ってんのよ? 彼女に限って……」
エビちゃんはヤキの戯言を鼻で笑いながら族長の方へと目を向けた。そこにはモジモジイジイジしながらチロチロと僕を見る族長の姿が。
「マジか!?」
エビちゃんは確信した。族長は僕にまいっていると。しかしそんな面倒事になっているなどと露知らずなトウヘンボクの僕は、一つの提案をしてみることに。
「だったら面倒だからアオジョリーナ・ジョリ―村にアンタ達全員住めばいいじゃん? それともしきたりとかご先祖の土地を生涯守る的な縛りがあるの?」
「そりゃそうよ三河く……」
「引っ越そう!」
エビちゃんの返答を遮ってその何十倍かの大声で答えた人物がいた。正確には声を上げながらこの部屋へ飛びいるように入室してきたのだ! その人物とは……
「な、なにいってんのよババ様? アマゾネスの伝統とかはどうすんのよ!?」
僕の案に賛成したのは茶室モドキで失神していたはずのババ様。どれほどの権限があるのかは知らないが、エビちゃんを押さえて答えた水分保湿力皆無のしわくちゃミイラであるババ様。いや、普通その役目は族長がするんと違う? もっとも当の族長はポーッと意識が別世界へ行ってるから正確な判断など無理だろうけど。それにしてもこのババァ、いつの間に目を覚ました? しかも盗み聞きかよ?
「なーにABよ、あの族長のお姿を見てみ? あれは完全にそこのお人にまいっておろうぞ。ワシとてこの悪しき風習が大嫌いだったし、ちょうどいい機会じゃて」
「ダメよ! もしそんなことになればそこにいるヤキさんが……ヒィッ!」
般若のお面って実際の人物をもとにその表情を模ったんだな。なぜなら今のヤキがまんま般若顔となってるし。
「誰に向かって話をしておるAB? そういえば以前お主は人ならざる者が見えると言っておったな? ……まさか今ここにそれがいるのか!?」
「え、ええ。実はずーっと三河君の背後に一人の女性が……」
「なんじゃと!?」
相当に衝撃だったようで、その場に尻もちをつくババ様。この場合、なにに驚いたのかは謎。因みに僕はエビちゃんがABと呼ばれているのに少しだけフフッとなった。
「お……お主がまさか? その白い肌といい、人ならざる者が見える能力といい……おおおっ!」
「なんだババァ? もしかしてボケたの?」
「黙らんか若造めがっ!」
『……!』
ちょっとした冗談だったが、ババ様には通用せずに一蹴された僕。それに対し今度はヤキが激高! またしても制止する間もなくババ様の体に飛び込んでしまった。
「うぎゃああぁぁぁぁぁぁっ!」
「あーあ。どうすんの三河君? きっとヤキさん族長の件もあったから八つ当たりも兼ねてるわよ? あの悲鳴を聞くに例の映像を脳裏に焼き付けさせてるんじゃないの? 本当にボケても私知らないわよ?」
ちょっとだけいい薬だと思った僕は酷いのだろうか? それとババァに見えるけど実はそれ程年取っていないんじゃないかな? 顔はシワシワでも首筋はそれ程年齢を感じさせないし。逆なら美容に一生懸命って分かるんだけど、そんな概念をアマゾネスが持っているとは思えないしな。
「あー、ヤキさんよ。それぐらいで許しておやりなさい。さっきのは僕も調子に乗ってしまっただけだから」
「うがあっ!」
ババ様は断末魔のような大声を出すとそのまま失神。ちょっと気の毒だったかも。
『……これで少しは懲りたでしょうね。もし再び旦那様に悪態をつくようならばその精神を破壊してやるって念を押しておきました』
「おーこわ! やっぱりヤキさんは味方にするのが正解のようね?」
『……あら? そもそも敵に回るおつもりだったのですかABさん?」
「あ、あんたまでABいうなぁーっ!」
ハァ、全然話が進まないなぁもう。
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