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第一章 始まりの場所

統べる者と滅ぶ村

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 こちらへ来て既に10日が経過。一向に戻れる気配もない。だからと言ってこの世界が嫌いってワケでもなく、寧ろドンドン成長する様を目の当たりにして、今やそれが楽しみになりつつもある。とはいえ、心配していないって事でもなく、多少なりとも不安な気持ちも。もしかして僕とモッチーは永遠とこちら側の住人になるのだろうか? 離れた知り合いや家族を思うと、少しだけセンチに。

 「家畜のモーも今や100匹を超えましたでさぁ。そろそろ〝ブー〟も飼ってみてはいかがでっか? 育つのも早いし、子だくさんだし、その肉はウマいといった三拍子そろった優れものの家畜でさぁ」

 名前からして豚だな。いや、豚に間違いないだろう。ってかまんま豚ジャン!

 「それも山に生息してるの?」

 「いえ、こればっかは他所の村でなにかと交換してもらうんでさぁ。どうせこの村の通貨は使用できないでさぁから」

 うーむ、確かに。でもそれだと僕の知らない部族と接触することになるな。これって結構危険なのでは?
 現時点で食糧難となっているワケでもないし、モッチー師匠の農業スクールのおかげで農作物に不自由もしていない。そもそも肉食をあまり推奨してないし。

 だいたい植物の成長も早すぎるのだ。種をまいて2、3日でもう実るし。一歩間違えれば雑草と相違ないのでは? 油断すれば忽ち一面は植物の生い茂る原生林みたくなっちゃうんと違うの? ま、災害に左右されないのは素晴らしいことでもあるけど。

 「あー、だったらワイが行くでクマー。一番近くのガハラセキ村ならばバケツ一杯の魚でブー一匹を交換してもらえると思うクマー。でも交渉は人間でないと無理でクマ」

 「だったらアッシも一緒に行くでさぁ。ってか、ガハラセキ村はまだあるのかな?」

 「んじゃ僕も行くよ。交渉役が青ジョリだけだと少し心配だから。ショーキュー背中に乗せてってね」

 「任せとけでクマー!」

 「じゃあモッチー、後は頼んだよ!」

 「アイアイサー!」

 思ったら即行動。判断力の甘さが時として生死を分けるであろうこの世界。優秀不断は現時点で重荷にしかならない。ならば先の先を行ってやれの精神だ!

 そして僕はショーキューに担がれ、青ジョリは別のベアアップに肩車されて、大量の魚と共にガハラセキ村へと向かったのだった。


 ― ガハラセキ村 ―

 「くさっ!」

 村の入り口に到着して僕の第一声がコレ。辺り一面何かの腐った臭いで充満している。

 この村まで距離にして10キロもないぐらいだっただろうか? 問題は舗装してある道ではなく、山あり谷ありの結構な険しい道のりだったって事。ベアアップは楽々移動するのだが、僕やモッチーでは到底無理な話。聞くところによると、青ジョリですらこの数倍はかかるだろうと言っていた。なんだかんだと言ってもやはり彼等は野生動物なんだと思わされる。おかげで腹時計小一時間でガハラセキ村へと辿り着いたのだが……。

 「こいつは死臭でさぁ。村の至る所に人の死骸が……」

 「おげえぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」

 吐いた。僕はまたしても。しかもショーキューの肩から胸元にかけて思いっきり。

 「だ、大丈夫でクマー? もしかして主人はこういったのに慣れてないのでクマー?」

 「ザッツライッ! ……言ってる場合か!」

 村としては非常にこじんまりとしているガハラセキ村。どういう訳か人の気配がない。いや、生きている人間の気配がないのだ。まだ死んでからそんなに経っていないと思われる死体があちらこちらに転がっている。これは一体……オエェェェェェェェェェッ!

 その後百回ぐらい嘔吐を繰り返し、漸くこの状況に慣れ始めた時だった。

 「…………コイツは酷いクマ」

 ショーキューはこの惨状を見てポツリとこぼす。何か思い当たる節があるのだろうか? もしかして彼等が襲ったとか?

 「ねぇショーキュー、何か知ってる?」

 「主人と出会う少し前に、ボスだったカットウルフが数匹同族を連れてどこかへ姿を消したことがあったんでクマー。たぶんその時この村を襲ったんでクマー。その証拠に茶色く長い毛と彼等の足跡があちらこちらに散らばってるでクマー」

 マジか! アイツ相当悪い奴だったんだな? でもなぜ村を襲った?

 「ボスはこの島全体で一番強い種族だけを残そうとしていたみたいでクマー。それが何の為かはわからないでクマ。その時従わなかったこの村の人間に腹を立てたのではないでクマ? 同じ様な事が山の中でも結構あったクマ」

 なるほど。従わぬのなら滅びてしまえ精神か。飼いならすのも面倒だったのだろう。それに見せしめの意味もあると思う。でなければこんなにも酷い有様に……オエェェェェェェェェェッ!

 『……ねぇ旦那様? こんなの私で慣れているのでは? 強いて言えば腐敗途中でジューシーってことぐらい?』 

 「バカかよヤキ? 臭いだよ臭い! お前は臭くなんかなかったじゃん! 見た目なんか怖くもなんとも……オエェェツ! や、やっぱあるかも」

 僕の涙と鼻水、そして涎に嘔吐物まみれの姿を見て気の毒に思ったのか、青ジョリが口を開いた。

 「三河さん、アッシがなんとかしまさぁ。ちょっとベアアップの方々、手伝ってくれないでっか?」 

 
 ― 腹時計20分後 ―

 「もういいでさぁよ! ささ、こっちへ来てもらえまっか?」

 青ジョリが村の入り口で一人体育座りをしている僕に向かって声を掛けた。気付くとあの死臭もそれほど感じなくなっている。ハテ?

 
 「凄いなっ! これを皆でやったの?」

 ここは村の裏手にある誰かの畑なのだろうか? そこには青ジョリの家程の巨大な山が出来ていた。しかもその頂上にはなにか突き刺さっている。

 「村人の亡骸をここに全て埋めたんでさぁ。尤も、ショーキューさん達がいなかったら出来なかったんでさぁけど」

 「一応上には墓標を立てたでクマー。全くの無関係ではないから、せめてこれぐらいはさせてもらったでクマー」

 こういった概念はあるのだなと感心。宗教観は乏しいくせに、死者を弔うだなんて。いや、もしかして無意識に疫病とかの発生を防いでいるだけだったりして。所謂本能?

 「それでね、いいもん見つけたでさぁ。ちょっとこっちへ来てくれまっか?」

 「いいもん?」

 青ジョリに言われるがまま後をついて行くと、あるボロい納屋らしき場所で足を止める。ここはなんだ?

 「ほら見てもらえまっか?」

 扉を開けて中を覗くと、そこには数十匹の豚によく似た生物が! もしかしてこれがブー? いや、間違いなくブーだろう! ってか絶対ブーじゃん! しかし直ぐにその様子がおかしいと気付いた。見るからにガリガリで、きっと食べるものもロクになかったのだろう。彼等もまた違う意味でのミニバンによる犠牲者。アイツ本当に畜生だったんだな。

 「それにしてもなんで全部が中心に顔を向けて固まってるんだろう? ブーってこんな習性があんの?」

 「いえ、ないハズでさぁ。確かにおかしな行動してまさぁね?」

 「ワイに任せてクマ。……ほらほら散るんだクマー!」

 ショーキューが数十匹のブーに向かって柳葉包丁を振りかざす。この時数匹をチクチクっと刺したら一斉に建物内の隅へと避難した。いや、血出てるし。そりゃ逃げるでしょ?

 「これはなんでっか?」

 ブーたちが散った中心にあったのは、なんと浴槽程の角材。余程彼等は飢えていたのか、ガリガリと齧り跡だらけ。それにしてもこれはなんだ? 

 「あれ? なんか真ん中に真横の線があるんでさぁ? これってなんでっか?」

 「本当だ! もしかして蓋じゃないの? ってことは箱になってる? ちょっとショーキュー、上を剥がしてみて!」

 そこは巨漢のベアアップ。その長くて鋭い柳葉包丁のような爪を線の位置でひっかけると、あり得ないぐらい軽々と持ち上げる。僕だけではとても動かせなさそうなその木でできた蓋を。

 「あっ! これ見てくれまっか三河さん!」

 「!」

 
 中にはなんと、女性二人の死体が収められていた。ヒエッ!

 

 
 
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