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「あなた、全然役に立たないじゃないですか。だからこれからは私が白魔道士として彼の側にいてあげます」
目の前の白魔道士の女の子の告げた言葉に、胸を突きさされたような痛みを感じた。目をぎゅっと閉じて、胸を押さえる。
役に立たないって言う彼女の言葉は言いがかりでも何でもなくて、事実のことだったから……反論もできない。
白魔道士と薬草師、その役割は傷ついた人の回復だ。二つの職業は似ているようで全然違う。
薬草師はその名の通り薬草を使って回復するから、どうしたって時間がかかってしまう。それに比べて白魔道士は即座に魔法を発動して回復できる。どちらが優れているかなんて……明らかだろう。薬草師は白魔道士の下位互換なんて蔑まれることもある。それでも薬草師という職業が無くならないのは、白魔道士の存在がそれだけ貴重だからだ。
この世界では遺伝によって魔法の才能は受け継がれていくんだけど、それでも白魔法の才能が受け継がれることは滅多にないらしい。だからその才能を持った人は一握りだ。
冒険者達はこぞって白魔道士の存在を欲しがるけど、そんな事情があるからパーティーを組んでもらえることなんてほとんどない。だから、諦めて薬草師で手を打つというわけだ。言うなれば妥協……というやつだよね。
その妥協される側の薬草師というのが、僕、ユウイの現在の職業だ。
僕と対峙する女の子は貴重な白魔道士の職業についている。
つまり、彼女は能力の劣る僕に代わってクライヴとパーティーを組みたいと言っているのだ。
彼女はおそらく……クライヴのことが好きなんだと思う。
僕が現在パーティーを組んでいるのは、幼なじみで魔法剣士のクライヴだ。女の子が惚れるのも納得の、男の自分から見てもクライヴという奴は格好いいのだ。
何をやらせても器用にこなし、大型モンスターと戦わせても一人で仕留める腕前を持つ。今ではその腕前が認められてS級ランクの冒険者となった。
ちなみに僕はB級だ。同じ時期に冒険者になったはずなのに、この差は一体……と思わなくもないけど、クライヴの活躍を傍で見続けていた身としては、この結果には納得だ。
顔立ちだって平凡な僕とは雲泥の差がある。女の子達が言うには、クライヴの冷たそうな顔立ちとミステリアスなところがたまらないのだという。
S級ランクで顔立ちもいいときたら、女の子達が放っておくわけもなく……。街中を歩いているだけで黄色い声援が飛び交うのだ。
普通だったらこんなすごい奴が隣にいたら嫉妬の一つも覚えるかもしれない。それなのに、そんな気持ちに一度もならないのは……尊敬、憧れ、そんな気持ちが胸を占めているからだ。
まあ、要するに僕が彼に惚れているということ。
ずっと、昔からね。
そして、どういうわけか平凡な僕とS級冒険者のクライヴは恋人同士の間柄でもある。
付き合うようになったきっかけは僕からだった。
溢れだす気持ちが堪えられなくて、ある時二人で食事していた時にぽろっと「君が好きだ」って呟いてしまった。
あの時は本当にどうかしていた。冒険の話をしていたはずなのに、何がどうして好きだという話になったのか。
あれ、僕、突然何言っちゃったんだろうと顔を青くしてあわあわとしていたら、クライヴの顔が近づいて、次の瞬間にはキスされていた。
嬉しそうな表情なら両思いだったのだと思うけど、その時の彼の表情は実のところちっとも覚えていない。唇が離れて行った後、俯いてしまって一度も顔を上げられなかったせいだ。僕はその時いっぱいいっぱいだったのだ。
あんまり僕が青くなっておろおろしていたものだから、同情のキスだったのかと思う時もある。
でも、そうだとしたら……その後の展開にまでは発展しないだろう?
お付き合いしているという状態には。
本当に僕で良かったのか聞きたくなることは何度もあった。でも……。
街の女の子達はクライヴのことをクールだの何だの言うけれど、それは彼が驚くほど無口だからだ。僕と二人でいる時もやや無口なところはあるけれど、態度はそうでもない。
僕を思い切り甘やかして、抱き締めてくれる。
クライヴからの愛情をとても感じるんだ。だから、きっかけは僕の告白だったのかもしれないけれど、今では同じぐらいの好きを返してくれているって思う。
役立たずだっていう部分は自覚しているから反論できないけど、だからといって女の子からの提案を大人しく受け入れるつもりは無い。
クライヴから僕の存在が迷惑だとか、パーティー解消しようだとか言われたことは無い。そんなこと思われてない……はずだ。
「申し訳ないけれど、クライヴが僕を必要ないって言うまで離れるつもりはないよ」
女の子はまさかこちらが反論してくるなんて少しも思わなかったみたいで、面食らっている。しかしそれも束の間のことで、すぐさま目を吊り上げる。
「そのクライヴが言っていたんですよ。あなたとパーティーを解消したいって。あの人やさしい性格だからあなたには直接言えなかったみたいですけど、私には教えてくれました」
「そんなまさか……」
クライヴがそんなことを? とても信じられない。
あれは恋人同士になる前の頃、クライヴがS級ランクに上がった時のことだ。S級とB級じゃあ差がありすぎて、ギルドで受けられる依頼にも制限がかかってしまうのが申し訳なくて、一度だけパーティー解消を提案したことがある。
「今の君なら組みたい相手と好きに組めると思うんだ。だから……パーティーを解消したいならいつでも言って欲しい」
それに対するクライヴの答えは首を横に振ることだった。それから口を開く。
「何でそんなことを言う? 俺と離れたいのか?」
そんなことを少し不満げな様子で言うものだから、僕の方がびっくりしてしまった。
「えっと、パーティーは解消してもさ……付き合いは無くならないっていうか。僕達が幼なじみで友人同士だっていうのは変わらないだろう」
「ユウイは別の相手とパーティーを組むのか」
ん? いつの間にか僕の話にすり替わっているのは何でだろう。クライヴの話をしていたはずなのに。
「それは……うん。君とパーティーを解消したらそういうことになる。ランクが近い者同士で組んだ方が受けられる依頼も変わって来るし、効率もいいんじゃないかって僕は思うんだ」
「……嫌だ」
ボソッと不貞腐れたように呟く。
「……何で?」
「他の相手は嫌だ。ユウイがいい」
そんなこと言われたら、正直言って嬉しい。
僕はクライヴのことが好きだから特別に思われているって勘違いしてしまいそうだ。でも、別にそういう理由でクライヴが言っているのではないことも分かっている。クライヴって無口って言うか口下手なんだ。昔から口数が足りなくて、対人関係においてトラブルを起こして来た。
冷たい系の整った顔立ち+文武両道+無口なものだから「俺のことを見下してるんだろう」と突っかかってくる男子が後を絶たない。そこには嫉妬の感情も含まれているのだろう。
実際クライヴが相手を見下していたかと言えばそういうわけでもなくて、ある時男の方を睨んでいた理由を尋ねてみたら「鳥を見ていた」ってぼそっと呟いた。何でも男の近くをとことこ歩いている鳥が僕に似ていたんだって。僕が鳥に似ているというのは同意できない部分ではあるが、クライヴの頭の中はこれ以上なくほのぼのとしていたわけだ。
まあ、このようにクライヴは顔と頭の中身が伴っていないところがある。
こういったトラブルが起こる度に僕が間に立って誤解を解いてきた。
自分で誤解を解いた方がいいよって忠告してみたこともあるが「面倒」「ユウイがいればいい」と僕に頼る気満々だった。
面倒くさがりなクライヴは自分で新たな仲間を探すよりも、幼なじみで気心の知れた僕の方が一緒にいて楽なのかもしれない。
クライヴのことを思えばパーティーを解消した方がいいのは間違いないけど、僕はそれ以上言うことを止めた。だって、離れたくないのは本当は自分の方だったから。クライヴが面倒くさがりなのをいいことに、隣に居座り続けた。
そうこうするうちに、僕がぽろっと告白してしまって、恋人関係になったというわけだ。
目の前の白魔道士の女の子の告げた言葉に、胸を突きさされたような痛みを感じた。目をぎゅっと閉じて、胸を押さえる。
役に立たないって言う彼女の言葉は言いがかりでも何でもなくて、事実のことだったから……反論もできない。
白魔道士と薬草師、その役割は傷ついた人の回復だ。二つの職業は似ているようで全然違う。
薬草師はその名の通り薬草を使って回復するから、どうしたって時間がかかってしまう。それに比べて白魔道士は即座に魔法を発動して回復できる。どちらが優れているかなんて……明らかだろう。薬草師は白魔道士の下位互換なんて蔑まれることもある。それでも薬草師という職業が無くならないのは、白魔道士の存在がそれだけ貴重だからだ。
この世界では遺伝によって魔法の才能は受け継がれていくんだけど、それでも白魔法の才能が受け継がれることは滅多にないらしい。だからその才能を持った人は一握りだ。
冒険者達はこぞって白魔道士の存在を欲しがるけど、そんな事情があるからパーティーを組んでもらえることなんてほとんどない。だから、諦めて薬草師で手を打つというわけだ。言うなれば妥協……というやつだよね。
その妥協される側の薬草師というのが、僕、ユウイの現在の職業だ。
僕と対峙する女の子は貴重な白魔道士の職業についている。
つまり、彼女は能力の劣る僕に代わってクライヴとパーティーを組みたいと言っているのだ。
彼女はおそらく……クライヴのことが好きなんだと思う。
僕が現在パーティーを組んでいるのは、幼なじみで魔法剣士のクライヴだ。女の子が惚れるのも納得の、男の自分から見てもクライヴという奴は格好いいのだ。
何をやらせても器用にこなし、大型モンスターと戦わせても一人で仕留める腕前を持つ。今ではその腕前が認められてS級ランクの冒険者となった。
ちなみに僕はB級だ。同じ時期に冒険者になったはずなのに、この差は一体……と思わなくもないけど、クライヴの活躍を傍で見続けていた身としては、この結果には納得だ。
顔立ちだって平凡な僕とは雲泥の差がある。女の子達が言うには、クライヴの冷たそうな顔立ちとミステリアスなところがたまらないのだという。
S級ランクで顔立ちもいいときたら、女の子達が放っておくわけもなく……。街中を歩いているだけで黄色い声援が飛び交うのだ。
普通だったらこんなすごい奴が隣にいたら嫉妬の一つも覚えるかもしれない。それなのに、そんな気持ちに一度もならないのは……尊敬、憧れ、そんな気持ちが胸を占めているからだ。
まあ、要するに僕が彼に惚れているということ。
ずっと、昔からね。
そして、どういうわけか平凡な僕とS級冒険者のクライヴは恋人同士の間柄でもある。
付き合うようになったきっかけは僕からだった。
溢れだす気持ちが堪えられなくて、ある時二人で食事していた時にぽろっと「君が好きだ」って呟いてしまった。
あの時は本当にどうかしていた。冒険の話をしていたはずなのに、何がどうして好きだという話になったのか。
あれ、僕、突然何言っちゃったんだろうと顔を青くしてあわあわとしていたら、クライヴの顔が近づいて、次の瞬間にはキスされていた。
嬉しそうな表情なら両思いだったのだと思うけど、その時の彼の表情は実のところちっとも覚えていない。唇が離れて行った後、俯いてしまって一度も顔を上げられなかったせいだ。僕はその時いっぱいいっぱいだったのだ。
あんまり僕が青くなっておろおろしていたものだから、同情のキスだったのかと思う時もある。
でも、そうだとしたら……その後の展開にまでは発展しないだろう?
お付き合いしているという状態には。
本当に僕で良かったのか聞きたくなることは何度もあった。でも……。
街の女の子達はクライヴのことをクールだの何だの言うけれど、それは彼が驚くほど無口だからだ。僕と二人でいる時もやや無口なところはあるけれど、態度はそうでもない。
僕を思い切り甘やかして、抱き締めてくれる。
クライヴからの愛情をとても感じるんだ。だから、きっかけは僕の告白だったのかもしれないけれど、今では同じぐらいの好きを返してくれているって思う。
役立たずだっていう部分は自覚しているから反論できないけど、だからといって女の子からの提案を大人しく受け入れるつもりは無い。
クライヴから僕の存在が迷惑だとか、パーティー解消しようだとか言われたことは無い。そんなこと思われてない……はずだ。
「申し訳ないけれど、クライヴが僕を必要ないって言うまで離れるつもりはないよ」
女の子はまさかこちらが反論してくるなんて少しも思わなかったみたいで、面食らっている。しかしそれも束の間のことで、すぐさま目を吊り上げる。
「そのクライヴが言っていたんですよ。あなたとパーティーを解消したいって。あの人やさしい性格だからあなたには直接言えなかったみたいですけど、私には教えてくれました」
「そんなまさか……」
クライヴがそんなことを? とても信じられない。
あれは恋人同士になる前の頃、クライヴがS級ランクに上がった時のことだ。S級とB級じゃあ差がありすぎて、ギルドで受けられる依頼にも制限がかかってしまうのが申し訳なくて、一度だけパーティー解消を提案したことがある。
「今の君なら組みたい相手と好きに組めると思うんだ。だから……パーティーを解消したいならいつでも言って欲しい」
それに対するクライヴの答えは首を横に振ることだった。それから口を開く。
「何でそんなことを言う? 俺と離れたいのか?」
そんなことを少し不満げな様子で言うものだから、僕の方がびっくりしてしまった。
「えっと、パーティーは解消してもさ……付き合いは無くならないっていうか。僕達が幼なじみで友人同士だっていうのは変わらないだろう」
「ユウイは別の相手とパーティーを組むのか」
ん? いつの間にか僕の話にすり替わっているのは何でだろう。クライヴの話をしていたはずなのに。
「それは……うん。君とパーティーを解消したらそういうことになる。ランクが近い者同士で組んだ方が受けられる依頼も変わって来るし、効率もいいんじゃないかって僕は思うんだ」
「……嫌だ」
ボソッと不貞腐れたように呟く。
「……何で?」
「他の相手は嫌だ。ユウイがいい」
そんなこと言われたら、正直言って嬉しい。
僕はクライヴのことが好きだから特別に思われているって勘違いしてしまいそうだ。でも、別にそういう理由でクライヴが言っているのではないことも分かっている。クライヴって無口って言うか口下手なんだ。昔から口数が足りなくて、対人関係においてトラブルを起こして来た。
冷たい系の整った顔立ち+文武両道+無口なものだから「俺のことを見下してるんだろう」と突っかかってくる男子が後を絶たない。そこには嫉妬の感情も含まれているのだろう。
実際クライヴが相手を見下していたかと言えばそういうわけでもなくて、ある時男の方を睨んでいた理由を尋ねてみたら「鳥を見ていた」ってぼそっと呟いた。何でも男の近くをとことこ歩いている鳥が僕に似ていたんだって。僕が鳥に似ているというのは同意できない部分ではあるが、クライヴの頭の中はこれ以上なくほのぼのとしていたわけだ。
まあ、このようにクライヴは顔と頭の中身が伴っていないところがある。
こういったトラブルが起こる度に僕が間に立って誤解を解いてきた。
自分で誤解を解いた方がいいよって忠告してみたこともあるが「面倒」「ユウイがいればいい」と僕に頼る気満々だった。
面倒くさがりなクライヴは自分で新たな仲間を探すよりも、幼なじみで気心の知れた僕の方が一緒にいて楽なのかもしれない。
クライヴのことを思えばパーティーを解消した方がいいのは間違いないけど、僕はそれ以上言うことを止めた。だって、離れたくないのは本当は自分の方だったから。クライヴが面倒くさがりなのをいいことに、隣に居座り続けた。
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