剣術チートな悪役令嬢

時雨

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第1章 魔法陣を抜けると、異世界であった

17. 慌てたアラン

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  エリーズの髪は少し青く、それに長い。肩甲骨くらいまでの長さがあり、ストレートで、サラサラ。人によく褒められるから、自慢ではある。
  そんなエリーズの髪を括るのは、ミアの至福の時間らしい。ミアは結婚していて子供が三人いるが、全員が男の子だから、エリーズを娘のように思っているそうだ。

「今日はどうします?」

  ミアがドレッサーの鏡に写るエリーズを見る。それでもミアの、エリーズの髪を梳かす手は止まらない。
  エリーズは前世で人に髪を括ってもらうことなんて、幼い頃以外ほとんどなかったから、この世界に来て驚いた。
  同年代の子の中には、マッサージや入浴の手伝いさえしてもらう人がいるようだ。もっともエリーズは、服などの身だしなみは、さすがに自分でするけれど。

「ミアはどんなのがいいと思う?」

  センスは断然ミアの方が優れている。エリーズには確かな自信があった。エリーズは、水色のシマシマのTシャツにピンクのストライプのスカートを合わせるような、少し奇抜なセンスの持ち主なのである。

「そうですね……今日のドレスはふんわりとしたイメージですので、髪もゆるく巻いて編み込みにするのが、お似合いになると存じます」

  「なるほど。じゃあそれでお願いするわ」

  エリーズがにっこりと笑うと、ミアは少し嬉しそうな顔をした。
  転生したばかりの頃、メイドや家政婦さん達は敬語を話すのに、自分はタメ口を使うということに慣れなかったが、身分差の激しいこの世界では、逆に敬語を使うことが失礼になったり、はたまた家の評判を落とすこともあるのだと学んだ。貴族社会は思ったより厳しかったのだ。

  ミアが器用に髪を結い、残すはメイク、それから少しアクセサリーをつけたりするだけとなった。

「メイクはいつもと同じでいいですか?」

  ミアが聞く。ありがとう、と頷くと、ミアは流れるように、さらさらとメイクを施した。

  小さな宝石のついた、上品なネックレスをつけてもらっていると





「エリーズはいるか!?」

  突然バン、とドアが開き、エリーズはビクッとなった。ミアもあら? と首を傾げている。

「アラン、そんなに慌ててどうしたの?」

  ドアに体重をかけ、息を整えている婚約者に、エリーズは尋ねた。 普段ならしっかり息を整え終えてから問いかけるのだろうが、普段と全然違う彼の様子を見て、エリーズも狼狽えたのだ。ゼーハー、と息を吸ってから、彼が答える。

「いや、ちょっとレオンから色々聞いたものだから」

「レオン様?」

  ミアが不思議そうに言った。確かに、エリーズとレオンは普段全く接点がない。それにいつもはクールなアランがこんなにも慌てているのである。何か変なことでも吹き込んだのではないだろうかと、エリーズの背中に嫌な汗が流れた。

「でも何もなくて良かった」

  ほっとしたように笑うアランに、エリーズとミアは顔を見合わせた。

(レオンは一体何を言ったんだろう)

  エリーズはぱちくりと、瞬きをした。
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