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第4話 思ったよりヤバい展開

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「誰だよお前」

 男が不機嫌そうな顔をする。
 マジでこえぇ。ヤンキーなんかと絡んだの人生で初めてだぞ。

「何してるんですか?」
「単に道案内してもらってただけだよ」
「道案内でこんなところ来ますか?」
「いや、ここが目的地だったから」
「本当ですか? さっき引きずり込もうとしてるように見えたんですけど」

 言葉の応戦を繰り返しながら、必死に頭の片隅で考える。
 できるだけ穏便に済ませる方法ってなんだ。
 綾芽を傷つけずに、ついでにこの男も黙らせる方法。いったいどうすれば――

「ちっ。ほんとにここが目的地だったんだってば。そもそもお前この子のなんなんだよ。彼氏か何かか?」
「いえ、ただの知り合いです。ですけど僕ら、これから入学式なんですよ。道案内、終わったんでしょう? その子の手、放してくれませんか?」

 男は苛立ったような顔をする。けど、綾芽の手は掴んだままだ。

「でもオレはこの子に案内してもらうって言ってたんだ。後で礼をする気だし、ありがたい申し出だけどこの子にお願いするよ」

 案外しつこいな。

「すみません、案内先ってどこだったんですか?」
「えっと、向こうのバス停です」

 綾芽がタジタジとしながら答える。

「ここじゃないじゃないですか」
「途中で変わったんだよ。てかお前、ただの知り合いなんだろ? そこまでする権利ある?」
「知り合いでも、危ない目にあっているかもしれないと思ったら助けたいのが普通でしょう」
「それはそうかもしれないけどよ、オレは本当にただ道案内してもらう気だったんだよ。お前、オレに罪被せてさぁ。を妄想して勘違いしてましたって、学校に連絡しようか?」

 しつこすぎるだろ! いや、まぁ分からんでもないよ? 綾芽、ガチで美人だからな。透き通った青い瞳はまるで絵画の湖のようだし、ゲームでは1000年どころか10000年に一度の美人だって言われてる。
 この機会を逃したくないんだろうな。にしてもこの男、ずっと墓穴を掘り続けてるような気がするけど。

「じゃあ学校に連絡してください」

 はっきり言い切る。
 男は苦虫を噛み潰したような顔をした。その表情のままじっとしている。何か考えてるようだけど……

「……なんでぼーっとしてるんですか? 連絡しないんですか?」

 やべっ、これはちょっと煽りすぎかなぁ。
 男はそのまましばらく逡巡したあと、焦ったように口を開いた。

「お前……オレはこの子の彼氏なんだ。ずっと前から目をつけてたのに……! なんで邪魔するんだ……!」
 
 えっ、そっち系なの……?
 てっきりたまたま見かけて気に入っただけかと思ってた。
 高校の場所も知っているあたり、おそらく中学からの筋金入りのようだ。

「あの、本当に彼氏なんですか……?」
「い、いえ。違います」

 綾芽が怯えたような顔をして否定する。
 それを見て、男はハッとしたような顔をした。どうやらしていたことには、気づかれたくなかったらしい。無意識にかそうじゃないかは分からないけど。
 
「い、いや。違うんだその……」

 男が慌てて弁明するがもう遅い。

「手、放しましょうか。道案内していたにしろ、手を掴む必要はないはずです」

 しかし男は放さない。もうボロが出てるから、何かしてもしょうがないのに……
 心ここに在らずの男を前にして俺も必死に考える……何ができること……あっ、そうだ。
 ポケットの中にこっそり手を伸ばして、スマホに触れた。動画ボタンを押す。録音さえすれば、多少は証拠になるはず……

「放してくれないと、警察呼びますよ」

 さっきより大きな声を出して、動画の開始の音を誤魔化す。
 男は顔を上げた。

「そ、そういうのじゃないんだ。オレは本当にこの子の彼氏なんだから、こ、この子は照れてるだけなんだから……だから、だから、その……」
「い、いや、違う。違います……」

 綾芽の声は震えている。そりゃ怖いよな。

「な、なぁ。なんで本当のことを言ってくれないんだ。オレたち、付き合ってるよな?」
「あ、貴方なんか知らない」

 綾芽の答えに、男は目を見開いた。虚ろな表情をしている。

「な、なんでオレの言うことが聞けないんだ……!」 





 

 バンッ

 思ったより大きな音が鳴った。
 綾芽に向かった拳を、どうにか手で受け止める。
 でもそれにしてもこれはヤバいな……この場の治め方ミスったか、こいつがしつこいからかは分からないけど。

「警察、呼んできてくれる?」

 高速回転で頭を回しながら綾芽に声をかける。手を掴んでいたのは殴った方の手だったらしく、開放された彼女は頷いて走っていった。
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