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闇-66
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「お、お母様ぁ…ミリアンは疲れてしまいましたぁ…!!」
「ほら!弱音を吐くんじゃないよ!ふぅ…ふぅ…」
宿泊した町から王都まで行く乗合馬車でマリアンナたちはやって来たが王城内の馬車停めには当然、乗合馬車で入ることはできないため城の入口から緩やかに長い坂をえっちらおっちらと歩いて登ってきた。
「あぁ…私のこの美しい3つの薔薇を苦しめる坂道が許せないよ…」
それでも坂は平らにはならない、短くはならなかった。
「ふぅ…ふぅ…この…辛いことも…きっと…いつか美しい思い出となりそして、一編の詩にしてこれも永遠に残しますわ…」
女性陣三人は汗をかきかき登る。
「あぁ、あっちについたら化粧直しをしないと…せっかく娘たちがいただいたドレスでここまで来たのにこれなら馬車の手配もお願いすればよかったわ…ふぅ」
豪華な装飾がされた馬車が停まる辺りにやっとたどり着き、汗を拭いて一息をつくと城の入口の扉が見えた。
「失礼ですが、本日ご招待の方でいらっしゃいますか…?」
汗で化粧はよれ、ドレスも皺になり整えた髪も崩れてしまいそうな汗だくの4人組に衛兵が訝しげな顔をしながら声をかけた。
「えぇ!!もちろんよ!私はカトレア男爵家のマリアンナ・ドゥ・カトレアですわ。今日は当主の夫が隣国へ行き不在のため、名代で参りましたのよ!おほほ!」
きりっとばしっと衛兵を上から目線でマリアンナは見つめると何もないように衛兵は「あぁ、かしこまりました。ではこちらへどうぞ」とさらっと案内をした。
煌びやかな玄関ホールにドギマギと…おっかなびっくりと…表情は『こんなところ慣れているわ』と謂わんばかりにまずは城内の化粧室にそそと向かった。
広間からはゆったりとした音楽が演奏され始めた。
厚めに化粧を直して髪を整えて広間へ行くと、前の扉からは人が多く入れず廊下から回って後ろの扉から入り、ずんずんと前の方へ突き進む。
気がつくと周囲は高位貴族たちが多い箇所らしく、高価な服の男女がほほほ…と静かに笑い合っていた。
「なんとか間に合ったみたいだね。アルフレッド様とニール様は本日は都合で参加ができないとは言っていたけど、マリスス公爵様はいるはずだから後で必ず挨拶をしないといけないわね」
マリアンナがバサバサと扇子であおぐ。
「お母様…帝国の魔王と婚約者とやらのファーストダンスが終わって落ち着いた頃がよろしいかと思いますわ」
「わたくしもお姉様とご挨拶の練習をたくさんしましたのでお会いするのが楽しみですわぁ…」
「はは!きっと公爵様は薔薇のような姉妹だときっとお褒めになってくれるよ!」
四人で楽しい未来予想図を描いていた。
警備の衛兵や近衛騎士たちも慌ただしくなる中、音楽が終わり拍手で楽団を称えると今度は王家を称える荘厳な曲が流れ始めた。
拍手喝采の中、国王夫妻、王太子夫妻、妹王女、弟王子…が揃って壇上へ上がるが所詮、田舎の貴族でお目見え以下のマリアンナたちはぽかーんと見つめていた。
【国王以外が分からない!!】
とりあえず、拍手をするが『王太子?はいつ結婚したのか?』『王女殿下なんていたかしら?』『椅子に座る金髪の女性は誰?今一番の寵姫のヨハンナ様は?』と四人でヒソヒソと話しているうちに国王の挨拶が始まった。
「我々、王家は親愛なる国民たちのため約200年前に…」
メリーアンとミリアンは長ったらしい挨拶に飽きてきて周囲のドレスを見比べていた。
高価な絹の布地を贅沢に使い、令嬢たちのコルセットが見せるシルエットが美しい…襟元に繊細なレースを縫い込むのが流行っているのか自分たちのドレスが安っぽくて野暮なものに見えるのは気のせいだろうか…美しい婚約者たちはメリーアンとミリアンのために、と一揃えずつ笑顔で持参をしてくれたもののはずが胸にもやもやが渦巻いていた。
挨拶が終わったのか拍手が鳴り響くのにハッとして拍手をすると壇上の王族がもう一段下の壇へ下り、最上段には高級そうな椅子が二脚置かれた。
楽団は歓迎のための明るい音楽を奏でた。
「あんたたち、魔王と婚約者が来るから気を付けなさい!何をされるかわからないのだからね!」
「はい、お母様」
「はい」
***
王族が広間に入ったときの扉は衛兵たちによってきちんと閉められているが彼らは皇帝陛下が入場のために今、ここに来るということに緊張をしていた。
控室に続く扉が金髪に濃紺の礼服を着た男によって開かれた。
毛足の長い赤い絨毯の上にすっと焦げ茶色のロングブーツが見えると漆黒の最上級礼装を着こなし、長い銀髪に菫色の瞳の背の高い熟年の男性が現れると、その左肘に手をかける黒髪に真珠の宝冠を飾り、そして誰も見たこともない絹のとも違う、美しい月のような色をした輝く布のドレスを着た小柄な女性がエスコートをされていた。
コルセットはなく、豊かな胸下の切り返しからその布を贅沢に重ねて波のようなドレープとなっている…衛兵はその2人に通常より深く礼をした。
2人から何かが発せられているのか衛兵や周辺のものたちは、自然と頭を垂れさせられる。
「礼はよい…」
皇帝の低い声が廊下に響く。
「は!」
二人を出迎える音楽が最高潮になるとレオが衛兵に「そろそろ扉を開けるころかと…」と声をかける。
「は!では、お開けいたしますのでそのまま壇上へお上がりくださいませ」
アレックスは菫色の瞳でツキヨの黒い瞳に合図をするとツキヨはこくんと頷いた。
ぐっと衛兵が扉を開けると廊下にも音楽が大きく響き渡り、レオの先導のあとをアレックスがツキヨをエスコートをしてゆっくり、堂々と広間へ入場した。
少し薄暗い廊下から昼間のように明るい広間へ入るとツキヨは目が眩む…エスコートがなかったら転んでいたかもしれない。
隣を堂々と歩くアレクサンダー皇帝を贅沢に頼りながらドレスのドレープの波を緩やかにかき分けて歩みを進める…拍手が雷鳴のように鳴り響き、レオの先導で壇上の椅子を目指し低い階段をゆっくりと一緒に上がる。
そこでツキヨは緊張で足が震えていることに気がつくと、それにアレックスも気がついたのかツキヨの顔を見て、こっそりとニカッと笑った。
【大丈夫だ、安心しろ】
いつもの笑顔と一緒に声が聞こえた気がした。
壇上の椅子の前に立つと、そのまま王族へ一礼をしてから人に埋め尽くされた広間を見ると中規模の町が一つくらいできてしまうくらいの人数が壇上へ頭を垂れていた。入りきれないのか庭の方に出ている人もいる。
音楽が静かに終わる…と広間はシン…とするが皇帝自らがよく響く低い声を発する。
「皆の者、表を上げよ」
ざざっと前方から顔を上げる人々は初めて姿を現した壇上の『魔族の王』を見つめた。
どういう意味かは不明だが息を忘れたり、そのまま固まったように見つめていたり、頬を赤らめたりするものもいれば、明らかに恐れていたり、青ざめているものもいた。
「楽にせよ。余はゴドリバー帝国の皇帝アレクサンダー・トゥルナ・ゴドリバー・シリウスだ。この舞踏会を長年、盛大に開催をしたエストシテ王国トルガー・ドゥ・ラフレシア・エストシテ国王に感謝をする。そして、参加をしてくれるものにも感謝をする。
余は人に非ず、魔に属し、その全ての魔の長である。人は魔を恐れるというのは致し方ないことではあるが、余は今後も末永く貴国を含め友好的に交流を深めていくことを望んでいる。
今宵は近く…つ…妻になる余の婚約者であるエストシテ王国出身の人であるツキヨ・ドゥ・カトレア男爵家令嬢も伴っている。黒髪の黒い瞳を持つが魔に非ず、人の身であることは間違いはないが余の元へ嫁ぐことになる。
これも、友好的な交流が行えるきっかけになることと思いたい。
そして、この美しい月の元飲み、歌い、踊り…を楽しみ過ごそうと思う」
方々に金色の発泡酒の注がれたグラスが配られる。
レオがアレックスとツキヨに渡し、全員に行き渡ったことを確認をすると低いけど朗らかな声で「余の美しい月の女神と友好に乾杯!」とグラスを捧げ、舞踏会の開会を宣言をした。
アレックスはツキヨとチンとグラスを合わせるとレオに席に座るよう促されて一口だけ口にする。
広間では壇上の立ち姿の美しい銀髪の皇帝とその婚約者の美しさやエストシテ王国出身の人間であることが大半の話題になっていた。
シャンデリアの煌きが長い銀髪をさらに輝かせるが、それ以上にツキヨが椅子に座るとドレスのドレープが左右へさらさらと軽やかに光りを放ちながら別れる。当然、足は見えないが流行に敏感な女性たちはあの布が何なのかとチラチラと見ていたり、ある高位の家の娘は父親に同じ布の同じ形のドレスが欲しいと強請っていた。
「あんな胸元があいているなんて…いけません!」とどこかの母親が娘に叱りつけていた。
「アレクサンダー皇帝陛下、このたびは王国へようこそいらっしゃいました」
にまにまとトルガー国王がグラスを持って挨拶に来た。
「あぁ…長く足を運ばず失礼をした」
グラスをチンと鳴らす。
「そして、未来の皇后陛下…エストシテ王国のトルガー・ドゥ・ラフレシア・エストシテでございます。美しい黒曜石の瞳に映ることをお許しいただきたい」
「はい…」
同じくチンと鳴らす。
「皇帝陛下も未来の皇后陛下がいることで、帝国も末永く安泰になると思うと羨ましい限り。また、よろしければ皇后陛下も故郷でもある王国へいらして交流を深められたらと思いますな…幸い、王妃や王太子妃と王女もいて女性同士話も弾むことがあるかと」
にまにまと笑うだらしない国王を王妃はキッと横目で睨む。
アレックスとツキヨは一波乱ありそうだと目と目で通じた。
「ほら!弱音を吐くんじゃないよ!ふぅ…ふぅ…」
宿泊した町から王都まで行く乗合馬車でマリアンナたちはやって来たが王城内の馬車停めには当然、乗合馬車で入ることはできないため城の入口から緩やかに長い坂をえっちらおっちらと歩いて登ってきた。
「あぁ…私のこの美しい3つの薔薇を苦しめる坂道が許せないよ…」
それでも坂は平らにはならない、短くはならなかった。
「ふぅ…ふぅ…この…辛いことも…きっと…いつか美しい思い出となりそして、一編の詩にしてこれも永遠に残しますわ…」
女性陣三人は汗をかきかき登る。
「あぁ、あっちについたら化粧直しをしないと…せっかく娘たちがいただいたドレスでここまで来たのにこれなら馬車の手配もお願いすればよかったわ…ふぅ」
豪華な装飾がされた馬車が停まる辺りにやっとたどり着き、汗を拭いて一息をつくと城の入口の扉が見えた。
「失礼ですが、本日ご招待の方でいらっしゃいますか…?」
汗で化粧はよれ、ドレスも皺になり整えた髪も崩れてしまいそうな汗だくの4人組に衛兵が訝しげな顔をしながら声をかけた。
「えぇ!!もちろんよ!私はカトレア男爵家のマリアンナ・ドゥ・カトレアですわ。今日は当主の夫が隣国へ行き不在のため、名代で参りましたのよ!おほほ!」
きりっとばしっと衛兵を上から目線でマリアンナは見つめると何もないように衛兵は「あぁ、かしこまりました。ではこちらへどうぞ」とさらっと案内をした。
煌びやかな玄関ホールにドギマギと…おっかなびっくりと…表情は『こんなところ慣れているわ』と謂わんばかりにまずは城内の化粧室にそそと向かった。
広間からはゆったりとした音楽が演奏され始めた。
厚めに化粧を直して髪を整えて広間へ行くと、前の扉からは人が多く入れず廊下から回って後ろの扉から入り、ずんずんと前の方へ突き進む。
気がつくと周囲は高位貴族たちが多い箇所らしく、高価な服の男女がほほほ…と静かに笑い合っていた。
「なんとか間に合ったみたいだね。アルフレッド様とニール様は本日は都合で参加ができないとは言っていたけど、マリスス公爵様はいるはずだから後で必ず挨拶をしないといけないわね」
マリアンナがバサバサと扇子であおぐ。
「お母様…帝国の魔王と婚約者とやらのファーストダンスが終わって落ち着いた頃がよろしいかと思いますわ」
「わたくしもお姉様とご挨拶の練習をたくさんしましたのでお会いするのが楽しみですわぁ…」
「はは!きっと公爵様は薔薇のような姉妹だときっとお褒めになってくれるよ!」
四人で楽しい未来予想図を描いていた。
警備の衛兵や近衛騎士たちも慌ただしくなる中、音楽が終わり拍手で楽団を称えると今度は王家を称える荘厳な曲が流れ始めた。
拍手喝采の中、国王夫妻、王太子夫妻、妹王女、弟王子…が揃って壇上へ上がるが所詮、田舎の貴族でお目見え以下のマリアンナたちはぽかーんと見つめていた。
【国王以外が分からない!!】
とりあえず、拍手をするが『王太子?はいつ結婚したのか?』『王女殿下なんていたかしら?』『椅子に座る金髪の女性は誰?今一番の寵姫のヨハンナ様は?』と四人でヒソヒソと話しているうちに国王の挨拶が始まった。
「我々、王家は親愛なる国民たちのため約200年前に…」
メリーアンとミリアンは長ったらしい挨拶に飽きてきて周囲のドレスを見比べていた。
高価な絹の布地を贅沢に使い、令嬢たちのコルセットが見せるシルエットが美しい…襟元に繊細なレースを縫い込むのが流行っているのか自分たちのドレスが安っぽくて野暮なものに見えるのは気のせいだろうか…美しい婚約者たちはメリーアンとミリアンのために、と一揃えずつ笑顔で持参をしてくれたもののはずが胸にもやもやが渦巻いていた。
挨拶が終わったのか拍手が鳴り響くのにハッとして拍手をすると壇上の王族がもう一段下の壇へ下り、最上段には高級そうな椅子が二脚置かれた。
楽団は歓迎のための明るい音楽を奏でた。
「あんたたち、魔王と婚約者が来るから気を付けなさい!何をされるかわからないのだからね!」
「はい、お母様」
「はい」
***
王族が広間に入ったときの扉は衛兵たちによってきちんと閉められているが彼らは皇帝陛下が入場のために今、ここに来るということに緊張をしていた。
控室に続く扉が金髪に濃紺の礼服を着た男によって開かれた。
毛足の長い赤い絨毯の上にすっと焦げ茶色のロングブーツが見えると漆黒の最上級礼装を着こなし、長い銀髪に菫色の瞳の背の高い熟年の男性が現れると、その左肘に手をかける黒髪に真珠の宝冠を飾り、そして誰も見たこともない絹のとも違う、美しい月のような色をした輝く布のドレスを着た小柄な女性がエスコートをされていた。
コルセットはなく、豊かな胸下の切り返しからその布を贅沢に重ねて波のようなドレープとなっている…衛兵はその2人に通常より深く礼をした。
2人から何かが発せられているのか衛兵や周辺のものたちは、自然と頭を垂れさせられる。
「礼はよい…」
皇帝の低い声が廊下に響く。
「は!」
二人を出迎える音楽が最高潮になるとレオが衛兵に「そろそろ扉を開けるころかと…」と声をかける。
「は!では、お開けいたしますのでそのまま壇上へお上がりくださいませ」
アレックスは菫色の瞳でツキヨの黒い瞳に合図をするとツキヨはこくんと頷いた。
ぐっと衛兵が扉を開けると廊下にも音楽が大きく響き渡り、レオの先導のあとをアレックスがツキヨをエスコートをしてゆっくり、堂々と広間へ入場した。
少し薄暗い廊下から昼間のように明るい広間へ入るとツキヨは目が眩む…エスコートがなかったら転んでいたかもしれない。
隣を堂々と歩くアレクサンダー皇帝を贅沢に頼りながらドレスのドレープの波を緩やかにかき分けて歩みを進める…拍手が雷鳴のように鳴り響き、レオの先導で壇上の椅子を目指し低い階段をゆっくりと一緒に上がる。
そこでツキヨは緊張で足が震えていることに気がつくと、それにアレックスも気がついたのかツキヨの顔を見て、こっそりとニカッと笑った。
【大丈夫だ、安心しろ】
いつもの笑顔と一緒に声が聞こえた気がした。
壇上の椅子の前に立つと、そのまま王族へ一礼をしてから人に埋め尽くされた広間を見ると中規模の町が一つくらいできてしまうくらいの人数が壇上へ頭を垂れていた。入りきれないのか庭の方に出ている人もいる。
音楽が静かに終わる…と広間はシン…とするが皇帝自らがよく響く低い声を発する。
「皆の者、表を上げよ」
ざざっと前方から顔を上げる人々は初めて姿を現した壇上の『魔族の王』を見つめた。
どういう意味かは不明だが息を忘れたり、そのまま固まったように見つめていたり、頬を赤らめたりするものもいれば、明らかに恐れていたり、青ざめているものもいた。
「楽にせよ。余はゴドリバー帝国の皇帝アレクサンダー・トゥルナ・ゴドリバー・シリウスだ。この舞踏会を長年、盛大に開催をしたエストシテ王国トルガー・ドゥ・ラフレシア・エストシテ国王に感謝をする。そして、参加をしてくれるものにも感謝をする。
余は人に非ず、魔に属し、その全ての魔の長である。人は魔を恐れるというのは致し方ないことではあるが、余は今後も末永く貴国を含め友好的に交流を深めていくことを望んでいる。
今宵は近く…つ…妻になる余の婚約者であるエストシテ王国出身の人であるツキヨ・ドゥ・カトレア男爵家令嬢も伴っている。黒髪の黒い瞳を持つが魔に非ず、人の身であることは間違いはないが余の元へ嫁ぐことになる。
これも、友好的な交流が行えるきっかけになることと思いたい。
そして、この美しい月の元飲み、歌い、踊り…を楽しみ過ごそうと思う」
方々に金色の発泡酒の注がれたグラスが配られる。
レオがアレックスとツキヨに渡し、全員に行き渡ったことを確認をすると低いけど朗らかな声で「余の美しい月の女神と友好に乾杯!」とグラスを捧げ、舞踏会の開会を宣言をした。
アレックスはツキヨとチンとグラスを合わせるとレオに席に座るよう促されて一口だけ口にする。
広間では壇上の立ち姿の美しい銀髪の皇帝とその婚約者の美しさやエストシテ王国出身の人間であることが大半の話題になっていた。
シャンデリアの煌きが長い銀髪をさらに輝かせるが、それ以上にツキヨが椅子に座るとドレスのドレープが左右へさらさらと軽やかに光りを放ちながら別れる。当然、足は見えないが流行に敏感な女性たちはあの布が何なのかとチラチラと見ていたり、ある高位の家の娘は父親に同じ布の同じ形のドレスが欲しいと強請っていた。
「あんな胸元があいているなんて…いけません!」とどこかの母親が娘に叱りつけていた。
「アレクサンダー皇帝陛下、このたびは王国へようこそいらっしゃいました」
にまにまとトルガー国王がグラスを持って挨拶に来た。
「あぁ…長く足を運ばず失礼をした」
グラスをチンと鳴らす。
「そして、未来の皇后陛下…エストシテ王国のトルガー・ドゥ・ラフレシア・エストシテでございます。美しい黒曜石の瞳に映ることをお許しいただきたい」
「はい…」
同じくチンと鳴らす。
「皇帝陛下も未来の皇后陛下がいることで、帝国も末永く安泰になると思うと羨ましい限り。また、よろしければ皇后陛下も故郷でもある王国へいらして交流を深められたらと思いますな…幸い、王妃や王太子妃と王女もいて女性同士話も弾むことがあるかと」
にまにまと笑うだらしない国王を王妃はキッと横目で睨む。
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