闇より深い暗い闇

伊皿子 魚籃

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闇-13

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 レオは最後の砦だと考えた。
 アレックスの暴走を止めるにはツキヨしかいない、と。
 レオはダイニングの隅の方の席に座っているツキヨと付き添っているフロリナに声をかけた。
「ツキヨちゃん。やっぱり、あのおっさんが見ての通りドンドンへんた…じゃなくておかしな方向へ向かってしまっているんだ…」

 アレックスは紙に変な設計図を描き続けていた。
 色、形状、装飾…傍から見ると宝石箱や装飾品でも作ろうとしているように見えるかもしれないが本人は死ぬほど真面目に「何か危険なものを大切にしまう箱」を考えていた。
「ここで、桃色にしたら負けだ。桃色は違うんだ。
今回の基本的な色は水色だ…こう、清廉な…いや、水色ならそれに合わせて薄い紫色なんて…はっ!!!!そんな色にしたら俺と…うわぁぁぁぁ!!!だめだ!だめだ!!」

 よく分らない唸り声や呟く声が広いダイニングに響く。
「レオ様、重症でございますね」
 フロリナは額に手を当てる。
「あの無駄な真面目さをたまには本業に向けてほしいのですがね…」レオがお手上げポーズをすると「とにかく、ツキヨちゃん。あのダメなおっさんに『箱はいらない、大丈夫』と一言伝えてほしいんですよね。このままだと…本当に職人に依頼して作るか、仕事しないでむしろ自分で作り始めるかのどっちかなんだ…」と頭を下げてツキヨに懇願をした。
「そ、そうですよね。本来の仕事に支障がでますよね…わかりました。私でよければアレックス様の暴走くらい止めてきます!」
 キリッとした黒い瞳でレオとフロリナをツキヨは見つめる。

【この方は、ここの環境アホの子にだんだん慣れてきている!!!!いいのか、それで?!】

 レオとフロリナは頭を抱えるが今はツキヨしか頼ることができなかった。
「それでは、ツキヨはいってきます!」
「ご武運を!」残る2人は戦場へ向かう騎士を力強く見送った。

 一息ついた瞬間のアレックスにツキヨはそっと声をかけた。
「アレックス様。お疲れ様です」
「お、おう。ツキヨか。うん、今大事なものをしまう箱を考えていてな…んでよ、ここの箱の蓋の飾りをどうするか悩んでいて…なんか上手い具合にまとまんねぇかと…」
 テーブルの設計図に目をやると長櫃のような「箱」だった。本当の「箱」だった。
 ツキヨはごくりと唾を飲み込む…となるべく優しい声を意識をして声をかけた。
「あの。アレックス様。この箱は、不必要です。箱はなくても問題ありません。私は不要だと考えます」
「そ、そうか?!箱は不要か?!?!?!これがないと、どっか無くしたり、落っことしたり、誘拐されたり…なんか危険な危険物を危険から危ない危険物を危険が危ないをしなくても危険じゃねえのか?」
「はい。危険ではありません。それに、ここはアレックス様達「達」は耳に入らないアレックス様達「達」は耳に入らないが守ってくれるので不要です」
「お、おう。そーか、大丈夫なのか!いやぁ、俺はよぅ。なんかないと危険が危なくて危なすぎて危険物取扱いについて勉強するべきかと…」
「大丈夫です」
 ニッコリとツキヨが笑うと紙をクシャっと丸めてゴミ箱へ捨ててアレックスはニカニカと笑った。

【よくわかんないけど、危険は守られた!!!!戦女神ばんざい!】

 レオとフロリナは手を取り合って勝利を確信した。

「大丈夫ならよ。いいんだ。それより、今度はツキヨにちゃんと仕立屋を呼んで作るからな。そうしたら、それを着てちょっと街へ…い、一緒にいかねぇか?」
「はい。どんなところか楽しみです。ふふふ」
 照れくさそうに相変わらずニカニカ笑うアレックスを見るとツキヨも笑ってしまうが内心、また大変なことになりそうな予感に一瞬心臓がドキリとした。
「うぉい!レオ、んなところに突っ立ってねぇで、いつもの仕立屋の都合を聞け。最速最短日で呼べ。
フロリナは何かツキヨが好きそうなものがあるところとか知らねえか?美味いもんとか…よくわかんねぇけど…なんかそんなヤツだ!」

【また、始まったけどこれが平和なのだ】

 不思議と3人で安堵した。

---------------------------
 ツキヨは一息を入れたいと、自室に使っている客間へ戻った。
 アレックスに聞き取り調査をされてしまったフロリナの代わりにレオにお茶を出してもらい、1人にさせてもらった。
『ふぅ。なんか毎日が嵐のようだわ』
 ポンと長椅子に座る。座り心地は抜群だ。
『でも…お父様が今どうしているか心配だわ…ダンとルルーも大丈夫かしら。それに怪我をした御者やメイドたちも…』
 窓の外を見るがどこの方向がカトレア男爵領なのか…エストシテ王国なのかわからない。ここは住宅街なのかアレックスの屋敷の広い庭の隣も似たような屋敷が建ち並ぶ。見ている限りは少し裕福な街の一角のようだ。
『フロリナに今度、ここの場所を詳しく聞いてみて、もしも手紙を出せるならせめてお父様に手紙を出したい!』
 ダンとルルーはあの時、出ていくと決心をしていたが父の意志、現状が全く不明だった。
 仕事で日に日に遅くなる帰宅時間に疑問を持っていたがマリアンナ様たちとうまく生活が送れているのか、仕事が忙しくて病気になっていないか…現実から目を逸らしていた訳ではないが、傷も癒えた今だからこそ不安や心配が心を蝕み始める。
『アレックス様はここは男爵領から馬車で半月くらいの距離とも言っていたから帰るのも難しいし…とにかく手紙を書きたい…』

 善は急げ。

 呼び鈴を鳴らした。
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