3 / 9
第1話 家族はみんなお星さま!?
川原の少年
しおりを挟む
放課後は野球少年や小学生たちで賑わう河川敷も、午前中は人もまばらだった。
トボトボと歩いていた私はゆるやかな傾斜の草の上に腰を下ろすと、おもむろにポケットから出したティッシュで鼻をかんだ。
「チーーーン。」
拭いても拭いてもこぼれ落ちる涙と鼻水をティッシュで交互に拭きながら、私は今朝の琢磨との会話を反芻していた。
『いつも君はそうやって、自身の問題に向き合わずに話を逸らす!』
酷い言われようだ。
いや、確かに霊感のない琢磨からしたら、私は天涯孤独で独り暮らしの可哀想な女の子なのだ。
でも、でもね。
私は真実を伝えたかった。
世界のみんなが私を信じてくれなくても、唯一の友達である幼馴染の琢磨なら、いつか私を信じてくれるんじゃないか・・・って、そう願っていた。
それなのに・・・。
何回思い返しても、はらわたが煮えくり返るように、怒りがふつふつと再燃する。
まるで、自分に活火山ができたみたい。
「なぁにが『相談に乗る』よ!
全っ然、信じてないくせに‼」
周囲に人が居ないことを確認すると、私は思い切り、川に向かって叫んだ。
「たくまのバカーーッ‼」
大声を出すと、かなりスッキリした。
これはみんなにオススメかもしれない。
「心配されなくても、大好きなユーレイ家族に囲まれて、毎日楽しく暮らしてるってのー!」
グチグチと琢磨への文句を垂れ流していると、だいぶ気分が良くなってきた。
そろそろ学校に戻ろうかな。
琢磨ごときにメンタルやられて学校を休むようじゃ、私の沽券にかかわるからね。
スカートに付いた草を払って立ち上がろうとしたとき、すうっと背筋が凍るような寒気に襲われ、ゾッとした。
何かに、見られている。
家で家族が急に目の前に現れる時の感じによく似た感覚だった。
これは、まさか・・・。
そうっと横を向くと、少し離れた土手の上に、ダッフルコートを身にまとった透明な少年が寂しげにたたずんでいた。
少年はゆっくりと私を向くと、柔かく微笑んだ。
「僕は信じるよ。」
「驚いた。」
私は、悪寒に震えながら訊いた。
「君、ユーレイだよね?」
ユーレイがみんな、良いやつとは限らない。
私は身を固くして身構えた。
小さい頃はその見分けができなくて、悪霊に霊界に引きずり込まれそうになったことがある。
それ以来、怖くて家族以外のユーレイに自分から話しかけたことはなかった。
でも、目の前の少年からは、全く悪意が感じられなかった。
「そう。」
大きな瞳をキュルルと動かすと、少年は遠慮がちに口を開いた。
「いつもは無視されるから話しかけないけど、今日はお姉ちゃんの話が聞こえてきて・・・ユーレイの家族と住んでるって聞こえたんだ。
本当なの?」
もしかしたら帳くらいの年頃なのかもしれないなと思いながら、私は頷いた。
「私、ユーレイとお話できる能力があるんだ。幽羅 灯よ。宜しくね。」
「僕は幽輝。お姉ちゃんはいいなあ。僕も、僕の家族とお喋りしたいな。」
「そっか。普通の人は、ユーレイと話せないもんね。」
「僕のお母さんはね、僕が死んでから泣いてばっかりで、ちっとも話を聞いてくれないんだ。」
幽輝は足元の石を蹴るマネをした。
透明な足は石の先をかすめたけど、案の定、石をすり抜けてしまったので、1ミリも動かなかった。
「お母さんのそばに居るのが辛くて、春から近所を彷徨っていたんだけど、お姉ちゃんに会えて良かった。」
「どうして?」
「話ができるからだよ!」
幽輝は大きな瞳をきらきらと輝かせると、熱っぽく語り続けた。
「ユーレイになってから、今日はイイことがあった初めて記念日だよ。」
目頭が熱くなって、胸がギュッと締め付けられた。
ゆ、幽輝・・・めっちゃイイ子すぎて、泣ける。
「良かったら、協力する!
お母さんと話ができる方法を一緒に探してみない?」
「嬉しいけど、そんなことできるかな?」
「一旦、家に帰って家族に聞いてみるから、ここで待っていてくれる?
私が話せるんだから、何か方法はあるはず!すぐに戻るから、 諦めないで待っていて‼」
幽輝はなぜか、すうっと私から離れると儚げに微笑んだ。
「うん、わかった。
待っているね、お姉ちゃん。」
トボトボと歩いていた私はゆるやかな傾斜の草の上に腰を下ろすと、おもむろにポケットから出したティッシュで鼻をかんだ。
「チーーーン。」
拭いても拭いてもこぼれ落ちる涙と鼻水をティッシュで交互に拭きながら、私は今朝の琢磨との会話を反芻していた。
『いつも君はそうやって、自身の問題に向き合わずに話を逸らす!』
酷い言われようだ。
いや、確かに霊感のない琢磨からしたら、私は天涯孤独で独り暮らしの可哀想な女の子なのだ。
でも、でもね。
私は真実を伝えたかった。
世界のみんなが私を信じてくれなくても、唯一の友達である幼馴染の琢磨なら、いつか私を信じてくれるんじゃないか・・・って、そう願っていた。
それなのに・・・。
何回思い返しても、はらわたが煮えくり返るように、怒りがふつふつと再燃する。
まるで、自分に活火山ができたみたい。
「なぁにが『相談に乗る』よ!
全っ然、信じてないくせに‼」
周囲に人が居ないことを確認すると、私は思い切り、川に向かって叫んだ。
「たくまのバカーーッ‼」
大声を出すと、かなりスッキリした。
これはみんなにオススメかもしれない。
「心配されなくても、大好きなユーレイ家族に囲まれて、毎日楽しく暮らしてるってのー!」
グチグチと琢磨への文句を垂れ流していると、だいぶ気分が良くなってきた。
そろそろ学校に戻ろうかな。
琢磨ごときにメンタルやられて学校を休むようじゃ、私の沽券にかかわるからね。
スカートに付いた草を払って立ち上がろうとしたとき、すうっと背筋が凍るような寒気に襲われ、ゾッとした。
何かに、見られている。
家で家族が急に目の前に現れる時の感じによく似た感覚だった。
これは、まさか・・・。
そうっと横を向くと、少し離れた土手の上に、ダッフルコートを身にまとった透明な少年が寂しげにたたずんでいた。
少年はゆっくりと私を向くと、柔かく微笑んだ。
「僕は信じるよ。」
「驚いた。」
私は、悪寒に震えながら訊いた。
「君、ユーレイだよね?」
ユーレイがみんな、良いやつとは限らない。
私は身を固くして身構えた。
小さい頃はその見分けができなくて、悪霊に霊界に引きずり込まれそうになったことがある。
それ以来、怖くて家族以外のユーレイに自分から話しかけたことはなかった。
でも、目の前の少年からは、全く悪意が感じられなかった。
「そう。」
大きな瞳をキュルルと動かすと、少年は遠慮がちに口を開いた。
「いつもは無視されるから話しかけないけど、今日はお姉ちゃんの話が聞こえてきて・・・ユーレイの家族と住んでるって聞こえたんだ。
本当なの?」
もしかしたら帳くらいの年頃なのかもしれないなと思いながら、私は頷いた。
「私、ユーレイとお話できる能力があるんだ。幽羅 灯よ。宜しくね。」
「僕は幽輝。お姉ちゃんはいいなあ。僕も、僕の家族とお喋りしたいな。」
「そっか。普通の人は、ユーレイと話せないもんね。」
「僕のお母さんはね、僕が死んでから泣いてばっかりで、ちっとも話を聞いてくれないんだ。」
幽輝は足元の石を蹴るマネをした。
透明な足は石の先をかすめたけど、案の定、石をすり抜けてしまったので、1ミリも動かなかった。
「お母さんのそばに居るのが辛くて、春から近所を彷徨っていたんだけど、お姉ちゃんに会えて良かった。」
「どうして?」
「話ができるからだよ!」
幽輝は大きな瞳をきらきらと輝かせると、熱っぽく語り続けた。
「ユーレイになってから、今日はイイことがあった初めて記念日だよ。」
目頭が熱くなって、胸がギュッと締め付けられた。
ゆ、幽輝・・・めっちゃイイ子すぎて、泣ける。
「良かったら、協力する!
お母さんと話ができる方法を一緒に探してみない?」
「嬉しいけど、そんなことできるかな?」
「一旦、家に帰って家族に聞いてみるから、ここで待っていてくれる?
私が話せるんだから、何か方法はあるはず!すぐに戻るから、 諦めないで待っていて‼」
幽輝はなぜか、すうっと私から離れると儚げに微笑んだ。
「うん、わかった。
待っているね、お姉ちゃん。」
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
【完結】ふしだらな母親の娘は、私なのでしょうか?
イチモンジ・ルル
恋愛
奪われ続けた少女に届いた未知の熱が、すべてを変える――
「ふしだら」と汚名を着せられた母。
その罪を背負わされ、虐げられてきた少女ノンナ。幼い頃から政略結婚に縛られ、美貌も才能も奪われ、父の愛すら失った彼女。だが、ある日奪われた魔法の力を取り戻し、信じられる仲間と共に立ち上がる。
歪められた世界で、隠された真実を暴き、奪われた人生を新たな未来に変えていく。
――これは、過去の呪縛に立ち向かい、愛と希望を掴み、自らの手で未来を切り開く少女の戦いと成長の物語――
旧タイトル ふしだらと言われた母親の娘は、実は私ではありません
他サイトにも投稿。
それいけ!クダンちゃん
月芝
キャラ文芸
みんなとはちょっぴり容姿がちがうけど、中身はふつうの女の子。
……な、クダンちゃんの日常は、ちょっと変?
自分も変わってるけど、周囲も微妙にズレており、
そこかしこに不思議が転がっている。
幾多の大戦を経て、滅びと再生をくり返し、さすがに懲りた。
ゆえに一番平和だった時代を模倣して再構築された社会。
そこはユートピアか、はたまたディストピアか。
どこか懐かしい街並み、ゆったりと優しい時間が流れる新世界で暮らす
クダンちゃんの摩訶不思議な日常を描いた、ほんわかコメディ。
アヤカシな彼の奇奇怪怪青春奇譚
槙村まき
キャラ文芸
クラスメイトの不思議なイケメン、化野九十九。
彼の正体を、ある日、主人公の瀬田つららは知らされる。
「表側の世界」と「裏側の世界」。
「そこ」には、妖怪が住んでいるという。
自分勝手な嘘を吐いている座敷童。
怒りにまかせて暴れまわる犬神。
それから、何者にでも化けることができる狐。
妖怪と関わりながらも、真っ直ぐな瞳の輝きを曇らせないつららと、半妖の九十九。
ふたりが関わっていくにつれて、周りの人間も少しずつ変わっていく。
真っ直ぐな少女と、ミステリアスな少年のあやかし青春奇譚。
ここに、開幕。
一、座敷童の章
二、犬神憑きの章
間の話
三、狐の章
全27話です。
※こちらの作品は「カクヨム」「ノベルデイズ」「小説家になろう」でも公開しています。
〖完結〗王女殿下の最愛の人は、私の婚約者のようです。
藍川みいな
恋愛
エリック様とは、五年間婚約をしていた。
学園に入学してから、彼は他の女性に付きっきりで、一緒に過ごす時間が全くなかった。その女性の名は、オリビア様。この国の、王女殿下だ。
入学式の日、目眩を起こして倒れそうになったオリビア様を、エリック様が支えたことが始まりだった。
その日からずっと、エリック様は病弱なオリビア様の側を離れない。まるで恋人同士のような二人を見ながら、学園生活を送っていた。
ある日、オリビア様が私にいじめられていると言い出した。エリック様はそんな話を信じないと、思っていたのだけれど、彼が信じたのはオリビア様だった。
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~
甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」
「全力でお断りします」
主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。
だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。
…それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で…
一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。
令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……
女神の手繰る糸
ルリコ
キャラ文芸
※最終話6話を1月17日(木)の7時半に公開!!
キャラ文芸大賞エントリー、最高310位、27pt
この宇宙のどこかに存在する星。
ここをつくったのは女神。金髪で赤い瞳なのに派手さはない、港区女子くらいの年齢(見た目)の女性。
彼女の仕事は、人々の祈りを手紙にした通称ファンレターを読むことと、自分の基準で祝福を与える(ファンサ)ことだ。
そして、今日もファンレターを読む。
読み終えて自身に唯一仕える天使を呼び寄せて言う。
「祝福を与えようと思うの」
そのファンレターの内容はなんなのか。
そして、悪事に寛大な女神が「絶対に許さない」と顔を歪ませることとは?
ーーーーーー
キャラ文芸大賞用に書いた短編小説。
カクヨム様でも同時連載。
ぜひ代表作「前世で若くして病死した私は、持病を治して長生きしたいです」もお読みください!
https://www.alphapolis.co.jp/novel/266458505/518875098
[累計ポイント表]
初日:391pt /お気に入り1
2024/12/27:696pt
2025/01/05:1001pt
[大賞ポイント]
1→2→4→8→10→14→17→20→24→26
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる