31 / 38
#31 決意
しおりを挟む
(麗さまが行方不明・・・⁉)
耳鳴りがざらざらと耳介の奥でうごめいて、血の気が失せた私の時間は止まってしまいました。
ようこの瞳の奥に映った自分の顔は、顔面蒼白で虚ろな亡霊のよう。
「私はなんとか麗さまの情報を得ようと艦隊の庶務主任に手紙を出し続けていたのですが、先日、わが家に電報が届いたのです。」
私はようこに手渡された電報を見た瞬間に立ち眩みを起こしてしまいました。
「アアッ。」
【ゴシキソウカン ノ ユクエ ワカラズ ソウサク ウチキリ】
私の頭の中は真っ白になり、手足が無意識にガクガクと震えます。
「みつきさま、お気を確かになさって!」
「うそ・・・。」
「お父さまのツテも使って、なんとか捜索を再開してほしいと嘆願書を出してもらったのですが、未だ受理されていません。
麗さまは国境付近を巡回する偵察船に軍医として同乗していたそうなので、もしや敵国船と戦闘になり拉致されたということも視野に入れているのですが・・・。」
私はすぐさまにカーテンを翻して外套を羽織ると、旅行カバンに手当たりしだいの物を詰めこみました。
「どうされたの、みつきさま!」
「今すぐに麗さまを探しに行くわ・・・!」
「落ち着いて、落ち着いて!」
ようこは私の手に自分の手を重ねて諌めました。
「よくお聞きになって。【行方不明】は死んだということではありません。
みつきさま一人が目印のない海に出たところで、何ができるというの?」
「だって、だって!!」
苦しい 苦しい 苦しい
私の情緒はもう限界。
どうにもできない状態です。
柔かい蜂蜜色の髪や白い肌、目尻の泣きぼくろや薄紫色のオッドアイ。
麗さまに触れられた感触さえ、昨日のことのようにありありと思い出すことができるのに。
私の世界から麗さまが消えるなんてこと、許容できるはずもありません!
「麗さまがいなくなられたら・・・私も海に飛びこみます。」
パン!
乾いた破裂音が部屋に響きわたりました。
私は驚いてようこを見ました。
ようこが、私の頬を平手で打ったのです。
「麗さまを愛しているのでしたら、最後まで信じなくてはダメよ!!
少なくとも、訃報を聞いてからにして・・・!」
私はうなだれて反省しました。
打たれた頬が赤みを帯び、ジンジンと熱をもって痛むのですが、その痛みのおかげで頭の中がスッと冷静になれたのです。
「麗さまは必ずみつきさまの元へ帰られますわ。
みつきさまに信じてもらえないのは、麗さまが可哀想。
それまでは、みつきさまは公爵家にいた方が懸命です。
今は辛いかもしれせんが、必ずようこが何とかしますから、もうしばらくお待ちになって。」
「ありがとう、ようこ。あなたが親友で良かったわ・・・!」
「永遠に、ようこはみつきさまの味方です。」
私たちはカーテンの中に戻るとお互いを抱き、声をおし殺して号泣しました。
それは今までの私たちの【シスタア同士の抱擁】ではなく、【個人としての尊重と依存】という構図になっていることに、私はその時は気づきませんでした。
※
ようこが公爵邸を訪れたきっかり一週間後、私と紘次郎の婚約パーティーが帝国ホテルで執り行われることになりました。
その日は朝から曇天模様で、時おり小雨が打ちつける肌寒い日でした。
遠雷の青い稲妻が雲の隙間に細く見えて、ちょうど玄関口から歩いて車寄せへと歩いていたひな子と私は、「キャッ!」と甲高い悲鳴をあげて飛びあがるお互いの身体を支えました。
「あいにくの天気で小憎らしいですわね。今夜は嵐になるとか。」
「これ以上、あまりひどくならなければ良いのだけど。」
私は今にも崩れ落ちそうな黒く張りだした雲を見上げました。
ひな子は私の白いドレスの裾が汚れないように持ち上げながら、車の後部座席のドアを開けてくれました。
耳鳴りがざらざらと耳介の奥でうごめいて、血の気が失せた私の時間は止まってしまいました。
ようこの瞳の奥に映った自分の顔は、顔面蒼白で虚ろな亡霊のよう。
「私はなんとか麗さまの情報を得ようと艦隊の庶務主任に手紙を出し続けていたのですが、先日、わが家に電報が届いたのです。」
私はようこに手渡された電報を見た瞬間に立ち眩みを起こしてしまいました。
「アアッ。」
【ゴシキソウカン ノ ユクエ ワカラズ ソウサク ウチキリ】
私の頭の中は真っ白になり、手足が無意識にガクガクと震えます。
「みつきさま、お気を確かになさって!」
「うそ・・・。」
「お父さまのツテも使って、なんとか捜索を再開してほしいと嘆願書を出してもらったのですが、未だ受理されていません。
麗さまは国境付近を巡回する偵察船に軍医として同乗していたそうなので、もしや敵国船と戦闘になり拉致されたということも視野に入れているのですが・・・。」
私はすぐさまにカーテンを翻して外套を羽織ると、旅行カバンに手当たりしだいの物を詰めこみました。
「どうされたの、みつきさま!」
「今すぐに麗さまを探しに行くわ・・・!」
「落ち着いて、落ち着いて!」
ようこは私の手に自分の手を重ねて諌めました。
「よくお聞きになって。【行方不明】は死んだということではありません。
みつきさま一人が目印のない海に出たところで、何ができるというの?」
「だって、だって!!」
苦しい 苦しい 苦しい
私の情緒はもう限界。
どうにもできない状態です。
柔かい蜂蜜色の髪や白い肌、目尻の泣きぼくろや薄紫色のオッドアイ。
麗さまに触れられた感触さえ、昨日のことのようにありありと思い出すことができるのに。
私の世界から麗さまが消えるなんてこと、許容できるはずもありません!
「麗さまがいなくなられたら・・・私も海に飛びこみます。」
パン!
乾いた破裂音が部屋に響きわたりました。
私は驚いてようこを見ました。
ようこが、私の頬を平手で打ったのです。
「麗さまを愛しているのでしたら、最後まで信じなくてはダメよ!!
少なくとも、訃報を聞いてからにして・・・!」
私はうなだれて反省しました。
打たれた頬が赤みを帯び、ジンジンと熱をもって痛むのですが、その痛みのおかげで頭の中がスッと冷静になれたのです。
「麗さまは必ずみつきさまの元へ帰られますわ。
みつきさまに信じてもらえないのは、麗さまが可哀想。
それまでは、みつきさまは公爵家にいた方が懸命です。
今は辛いかもしれせんが、必ずようこが何とかしますから、もうしばらくお待ちになって。」
「ありがとう、ようこ。あなたが親友で良かったわ・・・!」
「永遠に、ようこはみつきさまの味方です。」
私たちはカーテンの中に戻るとお互いを抱き、声をおし殺して号泣しました。
それは今までの私たちの【シスタア同士の抱擁】ではなく、【個人としての尊重と依存】という構図になっていることに、私はその時は気づきませんでした。
※
ようこが公爵邸を訪れたきっかり一週間後、私と紘次郎の婚約パーティーが帝国ホテルで執り行われることになりました。
その日は朝から曇天模様で、時おり小雨が打ちつける肌寒い日でした。
遠雷の青い稲妻が雲の隙間に細く見えて、ちょうど玄関口から歩いて車寄せへと歩いていたひな子と私は、「キャッ!」と甲高い悲鳴をあげて飛びあがるお互いの身体を支えました。
「あいにくの天気で小憎らしいですわね。今夜は嵐になるとか。」
「これ以上、あまりひどくならなければ良いのだけど。」
私は今にも崩れ落ちそうな黒く張りだした雲を見上げました。
ひな子は私の白いドレスの裾が汚れないように持ち上げながら、車の後部座席のドアを開けてくれました。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
女の子大好きな色男に惚れた騎士隊長は、BL展開のつもりでいました
ミクリ21
恋愛
女の子大好きな色男の魔法剣士のマリウス。
彼に惚れてしまった騎士隊長のジョルテは、BL展開になってもいいから積極的にアピールをする。
女の子大好きなマリウスは、当然それを迷惑がっていた。
誰もがマリウスを男だと思っていたので、誰もがBLだと思っていた………しかし!
実はマリウスは………男じゃなくて女だった!?
美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛
らがまふぃん
恋愛
こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。この作品の前作が、お気に入り登録をしてくださった方が、ありがたいことに200を超えておりました。感謝を込めて、前作の方に一話、近日中にお届けいたします。よろしかったらお付き合いください。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。
*らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
ハズレ嫁は最強の天才公爵様と再婚しました。
光子
恋愛
ーーー両親の愛情は、全て、可愛い妹の物だった。
昔から、私のモノは、妹が欲しがれば、全て妹のモノになった。お菓子も、玩具も、友人も、恋人も、何もかも。
逆らえば、頬を叩かれ、食事を取り上げられ、何日も部屋に閉じ込められる。
でも、私は不幸じゃなかった。
私には、幼馴染である、カインがいたから。同じ伯爵爵位を持つ、私の大好きな幼馴染、《カイン=マルクス》。彼だけは、いつも私の傍にいてくれた。
彼からのプロポーズを受けた時は、本当に嬉しかった。私を、あの家から救い出してくれたと思った。
私は貴方と結婚出来て、本当に幸せだったーーー
例え、私に子供が出来ず、義母からハズレ嫁と罵られようとも、義父から、マルクス伯爵家の事業全般を丸投げされようとも、私は、貴方さえいてくれれば、それで幸せだったのにーーー。
「《ルエル》お姉様、ごめんなさぁい。私、カイン様との子供を授かったんです」
「すまない、ルエル。君の事は愛しているんだ……でも、僕はマルクス伯爵家の跡取りとして、どうしても世継ぎが必要なんだ!だから、君と離婚し、僕の子供を宿してくれた《エレノア》と、再婚する!」
夫と妹から告げられたのは、地獄に叩き落とされるような、残酷な言葉だった。
カインも結局、私を裏切るのね。
エレノアは、結局、私から全てを奪うのね。
それなら、もういいわ。全部、要らない。
絶対に許さないわ。
私が味わった苦しみを、悲しみを、怒りを、全部返さないと気がすまないーー!
覚悟していてね?
私は、絶対に貴方達を許さないから。
「私、貴方と離婚出来て、幸せよ。
私、あんな男の子供を産まなくて、幸せよ。
ざまぁみろ」
不定期更新。
この世界は私の考えた世界の話です。設定ゆるゆるです。よろしくお願いします。
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる