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第三章「男たちの夢」
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「恐れながら申し上げます!」
打倒ダリオンの旗印を掲げて一路、帝国各地から馳せ参じた諸侯たちを従えて戦場へ向かうエゼキウス王のもとへ、本国から報せが届いた。
「アクセル王子、ご出奔! 置き手紙を残して行方をくらませました!」
「何だと……!? よもや、このわしを裏切って敵方に寝返ったのではあるまいな?」
日ごろの運動不足がたたって乗馬もままならず、牛車に腰かけてみずから御者をつとめていたエゼキウス王は、伝令から渡された手紙を読み捨てて苛立たしげに鞭を振るう。
「男のくせに、政治や戦争に興味がないだと……? そんなくだらん理由で猪人族との約束を反故にする奴があるか! このわしが皇帝の座についたあかつきには、跡継ぎに据えてやろうと思っておったのに」
エゼキウス王の年齢は、とうに五十歳を過ぎている。寄る年波には勝てず、夜の営みもすっかりご無沙汰だった。残りの人生を考えれば、一世一代の大勝負だったろう。
さらにエゼキウス王は、このころから原因不明の偏頭痛に悩まされ、たびたび朦朧として卒倒するようになる。
自分たちの勝利を信じて疑わなかった兵士たちも、戦うまえから士気をそがれて恐慌に陥ってしまう。
稀代の悪女ネラの死からほどなくして、アクセル王子との婚約が取り沙汰された蛮族の姫は、まだ指を折らねば歳も数えられぬ可愛らしい幼女だった。
「……父上、母上。今まで隠していて申し訳ありません」
かつて皇太子アクセル二世と呼ばれていた少年は、素性を隠すためにみずから名前をあらため、現地の文化にならってアクセリウスと称するようになる。
「俺はただ、何にも縛られず自由に生きていたいだけなのです。いつまでも独身のままでいることが、そんなに悪いことでしょうか?」
打倒ダリオンの旗印を掲げて一路、帝国各地から馳せ参じた諸侯たちを従えて戦場へ向かうエゼキウス王のもとへ、本国から報せが届いた。
「アクセル王子、ご出奔! 置き手紙を残して行方をくらませました!」
「何だと……!? よもや、このわしを裏切って敵方に寝返ったのではあるまいな?」
日ごろの運動不足がたたって乗馬もままならず、牛車に腰かけてみずから御者をつとめていたエゼキウス王は、伝令から渡された手紙を読み捨てて苛立たしげに鞭を振るう。
「男のくせに、政治や戦争に興味がないだと……? そんなくだらん理由で猪人族との約束を反故にする奴があるか! このわしが皇帝の座についたあかつきには、跡継ぎに据えてやろうと思っておったのに」
エゼキウス王の年齢は、とうに五十歳を過ぎている。寄る年波には勝てず、夜の営みもすっかりご無沙汰だった。残りの人生を考えれば、一世一代の大勝負だったろう。
さらにエゼキウス王は、このころから原因不明の偏頭痛に悩まされ、たびたび朦朧として卒倒するようになる。
自分たちの勝利を信じて疑わなかった兵士たちも、戦うまえから士気をそがれて恐慌に陥ってしまう。
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