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第三章「男たちの夢」

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 エール帝国の首都エルドランドには、処女信仰の総本山である塔の神殿がある。
 かつては港を照らす灯台だったものの、たび重なる氾濫によって川の流れが変わり、運河の完成にともなって埠頭が移されたため、当時すでに本来の役割を終えて象徴的な記念碑と化していた。
 この場所には、古代に築かれた荘厳な神殿と、原初の炎をまつった聖なる祭壇がある。天地の創造主にして破壊神たるドラゴンの怒りを鎮めるべく、帝国各地から大勢の信者が集まってくる。
 処女信仰の教徒たちにとって、一生のうちに一度は行かねばならぬと言われる聖地だ。身分の貴賤に関係なく、誰もがみな女神像の足元にひざまずいて貢ぎ物を捧げる。
 こうして寄付された莫大な募金は、地震や洪水といった災害が起こるたびに貧民の救済に回され、陰ながら社会の底辺を下支えしていた。
「神殿に隠された財宝をよこせ。さもなければ……」
 おのが野望のためにみずから妻子を絞め殺し、皇帝の娘であるアクセラ妃と再婚した暴君ダリオンには、直系の継嗣がいなかった。
 とはいえ、故郷から連れてきた一族郎党の親戚筋に多くの男子がいた。妾腹に産ませた庶子も数えきれず、後宮に迎えられた側室のほとんどは子連れの未亡人だった。
 ある日、暴君ダリオンの甥に当たるゲリオンなる若者が、無理やり神殿に押し入って巫女を連れ去るという事件が起きた。
 見知らぬ男たちに乱暴されて裸足のまま逃げ帰ってきた巫女は、信仰を守るために油をかぶって焼身自殺した。
「へへっ、やってやりましたぜ親父殿。これでおいらもようやく一人前の男だ」
「この愚か者めが! 人質をさらって脅すだけでよかったのに、おまえのせいで何もかも台無しではないか!」
 暴君ダリオンは、この時すでに四十歳を過ぎている。まだまだ働きざかりだが、そろそろ老後についても考えなければならない年齢に差しかかっている。
 万が一に備えてあらかじめ後継者を決めておかないと、領地の相続をめぐって身内同士で骨肉の争いが始まりかねない。
 先代の聖女にかわって塔の神殿に座していたフローディアは、わなわなと拳を震わせて激怒した。
 神殿前の広場に集まった信者たちは、開かずの扉がおよそ十年ぶりに解禁されるまで、先代の聖女が亡くなったことを知らなかった。
 まるで別人のように若返った聖女の姿を拝んで、悲しみに暮れながらも泣いて喜んだ。
「みなの者、たいまつを掲げよ! 今こそ立ち上がるのだ! たとえふたたび暗黒の時代が訪れようとも、文明のともし火を絶やしてはならぬ!」
 処女のまま竜の子を孕んだ女神の化身となり、生け贄として祭壇へ捧げられた聖女フローディアは、怒りに燃えるたいまつの炎をかざして暴徒と化した民衆を焚きつける。
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